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1339 こっちはこっちで歌以外でも盛り上がったり

 城内のプライベートなカラオケ大会の準備が完了した。

 公式な方の中継放送を見ながらだったから思った以上に遅くなったけどね。

 今から始めると、終わる頃には年明け寸前になっているかもしれない。


「それじゃあ、こっちもカラオケ大会といこうか」


「「「「「おーっ!」」」」」


 始まる前から皆はノリノリだ。

 公式の方を大型モニターで見続けて喝采を送ったりしていただけはある。

 ウォーミングアップ的に前座で余興などをする必要もなさそうだ。


 俺としては楽だし正直ありがたい。

 思いがけない効果であった。

 今はもう映してないけどね。


 こっちに集中してほしいからさ。

 参加してるはずが上の空なんて勘弁願いたいところだ。


 故に公式の方が気になるなら事前にそちらへ向かうようにと言った。

 誰も退出する者はいなかったけど。


 後日、放送されるからだろう。

 国民全員がカラオケ大会の観客だったりテレビで視聴している訳ではないし。

 そのあたりも配慮されているようなので、ありがたいことである。


 それを踏まえても全員が残ってくれたことは嬉しい。

 去年の参加者だけでなく今年からの参加者も楽しみにしてくれていたってことだからな。


「それじゃあトップバッターは誰から行く?」


 このあたりはプライベートな大会らしい緩さと言えるだろう。

 順番なんてその場で決まる。


「「「「「はいっ!!」」」」」


 一斉に手が挙がった。


「あー、こりゃジャンケンだな」


 そう思ったのだが……


「大丈夫です、陛下」


 そう言ってきたのはキースであった。


「え? どゆこと?」


「行くぞっ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 キースの掛け声に挙手していた一同が応じる。

 よく見れば、それは妖精組の面々だけだった。


「あー、妖精組全員で歌うのか」


 思わず苦笑いしてしまった。

 やたらと広い仮設ステージを用意するなと思っていたのだ。


 が、こういう目論見があったとはね。

 しかしながら、驚くには早かった。


「「「「「とうっ」」」」」


 一斉にジャンプ。


「「「「「忍精チェンジッ!」」」」」


 いきなり変身である。


「ふぁっ!?」


『このタイミングでそれかっ』


 もちろん着地と同時にポージングも決めていたさ。


「カラオケ大会なんだけど?」


 ヒーローのアクションショーとかじゃないんだし。


『遊園地で君もヨウセイジャーと握手ってノリじゃないか、これ』


 歌い終わったら、そこまでやりかねない。

 あるいはサイン会とか。


 そんな風に思ったのだが、誰も俺の疑問には答えてくれない。

 それもそのはず……


「いきなりとは、やってくれるぜ!」


「いいぞーっ」


「待ってました!」


「格好いいっ」


「ヨウセイジャー!」


 なんて声援が送られていたからな。

 主に古参組が主導する形でだけど。


 やがて舞台脇の方で自動人形たちが演奏を始める。


「「「「「遠い彼方の世界から~」」」」」


 妖精組がヨウセイジャーに変身したままで歌い出した。

 全員で合唱状態だ。

 伴奏は自動人形に任せっきりである。


『カラオケ大会の初っ端で変身して歌い出すとか』


 事前に画策していたのは明々白々。

 見事な隠し球と言えよう。

 少なくとも俺は予見できなかった。


「やるわね、特撮ショーのノリを取り入れるとは思わなかったわ」


 戦隊ものの特撮を好むマイカが近づいてきて言った。

 御機嫌なのは声の張りでも分かる。


「ハルくんは変身しないの?」


 ミズキが聞いてきた。


「俺はヨウセイジャーの変身セットは持ってないよ」


 今更、飛び入りもできないしな。


「知ってるよ」


 要するに仮面ワイザーにならないのかって言いたいのだろう。


 まあ、最初から分かってはいたけどね。

 ミズキはライダー派だし。


「先に言っておく。

 仮面ワイザーにはならないぞ」


「えー」


 ミズキが不満そうに唇を尖らせる。


「そんな不服そうにされてもな。

 二番煎じもいいとこじゃないか」


 思いつきでパフォーマンスを真似するって微妙だと思うんだよな。

 最初から予定されていて演出とかも決まっているなら話は別だけど。


 そういう凝った趣向は何も考えていなかったし。

 妖精組は独自で考えたものをサプライズ的に発表した訳で。


「それに人のアイデアを乗っ取るみたいで気が引けるし」


「それを言われると弱いなぁ」


 とか言いつつも期待感をにじませた目で見てくる。

 ミズキにしては珍しい。


「変身しなくてもいいから」


「仮面ワイザーの主題歌を歌えと?」


「うんっ」


「そんなものはないぞ」


「えっ!?」


 心底、驚いたように目を見開くミズキ。

 こっちの方が驚きだ。


「どうして仮面ワイザーの主題歌があると思うんだよ?」


 今まで一度だって誰かに歌われたことなんてないのに。


「だってヨウセイジャーの歌があるじゃない」


「そういう理屈か」


「うん」


 思わず嘆息が漏れた。

 完全に誤解されている。

 ミズキは変身セットと一緒に俺が歌も用意したと思い込んでしまっているようだ。


「あれは俺が作詞作曲した訳ではないぞ」


「そうなの!?」


 意外だと言わんばかりに驚くミズキ。

 ちょっと固まってしまったほどだ。


 すかさずトモさんが──


「しょうなのぉ?」


 と荻久保清太郎さんの物真似を入れてきた。


『条件反射なんだろうなぁ』


 が、それは悪手である。


 ギンッ!


 そんな音が聞こえてきそうな勢いでミズキが振り返ってトモさんを睨んだ。

 振り返ったミズキの背中から怒気が漏れ出ていた。


「うひぃっ」


 あまりの剣幕に変な声を出してトモさんが震え上がる。


「おーい、怒ると周囲がビックリしちゃうぞ」


 ミズキを注意した。

 実際に俺たちの近くにいた何人かは何事かと驚いていた。


『ダメだよ、トモさん。

 ミズキがライダー系の話をしているときに茶化しちゃ』


 トモさんには念話で注意しておく。

 言っとかないと地雷原に自ら踏み込みかねないしな。


 ビビり具合を見る限り、これ以上は茶化すような真似はできないと思うけどさ。


『おおう、了解したよ』


 見た目に反することなく、ちょっとビビった感じの念話が返ってきた。

 これなら大丈夫そうか。


 トモさんを威嚇したミズキが、こちらに向き直る。

 獰猛な表情は綺麗サッパリ消え去っていた。


「それじゃあ、誰がヨウセイジャーの歌を?」


 すぐに本題に戻ってくる。


『切り替え、早っ』


 唖然とさせられたさ。

 まあ、疑問に答えない訳にはいかない。


「妖精組だけど」


「そうなの?」


「しょう──」


 ゴオッ!


 ミズキの背後からオーラが一気に吹き出したかのように見えた。

 そういう事実はない。

 殺気立ってもいないしな。


 ミズキは振り返りもしなければ表情を変えることもしていない。

 にもかかわらず──


「ひぃっ」


 トモさんをビビらせる何かしらの重圧を浴びせていた。

 顔で笑って心で怒るとでも言えばいいのだろうか。


 それにしても、トモさんである。


『懲りないねえ』


 釘を刺したつもりが、糠に釘だったようだ。


『いや、ついね』


 ハッハッハと笑い出しそうなテンションで念話を返してくるトモさん。

 随分と余裕があるものだ。

 その割に表情は引きつっているけど。


「妖精組が作詞作曲したなんて知らなかったよ」


 ミズキが意外そうに呟いた。

 言ってないからね。


 わざわざ説明することじゃないし、今まで聞かれなかったし。


「変身セットを渡した時に嬉しさのあまりって感じだったかな」


「あっ、それ分かるー」


 分かるらしい。


「だったら私も頑張って作詞作曲するよ」


「そうか、頑張って作って歌ってくれ」


「どうして、そんなこと言うかなぁ」


 ぷうっと頬を膨らませるミズキ。


「妖精組も作詞作曲して自分たちで楽しそうに歌ってるじゃないか」


 楽しく歌うのが何よりも肝要である。

 聞く側に伝わるものが違うからな。

 それはミズキにも分かったのだろう。


「うっ」


 明らかにたじろいでいた。


「それと同じで歌を作った者が歌うべきじゃないか?」


 歌詞に込めた熱意を俺が伝えられるとも思えないしな。


「そっ、それは……」


「俺が歌うとミズキの半分ほども熱意が伝わらんだろうなぁ」


「ううっ」


 ミズキが撃沈した。


読んでくれてありがとう。

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