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1368 DOGEZAリターンズ

 モルトが凄まじい勢いで土下座体勢に入ってしまった。

 謝ってはきたが、どうしてそこまでするのかは不明だ。

 本人も詫びの言葉を口にしただけだからな。


『せめて理由を言ってからにしてくれー』


 内心で悲鳴を上げる。


 ガンフォールを見た。

 向こうも俺を見てくるが、俺と同じように困惑しているであろう顔だ。


「分かるか?」


「ワシに分かる訳もなかろう」


 望み薄であることを承知で聞いたので、この結果は仕方あるまい。

 モルトの人となりを少しは分かっているはずの俺が分からないのだ。

 会って間もないのに、分かろうはずがない。


 それでも万が一ということはあると密かに期待はしていたんだけどな。

 落胆してしまうのは無理からぬところだ。


「だよなぁ……」


 俺はモルトに聞かれないよう小さく嘆息した。

 あまり大きく溜め息をつくと刺激しかねないと思ったからだ。


 それほどにモルトの状態は酷い。

 土下座した状態でガクブルしてるしな。


 おまけに圧縮したのかと錯覚するほどギュッと縮んでしまっている。

 以前のままの体型なら贅肉のはみ出しが体の各部位で見られたことだろう。


「俺、少しでも殺気立ったか?」


「いいや」


 ガンフォールが即答で否定する。

 時間をおいてから「やっぱり……」とか「待てよ?」なんてこともない。


「じゃあ、怒り顔だったか?」


「いいや」


 これも否定された。

 【千両役者】は使っていなかったから、もしやと思ったがそれもなかった訳だ。


「別に謝らせるようなことを言った覚えはないんだが?」


「そうじゃな。

 ワシにもサッパリじゃ」


「マジかよぉ……」


 人生経験が豊富なガンフォールをして想像がつかないんじゃな。

 もはやお手上げである。


 それでも、この状況はどうにかしなければならない。

 対処療法ということになるが、そこは仕方ないだろう。


 問題は方針が決まっただけで中身の方が白紙なことだ。

 ノープラン、ノーアイデア。


『俺にどうしろと?』


 やはりお手上げである。


「どうすればいいと思う?」


「ワシに聞くな。

 お主が何とかせい」


「え~っ」


 どうしようもないと思ったから何かあればと縋る気持ちで聞いてみたのに。

 理由も分からない。

 対処法もない。


 こうまで突き放されるとは「そりゃないぜ、セニョール」の心境である。


 妙案はない。

 援護もない。

 孤立無援とくれば白旗しかあるまい。


 いや、白旗を揚げているのはモルトの方なんだろうけど。

 とにかく、こんなのは久々である。

 妖精組と出会った頃のことを思い出してしまったさ。


『あの時は寝てしまったからなぁ』


 で、起きてから晩飯を皆で食ったというフリーダムなことをした。

 時間をかけて慣れてもらった訳だ。

 意図してしたことではなかったんだけどな。


 単なる先延ばしだったと言った方が正しい。

 同じ手は使えない。


 ここで寝始めたらガンフォールがキレるのは目に見えている。

 仮にアレンジして別の方法で時間稼ぎをしたとしても同じだと思う。


 そもそもガンフォールが爆発する以前の問題だ。

 シードルや護衛の2人を別室で待たせているし。

 タイムリミットは割とシビアじゃなかろうか。


 故に──


「いつまでそうしているつもりだ?」


 そう声掛けしてみたのだが……

 動かざること山のごとし状態である。


 お手上げ状態だと両手を挙げてガンフォールを見た。

 ジト目で見返される。

 そこで終わらせるなということだろう。


『はいはい、分かりましたよ』


 返事くらいはしてもらわないと、どうしようもないんだが。

 エリーゼ様ならとっくの昔に諦めていることだろう。


 この状況を放置して、誰かを引っ張ってきて丸投げすると思う。

 される方は迷惑極まりないんだけどね。


 ただ、今の状況に追い込まれた身としてはエリーゼ様の方針を支持したくなる。


「ひとつ言っておくと──」


 ピクリとモルトが反応した。

 聞こえてはいるようだ。


「なんで謝られているか俺たちにはサッパリなんだが」


 やはり、そこをハッキリさせないとダメなようだ。


「お、恐れながら申し上げますっ」


 伏したままのモルトが切羽詰まった声を発している。


「いや、普通に喋ってくれるか?」


「そんなっ、恐れ多いっ!」


 思わず顔を上げたモルトだが、余裕のよの字も感じられない表情になっていた。


「「あー……」」


 ガンフォールと顔を見合わせる。

 もはや説明は不要なほどに察してしまった。

 要するに、俺が何者であるかを知って今までの態度が不敬だったとビビっている訳だ。


「なあ、モルト」


 可能な限り威圧感を感じさせないように話し掛ける。

 こういう時こそ【千両役者】の出番というものだ。

 フル活用して目一杯の芝居をする。


 喋る内容は本音だけだがね。


「はっ、はひっ」


 呼びかけただけでビクンと跳ね上がるとは重症だ。


「王族相手に商売したことくらいあるだろう」


「ございます……」


 一応は頭も回っているようなのは救いだと思うけれど。


「その時もこんな感じだったのか?」


「いいえっ」


「じゃあ、なんで俺の時はこうなるんだ?」


 普通に考えておかしいだろう。


「これは、その……」


 モルトが言い淀む。

 今までのイメージとは正反対と言ってもいいくらいだ。


「別に怒ってないから言ってみ」


 そこからモルトが喋り出すまでが、また一苦労。

 一言で語り尽くせないあれやこれやを経たのである。

 とりあえず、ぐだぐだは以下略だ。

 最終的にはガンフォールの一喝が炸裂したとだけ言っておこう。


『あー、疲れた』


 キレたガンフォールも雷を落とした後は俺と似たような心境のようだ。

 見るからにゲンナリした顔になっていたし。


 モルトはモルトで直立不動のガチガチ状態。

 それこそ返事は「サー! イエッサー!!」とか言いそうだ。


「なあ、ガンフォール」


「なんじゃ」


「これ、悪化してないか」


「土下座だけはどうにかなったじゃろう」


「そうだけどさぁ」


 悪化してるんじゃ意味がない。


「モルト、返事はできるか」


「はいっ」


 直立で固まってフリーズしてしまったかと思ったが、そうでもないようだ。

 とりあえず安堵の溜め息が出た。


「肩の力を抜いていいんだぞ」


 そう言ってもビシッとしたままだ。


「食事改善の講義の時を思い出してくれると助かるんだがな」


「そんな、恐れ多いですっ」


「別に気にしない。

 不敬だとか思ってないしな」


 そう言うと、モルトの表情が愕然としたものに変わった。

 俺の言葉が信じられないようだ。


『それこそ不敬なんじゃないのか?』


 俺はそんな風には思わないが、モルトの感覚だとそうなる気がするのだが。

 結局、まともに話ができるようになるまで更に時間がかかってしまった。


 面通ししてからだと小1時間はかかっている。

 説得に説得を重ねてようやくって感じだったからな。


「自分だってお忍びで色々歩き回ったりするだろう」


 この一言が決め手になったようだ。

 とはいえ、これを最初の頃に言ったのだとしても効果はなかったと思う。

 ある程度まで態度が軟化してきていたからこそだったからな。


「それはそうですが……」


 まだまだ硬さが残る状態ではあったが、ようやく普通に話せるようになった。

 気分はゲンナリどころかゲッソリである。


「とにかく、この男がモルトのところの幹部であるのは分かった」


 ようやく話を先に進められる。


「とはいえ先程も言ったように、このまま引き渡す訳にはいかない」


「それは伺いましたが、どういうことでしょうか?」


 モルトとしても引き下がれないのだろう。

 漠然とした話だけしか聞いていないからな。

 詳細を聞かぬままでは納得はしないだろう。

 記憶喪失なのは先に説明したものの魔道具のことはまだだったし。


 だから説明した。

 爆発する魔道具が仕掛けられていること。

 イオがモルトを間近に見れば爆発する状態だったこと。

 爆発はしないように処理済みではあるが除去した訳ではないこと。


「そういうことでしたか」


 普段の温厚な表情を完全に消し去ったモルトが歯噛みする。


「本当に申し訳ありません。

 何から何まで御迷惑をおかけしました」


 深々と頭を下げるモルトだが。

 俺に言わせれば「なに言ってんだ、コイツ?」の心境である。


「おいおい、どうして謝るんだ?

 モルトたちは歴とした被害者だろう」


「ですが、現に当商会の大番頭が──」


「その大番頭は敵に利用されただけだろう。

 俺は被害者に責任を取れなどと狭量なことを言うつもりはないぞ。

 本当に謝るべきは、こんな真似をしでかした加害者だと思わないか?」


 まあ、今から謝っても許しはしないがね。


「だとしても、やはり我が商会の関係者です」


 毅然とした態度でモルトは言い切った。

 責任を取らねばならないと思っているようだ。


「へえー、そいつのこと許すつもりなんだ」


 俺が目を細めたのを見たモルトがビクリと身を震わせた。


「いえ、決してそんなつもりはありませんが……」


「首にするという認識で良いか?」


「もちろんです」


「ならば、いい。

 俺に謝罪する必要はない」


「ですが……」


 使用者責任とでも言うつもりか?

 余所ではどうか知らんが、俺はそんなことで責任を取れと言うつもりはないぞ。


読んでくれてありがとう。

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