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1400 シュワちゃんと話をしてみる

 巻き上がった土埃が消え始める頃合いを見計らって風魔法を使った。

 このタイミングで一気に吹き飛ばす訳だ。

 向こうは目を守るために嫌でも目を閉じる。


 それは演出上の狙いだ。

 次に目を開いた瞬間には俺たちが完全に姿を現した状態だからな。


 瞬間移動してきたような錯覚を抱かせられれば成功だ。

 上手くいくかどうかは、やってみなくては分からない。


 果たして目を開いたモースキーの生き残りたちは、どうか。

 一陣の風が通り過ぎると恐る恐る目を開く面々。


「「「「「──────────っ!?」」」」」


 彼らの表情から見て取れたのは混乱そのものであった。

 まさか人が落ちてきて無事でいられるとは思わなかったといったところか。


 いや、落ちてきたのが人であると見極められていたのかも怪しいところだ。

 減速せずにギリギリまで降下したからな。


 人生初の航空機からの降下がパラシュートなしである。


『我ながらクレイジーだよな』


 子供組のように、はしゃぎこそしなかったがね。


 輸送機で見ているエーベネラント組はどう思っただろう。

 カーターやヴァンはともかく護衛の騎士たちは肝を冷やしたんじゃなかろうか。

 機内に残っていれば、悲鳴のひとつも聞けたかもしれない。


 さすがに卒倒することはないと思うけどな。

 一般兵ならともかく、カーターの護衛として選抜されるような騎士なんだから。


 要するに近衛騎士ってことだろ。

 驚きはしても失神するのはねえ……


 目の前にいるモースキーの連中だって誰も気を失っていないんだから。

 かなり狼狽えてはいるけどね。


 騒ぎ出さないだけまだマシである。

 些かショックが強すぎたか。

 それともシュワちゃんの抑えが効いたままなのか。


 雰囲気的には後者のような気はするが、前者を完全に否定することもできそうにない。

 まあ、シュワちゃんでさえ呆然としているのだけは確かである。


『これは俺たちの方から語り掛けるべきか』


 ただ、多少は動揺した状態から復帰してもらわないと会話にならない恐れがある。

 話し掛けても一方通行じゃあ意味がない。


 そのあたりはダメ元でやってみるしかなさそうだ。

 そう思って口を開こうとした時のことである。


「貴殿は何者だ?」


 唸るような声でシュワちゃんが問いかけてきた。

 厳つい見た目と相まって威嚇しているようにしか聞こえない。

 上で待っている護衛騎士たちなら、きっとそう感じただろう。


 他にも同じように感じているであろう面々がいる。

 モースキー軍の生き残り兵たちだ。


 自分たちの指揮官が動揺を見せずに相手と張り合おうとしていると思ったらしい。

 不安げだった表情が薄らいでいくのが分かった。

 さすがに調子づくほどではないようだが。


 まあ、彼らにとってそうならなかったのは幸運と言えるはずだ。

 子供組と人魚組にお手伝いしてもらうことになったからな。


 なんにせよ、自分たちの上司を頼もしく感じているのは間違いあるまい。

 が、シュワちゃんはそれどころではないはずである。

 本人としては、どうにか頑張って声を出せたというように見受けられたからな。


 強張った表情を見れば、それは明らかである。

 だが、彼の部下たちの目にはそう映っていない。

 シュワちゃんに集まる視線にはどれも信頼が込められたままだ。


 きっと目の前に突如現れた驚異的な相手に対する威嚇と見ていることだろう。

 人は誰しも不利な状況に陥るほど希望的観測に縋ろうとするものだしな。


「随分と礼儀知らずが指揮官なんだな」


 ちょっと意地悪く言ってみた。

 ここで折れるようならサクッと捕虜扱いして終わりである。


「むっ」


 俺の返事にシュワちゃんは怯んだ様子を見せた。

 そう大袈裟なリアクションはしていない。

 どうやら、いきなり捕虜にする必要はなさそうだ。


「自分はモースキー王国の騎士エイノード・シュバイツァーだ」


『やっぱりシュワちゃんだ』


 俺の中でニックネームが固定化した瞬間であった。

 そっくりな俳優さんに似ていないような似ているような微妙な名前だったけどね。


「俺はハルト・ヒガ。

 通りすがりの賢者だ」


「賢者?」


 途端に訝しげな表情になるモースキーの一同。


「ついでに言っておくとエーベネラント王国の王に雇われた傭兵の隊長だ」


「なっ!?」


 一瞬で身構える反応は悪くない。

 咄嗟の反応はできている訳だからな。


 が、動揺は収まっていないことを証明してしまったようなものだ。

 まだまだ話を引き延ばして情報を得るべき段階だろうに。


 とはいえ抜剣していないのでギリギリセーフというところか。

 これくらいでは子供組はもちろん、人魚組だって反応しない。


「肩書きならまだあるぞ」


「っ!?」


 普通ならこんなことを言うのは煽り同然で逆効果なんだが。

 シュワちゃんには、この方がいいような気がした。

 冷や水を浴びせて冷静にさせるというか、そんな感じだ。


「それは聞いた方が?」


 探りを入れるような感じで聞いてきた。


「今は知らない方が落ち着いて話ができると思うぞ」


「では、そうさせてもらおう」


 シュワちゃんはそう言って待ちの姿勢になった。


「賢明な判断だ」


 思った以上に話がすんなり進む。

 やはり物わかりのいい相手だと違うね。

 油断していると足をすくわれそうだけどさ。


 ただ、シュワちゃんはそれどころじゃないようだ。

 何を要求されるかで内心では戦々恐々のはず。

 歯を食いしばったような硬い表情をしてるもんね。


 それがモースキー兵たちには勇ましく見えるみたい。

 既に誰も動揺した表情を見せなくなっている。

 少なくとも表面上は何とかなりそうだって顔になっていた。


 張り詰めた空気を残しながらも悲愴感は薄まっている。

 完全に払拭しきれないのは、俺たちの着地を見た後だからだろう。


 故にシュワちゃん頼みの危うい状態だと思う。

 だが、そんな期待というか信頼を寄せられているシュワちゃんは余裕がない。

 自分だけならいざ知らず、部下である兵たちをどう守るかで頭が一杯のはずだ。


 部下たちからは誤解されているのがせめてもの救いと言えるだろう。

 あまり苛めるのは可哀相か。


「我々はどうなる?」


『ほう』


 そんな聞き方をしてくるとは思わなかった。

 それ系の質問なら「我々をどうするつもりだ」と聞くと思っていたからね。

 ぼんやり聞いていると間の抜けた聞き方をしたと思うところだが。


『この男に限ってそれはないだろうな』


 国の行く末までも見越した上で聞いているはずだ。


「随分と先のことまで気にしているんだな」


「部下には家族もいるからな」


 やはり先のことを考えているようだ。


「目の前に現れたのがワイバーンならば我々が死ぬだけで済んだのだろうが」


 その台詞を聞いてシュワちゃんの部下たちがギョッとした顔になった。

 俺たちが翼竜と同等とまでは思わなかったと見える。


「シュバイツァーくんの部下は随分と楽観主義な者たちが多いようだな」


「仕方なかろう」


 シュワちゃんは渋い顔で答えた。


「何が何やら分からぬまま壊滅状態に追い込まれたのだ」


「あー、あれね」


「知っているのか!?」


 表情を一変させてシュワちゃんが聞いてくる。


「上から見ていたからな。

 あっと言う間に濃い霧に包まれていったよな。

 それでしばらくしたら、ほとんどの騎士や兵が消えていた」


「その通りだ。

 私にも何が何やら分かってはいない」


 シュワちゃんはそう言いながら苦渋と困惑が入り交じったような顔で頭を振っていた。


「天罰だとは思わなかったのか?」


「なにっ!?」


 再び驚きの顔で凍り付くシュワちゃん。


「消えた連中はここに来るまでに非道の限りを尽くしていただろう」


「何故、知っている?」


 絞り出すような声で問われてしまった。

 これ以上ないくらいに驚愕してしまうと声は逆に出てこなくなるらしい。


「神のお告げがあったからだ」


 ということにしておく。

 でないと説明ができないからな。

 より正確に言うなら、本当のことを説明する方が信じてもらえそうにないのだ。


「なっ……」


 シュワちゃんだけでなくモースキー兵たちまでもが愕然を顔に張り付けていた。


「賢者なんてやってるとな、余人には聞こえない声が頭の中で響いたりするんだよ」


『胡散臭えーっ』


 自分で言っておいて何だが、内心じゃドン引きである。

 これほど厨二病まっしぐらな台詞もないだろう。


 血湧き肉躍る感じがする熱い台詞なら気にもしなかったと思うがね。

 生憎と方向性が違うというか何というか。


 とにかく、現代日本でこんなことを言ったら変人扱いされるのがオチだ。

 あるいは宗教の勧誘と勘違いされるか。

 いずれにせよ、これでもマシな扱いだと思う。


 運が悪ければ自分の意志では外に出られない病院に放り込まれかねないからな。


 そういや本物のシュワちゃんが出演している映画の続編はそれに近いシーンがあったか。

 主人公の母親が荒唐無稽なことを信じていると思われて囚われていた。

 結局、それは事実だった訳なんだが。


 俺のでっち上げ話とは大違いだ。

 しかも、相手に信じさせるために信じられないような話をするという矛盾がある。


「それが神のお告げ……」


 シュワちゃんが呟いている。

 それっぽい話をもっと盛りに盛ってどうにか信じさせるしかないと思っていたら……


『うわー、信じちゃったよ』


 大丈夫なのかと思うくらいあっさりとね。

 それだけスカイダイビングからの登場がインパクトあったってことなのかもしれないが。


「まさか貴殿らは神の使いではっ」


 シュワちゃんのその言葉に彼の周囲がざわついた。

 モースキー兵たちの中に今まで鳴りを潜めていた怯えの色が湧き上がってきたようだ。


「そんな大層なもんじゃないさ」


 まあ[女神の息子]なんて称号を持っているけどな。


読んでくれてありがとう。

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