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1376 クドい女は嫌われる

 夢魔ベティは思ったほど利口な悪魔ではないようだ。


 自分の小芝居が相手を魅了していると信じて疑わず。

 自分の策が完璧だと信じきってしまっている。


 己のことを魅力的で策士だと思い込む悪魔?

 実に滑稽だ。

 それ故に激しく嫌な予感がする。


 コイツは女も望みのままと言った。

 ならば真っ先に自分を推挙してくるだろう。

 自称、策士であるからこそな。


 自分の魅力で俺をたらし込んで契約するように見せかける。

 いや、こちらに有利な条件と思わせて穴だらけの契約をするくらいは考えていそうだ。


「女は間に合っているし、お前のようなのはいらん」


 ようやく我に返った夢魔ベティ。

 俺の言葉がなければ未だに固まったままかもな。


『何処までポンコツなんだよ』


 今までの用心深さは何だったのかと問い詰めたい。


「何ですって!?」


 俺の冷めた目とは逆に夢魔ベティは激高していた。


「美形が嫌いとは言わん」


 むしろ逆だという自覚はある。


「だが、お前のように容姿を鼻にかける上に淫乱なのはいらん」


「あら」


 ニヤリと上機嫌に笑う夢魔ベティ。

 つい今し方の激怒は何処に置いてきたのかという代わり身振りだ。


「クールぶっている割に意外に初心なのね」


「呆れて溜め息しか出ないんだが。

 ああ、そうやって俺の女関係の情報を引き出そうというのか」


 だとすると感情の起伏の激しさも芝居という可能性が出てくる。

 あまり侮ると痛い目を見そうだ。


「ふーん、馬鹿じゃなさそうね」


 今度は気怠げな表情になって眠そうな目になった。


「どうだろうな。

 自分で賢者を名乗るくらいだから愚か者かもしれん」


「そんなことを言う愚か者はいないわね」


 ニヤニヤと笑う夢魔ベティ。

 ゾクッとした寒気が背中を一瞬で駆け上がった。

 コイツに気に入られるとかシャレにならん。


「貴様がどう思おうと関係ない。

 相容れない貴様と契約することなどあり得んさ」


「どうしても?」


 念を押すように問いかけてくる。


「どうしてもだ」


「後悔するわよ」


 捨て台詞のようにも聞こえたが、やたら挑発的だ。

 自分には奥の手があるとでも言いたげに見える。

 だが、俺は意に介さない。


「貴様と契約すれば、そうなるだろうな」


 仮にも[女神の息子]なのだ。

 他にも[女神に祝福されし者]や[亜神の友]なんて称号もある。


『[女神を泣かせた男]は……関係ないな』


 ちょっと落ち込みそうになった。

 ともかく、俺は神様サイドの人間だ。

 悪魔と相容れるはずがない。


「言ってくれるわね」


 夢魔ベティは不敵に笑った。


「この体の持ち主がどうなってもいいのかしら?」


「は?」


 思わず間の抜けた声が出てしまった。

 鏡を見るまでもなく顔もそんな感じになっているだろう。


「やっぱり、おバカさんなのかしらね」


 挑発的な物言いをする夢魔ベティ。


「憑依している私が自由にできるとは思わないの?」


 嘲りの笑みを浮かべながら問いかけてきた。


「バカはお前だ」


「あら、どういうことかしら」


 余裕の笑みを浮かべているが、内心はどうだか。

 俺が言い返した直後、わずかに反応していたからな。

 思い当たる節はあるだろう。


「ベッキー・ヴェンジェンスの魂を契約で縛り付けている貴様は害することなどできない」


 契約を解除してからなら話は別だが。

 それをするためには憑依したままでは不可能だ。


 繋がりを経たねば魂を縛り付けた契約は解除できない。

 接触していれば契約を維持する意志があることになるからな。


 そして、接触が無くなってしまえばこちらのものだ。

 近いかどうかは関係ない。


 俺の視野範囲内である。

 契約が切れた瞬間を見逃さずに転送魔法で引き寄せるなど容易いことだ。


 まあ、それをしたところで生き返る訳ではないがな。

 人として死なせてやることができるくらいか。


「うーん、残念ね。

 つまらないブラフには引っ掛からないか~」


 お気楽な調子で言っているが、夢魔ベティの表情はわずかに苦々しい。

 本気で引っ掛からなかったことを悔しがっているようだ。

 あるいは、それもブラフと考えるべきか。


 面倒なのでシンプルに考える。

 夢魔ベティはベッキー・ヴェンジェンスの魂を傷つけられない。

 それは厳然たる事実だ。


 奴が悪魔である限り揺らぎはしない。

 故に駆け引きを生じさせる要素は何処にもないのだ。


「分かったか?

 ならば消え去るがいい」


 俺は聖炎を前面に展開する。


「あらら、魔法で攻撃しちゃうのぉ?」


 軽い口調だが本当にいいのかと言いたげだ。


「大根役者の三文芝居だな」


 おどけているからこそ余裕がある訳じゃないと分かる。


 恐れているのだ。

 相性の悪い光属性が込められた聖炎の魔法を。


「この体が燃えちゃうのはマズいんじゃないかしらぁ?」


「ベッキー・ヴェンジェンスは既に死んでいる。

 肉体を維持できているのは夢魔ベティが契約で縛っているからに過ぎない」


「あーらら、本当に何でも知っているのねぇ」


 相変わらずの軽い口調。

 しかしながら、そこにわずかな険が乗っていたことを俺は聞き逃さなかった。


『苛立ってるな』


 いや、焦っていると言うべきか。

 余裕ぶってみせることで少しでも俺に警戒心を抱かせようというのだろう。


 必要以上の警戒は躊躇うのと大差がない。

 相手の隙を窺うか、ビビって何もできないかの差はあるが。

 それでも敵に時間的な猶予を与えていることに他ならないからな。


 だから俺は聖炎を解き放つ。

 そこに掛け声などはない。


「くそっ!」


 悪態をつきながら夢魔ベティは横っ飛びで躱した。

 不意打ちに近い形になったのか、割と余裕がない躱し方だ。

 それでも大きく体勢を崩すことはなく着地してすぐに身構えていた。


「随分じゃないのさ」


 蓮っ葉な物言いで抗議してくる夢魔ベティ。


『この期に及んでも余裕ぶって見せたいのか』


 単に時間稼ぎがしたいだけかもしれんがね。


「いつまでもペラペラと軽薄に喋る奴が悪い」


 思えば、名もなき悪魔もそうだった。

 ピエロのような見た目をしていたのでイメージ通りではあったかもしれないが。


「どうやら交渉決裂のようね」


 不敵に笑う夢魔ベティ。

 笑みが引きつったりはしていないのは、芝居が上手いと言えるのだろうか。

 奴の焦りが分かるだけに何とも言えないところだ。


 もし、この焦りさえも奴の芝居の範疇なのだとしたら俺は踊らされていることになる。


「最初からそう言ってるだろ」


 だから真正面から受けて芝居は無視する。

 迷いを見せれば向こうの思う壺だ。


 再び聖炎を展開する。

 すぐに撃ち放ってもいいのだが、あえて待機させた。


 単発なら奴も次は普通に躱すだろう。

 そこまで間抜けではないはずだ。


『同じタイミングで撃てばな』


 故に、ここで仕留めきるのは難しいと判断した。

 とはいえ今から布石を打っておくのは無駄ではなかろう。


「ちっ、魅了も効きゃしない」


 舌打ちと共に夢魔ベティの本音が漏れる。

 同時に体の色が変わり始めた。


 白く透けるようだった肌に青っぽい色が浮かび上がっていく。

 病的に色白な者を青白いと言ったりはするが、比喩ではなく本当に薄い青が出てくる。

 人ではあり得ないことだ。


『やはり体の方も完全に夢魔に飲み込まれていたか』


 鑑定した結果に間違いはなかったことになる。

 だとすれば仮に魂を救えたとしても蘇生はできない。

 姿形が別人になった時点で魂と馴染まなくなっているからな。


 そうなった場合、普通は体から魂は放出されてしまい二度と戻れなくなる。

 死が確定してしまう訳だ。


 ベッキー・ヴェンジェンスがそうならなかったのは夢魔ベティが縛り付けたから。


 奴にしてみれば別人に作り替えた肉体を維持することもさほど難しいことではない。

 憑依と言うよりは体を完全に乗っ取ったようなものだしな。


 ある意味、変身だ。

 人の姿はその中間形態だったと言うべきかもしれない。


『古い変身ヒーローにそんなのがいた気もするが……』


 あっちの中間形態はここまでスマートな見た目じゃなかったがね。

 こっちは中間形態から美形で最終形態は肌の色が変わる程度だし似てるとは言い難い。


「ようやく終わったか」


 夢魔ベティの肌は青系のリトマス試験紙を濃くしたような色になっていた。

 明らかに人ではないと分かる。

 シルエットは人型でも中身は別物だ。


「アンタのチンタラした魔法よりはマシだよっ」


 奴が前に飛び出してこようとしたところで聖炎を放つ。


「それのタイミングは分かっていたさ」


 今度は姿勢を低くしてかいくぐる。

 前後に開脚しながらリンボーダンスをするかのように上半身を反らす。

 そのまま滑り込んで来て勢いを利用しつつ立ち上がる。


「溜めすぎの欠陥魔法だわ」


 不敵な笑みを浮かべて目の前に立った。

 貫手を放ってくる。


「ああ、そうかい」


 半身になって躱す。


 が、夢魔ベティは止まらない。

 両手で貫手の連撃を突き込んできた。


 結構な速さだ。

 そしてタイミングや軌道も変えてくるので躱しづらい。


 少なくともレベル100程度では既にズタズタにされているだろう。

 俺には擦りもしていないが。


「肌の色が変わるだけで随分と強キャラに変身するじゃないか」


「減らず口を叩いていられるのも今のうちね」


 ここに来て余裕を取り戻した様子の夢魔ベティだ。


「近づかれたら躱すしか能のないハンサムくん。

 こっちはまだまだスピードを上げられるのよ」


読んでくれてありがとう。

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