1310 犯人は誰だ?
『どう考えたって神様の仕業なんだよ』
だが、ベリルママは今までそれをしなかった。
必要がなかったからだろう。
それについては俺が無謀なことをしないよう言い含めていたからとも考えられるけど。
今回もベリルママがやったことでないのなら、むしろ頷ける。
必要だというなら、このタイミングはおかしいからな。
実行するなら俺がダンジョンに潜り始めた時期に処理していただろう。
意味もなくこんなことをするとは思えないし。
何か必要なものというか、重要な設備と見るべきだ。
ベリルママがやったのでないとしても、そのあたりは同じだろう。
神様が無意味なこと無駄なことをするのであれば話も変わってくるとは思うが。
特にエリーゼ様はやらないだろう。
面倒くさがりだもんな。
ベリルママほど過保護じゃないだろうし。
マイカやミズキ、それにトモさんのことを気にかけてはいると思うのだが。
ここまで大掛かりなことをするとは思えない。
ただ、絶対に違うとも言い切れないのだ。
未だに何の説明もされていないのがね。
途中で面倒になって放り出したと考えれば、一応の説明がつくしな。
『エリーゼ様ならやりそうだ』
念のために元日本人組に問い合わせてみた。
まずはミズキから。
情報の齟齬がないように脳内スマホで電話をかける。
『なーに、ハルくん』
電話に出たミズキに一連の推測を含めて説明した。
『あー、エリーゼママならやりそうね』
やりそうというのは設置だけして説明はしないという投げっぱなし状態のことだ。
『絶対にそうだとも言い切れなくてな』
『でも、他にこんなことをする人に心当たりないんでしょう?』
『そりゃそうだ。
神様の知り合いが身内以外にいたら大変だぞ』
『アハハ、身内にいるってだけでも大変だけどね』
まったくもって同感である。
思い返せば数奇な運命だった。
まあ、いま思い返している場合ではないので詳細はスルーしておく。
『俺の勘ではエリーゼ様がやらかした可能性は低いんだけどな』
『それでもゼロじゃないから考える必要があるんだね』
『そういうことだな』
『まるで刑事ドラマみたいだね』
可能性があるから調べて嫌疑を晴らす。
そういう風に考えれば、ミズキの言うことも分からなくはない。
『やっぱり最後のシーンは断崖絶壁の上なのかな』
ミズキが何かおかしなことを言い始めた。
『最後のシーンって何だよ』
冷静にツッコミを入れる。
これはミズキの妄想が暴走していると見るべきだ。
『え? ドラマのように謎解きするならお約束だと思うんだけど』
『何を言ってるんだか……』
やはり妄想の世界に入り込んでいたようだ。
『え? あれっ!?』
『刑事ドラマごっこをしてるつもりはないぞ』
『あっ……、えへへ』
ばつの悪そうな照れ笑いが聞こえてきた。
どうやら無事に戻ってきたようだ。
『とにかく、エリーゼ様からそういう類の連絡はなかったんだな?』
『うん、私のところにはなかったよ』
『なるほど』
マイカやトモさんのいずれかだけに連絡して終わっているということもあるのか。
そして、受けた側が失念していれば……
ごくごく低い可能性だが、完全に無いと言える状態でもない。
ならば残りの2人にも問い合わせる必要があるだろう。
『マイカやトモさんはそこにはいないのか?』
いるなら電話を掛け直す必要もないだろう。
ミズキに聞いてもらえばいいだけの話である。
『うん、ゴメンね。
今回はバラバラの別行動だよ』
『いいよ、俺が横着しようとしただけなんだし』
電話を掛け直すのは、さほど手間ではない。
それさえ面倒くさがる人もいるけどな。
その人のことで問い合わせに回るのは皮肉だろうか。
『じゃあ、マイカたちにも聞いてみる』
『分かったー。
じゃあ、またねー』
サクッと通話終了。
続いてマイカに電話する。
『はいはぁい、なにー?
応援要請とかかしら~?』
緊迫した雰囲気は微塵もない。
まあ、現状は何かが逼迫してる訳ではないからな。
何処かそういう状態を期待しているような空気を電話の向こうから感じるのだけれど。
ダンジョン探索に退屈しているのだろう。
浅い階層だと、うちの面子じゃ過剰戦力もいいところだからな。
それでいて異状がないかの確認だから単独行動もできないし。
複数人数でのチェックをしないと見落としも出てくるかもしれないからね。
必然的に戦闘は交代で行うことになる。
単独でも加減を間違うとオーバーキルになるからな。
先日のゲールウエザー王国のダンジョンで走り回ることになった時とは緊張感も違う。
今はタイムアタック的なことをする必要もないし。
退屈に感じるのも無理はないだろう。
『そういうんじゃなくて問い合わせだ』
『何かあったの?』
少しだけマイカのテンションが持ち上がった。
斯く斯く然々で説明する。
『そういうのは何もないわね。
エリーゼママなら投げっぱなしジャーマンなことをしても、おかしくないけどさ』
返事をする時のテンションは下がっていたのは言うまでもない。
『ミズキは刑事ドラマみたいって言ってたけどな』
『どうせ崖の上で謎解きとか言い出したんでしょ』
『やっぱ分かるんだな』
さすがは生まれ変わる前から姉妹同然だった2人である。
『2時間ドラマの帝王とか面白がって見てた時期があるからねー』
『はあ、さいで』
何はともあれ、マイカにもエリーゼ様からの連絡はなかった訳だ。
残るはトモさんである。
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
『ウソつけえっ』
『ハハハ、バレたか』
『バレない方がおかしいだろ』
『そうだね』
ツッコミにスルッと切り返してくる。
トモさんの真顔でボケる姿が思い浮かぶかのようだ。
このままボケに付き合うと、延々と付き合わされかねない。
故にスルーだ。
『そんなことより聞きたいことがあるんだよ』
『何かな?』
俺は一連の流れに伴う推測を斯く斯く然々で説明した。
『そういう話は聞いていないね』
どうやらエリーゼ様犯人説は否定されつつあるようだ。
まあ、3人の子供たちに説明していないという可能性は残っているけれど。
『話をしそびれているというのはあるかもしれないね』
トモさんも同意見のようだ。
『あるいは、最初からするつもりがなかったとか』
『……………』
無いとは言わないが、それは迷惑極まりない。
結果は同じなんだだけどな。
気持ちの問題というか。
やろうとしていたか否かで、こちらの心情は大きく変わる。
『もし、そうだったら言い訳とかしそうだね』
そういうことは考えておくべきだろう。
『試練を与えるためとか?』
『ハハハ、それはあるかもしれないなぁ』
トモさんの笑いも乾いたものだ。
『なんたって未だに謎は解けていないんだろう?』
『それなんだよなぁ』
『さっき碑文を見てきたけど、意味が分からないね』
『トモさんにも分かんないか』
『いっそのこと懸賞金付きのクイズにしてみるのも面白いかもね』
『国民総出で謎解きかぁ』
悪くないアイデアだ。
それで碑文が読めるようになるなら助かるというもの。
『やってみようかね』
人材の発掘にもつながりそうだし。
【多重思考】でメールの文面を作成する。
『お、レスが来た』
『は?』
トモさんが先にメールを出していたのだろうか。
『エリーゼママはこの件に関与していないってさ』
『何処に問い合わせてんだよっ』
よりにもよって本人に直撃とか。
それはさすがにどうかと思って控えていたというのに。
『いやぁ、こういうのは聞かないと分かんないからね』
『せめて何かの確証を掴んでからにしようよ』
『ハッハッハ、刑事ドラマの見過ぎだよ、ハルさん』
『そ、そんなことはないさ』
姉弟そろって発想が似通っている。
『動揺してるじゃないか』
『……………』
勘違いされたが反論しきれない。
何と言っていいやらだ。
『確証を掴むとか普通は言わないよ』
『う……』
『それで確証を掴んだら断崖絶壁のシーンかい?』
『本当に似たもの姉弟だな』
『おや? 姉上たちも同じ発想だったのか』
『まあね』
『面白いなぁ』
トモさんの声が弾んでいる。
これは後で刑事ドラマネタを肴に盛り上がることになりそうだ。
『それと謎は自分で考えろだって』
『そんなことまで聞いてたのか』
『立っている者は親でも使えと言うだろう?』
『言うけどね』
親でもあるが神様でもあるんだぞ。
こっちは忙しいであろうベリルママに遠慮して聞けずにいるというのに。
あ、でもエリーゼ様には聞けるかな。
前に仕事を丸投げされてるし。
こっちだって丸投げしても良いかなとは思ってしまう。
既にトモさんが断られてるんじゃ、俺も断られるだろうけど。
『ところでさ』
トモさんが話を切り替えてくる。
『何だい?』
『これをやらかした犯人は誰なんだろうね』
それが解決していない。
『エリーゼ様が違うとすると心当たりがなくなるんだよな』
やっぱり、ラソル様なのか?
読んでくれてありがとう。




