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1405 うちで引き受ける?

 シュワちゃんが大人しく降伏してきた。

 生き残りの兵たちからも、そのことに対する不服は感じられない。


 むしろ、どこか安堵した雰囲気すらあった。

 カーターの軽さから酷い扱いは受けないだろうと楽観視したのだろう。


 間違いではない。

 普通なら危うい状況とも言えるんだけどな。

 捕虜にするはずの相手から舐められかねない訳だから。


 だが、今ここに残ったモースキーの連中はまともな面子だけである。

 調子に乗って処分しなければならなくなるような輩はいまい。


 ファントムミスト弐式の前なら、そういう連中ばかりだったろうがな。

 それならそれでカーターの対応は違ったと思う。

 単に軽いだけの男ではないからね。


 だが、シュワちゃんはそんなこと知る由もない訳で。


「敗者として弁えぬこととは存じますが、お願いがございます」


 決意に満ちた目でカーターを見るシュワちゃん。

 護衛の騎士たちが険しい表情を見せた。

 一気に険悪な空気が拡がっていく。


 が、シュワちゃんは引くつもりはないようだ。

 厳しい視線にさらされても眉ひとつ動かさない。


「何かな?」


 カーターはなんてことはないとばかりに問いかける。

 その対応を見たヴァンが小さく片手を上げた。

 それを受けて身構えかけていた背後の護衛の騎士たちは直立の姿勢に戻る。


「ここにいる生き残りの兵たちだけは助けていただけないでしょうか」


「元よりそのつもりだけど」


「何としても国に帰してやりたいのです」


 微妙に会話が噛み合っていない気がする。

 どうやらシュワちゃんの方に思い込みがあるようだ。


『これはアホなことを言い出しそうだな』


「兵たちを助けていただけるなら──」


『キタ─────ッ!』


 思わず心の中で叫んでしまった。


 別に喜んでいる訳じゃない。

 こういう時の黄金パターンな台詞だったが故に条件反射で言ってしまっただけだ。


 そう来るなら、次は……


「喜んで私の首を──」


『やっぱり!』


 想定した台詞のひとつだ。

 いずれにしても自分の命を代償にってことなんだけどな。


 それはカーターも予測していたのだろう。

 途中まで言いかけたシュワちゃんに対して──


「あー、そういうの無し無しナッシング」


 カーターが言葉を被せて制止した。


 それも読めていたことではあるものの何かが引っ掛かった。

 拒否して当然という思いはあるのだが、何処か違和感を感じたのだ。


「ミーは生首なんて見たくないね」


「っ!」


 思わず吹きそうになった。

 どうにか堪えたが。


『ミーって……』


 まるでギャグアニメのキャラクターのようなことを言い出すとは想定外だった。

 首を差し出そうとしたシュワちゃんの発言に拒絶反応でも出たのだろうか。


 だとしても違和感が更に積み増したけどな。


「しかし」


「しかしも然りもノーサンキュー」


『なんだよ、それ』


 思わず内心でツッコミを入れていた。


 意味不明である。

 シュワちゃんの発言を全否定するとでも言いたいのだろうか。


 それにしたって言い回しが変すぎる。

 今までこんな言い方したこと無いんだがな。


 このセンスは西方人には無いものだと思っていたのだけれど。

 認識を改める必要があるのかもしれない。


 いや、何か違う。

 今日のカーターが変なのだ。


 発想が別人というか何というか……

 およそ西方人らしからぬノリだった。


 まあ、ミズホ国でもこんなノリをする面子は限られているけどさ。


『ん?』


 何かが頭の片隅に引っ掛かった気がしたのだが。


 たぶん「ノリ」という単語だ。

 ノリと言えばツッコミだろう。


 そう考えた瞬間に謎が解けた気がした。

 というか、すぐに思い至ったと言うべきか。


 ノリツッコミを好む面子といえば、あの2人しかいない。


『しょっちゅう本場の劇場鑑賞に行っていたみたいだしな』


 ミズキの方をチラ見した。

 ばつの悪そうな顔をしているミズキ。

 そして何故かドヤ顔しているマイカ。


『やっぱり……』


 チキズミーの影響だったわけだ。


 ただ、これはカーターの問題だろう。

 あまりにもチキズミー作品に影響されすぎである。


 いや、傾倒するのはカーターの自由なんだが。

 TPOは考えてほしいものだ。


 なんてことを考えている間もカーターたちの話は続く。


 まあ、思い込みの激しいシュワちゃんをカーターが説得する感じだったんだけどね。

 シュワちゃんが口を開くたびに処刑だの自害だのと言うものだから大変である。


『自殺願望でもあるのかね』


 そう思うくらい頑なさを感じた。

 何か死にたくなるような辛いことでもあったのだろうか。


 失恋したとか。

 身近な人の死があったとか。


 まあ、俺が気にしてもしょうがないことだ。

 そんなこんなで聞いているだけでも根気のいるような会話が続くことしばし……


「とにかく誰も死ななくていいから」


「……………」


 ようやくシュワちゃんも反論しなくなった。

 本心から納得している訳ではないだろうけどね。


『ローズさんや』


 気になったので霊体モードのローズに聞いてみることにした。


『くう?』


 何~、と緊張感のない返事をしてくる。

 シュワちゃんの頑なさに辟易させられたのだろう。


『この男、うちで預かれそうか?』


 要するに国民にして大丈夫かってことである。

 このまま放っておくと勝手に自害しかねない危うさを感じたからね。

 今すぐじゃなくて、今回の決着がついた後にさ。


 せっかくファントムミスト弐式の試練を切り抜けられたのだ。

 間違っても、そんな真似をさせたくない。


 それに人材として申し分ないと思ったのだが……


『くぅくぅ』


 一応ねー、と返事が微妙であった。


『合格基準ギリギリなのか?』


『くっくう』


 違うよー、と否定するローズ。


『だったら一応って何なんだ?』


『くくぅくっくーくうーくっくくぅ』


 面倒くさそうなオッサンだから~、だってさ。


『まあ、それは同意する』


 今のやり取りを見る限りはね。

 それでも放っておけないんだよなぁ。


 え? 余所の国の騎士に過保護になってどうするって?

 まともな相手じゃなければ無視したさ。


 責任感が強そうなのも悪くないしな。

 強すぎて疲れさせられそうだけど、そこは慣れるしかないだろう。


『くーくぅくくぅくーくっ』


 ちなみに部下も合格だよ、か。


『そう言われてもな』


『くーくうくっ?』


 何か問題ある? だって?


『他の連中は家族がいるだろう』


『くう!』


 OH! って、いま気付いたのかよ。


 とりあえずシュワちゃんについては【天眼・鑑定】で見たけど家族はいない。

 成人してからの死別のようだから孤児だったなんてこともない。


 カーターとほぼ同い年なんだけどな。

 ひとつ年上の29才、アラサーだ。


 この年齢で身内も恋人もいないのは寂しいものである。

 というか、まともに友人もいないらしい。


 え? 生まれ変わる前の俺と大差ない?

 俺はミズキやマイカがいたからな。

 大学卒業後はメールとか年賀状だけのやり取りしかなかったけどさ。


 それでも俺にとっては意味のある大事な繋がりだったのだ。

 仕事だけの繋がりしかないシュワちゃんとの差は小さいようで大きい。


『そうか、そういうことか』


 このあたりの事情が死にたがる理由だったのかもしれない。

 ますます放っておけないんですがね。


 貴重な人材をむざむざ死なせる訳にはいかんでしょう。

 称号に[過保護王]を持つ俺としては、国民予定の漢を放置できないんだよな。


 そう、男じゃなく漢である。

 身内でもない部下のために命を投げ出す覚悟を決められる者だからな。

 この字を使うに相応しいのではないだろうか。


 え? あのメーカーのバイクをこよなく愛する者たちも漢だろって?

 まあ、そうだな。

 とはいえデリケートな話題だ。

 これ以上のコメントは差し控えさせてもらおう。


「──ということで、君たちにはこのまま同行してもらう」


 ちょうどカーターの話も終わったようだ。


「カーター、ちょっといいか」


「どうしたんだい?」


「いや、この騎士のことなんだけど」


 もちろんシュワちゃんのことだ。

 いきなり勝手に決めたニックネームで呼ぶ訳にもいかないだろう。


「何か気になることでも?」


「連れて行った後はどうするつもりなんだ?」


 カーターが配下として登用するというなら考え直さねばならない。

 今回の俺たちは傭兵だからな。

 優先権はカーターにある。


 それに何より、シュワちゃんが自殺願望など抱かぬよう配慮してくれるはずだし。


「おっと、それは考えていなかったよ」


 ウッカリしてたと言わんばかりの顔をするカーターであった。


「おいおい」


読んでくれてありがとう。

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