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1419 襲われているのではなく……

「これは、どうなってるんだろうね?」


 カーターが真剣な表情で疑問を口にした。

 ゴーレムの暴走を懸念しているのは明らかだ。

 そして、そう思うのも自然なことであった。


 無人のはずのゴーレムが人を襲っているのだから。

 こんなものが城内だけでなく城下にも出て行くことになれば惨事はもっと拡がるだろう。


 現状は流血沙汰にはなっていない。

 が、火災は発生しているのだ。

 遠からず犠牲者が出てくることだろう。


「ゴーレムが危険を察知して自動防衛システムが作動したってところかな」


「危険?」


 よく分からないと言いたげに首を捻るカーター。


「どういうことかな?」


「魔力の大きさで俺たちの接近を察知したんだろう」


 思い当たることと言えば、それくらいだ。


「それで自動的に守るべく動き出したと?」


「おそらくだがな」


「目的は? 何を守るのかな?」

 矢継ぎ早に聞いてくるカーター。

 どうやら、俺の説には賛同できないようだ。


 そういう意見は歓迎だ。

 もしかすると、俺が見落としていることに気付いていることだってあり得るからな。


「目的は拠点防衛だろう」


「城を守るというのは分かるけど、優先順位が違うような気がするなぁ」


 カーターは人より場所が優先されることに矛盾を感じるようだ。


「あれは発掘品だろうからな」


「それは分かるけど」


「そんな代物を発見した連中が使いこなせると思うか?」


「あ」


 カーターが見落としていたことに気付いたような顔をした。


「だったら拠点防衛というのはおかしくないかい?」


「発掘した場所から移動していればな」


「つまり城の地下から発掘されたということか」


「そうなるだろうな」


「それは分かった」


 カーターが小さく頷く。

 が、だとしてもと続ける。


「まだ何も敵対的な行動をしていないのに危険視されるものだろうか?」


 別の疑問を口にするカーター。


「だから俺たちは攻撃されてない。

 今は何があっても即座に反撃できるよう準備している段階だろう」


 遅いと言わざるを得ないが。


「うーん」


 カーターは懐疑的だ。

 疑問を覆すほどの根拠にはならなかったようだ。


 魔力が桁違いだから危険視される恐れがあるとは言いづらいんだけどな。

 まあ、それ以外にも理由は挙げられるので焦りはしないが。


「大きさも判断基準に含まれているかもな」


「あ、輸送機か」


 カーターも気付いたようだ。


「見えなくても魔道具の魔力を感知して大きさを?」


 なかなか鋭い推察である。


「そこまで隠蔽してなかったから、考えられるんだよな。

 もしかするとドラゴンとかそのあたりの魔物と間違われたのかもしれん」


「物騒な話だね」


「俺たちからすると過剰反応で迷惑なことだがな」


 まあ、城に乗り込めば何機かはゴーレムを相手にすることになったとは思うが。

 すべてを相手にすることになるのは些か面倒ではある。


 だからといって今すぐ直接介入する気はない。

 火災が拡がるなら雨を降らせるなりはするがね。


 現状では人死にが出る気配もないし。

 襲われているのは自業自得な連中だけだ。


 そういう連中を回収してくれるなら、そちらの手間が省けるというもの。

 探すより戦う方が楽である。


「それはそうだけど、守るために人を襲うというのはどうだろう?」


 矛盾しているのではと疑問を呈してくるカーター。

 もっともな意見だ。


「襲われるのは誰でも彼でもって訳じゃない」


「え?」


 カーターは気付いていなかったようだ。


「特定の相手だけが襲われているのは明らかだし」


 標的は貴族がほとんどだ。

 たまに兵士がいるくらい。

 使用人やメイドは除外されている。


 慌てた様子でモニターを見直し始めたカーターにもそれは見えたはずだ。


「……本当だ」


 だが、すぐに別の事実にも気付く。


「襲われていない人も外に出ようとすると威嚇されているみたいだけど」


 より注意深く見ていたことで気付いたこともあるようだ。


「彼らが施設の外に出ると守れないからだろう」


「意味が分からないんだけど?」


 困惑の表情を浮かべるカーター。


「まず襲われているという認識が正しくないんじゃないかな」


「というと?」


「襲われているように見える連中は強制的に徴発されていると考えるべきかな」


「言われてみると確かにそう見えなくもない」


 同意しつつも納得しかねる様子を見せる。


「選び分けの基準は?」


 カーターは判断基準に疑問を持っているようだ。


「明らかに戦うのに不向きな体型の貴族が取り込まれているけど」


『根拠はそこか』


 確かにカーターの言う通りである。

 取り込まれる面子は大半が豚貴族と似たり寄ったりのタイプだ。

 中には神経質そうなガリガリ貴族もいるけどな。


 引き締まった体型の鍛えていそうなのもいるにはいるが、圧倒的に数が少ない。

 そういう面子は騎士服を着ている面々や兵士がほとんどである。

 まあ、当然だろう。


 とはいえ騎士にしたって全員が細マッチョ系の体型ではない。

 どちらかというと貴族寄りの体型の方が多いくらいだからな。


『この国じゃ力士まで騎士になるのか?』


 そんな風に勘繰りたくもなる。

 相撲がこの世界にある訳じゃないんだけどな。


 なんにせよ、これが徴発なら使用人の方が狙われそうだとカーターは言いたいのだろう。

 体型だけで選ばれるなら間違いなくそうだと言える。

 だが、実際はそうではない。


「事前に登録した魔力パターンの人間を取り込んでるだけだと思うぞ」


「登録?」


「あれは人が乗り込むタイプのゴーレムだ」


「見る限りそうみたいだね」


「事前に自分で乗り込んだ連中が選ばれているとしたら?」


 俺がそう問うと、カーターはハッとした表情を浮かべた。


「なるほどね。

 それで登録か」


 納得がいったらしく、しきりに頷いている。


「発掘品が出てくれば真っ先に見聞しようとするだろうし」


 それだけでは済むまい。


「強欲な貴族たちが真っ先に乗り込もうとするか」


 それが何を意味するか深く考えることもなく、な。


「そゆこと」


「その時に自分の魔力を記録されているとは夢にも思ってないんだろうね」


 皮肉なものだと言わんばかりに苦笑するカーター。

 話はそれだけでは済まないんだがな。

 もっと皮肉な結果になっているのだ。


「しかも、それが奴隷扱いだとしたら?」


「えっ!? どういうことだい?」


 カーターが目を丸くする。


「徴発している時点で搭乗者の自主性は問われない訳だろ」


「あっ、そういうことか」


 最後まで言わなくてもカーターは気付いたようだ。


「あのゴーレムは本来なら奴隷を乗り込ませるものだったんだね」


「でなきゃ、あんな強引な真似はしないと思うぞ」


「それもそうかー」


 感慨深げにゆったりと頷くカーター。


「そう考えると何も知らずに乗り込んだ連中は滑稽そのものだね」


 それこそ皮肉な結末である。

 いや、結末を迎えるのはこれからのことか。


「ゴーレムを作った者からすれば意外だったろうな」


 俺もカーターの意見に同意する。


「命令されずに乗り込む奴がいるとは思わなかっただろうし」


 それどころか乗り込んだ連中は優越感すら感じていたはずだ。

 自分たちは選ばれた戦士だとか何とか。


 ある意味、それは事実だ。

 選ばれた奴隷戦士なんだけどな。


「選民思想を持ってるであろう連中が奴隷扱いされるなんて皮肉なものだね」


 カーターが嘆息する。

 今度は苦笑さえ出てこないらしい。

 それだけモースキーの貴族たちに呆れている訳だ。


「まったくだ」


 大いに頷いてしまう。

 それは皆も同感なようで、そろって頷いていた。


「でも、不思議だね」


「何が?」


「拠点防衛なら火災が発生するのは変じゃないかい?」


「ああ、そういうことか」


 そう考えるのも、もっともなことだ。


「ゴーレムにとって大事なのは地下構造物なんだろうよ」


 おそらく、そこまでは火の手も回ってはいまい。

 モニターの映像を見る限りでは散発的なものだ。

 それもゴーレムが消して回っているようだし。


「え?」


 カーターが怪訝な表情を浮かべた。


読んでくれてありがとう。

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