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1388 つながっていた?

 2日ですべての店長候補を集めた。

 3日はかかるかと思っていたのだが。


 とはいえ想定より早いのは嬉しい誤算である。

 素直に歓迎すべきことだろう。


 それもこれも引き継ぎがスムーズに進んだからである。


「どの従業員も優秀だな」


 俺は目的地へ向かう車内でモルトに声を掛けた。

 すでに彼らのミーティングは終わっている。


 配属先や各店舗の連携などの打ち合わせは滞ることなく決まっていったからだ。

 故に称賛の言葉も自然に出てきた。


「ありがとうございます」


 モルトが誇らしげに答える。

 候補者たちも控えめにではあるが同じような笑みを浮かべていた。

 それだけの自負と自信があるのだろう。


 まあ、誰も彼もがバスに驚いてホバークラフト列車の速さ腰を抜かしたんだけどね。

 モルト以上の反応が見られるとは思ってなかったさ。

 俺たちミズホ組としては苦笑するしかない。


「それで、この後のことなんだが」


 そう言う前に遮音結界を展開しておく。

 候補者たちを動揺させる恐れがある話をするからだ。


「はい」


「以後はバスを使わない」


「その方がよろしいかと、私も思います」


 今までにこやかだったモルトがスッと目を細める。


「モースキー王国では目立つと碌なことがないですからね」


 何度も煮え湯を飲まされたのだろう。

 その表情は渋い。


 モルトの言うモースキー王国が目的とする地域である。

 現在のエーベネラントの北東に位置する小国だ。


 エーベネラントの旧領土よりもまだ国土が狭いからな。

 南北に細長くて旧ラフィーポ王国と大山脈に挟まれている。


「近々、戦争になると思われます」


「へえ、そんな噂が?」


 それは初耳だ。

 情報を集めていなかったからなんだけどね。


「いいえ」


 モルトが頭を振った。


「私が集めてきた商売の情報を元に予想したことです」


「物資の購入に偏りがあったか」


「お分かりになりますか?」


「これでも商人ギルドの一員だからな」


 などと言ってみたが、似たような話を知っていただけだ。

 ただし、漫画の話である。


 何度かアニメ化もされているゾーン808。

 あれに砂中空母というのが出てくる話があった。


 これまでにない難敵で主人公たちの基地は壊滅的な被害を受けてしまうのだ。

 一度は散り散りになる基地のメンバーたち。


 基地司令であるザキは再起するためには砂中空母の性能を暴く必要があると考える。

 そこで留学時に世話になった教授に会いに行く。

 この教授が普通では考えられないことをしてのける。


 敵が用意したと推測される資材と利用した工場から砂中空母を設計してみせたのだ。

 エスパーかよと漫画を読んでいる時は思ったものである。


 まあ、漫画だから通用するトンデモ話だな。

 それだけに印象に残っていたのだけれど。


 あっちは荒唐無稽なまでに話を大袈裟にしているが、丸っきりの作り話って訳でもない。

 集めた物流情報を元に相手の動きを読むことは不可能ではないのだ。


 現にモルトはそれをしている。

 だからこそ大商人として成功しているのだろう。


「だが、それを知って従業員を送り込むのか?」


「危険は承知しております。

 ですが、この国の従業員たちを見捨てる訳にはいきません」


「戦争で負けると?」


 その場合にどうなるかも想定しているようだ。


「はい」


 モルトは確信しているらしく即答した。


「どうしてそう読んだ?」


「エーベネラント王国の国力が増しているからです」


 それ以外の理由はないとばかりに言い切った。


「国土が一気に3倍になりました。

 大きな戦争をすることもなく、です。

 モースキー王国が北へ攻め上がるつもりでも西と南を抑えねばなりません」


 東は大山脈でミズホ国とは正式な国交がないドワーフたちの領域だ。

 まあ、彼らは積極的には介入しないだろう。

 攻め込まれない限りは。


「真正面からエーベネラント王国とぶつかるつもりなら確実に潰されるでしょう」


「エーベネラントは軍事国家じゃないだろ」


「ですが、精強な軍を持つと言われたスケーレトロ王国を容易く下しています」


「容易くねえ……」


 軽くツッコミを入れてみた。

 モルトの情報収集能力が思った以上に凄いせいだ。

 分析力も含めての話にはなるだろうけどね。


 突けば、その一端くらいは出してくるかと思ったのだが。


「そうとしか言い様がないのです」


 困惑した表情を浮かべつつも言い切るモルト。

 集めた情報に確信がある証拠だ。


 でなければ分析結果に差が出てしまう。

 それは読みをあやふやなものにしてしまう訳で。


「戦争の準備をして秘密裏に侵攻作戦を行おうとしていたようですが……」


『おいおい、随分と詳しいな』


 思わず内心でツッコミを入れてしまう。

 だが、侵攻軍はかなりの規模であった。


『情報が漏れない方がおかしいのか』


 むしろ、もっと情報が拡散していない方が変だと言える。

 そのあたりは信じられないような話がオンパレードなので広まらないのかもしれない。


 せいぜいが酒場のホラ話レベルなんだろう。

 誰もまともに聞く気がないってやつだ。


 モルトはそういう情報でも部分的には事実として拾い上げたものと思われる。

 もしかすると出鱈目と判断した部分はカモフラージュと判断したかもな。


「返り討ちにあったか?」


「はい」


 困惑の表情で頷くモルト。

 まさか、返り討ちにした張本人が目の前にいるとは思うまい。


 気付く可能性は無きにしも非ずなんだがな。

 悪魔を討ち滅ぼしたシノビマスターのお墨付きなんだし。


 まあ、あの話を何処まで信じられるかだ。

 個人で軍隊を相手に戦えるとは考えないだろうし。


「どうにも信じ難いのですが、あっさりと降伏したようです」


「侵攻作戦の情報が漏れていたんだろう」


「そうかもしれません」


 肯定の返事をするモルト。

 しかしながら、その表情は裏腹に浮かないものであった。

 到底、納得しているとは思えない。


『何時か気付く日が来るかもな』


 とはいえ、モルトなら簡単に口を滑らしたりはしないだろう。


「それと確証のある情報ではないのですが……」


 そう前置きをしてモルトは言葉を続ける。


「ラフィーポ王国までもが併合されてしまったようなのです」


「ああ、それな」


「御存じなのですかっ!?」


「まあね」


 俺の何気ない返事に唖然とした表情となるモルト。

 だが、次の言葉に更に某然を上書きすることになる。


「エーベネラントの王とは友達なんだ」


「っ!」


 さすがに自失の状態にまではならなかったようだが、相当な衝撃があったようだ。

 モルトが渋い表情で唸り始める。

 何やら思案し始めたようだが。


『どういう結論を出す?』


 些か興味が湧いたので待ってみることにした。

 時間はあるしな。


 場合によってはホバークラフト列車が停車してからも待つこともあるかもしれない。

 そんな風に考えていたのだが。


「申し訳ありません」


 さほど待つこともなくモルトが詫びてきた。


「陛下のお立場を失念しておりました」


 そこまで身構えて考える必要もないのだが。

 というか、困る。


「それなんだがな」


「はい?」


 ここに元日本人組がいたらツッコミがトリプルで入っただろう。


「「「その「はい?」じゃないっ!」」」


 もちろん、紅茶好きの警部殿をリスペクトしてのことである。

 2日目以降は別のバスに乗っているので、ややこしいことにならずに済んだ。


 俺も言いたかったが自重した。

 モルトにしてみれば訳の分からない話になってしまうからな。


「外部で陛下は勘弁してくれ」


「っ! これは申し訳ありません」


 深々と頭を下げてくるモルト。


「そういうのも勘弁してくれ」


 土下座されないだけマシだと言えるがね。

 それでも、モルトが連れて来ている面々が何事かと首を捻ることになる。

 話の内容は遮音結界で彼らの耳には届いてはいないが。

 思いっ切り頭を下げられたら誤魔化しようがない。


「失礼いたしましたっ」


 焦った様子を見せるモルト。

 意外にポンコツなところがある。


「次から気を付けてくれればいい」


「はい」


「なんにせよ、エーベネラントが急に領土を拡大したからモースキーは焦っている訳か」


「いえ、もっと以前からの計画と思われます」


「最近になって動きが活発になってきたんだよな?」


「はい」


 ラフィーポの侵攻作戦に合わせて動くつもりだったのかもしれない。


「モースキーはラフィーポと国交はあったか?」


「はい、ありました。

 キツネとタヌキのような間柄ではありましたが」


「表向きは仲が良いように見えて化かし合うってところか」


「その通りでございます。

 不可侵と通商協定程度の緩い関係性ですが」


 ギリギリ相手の信用を失わない程度に裏で動いていたんだろう。

 条約ではなくて協定というあたりに相手を化かす気満々なのが透けて見える。

 暫定的な約束なら反故にしても戦争に持ち込む口実にはしづらいからな。


 それでいて領土拡大の野心を持つという点ではお仲間って訳だ。

 ラフィーポは南でモースキーは北。

 獲物が被らなかったのも幸いした訳だ。


 同時期に侵攻すれば口約束のような不可侵も多少は信憑性が出てくるだろうし。


「そういう意味ではモースキーはラフィーポに攻め入るつもりだったのかもな」


 俺の言葉にモルトがハッとした表情を浮かべる。


「同時に侵攻するように見せかけて裏切る訳ですか」


「だから未だに動いていないんだろう?」


 カウントダウンの段階だとは思うが。


「マズい時期に我々は向かっているようですね」


 渋面を浮かべるモルト。

 引く気は更々ないようだ。


 モースキー王国内にいる従業員とその家族も大事だと言っていたしな。

 モルトらしいとは思うがね。


読んでくれてありがとう。

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