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141 新魔法は電動工具か手裏剣か

改訂版です。

 ダニエラの放った光の円盤はゴーレムの腕に食い込みはしたが切断するには至らなかった。

 本物のゴブリンなら致命傷を負わせていたとは思うものの当人は落胆している。

 俺の手本とは違う結果になったのが悔しいのだろう。


「何が違うんだろ? 速さも大きさも同じように見えたのになぁ」


 レイナはダニエラが一部正解していることに気付いていない。

 違うというよりは足りない要素があるだけなんだが。


 まあ、ルベルスには電動工具なんてないからなぁ。

 そろそろ種明かしと──


「お?」


 今度はルーリアが挑戦するらしく掌を前に突き出して円盤を作り出した。

 が、その形状が円盤ではない。

 パッと見は円盤状に見えるのだが……


「なんや? 縁のあたりが変やで」


 真っ先に指摘したのはアニスだった。

 が、他の面々も小さく頷いているので気付いているのは間違いない。


「なんかチカチカする?」


 レイナが目をパチパチさせている。

 言葉にしないだけで皆同じ意見らしくパチパチしていた。

 それでも違いは見極められないようだ。

 思い込みが邪魔しているのかもな。


 実は八角形の各辺を円弧状に凹ませた形状になっている。

 極端に言うならばマンガの叫び声などで使う吹き出しに近い。

 高速回転しているので残像で円に見えてしまうんだろうな。

 チカチカするのもね。


 ルーリアが参考にしたのは八方手裏剣のように思える。

 あれも回転しながら飛んで行く訳だし忍者の動画が元ネタだろう。


 見極めきれない皆のことは構わずルーリアは手裏剣もどきをゴーレムに向けて放つ。

 突き抜けこそしたものの、その際に土塊を派手に撒き散らしていった。


「うわっ、いっぱい飛んだわよ」


 レイナが驚きの声を上げたのも無理はない。

 切断面はガサガサで質の良くない刃を使った安物の電気丸鋸を想起させるような状態だ。


「ズタズタだな。思ったようにはいかないものだ」


 ルーリアは表情を渋くさせて頭を振った。

 結果を見ればダニエラより一歩前進のはずなのに失敗したかのような落ち込みようだ。


「発想は良かったんだぞ」


「マジで!?」


 レイナが驚いているけど、何処か及び腰で考える気がなさそうなのが見て取れる。

 苦手だからって考えないのは駄々をこねている子供と変わらないんだがな。

 それこそ赤毛のドワーフ幼女みたいなものだ。

 ああいう短絡思考の持ち主にはならないでもらいたいんだけど。


「ルーリアはん、どないなことしたんや?」


「ダニエラ殿の回転という言葉をヒントにして形状を変えただけだ」


 言いながら再び八方手裏剣もどきを用意する。

 先程と異なるのは回転させていなかったことだ。

 そこから回転数を徐々に上げていった。


「そういうことかいな」


「どういうことなんだよ?」


 一人で納得したと思しきアニスにレイナが問い詰めにかかる。


「ダニエラの円盤が1本の剣ならルーリアはんのギザギザは8本の剣ちゅうことや」


「結果はあの通りだがな」


 自嘲気味に苦笑しているルーリアはゴーレムをズタズタに切り裂いたことが無念そうだ。


 ここでアニスが動く。

 光の円盤を生成してゴーレムの腹に放った。


「これでも食い込むんやな」


 が、意図的に回転させなかったらしくダニエラの時よりも浅い。


「ほな、これやったら」


 少しずらした位置に2枚目の円盤を撃ち込めばダニエラの時と変わらぬ食い込みになった。


「で、ルーリアはんのがこうやったか」


 手裏剣もどきを3枚目として放てばゴーレムを派手に削っていく。

 先に大きく削られていた胴体がとうとう泣き別れの状態になってしまった。

 切断面も綺麗とは到底言えない。


「なんか、分かりそうな気がする」


「ホントかよ」


「ハルトはんは、あないチカチカさせてへんかったやんか」


「言われてみれば確かにそうだ」


 リーシャが頷いている。


「でもー、円形だと威力が足りないと思うんだけどー」


「回転してるのは間違いないと思うねん」


「威力は上がってるものね」


 レイナが同意する。


「それとルーリアはんのも結構ええ線いってるんちゃう?」


「どうだろうな。あまりにも違いすぎないか」


 アニスの推測を本人が否定した。


「たぶん工夫が足りんのや」


 そう言いながら光の手裏剣を生成し始めた。

 最初は8本の突起だったが、それを変形させて倍々と増やしていく。

 その分だけ突起は細身になっていった。

 その数64本。

 ここまで来ると自転車のスポークかと言いたくなるくらい細い。

 アニスはそれを回転させてみたが首を捻った。


「アカンなぁ」


 残像でちらつくのは変わらなかったからだ。


「試しにやってみよか」


 細刃の手裏剣をゴーレムの脚部に叩き込むが、八方手裏剣のときと同じく破片を撒き散らしながら切り裂いた。

 異なるのは破片が細かくなって切断面もズタズタな感じが減ったところか。


「おっ、これは試した甲斐があるんとちゃう?」


 顎に手を当てたアニスはなにやら呟き始めた。

 その間に破片とかを集めて再利用しつつゴーレムを5体に増やしておく。


「はいよ、試行錯誤は大歓迎だ」


「つってもさー、こんなに必要?」


 レイナがツッコミ入れてきた。


「つべこべ言わずに練習だ」


「それよりも敵が来たらどうすんのさ」


「もちろん対処すべし」


「えー」


「これも修行だ。時間を無駄に使うくらいなら魔力を使うべし」


「へーい」


 やる気なさげなレイナだが、返事とは裏腹に円盤を作って操作し始めた。

 ゴーレムにはあえてぶつけないようにジグザグに動かしたりゴーレム同士の間を通したり。


 どうやら切断よりも先に制御力を鍛えようとしているようだ。

 双子やルーリアも真似を始めた。

 リーシャは色々と試行錯誤でゴーレムを痛めつけている。

 弾丸型3連発とか投げナイフの形にして放ったりとか。


 ダニエラもそれに倣う形で輪っかやブーメラン型などを試している。

 動かないのは考え込んでいるアニスと目を閉じて固まっているノエル。

 ノエルには思わず「どうしたんだ?」と声を掛けそうになってしまった。

 よくよく見てみれば魔力を丁寧に練り込んでいるのはすぐに分かったので口出しはしない。


「ふむ」


 我流なやり方ではあるけれども全身の感覚を研ぎ澄ませているっぽい。

 無駄に高度な練り込みは魔力の消耗はなくても精神を疲弊させることに気付いていないか。

 そもそもギリギリの制御で魔力を練り込まなくても感覚の鋭敏化は可能である。

 あえてそうしているのか否かが分からないところだけど。

 いずれにせよ本気であることだけは間違いないので中途半端な状態で止めさせるのは得策とは言えまい。

 しばらく様子を見て判断するとしよう。


「ローズさんや」


「くくぅ?」


「ノエルの様子をしばらく注視したいから他の皆のフォロー頼むわ」


「くうー」


 そこからしばらくは何の動きもなかったのだが、気がつけばノエルが瞑想に近い状態になっていた。

 ピンと張り詰めた空気がノエルの周囲に漂っている。

 目を閉じているが、正確にゴーレムの位置や形状を把握しているな。

 皆が使っている魔法もと言うべきか。


「なるほど」


 皆の魔法を観察することで何が足りないのかを感じ取ろうとしているんだな。

 なかなかユニークなアプローチだと思う。


「面白い」


 場合によっては見ただけで魔法をコピーできるようになるかもしれない。

 少なくともコツを掴むのは早そうだ。

 試しに再び手本を見せてみるのも一興かと考え始めたところでノエルに変化があった。

 魔力の練り込みを徐々に収束させていき、ゆっくりと息を吐き出して閉じていた瞼を開いた。

 今までよりスムーズに光の円盤を生成。


「狙い撃つ」


 皆が魔法でボロボロにしたゴーレムに向かって放てば胴体を難なく通過した。


「おおっ、スゲえ!」


 レイナが驚きつつも称賛するだけあって飛散は大きく減っている。

 だが、ノエルは予想できたと言わんばかりに次の円盤を用意していた。

 比較的損傷の少ないゴーレムに向かって放たれ頭部を通過。


「「やったやった!」」


「あかん、先越されてもうた」


 今度の飛散は、ほとんど塵と言って良いレベルである。

 だというのに──


「これが今の限界」


 ノエルがギブアップ宣言した。


「どういうこっちゃの?」


「ギザギザは薄く小さい方がいい」


「なるほど。ハルト殿が「発想は」と言う訳だ」


 ルーリアが苦笑していた。


「まあ、そういうことだな」


 そこから全員がノエルのレベルに達するまで練習が続いたのは言うまでもない。

 この日のダンジョン実習はそれで終わりであった。


読んでくれてありがとう。

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