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1317 石碑の使い道

 案の定というか、ビルは【気配遮断】を得ることができなかった。

 まあ、俺が受け持つとした3フロア分をクリアするまでの間ではだけどね。


 上級スキルだから無理もない。

 【気配感知】は一般スキルだ。

 習得難易度に差が出て当たり前である。


 そもそもスキルはそう簡単に習得できるものではない。

 一般スキルとはいえ初心者卒業レベルでゲットできた時点で上出来なのだ。

 スキルの種がないことを考えれば驚異的ですらある。

 おそらくは今までの経験が蓄積していた結果なのだろう。


 その後もビルをローテーションから外して探索を続けた。

 気配関連とトラップ対応の訓練を課すためだ。

 国民でない部外者へのサービスと考えると過剰なんだがね。


「やるか?」


「やるやるっ」


 そこだけ聞くと、何やら危ない会話に聞こえそうだ。


「賢者様たちの手ほどきが受けられるんだろ」


 ビルが意欲的で何よりではあるが。

 後方待機組はビルの訓練に付き合うという仕事ができたので退屈せずに済むしな。


 とはいえ、世の中そんなに甘くはない。

 それなりに階層を下っていったが、進展はあまりなかった。


 気配に関しては【気配遮断】を習得できず、【気配感知】も熟練度は上がらずじまい。

 トラップは嘘のように出てこなくなったので覚えたことが実践できなかった。


『間が悪いもんだ』


 まあ、仕方あるまい。

 代わりと言ってはなんだが、碑文はそれなりに形になってきた。


 やはり取扱説明書だ。

 その日の野営準備が完了したところで経過報告した。

 謎が解けた後はコピーを配布していなかったので報告が必要だったのだ。


 すると、皆で盛り上がる。


「随分と意地悪な説明書ですね」


 エリスは皮肉な意見を言いながらも楽しそうに笑っている。


「石碑の碑文で説明書というのも変な感じだが」


 ルーリアが納得しづらいとばかりに首を捻っている。


「細かいことはいいのよ」


 クスクスと笑うエリス。


「このまま読み進めていけば使い方が分かるんだし」


「それはそうだが……」


 妙なことにこだわるルーリアである。


「だったら説明書にしてしまえばいいじゃないですか~」


 おやつ代わりのジャーキーを食べていたダニエラも参戦してくる。


「そうなの。

 書記になれば解決なの」


 仲良くジャーキーを食べていたルーシーも加わってきた。

 ハリーはルーシーの方を見て軽く頷くのみ。


「碑文はハルトさんが写し取ってくれてますしー」


「あとは並べ替えるだけなの。

 パズルよりずっと簡単なの」


『いや、並べ替えは済んでるんだけどな』


 ルーシーが言うように簡単だからね。

 エリスがこちらを見て苦笑していた。


 俺が指摘しなくても分かっていると言いたげに見える。

 空気を読んで何も言わないけれど。


 元々喋らないドルフィンも俺の方を見ている。

 それと悟られるほどあからさまじゃないがね。


「謎が解けたら読み進めるだけなのに、こだわってもしょうがないでしょ」


 エリスの一言が決め手となった。


「うむ、その役目引き受けよう」


 ルーリアは妙なことで堅苦しく考えるよな。


「謎解きの次は発掘なの~」


 ルーシーが空気を変えるように言った。


『発掘とは違うと思うぞ、ルーシー』


 収拾と言いたかったんだと思う。

 言いたいことは分かったのでツッコミを入れるのは内心だけに留めておく。

 皆も俺と同じように空気を読んだようだ。


 ただし、ずっと困惑していた約1名を除いて。


「石碑なんてどう使うっていうんだよ?」


 ビルは皆が盛り上がっている中でずっと考え込んでいたようだ。

 どうも石碑が魔道具になるという認識が薄いらしい。

 そのせいで、少し前の俺の推理を信じていないっぽい。


「使い方は確定していないぞ」


 説明を読み切るまでは迂闊なことはできない。


「使い道は分かるんだろう?」


 渋い表情で聞いてくる。

 なかなか鋭いものだ。

 まあ、誤魔化すつもりはないけれど。


 いずれ皆にも分かることだ。

 誰もが恩恵にあずかることになるだろう。


「俺が推理した通り、これは転送の魔道具で間違いないぞ」


「ふぁっ!?」


 素っ頓狂な声を上げてビルが変顔で固まっている。

 驚いているのか困っているのか分からない感じだ。

 俺の返答が想定外だったのは明らかである。


「何だってええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


『うるさいなぁ』


 そこまで驚くことなのかと俺の方が驚かされたさ。

 もちろん、ビルのように大声は出さない。


「声がデカい」


 注意すると慌てて両手で口をガバッと塞いだが今更だ。

 風魔法の結界で音は遮断していたから俺たち以外には聞かれちゃいないだろうが。


 ルーシーとダニエラが手で耳を塞いでいた。

 2人してジト目でビルを見ている。

 視線を浴びたビルがハッとしたように2人の方を向いた。


『へえ、殺気立ってる訳じゃないのに気付いたか』


 こんなところで気配を察知する訓練の成果が出るとはね。

 皮肉なものである。


 ジト目を目の当たりにしたビルは焦った表情になっていた。

 冷や汗をかいているかもしれないな。


 そろそろと口を塞いでいた両手を下ろしつつ──


「済まない」


 ションボリと呟くように詫びていた。


 2人とも本気で怒っている訳じゃない。

 それで充分だと頷いて応じている。


 ビルが安堵の溜め息をついた。

 が、すぐにガバッと俺の方へと向き直る。


「てってっ転送って、ママママジ──」


「落ち着けよ」


 パシンとハリセンで頭をはたいた。

 倉から出したがビルは気付いていない。

 はたかれたことを理解するまでに数秒を要したくらいだからな。


 動揺しすぎである。

 まあ、あの乾いた音が良かったのかビルから前のめりな雰囲気が消えた。

 ハリセンは魔道具でも何でもないんだが鎮静効果はあったようだ。


「転送って、もしかして伝説級の魔法じゃないのか?」


 ビルがまだまだ興奮した空気を残しつつ聞いてきた。


『これでさっきより落ち着いているんだよなぁ』


 どんだけテンションが高かったんだよとツッコミを入れたくなったさ。

 ぶり返されても嫌なのでスルーしたけれど。


「そんな話は聞いたことがないな」


 そういうことにしておく。

 俺は使えるなんて言えないし。


 【諸法の理】によれば、西方では長らく伝説の魔法という扱いらしいがね。

 無駄に騒ぐのも納得というものだ。


「聞いたことがないって……」


 ビルは呆れている。


「長らく西方とは縁のない所で暮らしてきたからな」


 ルベルスに来て3年足らずとはいえウソではない。

 日本人としての人生も加味すればの話だが。


「……………」


 ビルは何か言いたげにしながらも口をつぐんだ。

 石碑の使い道が転送の魔道具としか分かっていないからだろう。

 もっと具体的に知りたいようだ。


「転送の魔道具とは言ったが好きな場所に行ける訳じゃないぞ」


「おっ、おう……」


 動揺を隠しきれない返事をしながらガクガクと首を揺するようにビルが頷いていた。


「せいぜいがパーティごと任意の階層へ転送される程度だ」


 俺の言葉にビルが両目を見開き、慌てて両手で口を塞いだ。


「─────っ!!」


 どうやら叫びそうになったのを無理やり抑え込んだらしい。

 ルーシーとダニエラの方を見るとジト目をしていた。

 その視線を感じたからこそ口より先に手が出たのかもな。


『アウフってところか』


 苦笑を禁じ得ない。


「転送される程度って何だよっ」


 怒ったように詰め寄ってくるビル。


「ダンジョン内限定じゃあな」


「石碑の周辺だけってことか?」


「御明察」


「それでも充分凄いじゃねえか」


 呆れたと言わんばかりに溜め息をつくビルだ。


「行ったことのない階層には転送できないという制限もあるぞ」


 碑文に書かれていたので間違いない。


「……それは、その方がありがたいと思うがな。

 身の程知らずの屍を増やさずに済むだろうし」


 それについては同感だ。

 ちょっと強い程度で天狗になる奴は何処にでもいる。


 ゴブリンの群れ相手に無双できてもオーガに勝てる訳ではない。

 そのあたりの現実を理解していないのに限って無謀なチャレンジをするからな。


 武器を新調したからとか。

 誰かにおだてられて気分が良くなったからとか。

 見栄を張って口を滑らせたせいで引くに引けなくなったからとか。


 そんな理由で、いつもより深い階層に行こうとする。

 自分の命を担保にギャンブルをするようなものだ。


 深く潜ろうとすればするほど危険度は跳ね上がっていく。

 逆に生存率は下がっていく訳だ。


 それまで安全マージンをどれほど取っていたかにもよるだろうが。

 無謀なことをする輩が、そんな慎重であるとは考えにくい。

 残念な結果になるのは自明の理というもの。


 行くことのできる階層に制限がつくのは犠牲者を増やさない安全機構と言える。


「本当に転送の魔道具なのか?」


「何を今更の話をしてるんだか」


「だってよぉ……」


「それは明日のお楽しみだな」


 既に野営の準備は完了している。

 撤収して無理に進んだとしても効率は良くない。


 ビルの消耗具合を見れば、数フロアが限界だろう。

 しかも、疲れを翌日に残してしまうことになる。

 出発の時間も遅くなるはずだ。


 ここで無理をしなければ明日の午前中には逆転するだろう。

 結果的に早く探索が終了するならば無理をすべきではない。


「えー……」


 ビルは気が逸っているようで不満げであったがな。


「不完全な説明書で誰も使ったことがない魔道具を試してみたいとは思わんよ」


 意図しない動作をされても困るからな。

 おそらくは神様がらみの魔道具だろうから、そういうことが無いとは思うけど。


「そりゃそうだ」


 ビルも納得してくれたようで何よりである。


読んでくれてありがとう。

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