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1318 自業自得の安眠妨害?

 その夜はビルがいることもあって交代で見張りを立てることになった。

 本来であれば、この面子には必要ないんだけどな。


 寝ていても敵が接近するなら全員が感知して即応できる。

 奇襲を受けてアタフタするような間抜けはいない。


 忍者好きなルーシーなどは──


「これくらいシノビならできて当然なの」


 とか鼻息をフンスさせながら言いそうだ。


 今回は──


「野営も冒険者の醍醐味なの」


 と言って喜んでいたけどな。


 まあ、夜間の見張りなど形ばかりになってしまうのは目に見えているが。

 起きているように見せかけて寝るだけだからだ。


 それに野営場所は空き部屋である。

 扉を理力魔法でガチガチに固定して誰も入ってこられないようにしておいた。

 念のために魔物が部屋の中で湧かないよう結界も張っている。


 ダンジョン内でこれほど安全な場所もないだろう。

 油断は禁物だから皆には何も言ってないけどな。


 エリスには──


「分かっていますよ」


 という視線を向けられてしまったが。

 フフッと意味ありげな笑み付きでね。


 他の面々も似たようなものだ。

 笑みがあるかないかの差くらいである。


『うーん……』


 解せぬとは言わない。

 俺の過保護ぶりをよく知っている面々だし。


『[過保護王]の面目躍如かね』


 嬉しくないけどな。


 とにかく居心地が悪かった。

 背中がムズムズするっていうかさ。

 しばらくは時間の流れがうんと遅く感じたものだ。


 これも日頃の行いのせいなのだろうか。

 何となく理解はできるが、納得はしたくない気分である。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「そろそろ交代しよう」


 見張りのトップバッターであるビルに声を掛けた。


「いいのか?」


 ビルは呆気にとられた表情で確認してくる。


「まだ、そんなに見張りをしたって感じがしないんだが」


「このくらいの時間でちょうどいいんだよ」


 1人1時間で交代すれば合計8時間。

 寝る時間は7時間確保できる。


 西方の冒険者からすれば非常識なペースの交代だとは思う。

 それでも寝る時間を確保するのは大事だ。


「賢者様たちは剛胆だよな」


「そうか?」


「そうだよ」


 ひどく真面目くさった顔つきでビルが頷いた。


「夜の張り番が1人だけとか信じられないぜ」


 呆れたと言わんばかりに頭を振っているビルだ。


 1人で充分かと思ったらダメだった。

 そのあたりも非常識らしい。

 言われて初めて気が付いたくらいではあるけれど。


「これくらいは、うちじゃ普通だぞ」


 全然、普通じゃありません。

 逆の意味でだけどな。


 このことは口が裂けても言えない。

 そんなの言ったら、皆を叩き起こす勢いでビルが驚きかねない。

 安眠妨害もいいところだ。


「……賢者様だもんな」


 ビルが呟きながら嘆息した。


『俺だけじゃないんですがね』


 ミズホの常識は西方の非常識であることをまたも思い知らされてしまった。


「つまらんことは気にせずに休め休め」


 掌を下から押し出すようにしてビルを椅子から追いやる。


「いいけどよ」


 とか言いながらも溜め息をついているし。


『そんなに溜め息ばかりついていると幸せが逃げていくぞ』


 というツッコミは内心だけに留めておいた。

 下手に反応されても時間の無駄になるだけだしな。


 とにかく、ここからは俺の見張りの番だ。

 椅子に座って焚き火を見つめる。


 え? 密閉空間で火を使っても大丈夫なのかって?

 結界を張っているのはそのためでもあるのだよ。


 主に外部からの襲撃を防ぐためのものなんだけど。

 閉鎖されているにもかかわらず火を燃やしても酸欠になったりしない。


 火を見つめているだけでも退屈しのぎにはなるので助かる。

 ビルが寝静まるまでは起きていないといけないし。

 結界魔法様々だ。


「また明日な、賢者様」


 ビルが横になった。


「おやすみ」


 挨拶は交わしたが、そこからが長かった。

 5分たっても寝付けないらしく時折モゾモゾしているのだ。


 心当たりはある。

 気配を感知する術を覚えたせいだろう。

 覚えたてだと常に張り詰めた感じになってしまうからな。


 切り替えが難しいと見た。

 気持ちは分かるのだ。


 感知できなくなったらと考えると気を抜くことができない。

 そんなところだろう。


 本当は気を抜いた状態で感知できるようになるのが完成形なんだけどな。


 が、初心者を卒業した程度の段階であるビルには無理というもの。

 10分が経過してもモゾモゾと動いていた。


「「「「「……………」」」」」


 皆もとっくに気付いていたがスルーしてくれるようだ。

 一応、ウィスパーのグループチャット機能であるGミーティングで詫びておいた。


[スマヌ]


[ハルトさんが謝ることじゃないですよ]


 直ぐさまレスがポコンと表示された。

 同時に表示されたアイコンはエリスのものだ。


[私もエリスの意見に同感だ。

 こうなることを予見せぬまま教えた我らにも責はある]


 この硬い口調はテキストだけでも誰だか分かる。

 アイコンで確認すれば、まさしくルーリアだった。


[そうですよー]


[上に同じなの]


 ダニエラやルーシーも似たようなものだ。

 思考変換でテキスト入力しているからである。

 喋っている感覚で文字入力できるので楽なんだが。


 それ故に普段の口調が出やすい。

 人によってはクレームをつけてくるかもしれないな。


 俺は決して悪いことだとは思わないけれど。


[自分も同感です]


 そして、ハリーが続く。


[……]


 何故か3点リーダーで会話に加わってきた者がいた。

 テキストだとやたらと存在感がある。

 何が言いたいのかサッパリだけど。


『誰だよ?』


 アイコンを見れば、ドルフィンである。


[おいっ]


 思わずツッコミを入れていた。

 着ぐるみ専用のアカウントを取得しているのはいいんだけどさ。


[レスするなら意味のあることを書けって]


 テキスト上でも黙りってどういうことよ?


[……………]


『ダメだ、こりゃ』


 そうは思ったが、相手が分かれば言いたいことは想像がついた。


 最初のは同感。

 今のは気にするな。

 そんなところだろう。


 とりあえず、スルーだ。

 ローズがドルフィンとしてロールプレイを続けるなら徹底するのは目に見えているし。


 でなきゃ、専用アカウントなんて必要としないだろ?

 ずっと無言じゃ意味あるのかと思ってしまうけどな。


[ビルに気配関連の技能を習得させようとしたのは俺だからな]


 そうレスしたが……


[賛同したのは私達ですよ~]


 直ぐさまダニエラからの反論を受けてしまった。


[そうなの]


[そうだな]


[同感です]


 ルーシー、ルーリア、ハリーと次々に同意していく。


[ハルトさんは1人で背負い込みすぎです]


 エリスにはそんな風に言われてしまったし。


[……………]


 ドルフィンもコメントしてきた。

 相変わらず無言だけどさ。

 まったくだ、とでも言いたいんだろう。


 その後も押し問答のような形になったのは言うまでもない。


 気付けば20分ほど経過していた。

 それでもビルは眠れていなかったんだけどな。

 変わらずモゾモゾしている。


 当人は最低限の動きで誰も起こしていないつもりのようだ。

 生憎と全員がビルに付き合う格好となっていたけれど。


 いや、こっちはこっちで話し込んでいたと言うべきか。

 起こされたのはビルのモゾモゾが原因ではあるけどな。


[寝られないみたいですね~]


 ダニエラのアイコンが苦笑しているものに切り替わった。


[繊細すぎなの]


 ルーシーのそれは溜め息のアニメーションになっている。


[仕方あるまい。

 それだけ神経が高ぶっているのだ]


 ルーリアは特にアイコンを変えたりはしていない。


[この様子では、しばらくは無理じゃないですか?]


 ハリーが聞いてきた。


[同感ね]


 エリスが賛同する。


[……]


 ドルフィンは居眠りのアイコンでコメントしてきた。

 だったらコメントはいらんだろうと内心でツッコミを入れたさ。


[しょうがないから魔法で眠らせる]


 予告してからビルだけに魔法をかけた。

 すぐに眠りに落ちたのは言うまでもない。


 それを確認した皆も眠りにつく。

 なんだかんだと半時間は時間を使ってしまった。


『どうしてこうなった』


 まあ、後先を考えなかった俺の自業自得なんだけどな。

 こういう時に人は「トホホ」と言いたくなるのかもしれない。


読んでくれてありがとう。

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