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1402 子供組が戻ってきた

 ミズホ組がどれほどの実力を持っているか。

 いま言わなくても結果は似たようなものだ。


 ガーンとくるかジワジワくるかの差でしかない。


 子供組や人魚組のお手伝いは亜竜を前にした時のような直裁的な衝撃はない。

 が、彼女らが何を為したのか理解すればジワジワと効いてくるだろう。

 信じ難い思いに囚われつつも奥底から得体の知れない恐れが湧き上がってくるはず。


 不遜な連中であれば、そういうものも無視してしまえるかもしれないが。


 たが、ここにいるのはファントムミスト弐式で生き残れた者たちだ。

 善良とは言い切れなくても悪党でないことだけは間違いあるまい。


 別の言い方をするなら不遜とは無縁の真っ当な人間である。

 変に強がったり相手の実力を知ってなお侮ったりするようなことはないだろう。


 だからこそ、ミズホ組に恐れを抱くと確信しているのだ。


『ジワジワの方が後々まで応えそうなんだが』


 とはいえシュワちゃんに了承してしまった。

 今更、覆す訳にもいくまい。


 ならば事前にミズホ組の実力のほどを見せておけば良かったのだろうか。

 いや、おそらくダメだ。


 もっと酷いことになっていたはずである。

 ちょっと素早く動いただけで、この有様なのだから。

 見せるよりも先に口頭で説明しておく必要があったのだと思う。


 ただ、口で言っても受け入れられたかどうか。

 モースキー組にしてみれば荒唐無稽にしか聞こえないだろうからな。


 信じられないなら意味はない。

 それは聞いていないも同然だ。


 で、実践してみせた途端にショックを受ける。

 どうあっても結果は変わらない。


 これほど嫌気の差すこともないだろう。

 こんなことなら最初からシュワちゃんの申し出を拒否しておけば良かったか。

 済んだこととはいえ、そんな風に思ってしまう。


 だが、そんなものは短絡的な思考にすぎない。

 よくよく考えなくても良くない結果につながる未来しか見えてこないのだから。


 この程度で血の気が引くほど驚いているのだ。

 強引な真似をすると碌なことにならないのは目に見えている。


『バフってから一気に言っときゃ良かったか』


 そうは思ったが今更である。


 だが、バフというのは悪くない考えのように思えた。

 今のままではモースキー組がメンタル的なダメージを受けるのは想像に難くない。


 ならば、そのタイミングを見計らってケアするのがモアベターではなかろうか。

 決してベストとは言えないのが心苦しくはあるのだけれど。


『スイッチ式でバフをかけとくか』


 条件は恐れから来るストレスが一定量以上に達した時にしておけばいいだろう。

 限界直前ではなく余裕を持たせておけば、トラウマになることもあるまい。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 やがて子供組が戻ってきた。

 それなりに待たされたが仕方あるまい。

 ゾロゾロと馬を引き連れてきたからな。


 隊列を組ませて軽く小走りさせる程度では時間がかかるのも無理からぬこと。

 物資の運搬とは訳が違う。


 これが馬ではなく物資であったなら、もう少しやりようはあったのだが。

 亜空間倉庫に入れたりする訳ではない。


 ぶっちゃけて言えば、キャッチボールをするだけだ。

 物資をデカい箱に詰め込んで壊れないように内部を固定。

 それから箱を遠投するという寸法だ。


 ある程度まとめてから投げるのがポイントである。

 投げる回数が減ることでミスも減らせるからね。

 それにキチンと梱包することで破損を回避する狙いもある。


 あとは投げた勢いのまま地面に叩き付けられないようキャッチするだけ。

 実に簡単なお仕事である。


 ただ、普通は箱詰めするまでしかできないだろう。

 持ち上げて遠投するなど一般人には無理な相談だからな。


 だが、子供組なら朝飯前なことだ。

 発想自体はシンプルだからな。


 要は投げられるだけのパワーがあるかどうかだ。

 その点はミズホ組なら心配いらない。

 それに中身が物資なら、壊れても「しょうがない」で済ませられる。


 モノによっては修復可能なものもあるだろうし。

 だが、馬は生き物だ。

 しょうがないで済ませられるものではない。


 それ以前の問題か。

 梱包なんてできないんだし。


 1頭ずつ投げるのだとしても、持ち上げようとした時点で暴れるに決まっている。

 そんな訳で追いかけた馬を集めて連れて来るしかなかったのだが。


『思ったより早いな』


 現に人魚組はまだ帰ってきていない。

 レベル差があるとはいえ、このお手伝いではそこまで顕著に差は出ないはずだ。

 馬を誘導する必要があるからな。


 何か裏技的な手法を用いたと見るべきだろう。


「ハルト様、お馬さん連れて来たの」


 ルーシーが報告してきた。


「おー、御苦労様」


 ニパッと笑顔を浮かべるルーシー。

 一緒に帰ってきたはずの残りの面子がいない。


「皆は──」


 そう言いながら周囲を見渡した。


「お馬さんの御世話なの」


 ルーシーが言う通り他の面子は馬を集めて世話をしていた。

 到着と同時に魔法で水を用意していたようだ。


「ああ、逃げる時に全力疾走したからな」


「水がたくさん必要なの」


 どの馬も水を飲むのに忙しい。

 その間にブラッシングをしていく子供組。


 それが終われば蹄のチェックだ。

 逃げた方向によっては軟らかい土の上を走った馬もいるみたいだしな。


 泥は落とさないといけないので通常は水洗いするのだが、魔法で処理する。

 生活魔法で洗い落とすだけなのでブラッシングより楽な仕事だ。


 1頭ずつではなくまとめてサクッと終了させられる。

 ただし、これで終わりではない。


 オイルを塗布してケアする必要があるからだ。

 これも魔法でササッと終わらせていた。


 実に手慣れたものである。

 日頃からやっている証拠だな。


「で、ルーシー」


 視線を戻して呼びかける。

 ここに残っているということは、俺に報告することが残っている訳だ。


「はいなの」


「どのあたりまで捜索範囲をカバーしたんだ?」


「んー」


 人差し指を顎に当てながら少し考え込むルーシー。


「角度は200度ちょっとくらいでー」


 人魚組の受け持つ範囲に少し入り込んでいるな。


 が、とやかく言うことではない。

 漏れをなくすためだから、むしろ当然なのだ。


「距離は一番遠くまで走っていたお馬さんより少し向こう側なの」


 魔法で生体探索しつつレーダー表示させて通信で連携していたか。


「最初に追い抜いて壁を構築したか」


「そうなの。

 風魔法の結界で減速させて動きを止めたの」


「なるほどな」


 いきなり壁が出てきたら馬も混乱するだろうし。

 パニック状態に陥って逃げているから場合によっては激突することもあり得た。

 そう考えると、見えない壁でブレーキをかけさせるのは上手いやり方だと思う。


「向こう半分はもう逃げたお馬さんはいないの」


 背後を指差しながら言ってくる。


「ほう」


 そう言ってくるからには確認済みということなんだろう。


「見落としはないんだな」


「はいなの!」


 ドヤ顔で自信たっぷりに答えるルーシー。

 レーダーを使っていたのだろうから間違いはなさそうだ。


 だが、手際よくやれたのだとしても早く終わったように思う。

 誤差の範囲とは考えがたい。


 そんな訳で脳内シミュレートしてみた。

 今の報告で推測できる範囲では2割ほど違いがある。


「何か裏技を使っただろう」


 そういう結論が出た。


「ニヘヘ」


 ルーシーは悪戯っ子のような笑みを浮かべている。


「広域で魔法を使って眠らせたか」


 俺が推測したことを言ってみた。

 すると、ルーシーは一瞬だが「あっ」と驚いた表情を見せた。


「さすがハルト様なの。

 眠らせてから一個所に集めたの」


 風の壁で止めることはできても落ち着かせることはできない。

 バラバラに逃げた馬を静めるのは時間がかかると思ったのだが。

 眠らせてしまえば関係ない。


 ただ、全力で走っている最中だと大惨事である。

 そんな訳で、まず止めた。

 そして眠らせる。


 一個所に集めるのは倉を使ったのだろう。

 離れた場所ならモースキー組に見られることもないからな。


 で、結界の範囲を狭めていく。

 あとは同じことの繰り返しって訳だ。


 探索範囲内の馬をすべて回収したら倉から外に出して馬を目覚めさせる。

 眠ったあとだから少しは落ち着いているというオマケ付きだ。


 で、自分で走らせて戻ってきたと。


「それで人魚組には、その方法を教えたのか?」


 そのあたりが未だに人魚組が戻ってきていない差になっているのだと思う。


「最初は忘れてたの」


 ちょっとションボリするルーシー。


「でも、ミーニャが気付いて連絡したら向こうもそうするって」


 詳しく聞いてみたところ、連絡したのは馬を集めて戻ってくる時だという。


『遅れる訳だ』


 そう思ったが、これを口にする訳にはいかない。

 ルーシーが余計に落ち込むからな。


 別に子供組が悪い訳じゃないんだ。

 いや、誰が悪い訳でもない。

 連携ミスがあったのは事実だけどな。


 とはいえ、そこまで緻密な作戦行動を求めていた訳じゃない。

 あくまでお手伝いである。


 そんな訳だから子供組と人魚組は担当領域を折半していたのだ。

 取りこぼしがないよう子供組が担当範囲を余分にカバーしていたけどね。

 そのあたりは古参として配慮したにすぎない。

 ただのお手伝いとして考えるなら上出来だろう。


 それに、人魚組に訓練の余地があることが分かっただけでも収穫である。


読んでくれてありがとう。

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