132 本物の魔法を
改訂版です。
「こんな娯楽があるとは……」
「「夢にも思わなかったよね」」
「うちら田舎者やし、しゃーないやん」
「いや、田舎者とか関係ないわよ」
「ですよねー。ぼうりんぐって何処に行っても無かったですよ~」
月狼の友の面々がボウリング大会を終えた後の感想である。
ルーリアは余韻に浸っているようで黙して語らず。
「どうだった?」
「ん、楽しかった」
ノエルも満足したようだ。
新国民組は練習もせずぶっつけ本番だったからスコアも良くはなかったんだけどな。
それはそれでストライクや難しいスペアが取れたら拍手したりと楽しみ方は人それぞれ。
逆にコーチングは不要と言われたくらいだ。
あーだこーだと言われると楽しめる感じがしないということなんだろう。
皆が楽しめれば、それでいい。
妖精組もスコアを競う大会じゃないということで緩い雰囲気を出していた。
あえて軽いボールを使ったり利き腕を封印したり。
さすがに30ゲームはやりすぎだと思うけど。
子供でレベルの低いノエルは握力が持たず8ゲームほどでギブアップしていた。
むしろ8ゲームもよく投げ続けられたと感心させられたさ。
その後は見学しているだけだったけど、個性的な投げ方をする面子がいたお陰か退屈しなかったようだ。
子供組のトルネード投法と黒猫三兄弟の背面海老反り投法は今回も健在でしたよ。
ピンの残り方で左右を持ち替えるスイッチボウラーなんかもいた。
他にも手首を返す感じで逆方向に曲げるバックアップで投げたりね。
新国民組も最終的には3桁のスコアが出せるようになっていたので次回以降は更に上達するんじゃないかな。
握力がなくなっても続けようとするくらいだし気に入ったのだけは間違いない。
そんなこんなで三が日は遊び倒した訳だ。
4日からは平常運転だからね。
「いや、本当に凄い」
浸っていたルーリアが戻ってきたようだ。
「世の中はこんなにも娯楽にあふれていたのだな」
「それはちょっとちゃうと思うで」
「世の中じゃなくてミズホ国が、と言うべきね」
アニスとレイナの漫才コンビがツッコミを入れていた。
「そうなのか?」
「せやで。うちらも知らんかったし」
「そうそう」
アニスの言葉に同意しながらレイナが俺のことをジト目で見てくる。
「まだまだ他にもありそうなのよね」
なかなか鋭い。
そろそろ車も作らないといけないなと思っていたのだ。
ドライブするだけでも娯楽にできるだろうしレースをするのも悪くない。
アニメからアイデアを引っ張ってきたのを構想中だから面白いことになりそうだ。
科学じゃ不可能でも魔法なら実現できるさ。
夢は実現するためにある!
その典型例が自動人形だ。
妖精たちは既に自動人形を違和感なく受け入れているけど、新国民組は大混乱だったからね。
レイナなんて腰抜かしてたし。
だからこそのジト目なんだろうけど。
「楽しみにしておくといい」
「できる訳ないでしょっ!」
「それは残念」
ならばガンフォールに魔道具の車を見せるのも一興か。
反応を見て西方で使う時の参考にするという意味でも国外での最初のお披露目はドワーフに限定しておこう。
他にもあれやこれやと色々考えている。
どれもこれも国外に持ち出すのは混乱を引き起こすこと必至なのが困ったところだが。
だからといって自重するつもりはないけどさ。
まあ、自転車なら西方で広めることもできるかもしれない。
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三が日は全力で遊んだので4日からは切り替えていくとしよう。
という訳で新国民組を鍛えて妖精組とのレベル差を縮めることから始める。
まずは全員に魔法を覚えてもらう。
この特訓は魔物を倒さずにレベルアップする方法として有効なものだからだ。
ただ、新国民組には反論されたよ。
「無茶言わんといてや、ホンマに」
口火を切ったのはアニスだった。
「うちらラミーナは種族的に魔法がほとんど使えへんの知ってるやろ?」
「ドワーフより素養がないって言われてますー」
ダニエラが追従してくるのは予想外だったが、それだけネガティブな考えに染まっている証拠だろう。
「子供の頃にさんざん試したっての」
「あれは苦い思い出だ」
苦虫を噛み潰したような顔をするレイナとリーシャ。
「「生活魔法さえ身につかなかったもんねー」」
表情こそ苦笑レベルだったが双子のメリーとリリーも否定派であることに変わりはない。
しかも、ルーリアまでもが困惑している有様だからなぁ。
「シンサー流剣術は特殊な術を使うが故に魔法は苦手なんだ」
それは勝手な思い込みだ。
初代が魔法を習得できなかったことで代々の伝承者に思い込みが伝染していったのだろう。
魔法が封印された世界から飛ばされてきたから初代が人類最高レベルになっても魔法が使えなかったのは無理からぬところなんだけど。
先入観とは、げに恐ろしきものである。
こういう時は味方になってくれそうなノエルを引っ張り込むところからと思ったのだが。
ノエルの表情がやけに硬い。
「どうした、ノエル?」
「賢者さんみたいに凄い魔法が使えるようになりたいけど難しそう」
自信がなくて考え込んでいたのか。
ハードルが更に高くなった気分だが、ここで止まる訳にはいかない。
「最初に言っておくと、西方で魔法使いと呼ばれる者達は皆まがい物だ」
それを聞いたアニスとレイナが「ああ、始まった」みたいな顔をした。
「アンタを基準にすれば誰でもまがい物になるでしょうが」
「せやせや」
色々と見せてしまった弊害だな。
「目標を見誤るなよ」
「どういうこっちゃの?」
「生まれたての赤子に野山を縦横無尽に走り回れとは言わんよ」
「言ってるじゃない」
「俺じゃなくて妖精たちを最初の目標にしろよ」
「そんなこと言われても魔法がからっきしのうちらからしたら似たようなもんやで」
「そりゃあ間違った魔法の使い方をしようとすれば無理ないさ」
「間違ぉてるて、どういうことやの?」
「西方で正しく魔法を使えている者は誰もいないんだよ」
この言葉にはノエルが小首を傾げた。
「私も?」
「ああ、間違えている」
「ノエルは魔法使えるやん」
たまらずといった様子でアニスがツッコミを入れてきた。
「正しくと言ったろう」
「訳わからんわ」
そこで魔法には放出型と内包型の発動方法があることを説明した。
どのような手順を踏んでいるかや長所短所も含めてね。
その上で放出型は練習用として開発されたと教えると全員が目を丸くしていた。
「ホンマかいな……」
疑うというよりは驚きを隠しきれない様子のアニス。
「びっくりですね~」
そう言いながらもニコニコしているダニエラ。
「「驚きだね」」
お互いに顔を見合わせている双子たち。
「そうは言っても、その内包型の方が習得は難しいのだろう?」
比較的冷静なリーシャが指摘してくる。
レイナは不機嫌そうに黙り込んでいるだけ。
「問題はそこやで。うちらじゃ到底無理やんか」
「それは昔の魔法使いたちが勘違いしていたからだ」
彼等は繰り返し魔法を使って練習することが大事だと考えていたらしい。
それがそもそもの間違いだ。
放出型を極めても内包型の理解なんて深まるはずがない。
どちらも魔法を使う点では似ているように思えるが全く別物だからな。
「どういうことやの?」
「アプローチを間違えているんだ」
「アプローチやて?」
「内包型をマスターするために大事なのは空想力を鍛えることなんだよ」
「「「「「空想力?」」」」」
そこでハモるのか。
「もしかして空想力が何か分かってない?」
全員からコクコクと頷きが返される。
「空想は分かるよな」
再びコクコク。
「内包型で大事なのは明確なイメージだ。そのためには安定して空想できる能力が要求される」
「それが空想力だと?」
リーシャが代表して聞いてきた。
「ああ。強く速く的確にイメージできるかが勝負になる」
そんなことを言われてもという戸惑いが広がる。
具体例がないと確かに難しいかもしれない。
誰もが思い描ける簡単なイメージか。
「目を閉じてロウソクに火が付いてるところを想像してみな」
真面目にやる気はあるようなので全員が目を閉じてくれた。
もっとも熱の入れようは個人差がある。
意欲的なのはノエルとダニエラ。
ダニエラは魔法に対する憧れが強かったのかね。
続いて、もしかしたらと思っているっぽいメリーとリリーの双子、それにルーリア。
リーシャとレイナは半信半疑な様子である。
完全に疑ってかかる感じじゃないけど、後で差が出そうなのが気がかりだ。
「火のついたロウソクを想像し続けられるなら次のステップへ行くぞ」
誰からも返事はないが焦った様子なども見られないため先に進むことにする。
「炎をそのままにロウソクだけ消してみな」
ここで初めて動揺が見られた。
常識が邪魔をして炎を維持できなくなったのは明白だ。
「失敗したらリトライな。目を開ける必要はない。そのまま続けろ」
最も慌てているのが誰なのかは言うまでもないだろう。
「残すのは炎、消すのはロウソクだぞ」
表情から察するに苦戦している者が多い。
そんな中で余裕があるように見えるのがダニエラだ。
まさかとは思うが天然だと習得が早いのか?
わずかながら魔力の揺らぎすら感じる。
小さな炎とはいえ安定してイメージできている証拠だ。
「炎だけを維持できるなら目を開いて目の前の空間でイメージしてみな」
ダニエラ以外は置いてけぼりな指示である。
何もない所にイメージの火を灯し続けろと言われても簡単にできるものではない。
元はロウソクの炎だからこそ常識が邪魔をする。
これこそが鍵なのだ。
常識を圧倒する強い想像力でイメージを維持できるか否か。
そう簡単ではない。
遮断していた視覚情報が回復すると……
「あー、消えました-」
雑念も入りやすくなって目を閉じていた時より格段にイメージを定着させづらくなるからな。
「大丈夫。続けて」
ダニエラが目を閉じ再び集中する。
目を開くまでが早い。
思わず内心で感嘆の声を上げたほどだ。
自然と魔力が高まっていくと、彼女の目の前で小さな炎が灯った。
「あれー?」
首を傾げただけで消えてしまったが。
「あらー、残念ですー」
表情はニコニコのままなので残念そうに聞こえない。
「おめでとう、ダニエラ。人生初の魔法はどうだった?」
俺が祝福して感想を求めると、全員が慌てた様子で閉じていた目を開いた。
驚きの表情でダニエラを見ている。
「よく分かりませんー」
どこまでもマイペースなダニエラであった。
読んでくれてありがとう。




