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133 理論派は苦労する

改訂版です。

 ダニエラが魔法を成功させたが、まだまだ初歩の初歩だ。

 それに素早く安定して使えるようにならないと意味がない。


「もう一度やれるか?」


「頑張りますー」


「ただし、今度は目を閉じずに小さな炎だけを灯し続けるイメージで」


 初心者には酷な注文かもしれないが目標は常に高めにしておいた方が熟達しやすいものだ。

 それに、できるという確信があった。

 特級スキルである【教導】の熟練度がMAXに達したせいだろう。


「わかりましたー。やってみますねー」


 新国民一同の注目を集める中で、さほど緊張感も感じられない返事をするダニエラ。


「ん~」


 ポッ


 集中し始めてすぐに火がついた。

 しかも今度は消えずに燃え続けている。


「「「「「おおっ!」」」」」


 驚きの声がハモっている。

 魔法の才能がないと世間で言われているラミーナだからな。

 生活魔法が使える者もいるようだが希のようだし。

 それが短時間で確実に使えるようになったのであれば驚くなと言う方が無理がある。


「もういいぞ」


 俺が止めさせると静まりかえっていた空気が一変した。


「やったじゃん、ダニエラ!」


 レイナは我が事のように喜んでいる。


「「ダニエラちゃん、すごい!」」


 双子がそれに追随する。


「おめでとう。こんな短時間で魔法をものにするとは見事だ」


 ルーリアは興奮の度合いこそ低いものの素直に称賛している。

 ノエルは目を細めてその言葉に頷いていた。

 いつもより表情が分かり易いのは気のせいではあるまい。


「ビックリやで。ホンマ凄いわぁ」


 アニスは半ば呆然としつつも偉業を称えている。


 たかだか生活魔法の種火程度で大袈裟な、と言うなかれ。

 ヒューマンでも魔術士レベルの魔法さえ使えない者の方が多いのだ。

 しかも無詠唱でとなると魔導師でも少ないし、種火を維持するのは制御力も要求される。

 本来であれば初心者にはまず不可能と言われるほど高度なことをダニエラはやってのけたのだ。


 ラミーナには魔法が使えないという先入観が薄かったのかもしれないな。

 あと、楽観的な性格も影響していそうだ。


「やったな、ダニエラ。おめでとう」


 ここで一緒になって喜んでいたリーシャだったが、不意に何かに気付いたような表情を見せた。


「皆、負けてられないぞ。ダニエラにできるなら自分たちにもできるはずだ」


 目の前にいる仲間が不可能を可能にした先駆者となったのだ。

 そんな風に気力が湧いてくるだろうと思っていたよ。


「ダニエラに続こう!」


 この一言で全員の目の色が変わった。

 殻を破ろうとする気力に満ちているのが分かる。


「えーっと、まずは目を閉じてロウソクを思い浮かべるんだよな」


「せやで。それに火を付けるんや」


「火が付いたらロウソクを取り除くんだよね」


「ここが難しいよね。そのまま火を残すんだもん」


 双子が言うようにロウソクなしで火を維持するイメージは意外に難しい。

 漫画やアニメの文化にドップリつかった現代日本人なら話は別だが。

 向こうの世界に封印がかけられていなかったら魔法使いなんてわんさかいたことだろう。

 妄想の達人とも言うべき厨二病患者が山ほどいるからな。


 現に俺も封印を中和した空間で練習したらすぐに魔法が使えたし。

 逆につまづきを知らないせいで皆の苦戦ぶりを想像しづらいところがある。

 こんなことなら動画を見せまくって妄想力を先に鍛えた方が良かったかもしれない。


 手順を間違えたのは間違いないが、今の勢いを止めるのは気が引ける。

 さて、どうしたものかと見守りつつ考えていると……


 ポッ


 2人目の成功者が出た。


「やった! できた!」


 レイナだ。


「すげー、なんだこれ!」


 灯った火は数秒で消えたものの、それでも喜色満面でガッツポーズをしている。


「いやー、考えちゃダメとか私向きだよなぁ」


 何気ない一言にアニスが反応した。


「ロウソクの火を想像するんやったら頭の中で考えんといかんのと違うん?」


「それそれ、それよ」


「どれやねん」


「理屈っぽく考えるからダメなのよ」


「そないなこと言われたかてなぁ」


「こう……、考えずに考える? みたいな」


 レイナはどうにか伝えようとしているのだけど、これで理解できるなら大したものだ。


「訳わからんわ」


 当然、アニスにも伝わるはずがない。


「もうっ! 焦れったいなあ」


 だというのにレイナはダンダンと地団駄まで踏んでいた。

 そんな奴がローズ以外にもいたとは驚きだ。

 まあ、癇癪を起こしても投げ出したりせずに考えることをやめようとしないのは評価できる。


「じゃあさ、宿屋で離れた場所の出来事を見せられたの覚えてるでしょ」


 いきなり話が飛んだな。

 レイナは感覚派の天然さんのようだ。


「いきなり何やねん」


 アニスがそう言いたくなるのも分からんではない。


「あの時みたいな感覚で想像しろってことよ」


「なんやねん、それ」


 言葉が足りないせいでアニスは困惑の色を深めたままだが、俺にはなんとなく伝わった。


「理屈で考えるんじゃなくてイメージしろってことさ」


 俺からもアドバイスしてみるがアニスの反応は芳しくない。

 理屈が真っ先に来るタイプには難しいのかもね。

 ならばイメージしやすいようにするまでだ。


 幻影魔法で透けて見えるロウソクを用意し、そこに火を灯す。


「この映像を見てどう思う?」


 アニスに問いかける。


「幻のロウソクに火がついてるだけやん」


 それがどうしたのかと問いたげだ。


「ところで映像て何やの?」


 そう来るとは思っていなかったのでガックリきた。


「映像っていうのは、こういう風に映し出したもののことだよ」


「ああ、そういうことなんや」


 今度は火の付いたロウソクを用意する。

 同時に幻影のロウソクも透け感を無くした。


「これと映像のロウソク、どう違う?」


「え? どう違うて言われたかて……」


 アニスが真剣に見比べ始めるくらい見た目だけは差がない。


「見かけはそっくりでも、片方は本物じゃないだろう?」


「せやな」


「映像だから熱はないし触れることもできない」


「あ……」


 見た目にばかり気を取られていたことに気付いたようだな。


「レイナはこの映像のロウソクと同じことを自分の中で再現したんだ」


 うんうんとレイナが頷いているが、アニスは無反応に近い。


「ただし熱がないとか触れないなんてことはこれっぽっちも考えていない」


 アニスが確認するようにレイナの方を見た。

 頷きが返される。


「でないとロウソクなしで火が灯るなんてイメージを続けられるか?」


「それは……、無理やろな」


「大事なのは、こうしたいという気持ちだ」


 そういう意味では感覚派のレイナは向いている訳だ。


「俺はさっき空想力と言ったが、妄想力と言った方が良いかもな」


 そう言って締めくくり特訓を再開させた。

 ここでアニスが覚醒なんてことはなく、数分の後に成功したのは双子のメリーとリリーであった。


「「やったー!」」


 すると妹には負けられない一心からかリーシャもすぐに成功した。


「ふーっ、大変だったな」


 これで残るは3人と言いたいところだが、実は違う。

 ノエルが既に成功していた。

 皆が気付いていないのは彼女が成功しかけた瞬間に消滅させていたからだ。


 意図的に最後の1人になろうというのだろう。

 焦りでしくじり続ける者が出ることを危惧した訳か。

 10歳児なのに周囲の空気どころか状況さえ読んでいるとか、もうね……

 戦いとは2手3手先を読むものだと仰った少佐を思い出したじゃないか。

 ここは戦いの場ではなく城の庭だけどね。


 とにかく、普通の幼女にできることじゃないよ。

 どんだけ苦労してきたんだと涙が出そうになったさ。


 それから1時間かかってアニスが種火の魔法を成功させた。

 だが、誰も「遅い」とは言わない。

 西方の基準で考えれば充分に驚異的と言えるタイミングだからだ。


「疲れたわ~」


 言葉通りヘロヘロな状態で座り込んでしまった。

 そんな状態だから余計なことを考えずに成功させられたのかもね。


 その直後、ほぼ同時にルーリアとノエルも種火を発動させていた。

 どちらも実に怪しいタイミングだ。

 ルーリアもノエルと同じことを考えていたか。

 ノエルと違って一度も成功しそうな兆候を見せていなかったけど。


「お疲れ様」


「ん」


「かたじけない」


 2人ともアニスと違って涼しい顔をしている。

 最初から成功させる自信があったということか。

 ノエルは試しをしていたけど、ルーリアはぶっつけ本番で成功させたことになる。

 最初は無理みたいなことを言ってなかったか?

 俺の説明を聞いて彼女が修めているシンサー流の退魔術に近い部分があると感じたのかもな。


 なんにせよ、みんな大したものだよ。

 もう少し時間がかかることも覚悟していたからね。


読んでくれてありがとう。

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