1370 爆発するとどうなるか
モルトが正常な判断ができるというのなら一安心だ。
ローズが出張ってくれたお陰なんだろう。
『ドッキリさせるような出方をするのは勘弁してほしいがな』
「首謀者と一味を潰すにあたって出た損失は補填しよう」
獲物を強引に奪うようなものだし何かしらモルトの側にメリットがないとね。
損が出ないのであれば、充分なメリットと言えるのではないだろうか。
「いえっ、それには及びません」
モルトが毅然とした表情に戻る。
「ん?」
予想外の返事に思わず首を傾げてしまった。
すんなりいかない恐れもあることは想定していたがな。
想定していたのとは逆方向だったのだ。
「これは私の監督不行き届きから生じた不始末ですから」
『そういうことか』
「責任を取って痛みを受け入れると言うのだな?」
「はい」
モルトが覚悟を決めているなら俺がとやかく言うことではない。
それでも俺は敵を潰すと決めているから色々と口を出すことになるのだが。
損害の補填に関しては、どうにもできないだろう。
ああ見えてモルトは頑固そうだし。
そんなことで揉めるよりも話しておくべき大事なことがある。
「では次だ」
「はい」
モルトの表情が一瞬だけ呆気にとられたようになった。
が、すぐに引き締まったものになる。
「このイオという大番頭のことだ」
「身柄を返してはいただけないという話でしたが」
「その話だ」
「お伺いします」
モルトが恭しく一礼した。
「もし、この件が余所での出来事であったなら──」
ここまで言ったところでモルトの表情がサッと変わった。
驚愕から徐々に渋いものへと変わっていく。
「その様子だと察したようだな」
「暗殺……ですか」
「ああ、その通りだ」
モルトが重苦しい空気を纏い目を閉じた。
やがて、瞼を開くと──
「どういう方法なのかお伺いしてもよろしいでしょうか」
「構わんが、腹に力を込めておけよ」
「どういうことでしょうか?」
「胸糞の悪くなる方法だからだ」
「ぐっ」
モルトが表情を険しくさせて唸る。
「周囲への被害が著しいのですね」
まだ具体的な話をしていないにもかかわらず、ある程度のことは想像がついたようだ。
「正解、モルトの言う通りだ。
それにしても、よく分かったな」
「ヒガ陛下が仰っていましたからね」
ちょっと自負心の感じられる顔でモルトが言った。
「自国民へ被害が及んだかもしれないと」
そこから推理したか。
さすがは商人。
細かな話も聞き漏らさないって訳だ。
「具体的なことは何も分からないのですが」
照れ隠しのようにモルトは苦笑する。
すぐに笑みは引っ込めたがね。
「あえて言うなら、何らかの方法で毒物を拡散させるのではないかと」
胸糞が悪くなると聞いて想像したのがそれなんだろう。
『確かにな』
使う毒物によっては酷いものだし。
「毒ではない」
「では?」
「装着者の魔力を使って魔法が発動する」
「それは……」
モルトがハッと息をのんだ。
使われる魔法が並大抵のものではないと気付いたのだろう。
『勘もいい』
だからこそ商人として成功しているのだとは思うが。
ただ、そのせいで事業を大きくし過ぎた側面はありそうだ。
敵を内包してしまった訳だからな。
「大型の火球でしょうか」
魔法に対する知識はそれほどでもなさそうである。
それでも一般人よりは詳しそうだがね。
「ちょっと違うな」
「え?」
「大型で火属性という点は間違ってはいないが」
「……………」
モルトは無言で左右に目を泳がせるが、やがて頭を振った。
「分かりませんね。
メディナさんなら分かるかもしれませんが」
確かに夜明けの鐘の魔法使いであるメメならば分かるだろう。
とはいえ、この場にはいないのでは確認のしようもない。
「火属性の魔法を見たことは?」
「高威力のものは火球だけです。
前に護衛してもらった魔導師の冒険者が得意としている魔法でしたので」
使った相手が盗賊か魔物かは分からない。
が、見たことがあるなら想像もしやすいだろう。
「その魔導師は更に上があると言っていなかったか」
「そう言えば……」
モルトが目線を外して首を傾げる。
過去の記憶を掘り起こそうとしている訳だ。
「ああ!」
ポンと手を叩いたモルトの目が大きく見開かれている。
『サルベージは成功したみたいだな』
「確かに言ってました」
「自分の師匠は火球の上位呪文を研究していたと」
使える訳ではなかったようだ。
「それは爆炎球のことだな」
「そうです、それですっ!」
モルトはやや興奮した面持ちで頷いている。
「見たことはありませんが、爆発して火の粉が飛び散るそうで」
そこでモルトがハッと表情を変えた。
「それが使われているのですか?」
察しが良くて助かる。
とはいえ見たことがないのでは、威力なども想像がつかないだろう。
実例ってやつを見せることができればとは思った訳だ。
『ただ、ここで爆炎球を使う訳にはいかんよなぁ』
爆竹サイズまで小さくしても派手な音がするし。
医務室で何やってんだって話になる。
結界で音を封じることは出来るけどな。
ただ、その場合は別の問題が出てくる。
爆竹サイズだと「ショボい」って思われかねないし。
かといって安易に威力を上げる訳にもいかない。
ショボいと凄いの線引きが難しいのだ。
それを決めるのがモルトだからね。
他人の感覚ほど見極めが難しいものはないだろ?
それならド派手にぶちかました方が分かりやすい。
『別にリアルでなくても大丈夫だろ』
という結論に達した。
「ああ、こんな感じだ」
パチン
フィンガースナップで音を鳴らしてモルトの前にゴーレムを何体も配置した映像を流す。
困った時の動画頼みだ。
まあ、脳内シミュレートしたものを幻影魔法を使って流すだけなんだけど。
威力は行き倒れていた大番頭のイオが埋め込まれた魔道具爆弾と同等だ。
これを音無しで再生する。
ミュート状態だと迫力が大幅減になるとは思うがね。
それでも殺傷力は伝わるはず。
逆に、この方が刺激が弱くなる分だけ卒倒されたりはせずに済みそうだし。
「これはっ……」
幻影魔法が展開された途端にモルトが目を剥いた。
『しまった……』
そっちに食いつかれることを想定していなかった。
幻影魔法なんて西方じゃレア中のレアだってのをすっかり忘れてましたよ。
我ながら間抜けである。
「……………」
ここで説明を始めると時間がかかるのが目に見えている。
故に、あえて説明はしないことにした。
よく見ておけとばかりに指差した状態で強引に映像の再生を始めましたよ。
『百聞は一見にしかず、だ』
爆発の威力を知れば幻影魔法どころじゃなくなるだろうしな。
幻影の中のゴーレムたちは仮想の街中にいる。
建物は地魔法で仮設した感じの簡素なものだ。
ザ・箱って感じでリアリティは薄い。
だが、往来を石畳にしたことで街中感は出ていると思う。
ゴーレムを静止した状態で俯瞰した街を様々な角度から見せていく。
ドローンを使う感覚で遠景から弧を描くように中心部へと近づける。
そして赤く塗られたゴーレムが見えたところで流れるような動きを止めた。
ズームで拡大させて胸元に魔道具が填め込まれているのを映す。
「─────っ!」
モルトの表情がサッと変わった。
これが元凶であると気付いたようだ。
途端に背後を気にし始めたので、魔道具をチカチカと明滅させる。
「っ!!」
変化を察知して再び動画に釘付けになるモルト。
そこから周囲も含めて見渡せるようにズームアウトしていく。
「ドカンだ」
予告してから爆発させた。
「なっ!?」
赤いゴーレムは木っ端微塵に吹き飛んだ。
その真正面で向かい合っていたゴーレムもバラバラである。
爆炎球の爆心地にいた訳だからな。
これだけでも衝撃映像だろう。
が、被害はこれだけでは終わらない。
数メートル離れた位置にいたはずのゴーレムは爆風によって吹き飛ばされていた。
その上、体が部分的に燃えてすらいる有様だ。
付近の建物も損壊し、火がついていた。
木造なら派手に燃えていたはずである。
そして爆発の威力を何よりも物語るのは爆心地の地面だ。
石畳であるにもかかわらずクレーター状態で大きく凹んでいたからな。
間近であれば石畳に大小のヒビを確認できたことだろう。
だが、そこまで見せることはなかった。
「………………………………………」
モルトが完全に放心状態に陥っていたからだ。
「ハルトよ、刺激が強すぎたのではないか?」
「そんなこと言われたってなぁ」
どうしてこうなった、とは言わない。
予想されて然るべき状態だからな。
それでも途方に暮れる状態であることに違いはないのだが。
『さて、どうしたものか……』
読んでくれてありがとう。




