144 亜神からの依頼
改訂版です。
ルディア様から連絡が入った瞬間に嫌な予感はしたけれど。
『マジですか?』
大陸東方のフィールドダンジョンが大暴走したと聞かされれば反射的に問い返したくもなるというもの。
『すまない。まごうことなき事実だ』
ゴブリンの大群を意図せず発生させた時のことを思い出してしまった。
問題はそれをはるかに上回る規模だということ。
その数は一千万を優に超えていた。
『兄者や他の亜神たちと共にやれるだけのことはやったのだが』
ベリルママの不在がここまで大きな影響を及ぼすとは。
管理神の仕事って俺が考えていた以上に大変だったようだ。
何しろ亜神が総掛かりでも世界の管理は手に余るというのだから。
『ハルトの所にも影響が出たはずだ』
先日のアンデッド大量召喚トラップのことか。
『本当にすまない』
あれ以外では何事もなかったが、ルディア様は相当気に病んでいた。
『いえ、うちは被害らしい被害はありませんでしたよ』
『だといいのだが。西方を重点的に抑え込んだ反動が出ていたはずなのだ』
その反動も新国民組で対処できる範囲で済んでいる。
『大丈夫ですって』
ルディア様たちの頑張りは相当なものだったのだろう。
事態の収束にもう一歩届かない、現状はそういう惜しい状態なのかもしれない。
惜しいと言うには桁違いの規模になってしまっているけれど。
『いや、歪みがどうしても解消しきれきなくて結局はこういう事態に陥っている』
惑星レーヌの文明が滅んでもおかしくない状態だ。
素人考えをするなら、もっと早い段階で魔物を放出するなどしてもという意見が出そうなところである。
だが、それは浅慮がすぎると俺は思う。
実行した場合の結果を甘く見すぎているか何も考えていないかのいずれかであろう。
暴走が常態化した状態で歪みも解消されないとかも充分に考えられる。
『ベリルママを呼んだ方がいいんじゃありませんか?』
できないならできないと素直に認めることは恥でも何でもない。
『あらゆる手を尽くしたが連絡が取れないのだ』
結構シャレにならない状況では?
『ではセールマールの管理神に助けてもらうのはどうでしょう』
俺が元いた世界の管理神にしてベリルママの従姉で上司。
何かあったら連絡を入れるようにベリルママから業務連絡で言われていることを思い出した。
『あの方にも連絡はしたんだがな……』
どうにも歯切れが悪い。
『どこかのおちゃらけ兄者のように大丈夫と太鼓判を押されてしまった』
なんだ、そりゃ。
『どうにもならなくなったら処理するから自分たちで解決するようにと指示を受けたのだ』
『うわぁ……』
結構どころか本当にシャレにならん。
『歪みとやらは、どうにかできるんですか?』
それしだいで事態の収束の見込みが変わってくる。
無理ならセールマールの管理神に頼るほかないだろう。
『最後の手段を取らざるを得ない』
『最後の手段ですか?』
どうか今以上にヤバい話でありませんように。
『制御しきれない歪みを大きめの迷宮核に放り込む』
『それって外部への影響がとんでもないことになりませんか?』
『何もしなければ大陸の半分が吹き飛ぶな』
それはもう惑星レーヌの崩壊と同義だと思う。
『対処した場合でもダンジョンひとつは崩壊する』
そのくらいで済むなら、どうということはないのだが本当に大丈夫だろうか。
『加えて魔物が噴出するだろう』
『今よりですか』
『ああ』
それは苦渋に満ちた返答だった。
倍どころでは済まないものと思われる。
桁違いとなると億ということになるな。
うん、シャレにならん。
『増援は見込めないのでしょうか』
『すまない。魔物を西方に向かわせぬよう仙人たちを送り込むのが精一杯だ』
『仙人たちには暴走した魔物が西に向かわぬよう封印をかけさせる』
そちらの心配をしなくてすむだけ楽にはなりそうだ。
一度に2方向の対処をするのは、さすがに無理があるもんな。
『我ら亜神一同は残った歪みの解消に全力を尽くそう』
俺が考えていた以上に歪みとは強大なものだったようだ。
増援要請とか無茶振りもいいところだったな。
ならば俺も覚悟を決めよう。
『分かりました。ミズホ国の総力を挙げて対応します』
『気をつけてくれ。噴出する魔物は今より強力なものばかりとなるだろう』
つまりはオークが雑魚でベアボアやオーガが普通に出てくるってことだな。
亜竜の類いも出てくると思った方が良さそうだ。
西方人だけで対処しようとするなら何回滅亡すれば終息させられるのか。
『そう、ですか』
『重ね重ねすまない』
ルディア様のせいではないと思う。
あえて言うなら、ベリルママに任されているはずの上司が何とかすべき案件だろうに。
好意的に解釈するなら成長を願ってのことかもしれないが、丸投げされた気がしてならない。
何にせよ大仕事が舞い込んできた。
気合い入れないとね。
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飛んで来ました、大陸東方。
視界を埋め尽くさんばかりに魔物どもがひしめいている。
「うわぁ……」
ゴブリン大発生の悪夢が蘇り、ドン引き状態のまま固まってしまいましたよ?
国民たちを連れてこなくて正解だった。
相方のローズも国元である。
「くぅくっ!」
まかせろ! ローズがそう言ってくれなかったら決断が遅れていただろう。
4桁を超える数の翼竜が飛来すると分かった時は焦ったよ。
狂乱状態だから妖精組だけでは手に余る恐れがあったのでね。
頼もしい相棒に、こっちも負けていられないと思った時もありました。
「環境破壊がどうとか言ってる場合じゃねえだろ、これっ!」
初っ端からオープン・ザ・トレジャリーを使わせてもらいましたよ。
連発でぶちかまさせていただきましたとも。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!
ついでに仮面ワイザーの装備ガンセイバーを右手に持ち氷弾を撃ちまくる。
狙いは適当でマシンガンのように連射連射連射。
狂った魔物だけじゃなく地面も木々も吹っ飛び氷漬けになっていく。
左手には死蔵していた竜鱗自在剣。
こいつは鱗状に分裂する剣をムチのように振り回して使う武器だ。
分裂した隙間は流し込んだ魔力をワイヤー状に変換してつなぎ止めている。
触れたものを片っ端から切り裂いていくから使えるかと思ったがダメだった。
リーチの問題で屠れる数が少なすぎたのだ。
せめて今の10倍は長ければ……
いや、それでも焼け石に水だろう。
一度に千近く屠れたとしても総数は5桁上だからな。
左手もガンセイバーに持ち替えた。
「乱れ撃つぜ!」
オーバーキルも環境破壊も気にせず周辺もろとも凍らせながら始末していく。
少しでも進行速度を遅らせられればと思ってのことだ。
とにかくミズホ国に上陸させる訳にはいかないからな。
海があるけど今まで奴らが渡らなかったのは本能的に忌避していただけのこと。
狂乱状態となり本能が麻痺している現状は溺れさえしなければ辿り着く恐れがある。
数が多ければ、形振り構わず始末しなければなるまい。
こっちの環境が多少どうこうなろうが知ったことではないが、自分の国は嫌だ。
「減らねえ─────っ!」
高い位置から散弾のように分裂する氷弾を連射して面制圧を意識しているのに。
いや、減ってるんだけど誤差の範囲内ってやつだ。
この調子じゃ1週間でも終わらんぞ、これ。
「隕石、落とすぞ、この野郎ぉ!」
さすがにそれはマズいのでやらないが。
地形が無茶苦茶になるだけならともかく、粉塵が巻き起こって二次被害ってことも考えられるからな。
「火災旋風ならどうだ、あぁん?」
とは言ったものの、あれは威力の割に範囲をカバーできない。
しかも天にまで昇るような炎の柱みたいな見た目だから目立つんだよなぁ。
仙人たちがブロックしてくれていると思うけど、何が起きるか分からないのが世の常だ。
「とにかく、ぶっ飛ばす!」
目立たないと言えば風魔法。
自分を中心に渦巻く暴風を巻き起こし、同時に地魔法で鉱石の塊を生成する。
「おらぁ、これでミンチにしてやんよ!」
もはや投げやりな気分で雑に魔物を片付けていく。
地竜クラスの魔物でもなければ暴風に飛ばされ合い挽き肉が簡単にできていく。
ひとつ所に留まらなければ範囲もカバーできると思ったのだが。
「これもダメか」
暴風の魔法を中止する。
諸々を倉庫に回収しミンチ肉は廃棄処分にした。
「なら、これはどうだっ!」
地魔法で特大の岩石ブーメランを作って理力魔法でぶん投げる。
ベキベキと鈍い音と共に魔物も木々もお構いなしで千切るようにぶった切って戻ってきた。
ボロボロだったので地竜にぶつけてみれば砕け散ってしまった。
「足りない全然足りない」
そう言いながらもガンセイバーで乱射を続けている。
何の補助もなく普通に遠隔魔法を行使すると半径数百メートルが魔力効率的に限界ラインだ。
「なんか、いい手はないものか」
そう呟いた瞬間に有線で範囲を広げればと閃いた。
【魔導の神髄】の熟練度が前よりもほんの少しだが上がっている。
メタルワイヤーの魔法もかなりの広範囲にまで延伸できるはずなのだ。
俺は四方八方にワイヤーを伸ばし触れる魔物を電撃で感電死させつつ伸長させようとしたのだが。
「ええいっ、雑魚どもがっ!」
お構いなしにぶつかってきてワイヤーを切ってくれるのが鬱陶しい。
ならば切られない宙空に広げて氷弾の雨だ。
「これもダメかよ」
魔力効率はいいが範囲魔法でないために数が始末できない。
いい加減、頭にきた。
「ふざけんなぁっ!」
手近な地竜の頭上に飛び降りる。
頭蓋を踏み砕き地面にめり込ませれば瞬殺だ。
「消え去れっ!」
分解の魔法で地竜もろとも周囲の生きている魔物を消し飛ばす。
周囲に空白地帯ができた。
「おらあっ!!」
地面に拳を打ち込み手首までめり込ませ魔力を伸ばして強引に地脈の流れを掴んだ。
ワイヤーがダメなら地脈を利用し範囲魔法を拡大するまでだ。
ついでに地脈を流れる魔力も利用させてもらう。
これならワイヤーよりもはるかに広い領域をカバーできる上にガス欠の心配もしなくて済む。
「終わりだ」
超広範囲で隙間なく地面から鋭い牙が跳ね上がる。
地魔法のグラウンドタスク。
狂乱した魔物すべてが象の牙に匹敵する長さの岩の剣に貫かれ絶命していった。
読んでくれてありがとう。