表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1325/1785

1312 それも唐突に

『立体的な縦読みとはね』


 これは盲点だった。

 上手く考えたものだと思う。


 写しが少ないと気付きにくいからな。

 碑文が増えれば読み解きやすくなるが、絶対ではない。

 俺のように単純な人海戦術に頼ろうとすると裏目に出る。


 各碑文を個別に読み解こうとしている間は解読不能とは……


『まんまと引っ掛かってしまったな』


 してやられたとは思うが不思議と悔しさは薄い。

 まったく悔しくないと言えばウソになるのだろうが。


 それでも苛ついた感情はほとんどない。

 単純な手でありながら見事に裏をかかれたことに感心させられたからだ。


 これを考えた相手に拍手と称賛を送りたいくらいである。

 己の見識の狭さには自戒の念を抱くばかりだけどな。

 故に教わった感が強くて苛つくなどあり得ない。


 そして、忘れてならないのが殊勲者と言うべきビルの存在と行動だ。

 その気遣いがなければ今も頭を悩ませていたことだろう。

 探索に誘って正解だった。


「お手柄だぞ」


「え?」


 言われた当人は未だによく分かっていないようだったけどな。


「本当に読めるのか?」


「全文じゃないけどな」


「どんなことが書いてあるんだよ」


「よく気付いた的なことで始まってるみたいだ」


 すべて読める状態ではないので推測せざるを得ない。


「他は?」


「この石碑の使い方っぽいぞ」


「使い方ぁ?」


 素っ頓狂な声を出して首を捻るビル。

 石碑の使い道を想像しようとしたものの何も思い浮かばないようだ。


 まあ、普通に考えれば石碑なんてそこにあるだけのものだからな。

 目印になるのが精々だろう。


 とはいえ単に階段があるというだけの……


『そうか!?』


 不意に感じていた違和感の正体が分かった。


 階段の位置だ。

 明らかに変わっている。


 正しくはダンジョンの構造そのものが別物になっていると言うべきだろうか。


『なのにダンジョンの構造を把握している?』


 気付いてしまえば、知らないはずのマップ情報が頭の中にあるのが不思議でならない。

 まるでSFに出てくるような睡眠学習機でも使われたかのような感覚だ。


 それか、あれだな。

 サイボーグの少佐が出てくるアニメ。

 リメイク版みたいなのがあったり実写化もされてるんだっけ?


 あれってサイボーグ技術で電子情報を直接やり取りできたんだよな。

 そういうので情報戦になったりもする。


 視覚情報をハッキングするなんてのは普通に行われるアニメだからな。

 何処かの屋敷に潜入するのに警備するサイボーグ犬をハッキングしたこともあった。

 視覚だけじゃなくて偽の記憶をすり込まれたりなんてことも度々あったと思う。


 そういうことがアニメの世界じゃなく現実で起きているのだ。

 しかも、俺はサイボーグではない。


 それは他の皆にも言えることである。

 相変わらず誰も異常を訴えることがないし。

 俺のように違和感を感じている面子が何人いるだろうか。


 ちょっと聞くのが怖い。

 こんな真似が人知れずできる相手だ。

 俺が気付いたことを察知すれば、どんな手を使ってくるやら。


 対策を考えつつ気付かぬ振りをするしかないだろう。

 今のところ対策のたの字も思いつかないがね。


 現実逃避するようだが、会話の流れに乗ったままがいいだろう。

 ここで【千両役者】なんて使うのは不自然すぎる。

 使う理由がないからな。


 そのせいで気取られる恐れだってあると思うし。

 用心に越したことはない。


「魔道具であることは間違いないんだよ」


「マジで!?」


 目を見開いて聞いてくるビル。

 他の面子はそれが当然と思っているので平然としている。

 それを目の当たりにしたビルから身を乗り出さんばかりの勢いが消えた。


「何に使えるって言うんだよ?」


 まだまだ聞かずにはいられない様子ではあるが。


「全文が分からん状態では推測しかできんよ」


 ガックリと肩を落とすビル。

 だが、それでも諦める様子はない。


「推測はできるんだよな」


「ああ」


「で、ヤバい代物なのか?」


 簡単に諦めないと思ったら、そこが気になるようだ。

 誰かが魔道具の動作に巻き込まれないかとか心配しているらしい。


「それは大丈夫そうだぞ」


「どうして、そう言えるんだ?」


「使い方の説明を書いているってことは何かの設備なんだろうよ」


「それはそうなんだろうが……」


 ビルが不安げな表情を色濃くしていく。

 設備と聞いて変に想像を膨らませてしまったらしい。

 正体不明なのが良くないのだろう。


「そんなものが危険物だったらダンジョンを利用する者が減ると思わないか?」


 少しでも不安を払拭できる方向へ持って行ければと考えたのだが。

 俺の言葉は逆効果だったようだ。

 ビルがサッと顔を青ざめさせた。


「ヤバいじゃねえかよ、賢者様。

 ダンジョンが暴走しかねないぞ」


 生きているダンジョンは中で魔物を間引かないと暴走のリスクが高まるからな。

 ビルもそれがあることを思い出した訳だ。


「そういうことにはならんから心配するな」


「どうして言い切れるんだよ?」


 ビルが唇を尖らせる。


『ベリルママがそれを看過するとは思えないからだ』


 が、それは内心でしか言えないことだ。

 別のもっともらしい理由を言う必要がある。


「暴走したダンジョンがどうなるか知ってるよな?」


 まずは、そう問い返してみた。


「ああ」


 それがどうしたと言いたげだが、一応の返事はあった。


「死んじまうんだろ?」


 正しくは活動停止と言うべきだが、間違った認識ではない。

 復活する訳じゃないからな。


 別の迷宮核ができない限りは。

 その場合は、再起動と言うよりは新生すると言った方が認識としては正しいだろう。


 まあ、今の話において細かいことはどうだっていい。


「それと分かって自殺したがる奴がいると思うか?」


「あー、それもそっか」


 ビルが上を仰ぎ見た。

 考えがそこまで及ばなかったことを反省しているようだ。


「それじゃあ、石碑はダンジョンが用意したものってことか」


「違うだろうな」


「おいっ」


 すかさずツッコミが入った。


「自殺はしないが、余計なこともしないと思わないか?」


「む、言われてみれば……」


 そうは言うものの、疑問が氷解したような表情には見えない。


「そもそもダンジョン側がこれを設置するなら、こうも規則正しくすると思うか?」


「何とも言えないんじゃないのか」


 可能性はあるかもしれないし無いかもしれない。

 そんな風に考えていそうだ。


「ダンジョンがと考えるよりは、人間寄りの考え方をした何者かがと考えるべきでは?」


「そんなこと言われてもなぁ」


 困惑の色を隠さずにビルが言った。


「何者かって誰だよ?」


「それについては、とりあえず保留しておこう」


「えーっ」


 不満げな声を出してくるビル。


「向こうが自己紹介してくれないからな」


「てことは、賢者様にも分からないのか」


「そういうことになる」


 だが、おおよその見当はついた。

 それをビルに明かす訳にはいかないがな。

 ミズホ国の国民になる選択をしていたなら話は別だが。


「おそらくだが、碑文をすべて読めば分かるんじゃないかな」


「むう……」


 ビルが唸った。


「どのみち、碑文を読み切らないと石碑は利用できそうにないぞ」


「利用できないって、どうしてさ?」


「今のままでは利用できないよう封印されているからな」


「えらく厳重だな」


「正しい使い方を周知させたいんだろうよ」


 一種の安全装置のようなものだ。


「もしも知らずに動かした場合はトラップと勘違いする者も出そうだしな」


「どういうことだよ?」


「確信を持って言えることじゃないが、これは転送の魔道具だ」


「転送だって?」


「瞬間的に別の場所に移動するってことだよ」


 知らずに動作させてしまった者なら魔法の罠だと思っても不思議はない。

 予告なくいきなり別の場所に瞬間移動してしまえば、それも無理はないだろう。


「なんだってぇーっ!?」


 叫んだビルの顔には驚愕が張り付いたままになっている。


「知らずに動作させれば、今以上に驚かされるだろうな」


「うっ……」


 茫然自失の状態からビルが帰ってきた。


「じゃ、じゃあ、どうして碑文は簡単に読めるようになってないんだよ」


「誰でも読める状態だったら怪しすぎるだろう。

 ある程度まで体力と知力を使わないと分からないようにしてるんだと思うぞ」


「なんでさ?」


「報酬の意味合いなんだろうな」


 釣り合いが取れているかどうかと聞かれると首を傾げるところだが。


「これ見よがしに説明文があれば普通は警戒するだろう?」


「そうだな。

 俺なら罠を警戒する」


「だから手間がかかるようにしてるんだろうよ」


「そうか?」


 いまいち納得いかないようだ。


「ダンジョン内で宝箱を見つけた時と似たようなものさ」


 ビルが首を傾げた。


「まずは罠を警戒するよな」


「ああ」


「開けるのに苦労させられるものほど中身に期待しないか?」


「そういうことか」


 今度は納得がいったようだ。


「よしっ、碑文は片っ端から集めないとな」


 鼻息を荒くしている。

 納得した途端にやる気を漲らせるとか現金なものだ。


 こっちは設置者の正体を聞かれずに済んだので好都合だがな。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ