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1359 金クラスと紫ランク

 気が向いた時にしか商売をしない商人。

 真っ当な商人からすれば、そんな存在はいないとなるだろう。


 まあ、何事も例外はある。

 それが俺なのだ。


『というか、他にもいると思うんだが?』


 冒険者を主体にして、素材とかを商人として販売するようなタイプ。


「俺は冒険者でもあるからな。

 むしろ、そっちの方が実績がある」


 再びギルドカードを呈示した。


「紫ランク……」


 モルトがそう呟いたかと思うと目を見開ききって固まった。

 それだけではない。


「「っ!」」


 耳聡くモルトの呟きを拾った夜明けの鐘の2人が息をのんだ。

 そして横合いから覗き込む。


「マジモンだ……」


 ザックが唸るように言った。


「本当ね……」


 メメは声を震わせてさえいた。


「「初めて見た」」


 そう言った2人が互いに見つめ合っている。

 別に愛を語らい合うためにそうしているのではない。

 相棒の動揺っぷりを己が目で確認することが目的だ。


 もしも普段通りであるなら、きっとこれは夢だと断ずることができたであろう。

 冒険者ギルドの最高位で登録されている者を見る機会などそうそうあるものではない。


 だが、互いに興奮が入り交じる動揺した姿を見れば夢ではないとなる訳で。


「「初めて見た」」


 両名は呆然とした面持ちで再び同じことを言った。


『なんで2回も言うのかな』


 別に大事なことでもないと思うのだが。

 珍獣扱いされているような気になってきたんですが。


 それでも不安げな表情を残すのは幻覚を見たとでも思っているのだろうか。


『ここまで来ると特級のレアもの扱いだな』


 それも無理からぬことか。

 割と簡単に紫ランクになったから自覚はないけどな。


 よくよく考えてみると、身内でも俺だけなんだし。

 紫に次ぐ黒ランクは幾らでもいるんだが。


『こっちの方が異常事態だと思うんだけどなぁ』


 いずれにせよ、またしてもミズホの常識が西方の常識を突き抜けてしまったようだ。

 自重しているつもりでこれだから質が悪い。


 もう少し皆に加減させるなど今更だろう。

 今後も黒ランクは増殖していくと思うし。

 そのうち紫ランクに昇格する者も出てくるに違いない。


『もしかすると、内定くらいは出ているかもな』


 ゲールウエザー王国でのダンジョン騒動は充分に考慮されうる案件だ。

 ダニエルの爺さんあたりがギルドに推薦状を書いていたとしても不思議ではない。


 いや、書いているだろう。

 ダンジョンの緊急事態に対する高額の報酬は固辞したからな。

 他に何か報酬の代わりになるものをと考えるのは大国の宰相としては至極当然のこと。


 そして、ゲールウエザー王都の裏組織壊滅作戦の実績と合わせれば……


『確実に審査は通る、か』


 わざわざ脳内シミュレーションするまでもない。

 この上なく確実な未来予測と言える。

 未だ現状認識にあやふやさを抱えている目の前の2人とは正反対とも言えた。


 まあ、モルトの落ち着いた様子を見れば、ようやく夢ではなさそうだとなるようだが。

 それでも唖然とした様子を残すんだけどな。


「ザックさん、メメさん」


 モルトが苦笑しながら呼びかける。


「食事が運ばれてきましたよ」


 ハッとした2人が身を乗り出した状態をキャンセルした。

 ザックは姿勢を正しながらも気まずそうにそっぽを向き。

 メメは恥ずかしさに埋もれていくように赤面しつつ俯いてしまう。


「ハハハ、無理もありませんよ。

 色んな冒険者を雇ってきた私も紫ランクの冒険者とは縁がなかったですから」


「「ホッパーさんが!?」」


 夜明けの鐘の2人が驚きのあまり勢い込んでモルトの方を見た。

 見られた側のモルトは穏やかな笑みを崩さない。

 2人の急激な反応も読めていたのだろう。

 落ち着いてギョッとした顔の2人を見返している。


「それだけ少ないということでしょう」


 2人は「あっ」という顔をする。

 失念していたことに気付かされたといったところか。

 それを思い出すと今度は小刻みに何度も頷いた。


 テーブルに食事が並べられている最中でなければ、もっと激しい動きをしたことだろう。

 それだけ配慮する余裕が戻ったということだ。


「紫ランクなら納得ですね」


 モルトが苦笑しながら言った。


「商人ギルドの金クラスよりも審査が厳しいと聞きますし」


『そこまでレアじゃなくなるぞ。

 近いうちにガバッと増えそうだからな』


 つい、内心でツッコミを入れてしまっていた。

 こんなことは親しくなり始めている相手といえど言えるものではないのでね。


 ビルなら隠す必要もないとは思うが。

 そうなるであろうことを伝えれば──


「賢者様んとこなら誰が紫でも不思議じゃねえよ」


 とか言いそうである。


 それ以前に、ビルも紫ランクに推薦すれば審査が通りそうだ。

 そこまでの実績がないのがネックになるだろうけど。


 まあ、そこはギルドが考えるべきところだ。

 実績不足でそのまま不可判定しても不都合は何もないんだし。


 たぶん即決されることはないだろう。

 本当に紫ランク相当ならギルドにとってもメリットはあるのだし。


 そうなると、審査を通すためにあれこれ手を尽くす可能性もある。

 考えられるのはビルに指名依頼を受けさせることか。


 本当に紫ランクに相応しいか、その依頼を受けさせることで判断する。

 妥当なやり方だと思う。


 慌てて認定する必要はないのだし。

 ダメなら推薦を却下する理由がつけられる。


『あー、推薦状にそのあたりを書いておけばいいのか』


 間違いなくギルド側は乗ってくるはずだ。

 ノーリスクハイリターンだからな。


 ビルは大変かもしれないが。

 そのあたりは友人としてフォローはするさ。

 代わりに、うちの面々だけが目立つのを防いでくれればありがたい。


『今度、合ったら話を通しておくか』


 本人の承諾なくやらかすのは良くないからな。

 俺が考えを巡らせる一方で、モルトはちょっと慌てていた。

 自身の発言を聞いたメメが考え込み始めたせいだろう。


 ザックはザックで何故かドヤ顔をしているし。

 まあ、こちらはチラ見して放置することにしたようだ。


「メディナさん、誤解しないでくださいね」


 話し掛けられたメメがモルトの方を見た。

 軽く首を傾げている。

 何を誤解するのかと言いたげだ。


「商人ギルドの審査が緩い訳ではありませんよ」


 モルトが自分の発言をフォローした。

 しかしながら、メメが更に首を傾げてしまう。

 モルトの発言に矛盾を感じたからだろう。


 その様子を見たモルトが困った表情を浮かべた。

 これ以上の説明は余計に混乱を招きかねないと察したが故か。


 ある意味、千日手だ。

 時間をかければモルトもどうにか説明できるかもしれない。

 が、それを思いつくまでは時間がかかりそうだ。


『しょーがないなぁ』


「なーに、にらめっこしてるんだよ」


 2人に声を掛ける。


「いえ、そういう訳ではないのですが」


 苦笑するモルト。


「ちょっと混乱したもので……」


 申し訳なさそうに小さくペコンと頭を下げるメメ。


「そこまで深く考える必要はないぞ」


「「え?」」


『お、ハモった』


 相方でない相手とハモるのを見ると、ちょっと得した気分になるのは何故だろう。

 まあ、話をする上では何の得にもならないのだが。


「どういうことでしょうか?」


 モルトが聞いてきた。

 メメが小さく頷いている。

 その目が知りたいと語っていた。


「商人ギルドのクラスは何段階だ?」


 俺はモルトに問いで答えを返した。


「3段階ですね」


 答えながらも何かに気付いたようにハッとした表情を見せるモルト。

 だが、何も言わない。

 聞いてもこない。


 俺の説明を邪魔せずに最後まで聞こうというのだろう。

 己の中に湧いて出た説が正しいかどうかを確認するために待ちを選択した訳だ。


「そうだな」


 商人ギルドは金銀銅でしか分けられてない。

 それを前提として話を始めれば、そう難しいことにはならないのだ。

 モルトも少なからず動揺していたのかもな。


「では、冒険者のランクはどうだ?」


 俺はメメの方を見て問いかけた。


「えっ、私ですか?」


 不意を突かれたらしくメメは目を丸くしていた。

 自分に矛先が向けられることは想定外だったのだろう。


「ああ、そうだ。

 冒険者のことは冒険者に聞いた方がいいと思わないか?」


 それを聞いて、メメが「あ……」と短く声を漏らした。

 丸くしていた目から鱗が落ちたように思えるくらい納得の表情だ。


 そして考え込むことしばし……


「紫、黒、茶、青、水、黄、緑、赤、白の9段階でランク分けされています」


 わざわざ全部の色を順番に言いながら答えてくれた。

 模範中の模範解答だ。


 故に小さく拍手する。


「素晴らしい」


「いえ」


 メメは赤面しつつ照れ臭そうに俯いた。


『思った以上に初心なところがあるな』


 想定外だがスルーしておく。

 変にツッコミを入れると、はまり込んで抜け出すのに苦労させられそうだし。


 そう思っていたら──


「はい、はいっ」


 何故かザックが元気よく手を挙げてきた。


「何だよ?」


 言ってから、しまったと思う。

 話を引っかき回されそうな気がしたからだ。


 あまりのテンションの高さにスルーできなかったんだけどな。


読んでくれてありがとう。

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