1398 お手伝いを望む者
「「「「「はいはーい!」」」」」
それまで大人しくしていた子供組が一斉に手を挙げて呼びかけてきた。
「何かな?」
「お手伝いがしたいニャ」
ミーニャがそんなことを言い出した。
「お手伝いなの」
ルーシーが追随する。
「頑張るよー」
シェリーがミズホ服を腕まくりしてやる気を見せている。
「「やっちゃうよぉ」」
ハッピーとチーも張り切っている。
「これこれ、物騒な物言いをするんじゃありません」
マイカがハッピーとチーをたしなめる。
だが、言われた2人は小首を傾げていた。
顔を見合わせて──
「分かる?」
「分かんない」
困惑の色を深めていた。
「穿ちすぎだよ、マイカちゃん」
ミズキのツッコミに今度はマイカが首を捻る。
「どうしてよー」
「誰も今の発言でそんな風には思わないと思うんだけど」
『そんな風、か』
ミズキがストレートに言わないのは察してねということではない。
むしろ逆だろう。
ヤバいので伏せ字にしました的な意味があるってことだな。
言うまでもなくミズキはあえて伏せた訳だ。
それで何を言いたかったのかは分かってしまった。
『[殺る]と書いて「やる」と読むってね』
物騒な想像をしたものである。
いや、ミズキじゃなくてマイカがね。
バイオレンスな感じの漫画とかの読みすぎじゃなかろうか。
まあ、俺も読むんだけどさ。
趣味と嗜好は似通ってるからね。
だからこそ言ってる意味も分かってしまったんだけど。
つまり、ミズキも同類な訳で。
俺より先に読めてしまったのは2人が姉妹同然と言って良い仲の幼馴染みだからだろう。
『あ、今は姉妹なんだっけ』
生まれ変わってエリーゼ様の娘ってことになってるからね。
そんな風にあれこれ考えていると──
「[殺る]と書いて「やる」と読んじゃうかー」
などと言っている人がいた。
トモさんだ。
似たような趣味嗜好をしている人が、ここにもいましたよ。
まあ、元日本人だし。
何と言っても出待ちしてた俺と意気投合したくらいだからね。
趣味嗜好が似通っていないはずがない。
え? これくらいは誰にでも分かるでしょって?
そんなことはないぞ。
現にフェルトはギョッとした顔で隣のトモさんのことを見ているくらいだし。
[私の夫は何を言っているのだろう]
なんて文言を顔に張り付けているのかと思うほど分かりやすい表情をしている。
似たような感じなのは人魚組か。
あからさまな感じで驚いたりはしてないけどね。
怪訝な表情を浮かべて互いに顔を見合わせている。
目線だけの会話で二言三言って感じだ。
すぐに頭を振って終了である。
「知ってた?」
「知らない。
そっちは?」
「知らないわよ」
台詞は違うだろうが、ニュアンス的にはこんな風だと読み取れた。
割とミズホ国の文化に馴染んできただろうと思ったんだが、まだまだのようだ。
逆に最古参のツバキやカーラなどは確認するまでもないとばかりに余裕の表情である。
顔を見合わせるどころかアイコンタクトのひとつもする素振りがない。
動画を見まくっているから嫌でも分かってしまうのだろう。
そんな訳で、あからさまに言われれば子供組の面々だって分かってしまうのだ。
「「そっかー」」
ハッピーとチーは言われるまで気付かなかったーてな感じで感心していた。
「「そうとも受け取れちゃうねえ」」
そう言ってクスクスと笑っている。
「「だからマイカちゃんは注意してきたんだぁ」」
実に無邪気な笑顔をしている。
「「大丈夫だよぉ。
そこまで考えてなかったもん」」
「だってさ」
「ぐぬぬ」
悔しそうに唸るマイカ。
それを見て楽しそうに笑う子供組。
「おのぉれぇーっ」
何故かトモさんが対抗するように尾安尊人さんの物真似を挟んできた。
更に子供組からキャーキャーという歓声が上がった。
「カオスだ」
どんどん状況が読めなくなっていく。
子供組がお手伝いと言ってたはずなんだが。
「しょうがないよ、ハルくん」
諦観を感じさせる溜め息をつきながらミズキが言った。
「退屈だったもの」
「そういうことか」
まあ、今の今まで移動ばかりで運動のひとつもできなかったからな。
客人がいる状況ゆえに動画を見ることもはばかられたし。
同じ理由でゲーム機を引っ張り出すのも遠慮していた。
そういうのが数日も続けば、暇つぶしのネタも尽きるというものである。
『そりゃ、暴れたくもなるかぁ……』
まだまだ子供だし余計にな。
他の皆だって我慢していただけだと思う。
そう考えると、ここらで運動させるのも発散につながるだろう。
かなり加減しないとダメなので逆にフラストレーションが溜まる恐れはあるけどな。
それはやってみなくちゃ分からない。
「それだけ楽しそうにしているならお手伝いはしなくても大丈夫か」
シュバッ!
俺の呟きに子供組が一瞬で目の前に整列した。
思った通りの反応である。
「「「「「はいはいはぁーいっ!!」」」」」
先程よりも「はい」がひとつ多い上にボリュームまでアップしてるし。
どうしてもお手伝いをするんだという強い意思が感じられる。
まあ、俺のかけた言葉に返事をしたという意味では逆の意味に取られかねないんだがな。
「元気だねえ」
カーターが苦笑している。
ヴァンも何とか無表情を貫こうとしているが口元が引きつっていた。
我慢し切れていないというか、決壊寸前だ。
護衛騎士たちに比べれば遥かにマシではある。
騎士たちは苦笑じゃなくて唖然としているんだけどね。
本当に大丈夫なんだろうかという視線を子供組とカーターの間で往復させている。
子供組の実力を知らない面子だからしょうがない。
次第にハラハラした表情になっていくところを見ると、子供好きな面々らしい。
良い若者たちだ。
もしかすると子持ちだったりするかもな。
ルベルスの世界じゃ15才が成人だし。
見た目が20代くらいの彼らなら妻子持ちでも不思議はない。
だとするなら余計に感情移入してしまうところはあるだろう。
『この調子じゃ子供組の実力を知ったら腰を抜かすかもな』
実力といっても、ここの現場で見せられるのは極一端にすぎないのだけど。
「移動続きだった分の反動だな」
「それは大丈夫なのかい?」
カーターが心配そうに聞いてきた。
心底という感じではないが、不安に感じているのは間違いない。
カーターは子供組の実力も知っているからな。
やりすぎてしまうことを恐れているのは明白だ。
下手に俺たちのことを知っているだけに無理からぬところはあると思う。
逆に今回の護衛騎士たちはギョッとした表情を見せていた。
カーターが子供組の心配など微塵もしていなかったからだろう。
知らないと、こんなものである。
見た目はまんま子供だからな。
中身も子供だけどさ。
「手加減ならお手の物だ。
普段から訓練してるしな」
「え?」
怪訝な表情を浮かべるカーター。
人を相手にそういう訓練をしているところを想像してしまったようだ。
明らかな誤解である。
「訓練はダンジョンに潜ってのものだぞ」
故に訂正する。
「あっ、ああ……
魔物相手に訓練してるんだね」
ホッと安堵するカーター。
やはり俺の推測は当たっていたようだ。
「もちろんだ」
安全性を考えれば当然の話である。
「それに色んな魔物を相手にすることで加減の調節が身につきやすいからな」
「へえー、そこまでするんだね」
カーターはしきりに感心していた。
それを見た子供組がドヤ顔になる。
「ダンジョンで訓練するのはいいかもしれないなぁ」
そう言うと、唸りながら考え込み始めてしまった。
思わず苦笑が漏れてしまう。
「そういうのは帰ってから検討した方がいいぞ」
「おっと、そうだね」
カーターは照れ臭そうに笑って誤魔化した。
「それで、この子たちだけで制圧するのかい?」
カーターがそんなことを聞いてきたのは立候補したのが子供組だけだからだろう。
「そうしてもいいんだけどね」
俺の返事に護衛騎士たちが「マジで!?」と言わんばかりに仰天していた。
カーターとの話を聞いても信じられなかったようだ。
「皆、退屈してたみたいだからさ」
「なるほど、全員かい?」
「俺は何もしない予定だけど」
『くーくうー』
ローズもー、と念話で語り掛けてくる霊体モードのローズさん。
実に珍しい話だ。
これから荒事だっていう時に遠慮するとは意外すぎる。
シャキーンと鉤爪を伸ばしてやる気満々になられても困るけどね。
モースキーの連中にローズを見られるのは控えた方がいいと思うし。
ドルフィンとしてこの場にいるのなら、また違ったのかもしれないが。
「妾もパスじゃな」
「マリカもー」
「ゴロゴロ」
守護者組は全員が辞退するようだ。
いや、それだけではない。
トモさん夫婦や奥さんたちも断ってきた。
「いいのか?」
「ストレス発散に下の人たちを付き合わせるのは可哀相ですから」
エリスが苦笑しながら言った。
「過剰戦力ですし」
マリアが素っ気ない感じで続く。
「その分はお城で遊ばせてもらいますね」
そして、クリスが締め括った。
読んでくれてありがとう。




