145 臨時休業します
改訂版です。
「ただいまー」
「くくぅくー」
おかえりー、とローズが出迎えてくれたのはいいのだが。
「ありゃー」
妖精組があちこちで地面に寝っ転がっている。
ヘロヘロでしばらく動きたくないですって感じだ。
新国民組がぶっ倒れている妖精組に水やポーションを配っていた。
彼女らが動けているのはローズが全面的にカバーしていたからだ。
「誰か怪我をした者は?」
「くーくっ」
大丈夫ぅ、ですか。
どうやら4桁にも及ぶ数の翼竜を相手にした戦闘が終わったばかりでスタミナ切れを起こしているだけのようだ。
ホッと一安心。
ローズがいるから万が一は無いと思ってはいたけれど離れた場所で強敵と戦わせるのは心配だった。
ただでさえ凶暴な翼竜が狂乱して攻撃一辺倒になっていたからな。
妖精組が国民となった直後に翼竜が飛来した時より桁違いに多かった訳だし。
あの頃のままだったら犠牲も少なからず出ただろう。
今回の完全勝利は皆が日々の修行を怠らず成長した証しだ。
大いに誇って良いと思う。
「皆、よく頑張った」
見れば翼竜の死骸が数多く残っている。
黒焦げだったり真っ二つやズタズタだったりと、うちでは定番化しつつある首ポキでないのは余裕がなかったが故か。
土手っ腹に大穴の空いたのもいるな。
とにかく、アレを見れば皆が倉庫に格納することすら億劫になるほど疲れているのは明白だった。
現に返事がない。
それ以前にシュバッと俺の前に集合することさえ忘れている。
「今日と明日は臨時休業とするから、ゆっくり休め」
ここで「「「「「やったぁ──!」」」」」という返事がないのがミズホ国クオリティ。
「うちらもなん?」
アニスが聞いてきた。
疲れていない自分たちまで休んで良いものだろうかと不安になったのだろう。
「もちろんだ」
「手持ち無沙汰になってまうんやけど」
「妖精組を休ませなきゃならんからな」
「うちらは何も疲れてないで」
「君らのために言ってるんじゃない」
「え? どういうことやの?」
「休み中に仕事するなよ。修行とか訓練も禁止だからな」
この言葉はアニスの疑問に向けたものではなかった。
「「「「「ええ─────っ!」」」」」
だからこそ、こんな具合に抗議される訳で。
「拒否は許さん。これは命令だ」
すかさず抗議を封じ込める。
「前に言っただろ。働き詰めは効率を落とすって」
理由を説明しても嫌そうな雰囲気が消えない。
どんだけ仕事好きなんだ、君らは。
「休んで疲れを残さないのも仕事だ」
「「「「「はぁい」」」」」
テンションの低い返事だったが、了承されているんだし良しとするか。
しょうがない。
今にも眠ってしまいそうな顔をしているくらいだし。
「今日はもう休め」
そう言った途端に大半の妖精組がその場で眠り始めた。
ご苦労さん。今日は本当によく頑張った。
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開けて翌日。
妖精組の起床時間はいつもより格段に早かった。
「おっはよぉーっ」
「はよはよ~」
「はやすぎだよぉ」
昨日は晩御飯も食べずに眠ったお陰か朝から賑やかである。
今日の朝食はザ・和定食って感じの内容だった。
御飯と味噌汁と焼き魚をベースに焼き海苔と生卵がついてくる。
「えっ!? この卵、生よね」
「見たら分かるがな」
「妖精ちゃんたちは普通に食べてますよ~」
「「御飯に掛けてるぅ」」
「大丈夫なのか?」
月狼の友が生卵にドン引きしてた。
「魔法で殺菌済みだからな」
それだけ言って卵かけ御飯を実行。
妖精組も嬉々としてTKGしている。
新鮮な卵だからこそ許される至高の味だもんな。
普通なら醤油を垂らすところだけど俺は祖母の影響でポン酢を使う。
醤油よりは塩分控えめになる上に、つけすぎて後で喉がやたらと渇くなんてこともない。
味の方も意外といけるもんだよ。
にぎり寿司を食うのも実はポン酢だったりするくらいだ。
「皆、美味しそう」
「確かに。至福の境地に達した顔をしているな」
右を向いても左を向いても卵かけ御飯という状況にノエルとルーリアが挑戦。
「えっ、ちょっ、おい、ノエル!」
「無茶したらアカンて」
レイナとアニスの制止も聞かずに見様見真似でTKGするノエル。
「おいしい」
「うむ。これはいける」
「「「「「マジで!?」」」」」
結局、月狼の友も試していた。
「「味は良かったけど食感が……」」
「それな」
3姉妹は完食はしたけど食感がダメだったようだ。
「焼き海苔を使えば良かったのに」
まあ、劇的に食感が変わる訳ではないけれど。
「思ったほど悪くはなかったわね」
「贅沢なこと言うようやけど絶賛はできひんかなぁ」
「そうですかー? これ、フワフワしてて絶品です~」
生卵に対する最初の反応を思えば上出来と言えそうだ。
TKGしながら焼き魚を食っていく。
腸を取り除いてあるので頭から骨も尻尾も残さずにバリバリ。
「えーっ、冗談でしょぉ!?」
「無茶するわぁ」
レイナとアニスがドン引きしている。
さすがにこれを真似するのはローズくらいだもんな。
「妖精ちゃんたちはー、頭と骨を残してますよ-」
レベルが3桁の入り口に到達した程度では魚の骨も喉に刺さったりして危ないし。
でも、みんな随分と成長した。
昨日の大漁のお陰だ。
4桁以上の翼竜をまとめて相手にするとボーナス的な経験値が得られるらしい。
全員に[亜竜の天敵]なんて称号なんかもついてたからね。
妖精組は【格闘】スキルを持つ者が多かったけどスキルが増えたりゲットした者も少なくない。
ただし、戦闘系や魔法系のスキルとは限らないのが謎だ。
キースが得た【剛健】スキルはまだ分かる。
黒猫3兄弟なんて上から順にそれぞれ【時計】と【地図】と【交渉】のスキルを得ていた。
本人たちは喜んでいたけど昨日の戦いと関係なさ過ぎだろ。
訳わからんが、儲けものなんだし上手く活用するといいとは思う。
で、レベルも急上昇だ。
普通なら1か2ぐらいしか上がらないところを50以上アップした者さえいる。
もともと300近いレベルだったローズも313になった。
前からレベル100超えだったツバキとカーラがそれぞれ152と147だ。
100目前だったキースがレベル143。
妖精組で一番レベルが低い者でも130近い。
子供組は健闘していて130ジャスト。
黒猫3兄弟の下2人と同じである。
ニャスケも131だから、そうそう差がある訳ではない。
新国民組も頑張ったと言えるんじゃないかな。
妖精組よりレベルが低かったのもあって上げやすかったというのもあるだろうけど。
ノエルの125を筆頭にルーリアが123だったし。
リーシャとダニエラが117、残りの皆も116にまでレベルを上げていた。
そう、全国民レベル100超えである。
これで少しは安心かな。
少々のことでは修羅場にもならないだろう。
あ、俺もレベル上がったよ。
それも3も上がって1028だ。
9桁を超える数の魔物をまとめて屠ったし地竜もそこそこいたからなぁ。
こういう時にはチェックしておくべき称号もね、確認しましたよ。
ええ、しっかり増えていましたとも。
俺にも[亜竜の天敵]がついていたのはお約束なんだろうけど[雑魚魔物の天敵]がこのタイミングってどうなのよ?
そういうのはゴブリンの時で……
種類も関係してるのかもな。
現に[ゴブリンの天敵]は[雑魚魔物の天敵]に統合されているし。
あと[地脈を手懐けし者]なんてのもあった。
そういや最後の攻撃のために地脈を掴んで制御したな。
「ローズさんや」
「くう?」
「超広域で魔法を使うのに地脈を使うってできるか?」
「くくぅくっくーっくう?」
超広域ってどれくらい? か。
「大陸東方全域かな」
「くーっ!?」
ローズが驚くほどか。
「くっくーくぅくくっくーくうくうくーくくっくぅくっくーっくくぅ!!」
そんな地脈をねじ伏せる勢いで魔法を使うのは無理無理無理ぃーっ!! だってさ。
「地脈に干渉することはできるんだな」
「くーっくぅくーぅ!」
桁が違いすぎるっ! とか言われてもなぁ。
「あまりに数が多すぎたから利用するだけじゃダメだったんだよ」
遠のけば遠のくほど言うこと聞かなくなるし。
「くぅ、くぅくくー」
あー、昨日の話ね、でローズも納得していた。
それは何よりなんだけど称号の話はまだ終わらないんだよな。
自重せず派手にやりまくったから[破壊の権化]なんてついてるし。
放置せず植生魔法とか地魔法で元に近い形には戻しておいたけどさ。
映像のログが確認できるって便利だよな。
そのせいか[再生者]の称号もついたけど褒められたもんじゃないとは思う。
称号のラストを飾るのは[導きを極めし者]。
自分じゃなくて教えたり指導したりした相手のレベルアップが絡む称号のようだ。
それの下位互換とも言うべき称号に[導きし者]があるらしい。
最初は一足飛びに達してしまったのかとも思ったが違うみたいだ。
ログにシステム側が抑制していたが抑えがきなくなったなんて解説文が添えられている。
見たくなかったよ、そんな説明。
俺の称号が多すぎて増えないようにしてくれているとか。
それでも増えるときは増えてしまうとか。
考えれば考えるほど落ち込んでしまいそうだ。
下手をすれば丸1日それで潰れてしまいかねない。
時間の無駄遣いにも程がある。
ここから先は休日らしく過ごそう。
予定は白紙だから適当にぶらついて皆の様子を確かめつつ何をするか決めようと考えを巡らせていたら……
「主よ」
ツバキに声を掛けられた。
「どうした?」
「今日は何をするつもりだ」
「丁度それを考えていたんだ」
「では、前から作ると言っていたものを作ってはどうだろう」
「む?」
どういう風の吹き回しだろうかとも思ったが、悪くない提案だ。
自転車あたりからやってみるのも面白そうだしな。
「正直に言うと、暇だと何をして良いのかサッパリ分からんのだ」
ツバキも俺と同じだったようだ。
「ならば主の弟子として物作りの手伝いでもする方がよほど有意義に過ごせる」
「あー、そういうこと」
現状で俺の物作りは休みの日にプラモデルを作るようなものなので仕事に分類されていない。
カテゴリー的には趣味の範囲だな。
故にツバキは一緒に趣味のことをするのであれば仕事にはならないと考えたようだ。
「そうだな、そうするとしよう」
俺は笑みを浮かべながらツバキに頷いてみせた。
読んでくれてありがとう。