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1395 霧の中で行われること

 カーターも俺たちのやり方に慣れてきたものだ。

 俺がモースキーの侵攻軍と真っ向から相対するつもりがないと知っても驚かない。


「では、上空から攻撃して蹂躙するとかかな?」


 すぐに目線を変えて聞いてくるくらいだし。


「一応、正解」


「一応なんだ?」


「たぶん、カーターの想像しているのとは違うから」


「それは気になるところだね」


「見ていれば分かるさ」


「了解した。

 さっそくお願いするよ」


「オーケー、始めるぞ」


 カーターの了承を得て侵攻軍への攻撃を開始する。

 まずは足止めだ。

 俺はゲーム機で使われるようなコントローラーを手にした。


『これを使うのは久々かもしれないな』


 前に使ったのは赤面の異名を持つスーパーソニックフェーゼントに襲われた時か。


「おおっ」


 トモさんがさっそく食いついている。


『そういや、これを見せるのは初めてだったかな』


 普段は使わないしな。

 ついついゲーマーの血が騒いでしまったのだろう。


 すぐに表情を引き締めていたけどね。

 戦争で使うんだし、ゲーム感覚は持っちゃいけないと自分を戒めたんだと思う。


 コントローラーを見ると心が動くのはしょうがない。

 ほとんど条件反射だろうしな。


 逆に訳が分からないエーベネラント組の面々にとっては困惑するアイテムだろう。


「どういうことかな?」


 カーターが不思議そうに首を捻りながら聞いてきた。

 てっきり俺が魔法を使うと思ったのに奇妙な道具を持ち出したからな。


「この輸送機の機能を使って下の連中を足止めする」


「そんなことができるのかい!?」


 驚きを露わにするカーター。

 さすがのヴァンも大きく目を見開いていた。


「こんな感じだな」


 言いながらコントローラーでコマンドを入力する。


「……何も起きないけど?」


 派手な音がするとでも思ったのだろうか。

 耳を澄ますようにしていたカーターが困り顔で俺の方を見てきた。


「陛下、あれを御覧ください」


 ヴァンがここで初めて口を開いた。


「えー、何々?」


 ヴァンが誘導した方には壁面モニターがある。

 そこには、にわかに掻き曇る空が映し出されていた。


 ゴロゴロゴロ……


 シーダが喉を鳴らすのとは異なる重そうな音が聞こえてくる。


「ゴロゴロ?」


 猫モードのシーダが喉を鳴らした。


『分かってやってるのか?』


 そのあたりは謎だが、今は気にしている場合ではない。

 下の連中が慌てだしたからな。


「おー、進軍が止まった?」


「思ったより士気は低いですね」


 天候に対応するのは訓練じゃ難しいところがあるしな。

 練度がそこそこあっても、士気が低ければこんなものだろう。


「さて、掴みはオッケー」


「何処が掴みなのよっ」


 マイカのツッコミが入った。


「慌てふためいて動きを止めたところ」


「─────っ!」


 納得がいかないという顔で歯噛みするマイカ。


「ハルくんはボケた訳じゃないから」


 ミズキがフォローを入れてくるが。


「だから納得いかないのっ」


 キレ気味にマイカが返事をした。

 まあ、これ以上は文句を言うつもりはないようだが。


「続いて仕込み第2段、行きまーす!」


「行きまぁーす!」


 わざわざ俺の台詞に追従してくるトモさん。

 もちろんグランダムの初代主人公の物真似をしながらだ。


「ポチッとな」


 コントローラーのボタンを押した。


「そう言うからには人差し指で上からでしょう」


 ツッコミを入れてきたのはエリスだった。

 ちょっと意外である。


 が、動画に影響されているのは明白だ。

 そんなツッコミなどお構いなく次へと状況が動いていく。


 ザ──────────────────ッ!


 土砂降りの雨が降り始めた。

 下の連中はもう大パニックだ。

 右往左往している様が上からだとよく分かる。


 小雨程度なら動揺もしなかっただろうが、滝のような雨ではそうもいかない。

 開けた場所で雨宿りなど望むべくもないからな。

 進軍スピードを優先するあまり森林地帯を避けたのが裏目に出た格好だ。


 雨具を出すことも忘れて大騒ぎである。

 まあ、すでに雨具など意味をなさない状態だがな。

 事前に用意できていたとしても性能面で意味がなかったりするけど。


「おおっ!」


 壁面モニターを見ているカーターが驚きの声を上げた。


「凄いね、この輸送機はっ。

 天候操作までできるのかぁ」


 下の状況より、こちらの方で感心されてしまった。


「ちょっと違うんだよなぁ」


「え?」


「これは光学迷彩と同系統の魔法だよ」


 厳密に言えば似て非なるものとなってしまうがね。


「あれ?」


 カーターが首を傾げて……


「ああ、これは嵐に見せかけているだけなんだ」


 ポンと手を打ちながら言った。


「そゆこと。

 幻影魔法だ」


「へえ、なるほどねー」


 うんうんと頷くカーター。


「これなら、まともに相手をすることなくっていうのも分かるよ」


「あれだけの集団が混乱すれば収拾がつかなくなりますね」


 カーターだけでなくヴァンもこちらの狙いを理解したようだ。


「そんな訳で仕上げだ、ドン!」


 俺は再びコントローラーを操作した。


「今度は何を?」


 カーターが問うてきたので、地上側を映している壁面モニターを指差す。


「おおっ?」


 カーターが身を乗り出すような感じでモニターに見入る。


「霧で覆われていくようですが?」


 対してヴァンは怪訝な表情を見せた。


「これは、どういうことかな?」


 カーターが俺の方へ振り返った。


「幻影魔法ではないんだよね?」


「一種の神罰かな」


「神罰だって!?」


 さすがのカーターも驚きを禁じ得ないようだ。


「いくらなんでも、それは……」


 戸惑いの表情すら見せている。


「別に神の代行者を名乗るつもりはないさ。

 結果がそれっぽくなるだけと言った方がいいのかな」


「どういう結果になるんだい?」


「悪事を重ねた連中が消える」


 俺の返答を聞いたカーターが俺をマジマジと見てきた。


「本当に?」


「ああ、本当に消える」


「悪事を働いた者だけが、かい?」


 信じられないとばかりに頭を振りながらカーターが聞いてきた。


「もちろん」


「どうやって?」


「霧の中では審判が行われるんだよ」


 ファントムミスト弐式によってな。


「審判……

 だから神罰か」


 少しは納得がいったようだ。

 それでもカーターは疑問が残ると言いたげな表情をしていた。


「ということは召喚魔法なのかな?」


「そのものではないが、含まれているといったところか」


「そうなんだ……」


 カーターは呆然とした感じで俺の返事を反芻しているようだった。


「言っとくが、神様とか天使を召喚している訳じゃないからな」


「あ……」


『やはり、そういう想像をしていたか』


 俺の表現が誤解を招いたとも言えるので責めることはできない。


「悪事を重ねると恨みを買うよな」


「そうだね?」


 突然、何を言い出すのだろうと首を傾げつつもカーターは答えた。


「非道な行いほど恨みは強くなる」


「うん」


 頷くカーターの表情が怪訝なものに変わる。

 頭の片隅に何か引っ掛かるものがあるようだ。


「惨たらしく殺されたりとか」


「あ」


 サッと顔色が変わった。

 気付いたようだ。


「大事なものを踏みにじられても何もできずに死んでいったりとか」


 そして確信めいた表情を見せる。


「恨みを抱いて死んだ人たちなんだね」


「ああ」


「でも、審判というのは?

 呪い殺すと言った方が良さそうだけど」


「逆恨みは弾かれるようになってる」


 このあたりが従来のファントムミストから変更した点だ。

 元々、逆恨みはダメージが入りづらくはしてたんだけどな。

 真っ当な人間が恨まれて精神にダメージが入るのはどうかと思って改良したのだ。


 故にファントムミスト弐式には光属性も込められている。

 悪意に基づく恨みを弾くようにね。


 恨みだって悪意だって話になるかもだが。

 それを言ったら被害者は泣き寝入りするしかない。


 報いは必要だ。

 恨みを積み重ねて悪霊の類になることだってあるし。


 ファントムミストを使った場合、素直に成仏してくれる者がほとんどだ。

 怨念を晴らせるかどうかは大きいってことだな。


「中はどうなっているんだろう」


 カーターが不意に呟いた。


「視界はほぼゼロで音も聞こえない状態だ」


 これは全員に共通している効果である。


「報いを受けるべき奴らは金縛り状態だな」


 それだけではない。

 恨みを抱く霊魂から精神世界に引きずり込まれるので現実を認識できない。

 どうあっても極悪人は逃げられないって訳だ。


 さて、何人が生き残れるかな。


読んでくれてありがとう。

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