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1373 爆発したことにしよう

「さて、それじゃあ魔道具を外すか」


「できるのですか!?」


 驚愕しながらも前のめりで聞いてくるモルト。


「ああ、モルトがいるから簡単だ」


「どういうことでしょうか?」


 途端に不安げな面持ちになる。

 嫌な予感がしたのだろう。


「魔法で眠らせている大番頭を起こすだけだ」


「それはっ」


 息をのむモルト。

 ついさっき見た幻影魔法の映像が頭の中でリフレインしていることだろう。


「目を覚ませば発動状態になる」


 目覚めてモルトを見れば、魔道具が反応する。

 作動信号が送られて本来であればドカンって訳だ。


「っ!?」


 モルトが目を見開いたまま固まってしまった。


「心配しなくても爆発しないように処理してある」


 作動させるのが手っ取り早いと言ってしまうと、さすがにデリカシーがないか。

 そうでなくても困惑と恐れとが入り交じったような反応を見せているのだ。

 無神経な物言いは良くないだろう。


『もう充分に言ってるとは思うがな』


「案ずるでない」


 俺の迷いを感じたのだろう。

 ガンフォールがフォローしてくれた。

 このあたりの察しの良さは人生経験が豊富であるからこそだろう。


『伊達に年を食っちゃいないな』


 本人にそれを伝えれば憤慨するとは思うけどな。


「誰が年寄りじゃ!」


 とか吠えたりして。


 それはともかく、モルトの反応は芳しくない。

 爆発のシミュレート動画のインパクトは絶大だったって訳だ。


「信じられぬなら、それでも良いわ」


『おいおい……』


 大胆なことを言ってくれる。


「ワシらもここにおる。

 お主が懸念する通りになるなら一緒に吹っ飛ぶ訳じゃ」


「っ!」


 モルトが目を剥いた。


「ワシらは逃げも隠れもせぬ。

 何かあるなら道連れじゃ。

 お主も男なら覚悟を決めよ」


『まったく……』


 無茶を言う爺さんだ。

 旅は道連れ世は情けとは言うがな。


 あの世への道連れはモルトでなくても嫌だろう。

 少なくとも俺は嫌だ。


『道連れがオッサンとジジイだけなんて碌でもないっての』


 モルトも同じような感想を抱くんじゃなかろうか。

 少なくとも、旅は憂いものツラいものって心境な気がするんですがね。


「分かりました」


『マジで?』


 ちょっとした驚きだ。

 モルトの決断が俺の想像よりずっと早かったからな。

 即決と言っても良いくらいだろう。


 だが、本人がそう言うなら俺たちに否やはあろうはずもない。

 さっそくホッパー商会の大番頭イオを目覚めさせることにした。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 眠らせていたイオの魔法を解いても爆発はしなかった。

 まあ、当然だ。

 その部分の術式を完全に書き換えているんだから。


 ただし、敵は爆発したと思い込んでいる。

 自動人形で監視していたが、信号を受信したのを確認していたからな。

 受信側の魔道具は腕輪型で肌身離さず持っていたし。

 忙しなくチェックしていたからな。


 魔石の色が変わったのを見て、一瞬だが凄い形相になっていた。

 なかなかの美人だが凄絶と言っていいほどの憎悪を感じたほどだ。


『殺したと思ってなお憎しみが消えないか』


 どうやら上辺だけの調査ではダメなようだ。

 モルトと行き倒れだったイオの再会シーンは横に置いておくとしよう。


 イオからの報告なんかもあるみたいだが、そこは自動人形に記録させておくことにする。

 後でログを高速再生させれば充分だ。


 それと、この敵を監視する担当の俺を呼び出した。


『悪いけど詳しく調べておいてくれるか』


『任せろ』


『無理はするなよ』


『了解した』


 俺は他の所へ回る。


 転送魔法を使って瞬時に自動人形と入れ替わった。

 念のために久々のシノビマスターに変化しておく。


 変身じゃないところがミソだ。

 早き替えみたいなものだしな。


 まずは周囲の調査から。

 モルトの長男が任されている地域の店舗を巡っていく。

 ザッと鑑定して、引っ掛かるものがあれば詳細を調べる。


 まず1件目。

 田舎の方にある小さな店を選んだつもりだったのだが。


『マジか……』


 さっそくヒットしましたよ。

 店長が操り人形状態。


 というか死んでます。

 精神が破壊されて心が死んでます、とかじゃなくて物理的に。


『心臓がくり貫かれてるのかよ……』


 しかも鑑定しなければ分からない状態で動き回っている。

 動きがぎこちないということもない。

 会話も普通にできている。


 え? そんなのはあり得ない?

 普通はね。

 心臓をくり貫かれて生きているのと変わらない動きなどできるものじゃない。

 魔道具が心臓の機能を肩代わりしているからこそ可能なことだ。


 何故こんなことをするのか。

 胸糞の悪い話だが、想像はつく。


 心臓を奪い死亡を確定させる。

 この時点で人は自我を失う。

 それこそが狙いだ。

 記憶の封印などしなくても自由に脳内の情報を引き出せるようになるのでな。


 データがあれば本人らしく振る舞わせることなど容易いものだ。

 本人は状況を理解して動いている訳じゃない。

 単なる条件反射だ。


 高度な判断が要求される場合でも脳内のデータを用いて魔道具が処理する。

 高度な人工知能が搭載されているようなものだ。


 あと肉体維持のために心臓の代わりも務める。


『これのために胸にセットされてるんだな』


 行き倒れていたイオはそこまでされなかったので分からなかったことだ。

 自爆攻撃の時は記憶に制限をかけるだけで充分。

 暗殺対象がいる場所に送り込んでさえしまえば、それでいい。


 命令する必要もないのが大きいだろう。

 記憶を封じればボロも出ないしな。

 送り込んだ先で条件が整えばドカン。


『まあ、そのドカンができないようにしたからイオは助かった訳だが』


 生憎とこの店長はそうはいかない。

 心臓を失った直後なら再生させて蘇生の魔法をかければ復活可能だったが。


 生憎と喪失から時間が経ちすぎている。

 蘇生の魔法を使っても魂は戻って来ないだろう。

 完全に死んでいる訳だ。


 つくづく嫌な気分にさせてくれる魔道具だよ。

 人を命令に絶対服従する操り人形にするためだけの代物だからな。


 自我がないなら行動に疑問を持たない。

 すなわち抵抗されることもない。


 命令に反しない範囲でデータに基づいて処理を実行するだけだからな。

 本来であれば絶対に従わないような命令であろうと関係ない。

 マスターの命令は絶対に守られるって訳だ。


 人を人とも思わぬ嫌な合理性がある。

 ここまでとは正直思っていなかった。


『下種めっ』


 【多重思考】スキルとシノビマスター姿の自動人形のコンボで各店舗を調べていく。

 長男が管轄する地域の店舗の店長は全滅だった。


 すべて操り人形状態だ。

 そこに例外はない。

 長男もな。


 直接、乗り込んで鑑定してみたが結婚する前に死んでいた。


「……………」


 よくよく考えればモルトを憎悪している相手だ。

 その長男であるなら同じように憎まれても不思議はない。


 殺しても飽き足らず生ける屍として使役する。

 ただただ執念と言うほかはない。


 そこまで復讐の炎を燃やすのかと思う一方で違和感を感じた。

 本当にそこまでするだろうかと。


 モルトが憎いから、その家族も憎い。

 そこまでは分からなくもない。

 個人的には同意しかねるが、こればかりは本人の動機しだいだろう。


 だが、各店舗の店長まで激しい憎しみの対象になっているのは何か違うと感じるのだ。

 すべてが親類縁者というならともかく。

 そこで、ふと思った。


『機械みたいだな』


 であれば、この徹底ぶりも頷ける。

 感情をあえて無視して合理的に管理しようとする方がこの場合は自然だ。

 が、そのあえて無視するということが徹底できていない。


 モルトに対する殺意が非合理的だからだろう。

 別にイオを操り人形にして殺させてもいいのだ。


 素人を殺すことなどナイフ1本で事足りる。

 モルトはメタボ体型で運動不足気味だったしな。


 顔見知り程度なら護衛が近づけさせないかもしれないが、イオは腹心の部下だ。

 何かおかしいと思われても適当なウソで誤魔化しはきくだろう。

 誰も信用できないので直に伝えに来たとか。

 そうであるなら護衛さえも人払いさせることは可能だ。


 信頼する相手だからこそ、どこかに油断が生じるはずである。

 仮に護衛がいる状況だったとしても接近は難しくあるまい。

 護衛にも聞かせられない話があると言えば済むことだからな。


 顔をつきあわせるほどまでの距離に近づいてさえしまえば止めようがない。

 組み付いてしまえば逃げられないからな。

 あとは急所を滅多刺しにするだけだ。


 護衛がいてもお構いなしだろう。

 組み付いているから武器や魔法の類は使えない。

 そうなると引き剥がすしかないが、ベテラン冒険者でも振り回されるはずだ。


 心臓を置き換えているのはそのためでもある。

 心肺機能は作り物だからこそ生前とは比べ物にならない高スペックだ。


 おまけにリミッターを外された脳が体を壊すことを厭わず本当の全力を出す。

 火事場の馬鹿力を自在に使える訳だ。


『こうなるとナイフも不要だな』


 首の骨どころか背骨さえ容易く折ることができるからね。

 にもかかわらず魔道具の仕様を変えてでも爆殺を選んだ。

 そこに肉の一片さえも残さないという憎しみを感じる。


『ひょっとすると、魂さえもと思っているかもな』


 あの過剰すぎる威力はそれを感じさせるには充分だった。


読んでくれてありがとう。

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