1340 これも懐メロか?
妖精組の歌がラストの部分に差し掛かった。
「「「「「群がる悪を皆殺しぃっ!
死にたい奴からあの世行き~」」」」」
幾度となく聞いてきたが……
『相変わらず物騒だよなぁ』
これで戦隊ヒーローの主題歌なんだから苦笑するしかない。
まあ、ヒーローとは言っても自称なんだけど。
それに悪の組織は存在しないし。
いたら大変だけどさ。
「「「「「──あの世行き~」」」」」
後追いで妖精組以外の面々まで歌っている。
『乗せられてるなぁ』
しかも、楽しそうだ。
カラオケ大会としては盛り上がって正しい姿なんだろうけど。
歌詞を別にすればの話だけど。
「「「「「我ら忍精戦隊いぃぃっヨウセイジャーッ!!」」」」」
最後の部分は特に力が入っていた。
後追いの面々まで加わった状態で一際盛り上がって歌いきっていたもんな。
『主題歌、何処まで浸透させてるんだよ』
だからこそ仮面ワイザーの歌があるとミズキが誤解したのかもしれないが。
歌と演奏が終わった。
余韻を残すような数拍の間があり……
割れんばかりの拍手が巻き起こる。
それに応えるように妖精組の一同はそろって一礼した。
そして、変身を解除。
変身したときとは違って整列状態から階段を使って順番に下りてくる。
拍手はなかなか鳴り止まず、妖精組は手を振りながら戻ってきた。
「やるわねー」
拍手しながらマイカが唸る。
「そうだね」
ミズキが苦笑しながら同意した。
「これ、コンサートとかだったらアンコールものの反響よ」
「取りをつとめた方が良かったんじゃないかしら」
2人が俺の方を見てきた。
どうするのかと言いたげな目をしている。
「そこはプライベートなカラオケ大会なんだからしょうがないだろ」
「さて、どうする? ハルさん」
トモさんまで収拾するように言ってきた。
まあ、言いたいことは分からないでもない。
今の状態で次に歌うと立候補するような強者が出てくるとは思えないもんな。
誰かいないかと問うこと自体が酷な状況だ。
あまり強く言うと強要しているも同然である。
そんなことでは、せっかく盛り上がった雰囲気を壊してしまいかねない。
『こういう時は……』
「どうもしないよ」
皆の興奮が少し落ち着くのを待った方がいい。
場が白けるなどと考えてしまって焦ると碌な結果に結びつかないだろう。
現状は過熱しすぎた状態なのだ。
余程のことでないと、これをずっと維持し続けるなどできない。
ならば維持できる程良いラインまで下がるのを待つのみである。
何もゼロになるまで下げる必要はないのだ。
「自動人形に適当な演奏をさせて、ほとぼりを冷ませばいい」
「公式行事じゃないからこそできる芸当だね」
トモさんも仕方ないと思っているようだ。
「でも、誰か無謀なチャレンジャーがいたら?」
マイカがそんなことを聞いてきた。
司会もいないユルユルの遊びだからこそ、あり得る話だ。
「別に止めたりはしないよ。
そのかわり尻ぬぐいもしない」
手助けがあるならってことで舞台に上がろうとする者が出てくるのは御免被る。
「それが、分かっているなら誰も来ないんじゃない?」
ミズキが言いながら苦笑する。
マイカは心配しすぎだと言いたいのかもな。
俺は必ずしもそうは言えないと思うがね。
場の空気が凍り付くことを恐れる気持ちは分かるし。
「だといいんだけど」
「それ以前の問題じゃないかな」
トモさんが周囲を見渡しながら言った。
釣られるようにして周りを見る。
「あー、なるほどね」
順番に舞台から下りてきた妖精組があちこちで皆に囲まれている。
「これもある意味、出待ちみたいなものかもな」
「プチ出待ち?」
俺の呟きに反応したミズキがそんなことを言いだした。
「微妙に違うような?」
「そんなような?」
マイカとトモさんが首を傾げながら答えた。
「なんにせよ、好都合だ。
誰も舞台を見ていない」
どうぞ皆さん、ごゆるりと御歓談ください状態である。
ヨウセイジャーたち本人たちの熱唱は、それだけ好評だったという訳だ。
「このまま待っていれば、ちょうどいい塩梅になるんじゃないか?」
元日本人組がそろって頷いた。
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その後、ヨウセイジャーを称賛する熱も徐々にトーンダウンしていった。
『頃合いだな』
俺は舞台に上がった。
「じゃあ、続いては俺が歌おう」
これで滑ったとしても、誰かが傷つくことはない。
そういうのを目の当たりにするくらいなら俺が犠牲になる方がよほどマシだ。
できれば冷たい視線で見ないでくれればありがたい。
豆腐メンタルだからね。
「歌ってもいいかな?」
「「「「「イエ─────ッ!」」」」」
まだまだノリノリの状態だ。
歌うのが少し怖くなる。
「そこは、いいともって言ってほしかったわねえ」
「我も同感だ」
マイカのコメントや、それに同意するトモさんの言葉に少し落ち着いたけど。
「さすがに分かるのは日本出身の私達だけじゃない?」
ミズキが苦笑しながらツッコミを入れていた。
更に少しドキドキのペースが落ちる。
「ん、分からない」
ノエルがそれに答えていたのを目の当たりにして、どうにか普通に喋れるようになった。
「それじゃあ、セールマールのアニソンを歌おうと思う」
動画を見慣れているだろうから抵抗はないだろうと思ったのだが……
「「「「「おおっ!」」」」」
思った以上に皆の食い付きが良かった。
「宇宙漂着ヴェイハムのエンディングだ」
「「「「「おお─────っ!」」」」」
皆、身を乗り出してきましたよ?
『そこまで?』
こっちが戸惑うっての。
「渋いところをついて来たわね」
「だって、ハルくんの好きなアニメじゃない」
「それは初耳だね」
「前にハル兄と一緒に見たから覚えてる」
元日本人組とノエルがこんなことを言ってるし。
実に歌いにくい。
だが、自動人形たちによる演奏が始まろうとしていた。
今になって「待った」はできようはずもない。
もちろん歌わせていただきましたよ。
テレビサイズの短いバージョンでね。
こんなことになっても大丈夫なように最初からそのつもりだったのだ。
ヨウセイジャーの主題歌とは曲調が違うから短い方が色々と都合が良いとも言える。
ササッと歌い終わりましたよ。
その後は元日本人組が続いたんだけど……
「私も古いアニメの主題歌にするわね」
マイカがそんなことを言って自動人形に曲のリクエストを出した。
やがて伴奏が始まる。
『これは……』
イントロを聞いて大学時代を思い出した。
マイカに勧められて見せてもらった古いアニメの主題歌だ。
未来にタイムスリップした若者が警察にスカウトされるという変わった設定だった。
これが呼び水となったらしい。
「マイカちゃんが、それならっ」
ミズキが対抗意識を燃やす。
歌い終わったマイカと入れ替わる。
「私はもっと古いアニメの曲で行きまーす」
そう言うと、周りの皆がワッと盛り上がった。
「そこは「行きまぁす!」だとなお良かったんだけどなぁ」
トモさんが物真似を入れてきたが。
「たぶん、そのアニメじゃないよ」
「あれ?」
「タイムスリップの部分に反応してたから」
「おや、そうなんだ」
俺が予想した通り、カブトムシ型のメカで時空を超える作品だった。
元日本人だった俺たちが生まれてすらいない頃に放映されていたアニメなんだけど。
『よく知ってたな』
聞けば、再放送で見たらしい。
シリーズ化するほど人気が出たそうだ。
放映当時、悪役の3人組の方が主人公より人気があったという。
俺は大学時代にマイカたちに強制的に見せられるまで、この第1作は知らなかったが。
しばらくは3人だけの鑑賞会が続いた。
シリーズも含めてあれこれ見ることになったからだ。
『確かに面白かったけどさ』
ミズキが第1作の主題歌を歌い始めた。
曲調がギャグ作品だなと思わせるノンビリ感がある。
落ち着いて聴いていられる歌だった。
続いてトモさんが舞台へと向かう。
選んだ曲は俗にファーストと呼ばれるグランダム第1作の主題歌である。
ある意味、物真似が空振りになったことで火がついてしまったらしい。
そのせいで合間のたびに物真似の台詞を入れまくってたけど。
最後の方は歌ってるんだか物真似してるんだか分からない状態になっていたさ。
『確実に狙ってやってたよな』
トモさんが歌い終わると、他の皆も適当に決めた順番で歌い始めた。
俺たちのようにアニソン限定ということはない。
演歌だったりポップスだったり。
ジャズ系の英語の歌もあった。
そして一通り順番が回った後は──
「1周じゃ終わらないよな」
そう呼びかけた。
「「「「「イエ─────ッ!!」」」」」
ノリノリの皆の反響が凄い。
強制的に終わらせようものなら大ブーイングだろう。
「じゃあ、順番は1週目と同じでな」
「「「「「おーっ!」」」」」
「組み合わせとか替えたいなら好きにしていいぞ」
「「「「「はーい!」」」」」
さて、何周することになるやらだ。
読んでくれてありがとう。




