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1346 初日の出の威力

 エリスが意外な弱点を露呈した。

 初日の出を見て心を奪われるとはね。


 あれこれと器用にそつなく何でもこなすエリスにしては意外なことだ。

 そう思ったのだが、話を聞けば納得した。


 王女であった頃はおいそれと外に出る訳にはいかず。

 王女でなくなった以降は生き抜くことが最優先で余裕がなく。

 単純に経験不足である。


 ただし、それで済ませてしまっていい問題ではない。

 今回は崖の上から落ちてしまったしな。


 そうならないよう事前に止めることもできたが、それはしなかった。

 本人に危機意識を持ってもらうためだ。

 どういう風に対処するかも見たかったというのもある。


 だから、ギリギリまで待って理力魔法を使ったのだ。

 マリアやクリスにとっては心臓によろしくなかったとは思うがね。


 そちらについては申し訳ないと思ったが、エリスの問題を軽く見る訳にはいかない。

 常に俺が一緒である訳ではないしな。


 まあ、今回は着地体勢を取ったので無様に落下することにはならなさそうだったけど。


 とはいえ合格点は出せない。

 落ちると気付いた瞬間に対処できていなかったのでね。


 ただ、失格でもない。

 学校の試験で言えば赤点にならない程度か。

 平均点レベルとは判定し難い。


 着地体勢を整えていたのだから渋い評価だと思われそうだがね。

 しかしながら、それくらいはできて当たり前なんだよな。

 現状でレベル427なんだし。


 これでも甘めに評価しているつもりである。

 落下中に叫んだのはいただけないからだ。

 そこまで考慮するなら赤点は確実だったさ。


 まあ、非常時なら大丈夫だろうってことでマイナスせずに評価したがね。


 当然のことだが、着地体勢になっていなければ赤点どころの話ではなかった。

 何倍しても赤点にすらならない。

 つまり0点以下ってことだ。


 そうならなかったのは俺にとってもエリスにとっても不幸中の幸いである。

 もし、そうであるなら緊急的に合宿を行うくらいはしなければならなかっただろう。

 我が国でもトップクラスにいる面子が動揺して完全に不覚を取るなんてアウトすぎる。


 緊急対策が必要な案件になるところだったが、新年早々にそんなことはしたくない。

 エリスも自分の失態で合宿と言われれば絶望的な気分になったと思う。

 現実はそうはならなかったがね。


 だが、現状でも放置できる状態ではない。

 経験不足は補わねばならないだろうからな。


『これは色々な景色を見せて慣れさせるしかないか』


 合宿よりは遥かにマシだとは思う。

 エリスの心理的な負担も重くはないはずだ。


 それなりに手間暇のかかることではあるから軽いとは言えないかもだが。

 一朝一夕で終わりはしないだろうし。


 こういうのは数値化できないから難しいところだ。

 ゲームなら新しい場所を何回訪れたから条件達成となるんだろうが。

 現実は甘くない。


 どれだけエリスの心を動かすような場所に訪れるかが重要である。

 その程度も本人の感覚だから推し量るのは容易ではないし。

 そう簡単に終われるものではない気がした。


 腰を据えてかからねばならないだろう。

 それに掛かり切りという訳にもいかないがね。


 ただ、都合がいいとも言える。


『カーラのリクエストにも合致するからな』


 まだ見ぬ地を目指して。

 こんな風に言うとハードボイルドな雰囲気を感じるかもしれない。


 え? 感じない?

 それなら別にいいんだけどさ。


 何にせよ観光で未訪問の国や地方へ行く。

 これが今年の目標のひとつだ。


 え? 他の目標はないのかだって?

 さあ? 何だろう。


 1年の計は元旦にありとは言うけど、他は白紙だ。

 そのあたりは臨機応変でいいんじゃないかとは思う。

 今までだって、そうしてきたんだし。


 誰だ? 行き当たりばったりなんて言うのは?

 その通りなんだけどさ。


 とにかく、エリスには今回のような失態がないように慣れてもらう必要がある。


「なら、これからはもっと色んなものを見ないとな」


「っ!?」


 一瞬、呆気にとられたエリスだったが……


「はいっ」


 いい笑顔で返事をしてくれた。


『うん、良きかな良きかな』


 これが見られただけでも初日の出詣でに来た甲斐があったと思う。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 元日の朝日は完全に姿を現した。


「むうっ、陽の光に圧力を感じるんじゃが」


 ガンフォールが唸りながら腰を落として身構えている。


「親父殿もですか?」


「自分もです」


 ハマーやボルトも同じものを感じているようだ。

 この2人などは両腕でガードするような構えさえ見せていた。


 ドワーフ組だけが、こんな風であるなら奇異の目を向けられていたことだろう。

 彼らにとって幸いなことに、同じような圧を感じている者たちは他にもいた。


「姉さん」


「姉様」


 クリスとマリアが戸惑いを見せながらエリスに助けを求めるような目を向けた。

 この2人もガンフォールと同じように身構えている。


 一方で視線を向けられたエリスはもう動揺しておらず、身構えてはいなかった。

 立ち直りの速さはピカイチと言っていいだろう。


 ただ、圧は感じているようで表情が硬い。


「何かしらね?」


 小首を傾げるエリス。

 感じるものの正体には気付けないようだ。


「姉さんにも分からないなんて」


「しょうがないですよ。

 他の人たちも理由が分からないみたいですし」


 マリアの言うように、困惑している面子はまだまだいた。


「お姉ちゃん、こんなの初めてだよ」


「そうね」


 リオンとレオーネのシャドウエルフ姉妹もそうだ。


「大丈夫?」


「うん、怖くはないかな。

 ちょっと強いかなって思うだけ」


「強い?」


「うん、私はそう思ったんだけど。

 お姉ちゃんは違う感じなのかな?」


「押し退けられそう、かしらね」


「あ、分かるー。

 私もそんな感じだよ」


 戸惑いは感じつつも恐れなどは抱いていないように見受けられた。

 この姉妹は、とすべきか。

 全員が不安を感じていない訳ではない。


「分かる?」


 アンネが緊張した面持ちで隣にいるベリーに聞いていた。


「感じるのは確かだけど……」


 ベリーは戸惑いの表情を見せながら言い淀むような返事しかできない。


「これが何なのかって言われるとってことよね?」


「うん、説明できない」


 念を押すようなアンネの問いに今度はベリーもハッキリと答えた。


「何なのか分かればいいんだけど」


「ちょっと無理じゃない?」


「やっぱり?」


「ええ、だって手掛かりさえないもの」


「そうよねぇ」


 ABコンビは2人して嘆息する。

 その表情は共にちょっと不安げだった。


「ゴロゴロゴロゴロ」


 圧倒されたらしくシーダがたじろいでいる。

 弱気になっているのは尻尾を見れば明らかだ。

 大型肉食獣にしか見えない上に厳つい顔をしてるからギャップが凄い。


 それを無視したとしても意外な反応だった。

 シーダがビビるとはまるで考えていなかったからな。


 それはそうだろう。

 恐怖を感じるようなものは何もないはずなんだから。


 あるのは目に見えないまま押し退けるような存在感。

 シーダはこれを敏感に感じ取って恐れを抱いたのかもしれない。


 ただし、守護者組でこんな感じなのはシーダだけである。


「心配いらないのだー」


 マリカがシーダを励ましていた。

 光の圧力の正体を知っていると言わんばかりだ。

 実際、そうなんだけど。


「そうじゃな、もっと堂々と陽の光を浴びるが良い」


 シヅカもシーダを促している。

 マリカと同じように余裕の表情であった。


「くー」


 承認、だそうですよ。

 ローズも余裕綽々である。

 元からこんな感じだから参考にはならないかもだけど。


「ゴロゴロ?」


 不思議そうに先輩たちに聞いているシーダ。

 先の励ましに怯えの色は薄くなっていたものの問わずにはいられなかったようだ。

 圧力の正体が何であるかに気付けないが故であろう。


「問題ないよー」


 マリカは元気よく答えた。


「うむ、嫌な感じはまったくせぬであろう?」


 シヅカがそれに同意しつつ問いかける。


「くう」


 うんって……

 シヅカが聞いてる相手はシーダなんですがね。


 まあ、それでもシーダが落ち着くのに一役買ったようではある。

 これらのやり取りを見て戸惑っていた面々も安堵していた。


「ハルトよ」


 ガンフォールが声を掛けてきた。

 何が言いたいかは見当がつく。


「あー、これはベリルママの仕業だろうな」


「やはりか」


「来られないから間接的に意思表示してるみたいだな」


「それは……」


 ガンフォールが渋い表情になった。


「正直、土下座しそうになったんじゃがな……」


「そこまでキツかったのか」


 それは予想外だった。


『まさかなぁ……』


 嫌な予感がしたので【天眼・遠見】を使ってみる。


「……………」


「なんじゃ? どうしたんじゃ?」


 急に黙り込んでしまった俺にガンフォールが問いかけてくる。


「砂浜が土下座で埋め尽くされてる」


「なんじゃと!?」


「あー、大広場とかもだ」


 ミズホシティ中が土下座状態になっていた。


『ここはまだマシだったんだな』


読んでくれてありがとう。

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