1308 ダニエラのハマっているもの
ベリルママが過保護だからってダンジョンに石碑を設置する意味が分からない。
何かしらの仕掛けがあるとは思うのだが。
俺たちにとって不利益になるものではないだろう。
が、碑文が読めない状態では如何ともしがたい。
説明書を読まずに動かすには正体不明すぎる。
『迂闊に手を出して変なことになったらシャレにならん』
普通に使えば害のないものでも、誤った使い方で暴走しないとは言い切れない。
おそらくは安全装置などの類があるとは思うけどね。
だとしても冷や冷やするのは御免被る。
ここで暴走させた状態が余所へリンクしないとも限らないし。
そうなれば方々で騒ぎになることも想定しておく必要が出てくる。
今回のは規模がでかすぎるからな。
見知っているダンジョンは何処も石碑が設置されていた。
【天眼・遠見】で確認してみたけど、配置のパターンも階段の脇と同じだったし。
チラ見しただけだから細部まで同じかは不明だけど。
碑文まではチェックしてないのでね。
そこまでしてしまうと俺たちが潜っている意味が無くなってしまう気がしたのだ。
おそらくは同じ文面になっているだろうから。
先に碑文の謎を解き明かしてしまいかねない。
さすがに深い階層までの碑文を集めて読み解けないとも思えないし。
『探索気分を味わいきる前に謎だけ解けたんじゃ興ざめだもんな』
だったら人海戦術で検討するのはどうかと思われそうだが。
これは保険のようなものだ。
深層まで潜っても謎が解けなかった時のためのね。
故に今の段階で分かったとしても開示はしない。
【千両役者】の助けを借りてギリギリまで隠し通すつもりだ。
ズルは良くないとは思うけど。
『保険は大事だろ?』
俺は誰に問いかけているのだろうか。
まあ、だとしても本気じゃないのは確かだ。
時間がない時なら【多重思考】と【天眼・遠見】のコンボでサクッと終わらせている。
が、今はそういう状況ではないのでね。
だからこそ探索気分を満喫している訳だ。
え? 油断しすぎ?
その通りかもしれないな。
『だが、その時になったら本気になればいい』
微妙だ。
言葉にすると凄く残念な感じがする。
本気という言葉がこれほど頼りなげに思えるのは何故なのか。
夏休みの宿題を後回しにして遊び倒している学生なんかが言いそうだから?
そんな気がしないでもない。
少なくとも残念感だけは同等だと思う。
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「ホア─────ッ!」
ヒュンヒュンヒュヒュヒュヒュヒュン
短い棍がクルクルと目まぐるしく回転している。
牙ウサギが一斉に襲いかかってくるが、ダニエラはその場から退くことはなかった。
そうする必要がないからだ。
両手にしたヌンチャクによって牙ウサギたちは打ち倒されていく。
「ハイハイハイハイハイハイハイハイィッ!」
柔軟性を生かした動きで的確に急所を打ち据えていた。
一撃必中にして一撃必殺。
打撃音に混じってベキだかボキだかいう骨の折れる音がしていた。
それもそのはず。
どの牙ウサギも首ポキで仕留められていたのだ。
ついでにポヨポヨと軽く弾むダニエラの胸部。
『うーん、眼福だ』
ヒュヒュヒュンヒュヒュヒュン
全滅させたあとも演武であるかのごとくヌンチャクを振り回すダニエラ。
戦っている時よりもポヨンポヨンしてて幸せである。
ダニエラとヌンチャクの相性は最高だ。
が、その至福の時間も長くは続かなかった。
ダニエラが両脇に挟むようにしてヌンチャクの動きを止めたからだ。
そして、残心。
最後のひとポヨンが一際大きかったのは実に素晴らしい。
『予は満足じゃ』
などとアホな台詞が脳内に湧き上がってしまった。
「フオオォォォォッ」
息吹のオマケ付きなのは御愛嬌といったところか。
「なあ、賢者様」
すべてを見届けたところでビルが呼びかけてきた。
「ん?」
「彼女、何がしたいんだ」
怪訝な顔をして聞いてきた。
『バカなっ!?』
あのポヨポヨンの素晴らしさが分からないというのか。
無駄が多いと言いたいのだろうけど。
修行僧みたいな男だよな。
まあ、それだけ真面目に探索している証でもある。
パーティメンバーとしては信頼に足るか。
『同志としては認められんがなっ。
ポヨンは決して無駄ではないぞ!!』
心の中で力説しておいた。
「劇に出てくる武術家の真似をしてるんだよ」
カンフー映画とかを見て影響されているとは言えない。
ルベルスの世界の住人じゃカンフーなんて知らないだろうし。
こっちにセールマールのカンフー使いが転移でもしていない限りはね。
その上、映画なんてものは西方には存在しない訳だし。
劇とか武術家という形に置き換えて説明するしかない。
ちなみに元日本人組が見ていた場合は違和感を感じただろう。
ヌンチャクの達人と言うべき、あの御方とは何かが違うってね。
ミックスしているせいだ。
掛け声なんかは35の修練場をクリアしないと免許皆伝とならないやつとかも入ってる。
あれは確か最終的に誰でも修行ができる36番目の修練場を作ったんじゃなかったか。
柔軟性を生かした動きは木製の等身大人形が最終試練になっているのが近い気がした。
他にも空手系の作品も混ざっているようだ。
元ネタは俺にもよく分からない。
「劇の真似事かよぉ……」
その口振りからも分かるようにビルが困惑していた疑問は晴れた。
ただし、今度は呆れることとなったが。
「子供じゃあるまいし、いくら何でも余裕すぎないか?」
「それは今までの面子でも同じだぞ」
「そうは言うが、あんな玩具みたいな武器は見なかったぞ」
『ヌンチャクが玩具か……』
初見だとそんな風に見えてしまうのか。
些かショックではある。
「素手よりリーチがあるし、至近距離にも対応しやすいぞ」
「殺傷力が足りないだろう」
刃物の武器が当たり前の世界ならではといったところか。
「遠心力を利用してるから素手より高いと思うが?」
「防御力の高い相手には通じないだろ」
どうやらビルは打撃のダメージを甘く見ているようだ。
いや、ダニエラの実力そのものもと言うべきか。
「そのあたりは見ていれば分かるだろうよ」
この階層なら、ボリュームゾーンの冒険者でも苦戦するような魔物も出てくるだろうし。
「まあ、賢者様の連れだしな」
致命的なことになるとまでは思っていないようだ。
せいぜいが足をすくわれるんじゃないかという懸念程度なんだろう。
その後は、しばらく魔物との遭遇がなかった。
証明するため意図的にトレインするほどでもないしな。
そう思っている間に次の団体客がお目見えした。
「ほう、これはこれは」
ソードホッグが十数体。
ポンポン跳ねながら迫ってくる。
既に臨戦態勢だった。
「おいおい、ヤバいのが来たじゃないかよ」
ビルは慌てた様子で俺の方を見てきた。
「盗賊殺しだぞ」
「そうだな」
「そうだなって……
落ち着いて見ている場合かよ?」
「声援でも送れってのか?」
「そうじゃねえよっ」
すかさず鋭いツッコミを入れられてしまったさ。
別にボケたつもりはなかったんだがな。
ビルにとっては天然ボケのように感じられたようだ。
「リーチが違うじゃねえか」
ソードホッグは全身の毛が長剣のようになっている。
本体はバスケットボールサイズだが毛が長く硬く鋭い。
そのため、丸まって回転しつつ跳ねる攻撃スタイルは攻防一体で隙が少ないのだ。
剣で斬り掛かっても簡単に弾かれてしまう。
しかも、革鎧など簡単に切り裂く。
故に異名が[盗賊殺し]なのだ。
冒険者の間では盾が必須の魔物だと言われている。
「そんなものは、どうとでもなる。
あれがただの棒きれで作った武器だと思ったのか?」
「え?」
ビルが間の抜けた声を出しながらダニエラの方を振り向く。
ちょうどヌンチャクを変形させようとしているところだった。
柄尻同士を接触させて捻り込んでいる。
それだけで、その部分は一体化した。
「なにぃっ!?」
「まだまだ驚くほどのことじゃないぞ」
変形はまだ終わっていない。
ダランと垂れ下がった方の棍は未だ短いままだからな。
両端のそれらが、見る見るうちに伸長していく。
いや、よく見ていれば中央の一体化した方も伸びていることに気付いただろう。
「なんだぁ!?」
素っ頓狂な声を出して俺の方を見てくるビル。
その顔は間の抜けた感じで目と口を開いてしまっていた。
更に驚く余地は残していたようだ。
「御覧の通り、魔法の武器だぞ」
「いやいやいや」
ブルブルと頭を振るビル。
「それにしたって短いぞ。
あんなのじゃ盗賊殺しにゃ届かねえよっ」
「いいや、届く」
「なっ!?」
「黙って見てろ。
うちの面子は誰も騒いじゃいないだろ」
「っ!」
ここでようやく気付いたらしい。
周囲見渡して目を見開ききっていた。
『そこまで愕然とすることかよ』
既に充分見てきているだろうに。
「さぁて、魔法の三節棍はひと味違うぞ」
「三節棍……」
呟くようにビルが復唱していた。
「目を離さずじっくりしっかり見ておけよ」
読んでくれてありがとう。




