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1336 そして暮れゆく

 昼寝という名の仮眠は奥さんたちとの雑魚寝になった。


 いや、厳密には違うな。

 奥さんは全員そろっていたが、そこにトモさん夫婦も加わったからだ。


「どうしてこうなった!?」


 なんてトモさんが言っていた。

 気恥ずかしくなるようだ。


 女子ばっかりだからだろう。

 そんな中で横になれというのはハードルが高いみたい。


 雑魚寝でなければ問題ないというか、慣れたと前に本人が言っていたけれど。

 今日の状況はトモさんには試練となっているらしい。


『俺も他の女の子たちに囲まれて雑魚寝することになったら、こんな風になるのかね』


 ちょっと想像してみることにした。


『……………』


 奥さんでない女の子のことを考えるって何か居心地が悪いのな。

 罪悪感すらある。

 悪いことをしているつもりはないんだが。


『……………』


 なかなか女の子が集まらない。

 女の子の集団を空想してみたが、どうにもピンと来ないのだ。

 具体的に考えないとシミュレーションできないしな。


 現にこの状態で雑魚寝を想像しても、さしてドキドキはしない。

 のっぺらぼうな感じで現実味が薄いせいか。


 まあ、それでも居心地は悪いけどね。

 それは最初からだ。


『やはり顔見知りでないとダメか』


 となると、ルディア様とか。


『……………』


 別の意味で落ち着かない。

 やたら緊張するんじゃなかろうか。


 続いてリオス様、フェム様、アフさんで想像してみる。

 あんまりドキドキしないのは3人だけのせいか。


 囲まれてる感が薄い。

 それに友達感覚があるからだと思う。


 ちょっと増やしてみよう。

 他の知り合いの女の子というと、まず思い浮かぶのは一部の妖精組だ。

 あとは人魚組とか人竜組だな。


 他にも新規国民組がいるが、とりあえずそちらは保留にしておく。


『……うん、これはプレッシャーだ』


 単にいるだけじゃなくて密集状態だとね。

 右を見ても左を見ても知ってる女の子たちばかり。

 その場に留まるだけでも長湯したかのように逆上せてクラクラしそうだ。


 これで雑魚寝しろと言われたら逃げ出したくなるだろう。

 トモさんの気持ちがよく分かった。


 せめて援護してあげられればと思ったさ。

 男は俺だけだし。

 近くにいるだけでも心強くはあるかと思ったのだが……


『無理っぽいなぁ』


 今日はノエルがベッタリだから隣は先約済みみたいなものだ。

 反対側の隣は争奪戦になったくらいだから、トモさんに割り込む余地はない。

 俺の近くに招き寄せて女子率を少しでも下げようという作戦は脆くも崩れさった。


 こうなると、もう俺にはどうしようもない。

 今更、お昼寝できませんは通用しないからな。

 引っ張り込んだのはマイカとミズキだが、トモさんの方が乗り気な感じだったし。


「ねー、これからハルと仮眠を取るんだけどさー」


「トモくんとフェルトちゃんも一緒にどうかな?」


「行く行くー」


 こんな風に軽い調子で応じていたもんな。

 隣にいたフェルトの了解も得ずに決めてたし。

 フェルトの方を見れば、しょうがないと顔に書いた状態で苦笑していた。


 で、俺の部屋に来てから気付いたのだ。

 俺の奥さんが勢揃いしていることに。


 想定していなかったのはトモさんのミスである。


 結局、トモさんは休むつもりが余計に疲れる羽目になってしまった。

 思いつきで行動すると碌なことがないってことだな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 仮眠を取って充分に休んだ。

 約1名を除いてだけど……


 すっかり日も暮れてしまったが城下は賑やかな様子を見せていた。

 城の窓からミズホシティの街中を見るだけでも分かる。


 明かりが煌々と輝いているだけではない。

 喧噪が聞こえてきそうな人の賑わいがあるのだ。


 屋台で買い物をする者。

 別の屋台で買い食いをする者。

 その中には年越しそばを啜る者も多い。


 そういうのを見ていると日本文化が浸透しているという実感があるな。

 なにより、誰も彼も笑顔なのがいい。

 こっちまで自然と笑みが浮かんでしまう。


「今年は凄いな」


「去年とは大違いですね」


 俺と同じように窓の外を見ていたカーラが言った。


「城下に賑わいなどなかったからな。

 国民が増えたことが実感できるというものよ」


 ツバキも感慨深そうだ。


「でも、お城でワイワイやった」


 ノエルの言葉に頷く。

 お昼寝が終わると服の裾は解放されたが、今もベッタリさんである。


 ふと気配を感じて振り返ると割烹着姿のボルトがやって来た。

 微かに出汁の香りも漂ってくる。

 仕込みをしていたときに割烹着に移ったのだろう。


「陛下、準備できました」


 今年の年越しそばの調理担当の1人である。

 何日か前に昨年の話をしていたら何人かが立候補したんだよな。

 最初に手を挙げた面子が程良い人数だったので、そのまま任せた訳だ。


「おう、サンキュー」


 廊下から食堂へと向かう。

 中に入ると行列ができていた。


「ほう、今年は趣が違うな」


 前の方ではトレーを渡されている。


「ですね」


 カーラは興味深げに行列の先頭の方を見ている。


 先頭にいるのはベルとナタリーの婆孫コンビだ。

 トレーを受け取ったベルが少し横に移動して割烹着姿のブルースの前で一言二言交わす。

 すると小鉢がトレーに乗せられた。


『給仕係の前に並んで好きなものを頼む訳か』


「旦那よ、小鉢は何種類かあるようだぞ」


 ツバキがブルースの背後にある棚付きカートを指差している。

 確かに小鉢の色と柄で中身が分けられているようだ。


「半セルフ式のようだな」


 学校給食のようでちょっと違う。

 セルフ式の食堂に近いか。

 あれは御飯と味噌汁だけ給仕係がいる形だが、こちらはそうではない。


 合致するのは社員食堂とかだろうか。

 生憎と戌亥市役所の本庁には職員用の食堂はなかったから分からない。

 ドラマとかで何度か見たことがある程度だ。


「こういう形も悪くないのではないか」


 ツバキは気に入ったのか満足そうに微笑んでいる。


「そうだな」


「ですね」


「私もそう思う」


 俺が返事をするとカーラやノエルも同意した。

 それだけではない。


「これなら酢の物の悪夢は繰り返さずに済む」


 ノエルがそんなことを言い出した。


『わざとだな』


 どう考えても周囲に聞こえるように言っている。

 というか、レイナに聞かせるためなのは間違いないだろう。

 列の最後方のあたりにいるから、聞こえないはずがないのだ。


 レイナの猫耳がピクピクしてるし。

 月影の他のメンバーの耳も同様の状態だった。

 そうならなかったのはラミーナではないルーリアくらいのものだろう。


 まあ、ルーリアにしても肩がピクリと反応していたけどね。

 ノエルの言葉を耳にして昨年のことを思い出したのは明白だ。

 アニスなんてレイナの目の前で──


「ぶほっ」


 とか吹き出しているしな。

 その前に並んでいた双子たちもプルプルと肩を振るわせているし。


「笑っちゃ悪いよぉ」


「うん、分かってる」


 常人には聞こえないレベルで声を潜ませているメリーとリリー。

 だけど、ラミーナ相手じゃ聞こえてしまうんだよな。


 これは双子が申し訳ないと思っていることを見せるためのアピールだ。

 じかに謝ると余計に傷つけそうだからね。


 それを見たレイナが嘆息して肩を落とした。

 そして渋い顔で振り返る。

 だが、その表情を見せたのは束の間のことであった。


「今年は大丈夫よ」


 不敵な笑みを向けてきたのだ。

 どうやら懲りずに酢の物へチャレンジするらしい。

 せっかく半セルフ式で選べるようになってるのにね。


 半セルフ式は俺の話を聞いた給仕係たちが知恵を絞った結果なんだと思う。


 欠点があるとすれば、レイナのようなチャレンジャーを止める手立てがないことだ。

 ブルースはレイナが酢の物に咽せた一件を知らんしな。


 このままレイナがブルースの前に行っても注意喚起されることさえないだろう。

 されたところで反発するだけだと思うがな。


 順番が回ってきた時にレイナの気が変わっていればいいんだけど。


 過去の失敗を克服すべく挑戦すること自体は良いことだ。

 ただ、何も今日でなくたっていいだろうにとも思う。


 城住まいの全員がそろっているし。

 何より皆で年越しを迎えようって日にやんなくたっていいじゃないか。


 そう言いたいのだけれど、レイナにしてみれば今日だからこそなんだろう。

 1年前の今日、失敗した訳だし。


『後はなるようになれだな』


 現実逃避で列の先頭を見た。

 ベルは既に先頭ではない。

 列から離れ、席へと向かっている。


 ナタリーが続いて列から離脱しようとしていた。

 現在の先頭は神官ちゃんことシーニュだ。


 タイミング的にはブルースの隣に立つハマーに注文を告げた後のようである。

 割烹着姿のハマーが何か四角いものを用意していた。


「へえ、そう来たか」


 そしてトレーにはちょっと予想しなかったものが載せられた。

 竹すが敷かれた角形のせいろだ。

 外は黒漆、内は朱漆で仕上げられていて蒸すためのものではないと一目で分かる。

 その中には盛りつけられていたのは、もちろんそばだ。


『盛りそばとはな』


 そこまで自由な選択ができるとは思っていなかった。

 続いて横に移動する神官ちゃん。


 待ち構えていたのはガンフォールだ。

 もちろん割烹着を着ている。

 三角巾まで被っているが似合っていない。


『せめてブルースみたいに帽子にすりゃあいいのに』


 ハマーといいガンフォールといい、ミスマッチすぎて浮いている。

 女装趣味などなかったはずなんだが。

 噴飯物と言っていいだろう。

 何とか我慢できたがね。


読んでくれてありがとう。

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