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1333 炊き出しが終わって

 炊き出しは大盛況で終わった。

 最古参のメンバーで行った大広場以外でも大勢の国民たちが参加してくれたからだ。


『特定の会場に参加希望者が集中しないようにチケット式にして正解だったな』


 でないと何処かの会場がパンクしていてもおかしくなかった。

 いや、確実にそうなっていただろう。


 紙のチケットなんて配布も確認も時間がかかるのでスマホを用いたのも良かった。

 皆が各会場でスムーズに入場できたのはデータ式のチケットのお陰だ。


 ただ、ひとつだけ問題が発生した。

 おかわりを見越して余分に豚汁を作ったお陰で食べ過ぎる国民が続出したのだ。

 そこかしこで腹をパンパンに膨らませて引っ繰り返る者まで出る始末であった。


 しょうがないので消化魔法ディジェストをかけて回ったさ。

 古参組の皆にも手伝ってもらってね。

 魔力の消費は問題なかったんだけど時間がかかりそうだったのだ。


 あちこちの会場で引っ繰り返る面々がいたし。

 その頭数も結構いた。


『妖精組に出会った時のことを思い出すなぁ』


 あの時にディジェストを作り上げたのだ。

 食べ過ぎでお腹がポンポコな感じになった妖精たちを見かねてどうにかしようとした。


 割と使い勝手がいいので、その後も使う機会はそこそこあったが。

 印象に残っているのは最初の時だけだな。


 それ以後もちょくちょく使っているせいか当たり前になってしまったからだろうか。

 だからといって頻繁に使っている訳ではないのだけど。


 とにかくディジェストを手分けしてかけ終われば、ようやく自分たちの食事だ。


「ちょっと遅い朝食どころではないな」


 苦笑せざるを得ない。

 既に昼過ぎだからな。


 それでも配膳に回った面々に疲れの色は見られなかった。

 古参の国民は軒並みステータスが高いからな。

 徹夜続きならば少しは違ってくるとは思うがね。


 万全の状態ならどうということはない。

 何か訴えてくる者がいるとするなら、それは小腹が空いた程度のことだろう。


「旦那よ、こちらは終わったぞ」


「私の方もです」


 ツバキがカーラを伴ってやって来た。


「おお、ありがとう。

 こっちもノエルが頑張ってくれたから、もう終わってる」


「ハル兄が補助してくれたから」


「……………」


 バレバレだったようだ。

 最初は俺たちの受け持ち分をノエルが1人で頑張ると言ってたんだけど。

 膨満感を訴える者が思った以上に多かったのでサポートしていたのだ。


 1人ずつディジェストをかけていたのでは遅くなる。

 そんな訳で複数展開することになったのだが……


 食べ過ぎたといっても個人差は大きい。

 満腹を少し超える程度と、風船のように腹を膨らませた状態ではね。


 これを把握し調整しながらの術式制御は難しいなんてもんじゃない。

 一度に展開させる術式の数が増えれば増えるほど難易度が跳ね上がっていく。

 それに応じてロスする魔力も多くなるしな。


 故に、そのあたりをカバーすべくあれこれとフォローした。


 魔力を譲渡したりはしなかったけどね。

 そこまでするとあからさますぎるから魔力関係は漏出の防止にとどめておいたのだ。


 あとは疲労軽減の治癒魔法とか。

 大きな雑音などをカットして集中を切らさないようにしたり。

 念のためにバフも薄めにかけておいた。


『さすがにバレるか』


 だが、俺は術式への直接介入はしていない。

 メインはノエルの自力だ。

 実際、大したものだと思う。


 なんて感心していたら特級スキルを二つもゲットしていた。

 【並列思考】と【高速思考】だ。

 熟練度は【高速思考】が初期値の10だったが【並列思考】は8割を超えている。


 特級スキルって簡単には熟練度を上げられないのだが。

 それが職能系のスキルならベテランの領域にまで一気に高めるんだもんな。

 ましてやスキルゲットと同時になんて普通じゃ考えられない。


 どれだけノエルが頑張ったのか推し量るまでもなかったさ。

 だというのにツバキやカーラは生暖かい視線を送ってくる。


『頑張ったのはノエルなの!』


 俺じゃないのだ。


「やはり陛下は甘いですなぁ」


 とか言いながらキースが近づいてきた。

 コイツも視線は生暖かい。


 厳ついハスキー顔にその目は似合っていない。

 言っちゃ悪いが怖い上に薄気味悪さまで加わっている。


 幼子が見れば泣き出すのは必至というもの。

 付き合いが長いツバキやカーラはそれを見て頬を引きつらせ肩を振るわせていた。


『あれは脇腹を突けば吹き出すな』


 まあ、そんな真似はしないがね。

 あとで反撃されそうだし。


 キースの隣にいるハリーは平常運転だ。

 視線が生暖かいということもない。

 正直、ホッとした。


 カオスな雰囲気になりそうだったし。


「俺は身内には甘いんだ」


 開き直るが、今更である。

 皆もそういう顔で頷いているし。


「「「終わったっすよー」」」


 黒猫3兄弟がやって来た。


「こっちもニャ~」


「皆、ツラそうだったの」


「食べ過ぎは良くないね」


「「でも、ディジェスト使うとスーって感じで表情が和らいだよ」」


 子供組も帰ってきて報告してくる。


「皆、御苦労。

 遅くなって済まなかった」


 一斉に頭を振る。


「なんの、やりたいと言い出したのは我らだ」


 ツバキが微笑みながら頭を振った。


「そうです」


 カーラも同意している。


「皆が幸せそうで良かったです」


 そう言ったキースが生暖かい視線から一転して何故か涙ぐんでいる。

 噛みしめるようにしてグッと涙を堪えちゃいるがね。


「くーくぅくくっくーくぅくっ」


 こういう時は泣いて良いのだ、とか言いながら登場するローズ。

 キースはその言葉に背中を押されてしまったらしく落涙した。

 声もなく仁王立ちでひたすらに涙を流す男泣きスタイルでな。


『感激屋だなぁ』


 苦笑を禁じ得ない。

 元奴隷たちも今の生活に慣れてきたとはいえ、今もなお感謝してくれる。

 キースも見慣れているはずなんだけどな。


 まあ、今日は特に強く感じられたというのはあるかもだけど。

 ちょっとした差なんだろうけど心を揺さぶられたようだ。

 一向に泣き止む気配がなかった。


 ただ、さすがに何時までも泣いていられないと思ったのだろう。

 少し上を向いて目を閉じた。


 それでも涙は止まらない。

 むしろ、感極まった感じに見える。

 先程までハラハラと泣く感じだったのに、今やダバダバと言った方が良いかもしれない。


『あ、いかん』


 いざという時に備えて魔法をスタンバイする。

 キースの口が薄く開き始めた。


『来るぞ!』


 身構えた瞬間、キースの肩にポンと手を置く者がいた。

 ハリーである。


「泣くのはいいが、遠吠えはしないようにな」


 グッと息が詰まったように固まるキース。


「分かっているっ」


 注意されて思わずといった感じで返事をしていた。

 しかしながら顔は赤い。

 本人も遠吠えしてしまう寸前だったという自覚があるのだろう。


『絶妙のタイミングだったな』


 ハリーの声掛けがもう少し遅れていたら間違いなくやらかしていたはず。

 結局、俺の遮音結界は不発のままキャンセルとなったけど。


 あの対応の方が良かったと思うので不満はない。

 だから俺は心の中でハリーにサムズアップした。


 まあ、キースに見られて拗ねられても面倒なので内心でだけどね。

 代わりと言ってはなんだが[グッジョブ]のスタンプを送信しておいた。


「俺たちも豚汁を食おうぜ」


 妙な雰囲気になりかけているので切り替える。

 ただし、俺以外の面子はほとんどが困惑の表情を浮かべていた。


「そうは言うが旦那よ、肝心の豚汁は完売御礼状態ではないか」


『完売御礼って……』


 炊き出しであって売り物じゃないんだが。

 言いたいことは分かるけど。


 炊き出しで配るのに使った鍋はどれも空になったからな。

 今は綺麗に洗って倉庫の中だ。


「心配いらない」


 ボソッとノエルが呟いた。


「どういうことかしら?」


 カーラが怪訝な表情で疑問を口にする。


「そんなん簡単な話やんか」


 笑いながらアニスが登場した。


「そうそう」


 同意しながらレイナが現れる。


「ハルトさんですもんね~」


 同じくダニエラがピョコンと跳ねるようにやって来た。

 ブルンと揺れる何かがあるのはお約束である。

 あざとく見えるかもしれないが、本人は無自覚だ。


「我々の分を残していないはずがない」


 続いてリーシャ。


「そういうことだ」


 ルーリアも断定している。


「「ハルトさんだもんねっ」」


 メリーとリリーも楽しげに同意していた。


『読まれてるなー』


 それで問題がある訳ではないがね。


「じゃあ、炊き出し組はチョーダイして」


 ここで俺はミスをした。

 ジェスチャーなしで言ってしまったのだ。

 妖精組には伝わったんだけどね。


「「「「「チョーダイ?」」」」」


 月影の面々は困り顔で首を傾げていた。

 いつもは勘のいいノエルも困惑している。


『あー、そっかー』


 チョーダイが伝わるのは妖精組だけだ。

 ディジェストを開発した切っ掛けとなる食事で妖精組に食器を与えた時以来だからな。

 懐かしがっている場合ではない。


 どうしたものかと考え始めたところで──


「こうするニャー」


「こんな感じなの」


「真似するといいよぉ」


「「痛くないよ」」


 子供組が月影の周りに集まってフォローしてくれた。

 ハッピーとチーの言葉が意味不明だったがジェスチャーつきなので伝わったようだ。

 チョーダイなんて難しいジェスチャーじゃないしな。


「じゃあ、行くぞー」


 お椀に盛った豚汁を引っ張り出して皆に渡していった。


読んでくれてありがとう。

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