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1305 ただいま探索継続中

 どうやら石碑の周辺は魔物が忌避するらしい。

 セーフティゾーンになっているのは間違いなさそうだ。


『ん?』


 そこに引っ掛かりを感じた。

 確たることが言えるような状態ではない。

 単に何となく気になったという程度のものだ。


『次の石碑で何か分かればいいんだがな』


 そう都合良くいくかどうか……

 何にせよ、ここで調べる訳にはいかない。

 次の階層を目指して移動を始めたからな。


 最初は俺1人だけ残って綿密に調査することも考えたのだが。


『やめとこう』


 誰に提案するまでもなく却下した。


 そんなことをすれば何事かと思われるのがオチだ。

 皆も引き返すに決まっている。


 今は碑文の謎を解き明かす方が先だろう。

 そのためには、ひとつでも多く碑文を集めなければならない。


 現状で碑文を写し取った紙は8枚。

 まだ、何も見えてこない。


『せめて、取っ掛かりだけでも掴めればなぁ』


 もう1人の俺たちによる人海戦術を大々的にやる手が使えそうなんだが。

 現状でも何人かに検討してもらってはいるけどね。

 1人1枚で担当してもらっているが、状況は思わしくない。


『法則性が欠片もないぞ』


『こじつけてもみたんだが無理があった』


『意味が通らんからな』


『同じこじつけが他の碑文では通用しないし』


『情報交換しても謎が深まっただけの気がするんだが?』


『そんな簡単じゃないよなぁ』


『もっと情報を求む』


『碑文が追加されるたびに頭数を増やしてもダメだとは思わんかった』


 こんな具合である。

 あれやこれやとやってみたが、意味のある文章になったことは一度もなかった。

 1人1枚で分担しても分からないのは予想外もいいところだ。


『今の倍以上の碑文を集めないとダメかもしれんな……』


『『『『『同感……』』』』』


 悩ましいことである。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「すんげー馬鹿力だな」


 ビルがポツリとそう漏らした。

 ドルフィンのハンマーさばきを見ての感想である。


「それっぽい体格はしてるから、そうだと思っちゃいたけどさぁ」


 呆れたような視線をドルフィンに向けている。

 さすがに驚くほどではないようだが。

 見た目通りのような言い方をしてるしな。


 それとも驚きはとっくに通り越してしまったのだろうか。

 あるいは驚きの連続に慣れたのか。


「特にリストの強さが尋常じゃねえよ」


 嘆息しながらそんなことを言うビル。

 どうやら通り越し説が有力のようだ。

 慣れも幾分かは混ざってそうだが。


「そうか?」


「あのなぁ……」


 ビルがジト目を向けてきた。


「あんな重そうなハンマーを片手剣のような使い方をしてたじゃないか」


「あー、やってたな」


 片手でハンマーを持つ瞬間が何度かあったのだ。


 例えば牙ウサギが間合いを取ろうとして下がった時。

 攻撃を届かせるため、柄のギリギリを持って前に踏み込んでいた。


 結果、ハンマーで突き飛ばされる格好となった牙ウサギは壁に激突。

 軟体動物かというようなグンニャリ状態で絶命した。


 あるいは横一列で同時に突っ込んできたホブゴブリンどもへの横凪ぎを見舞った時。

 あれも片手で振るっていた。

 攻撃される前に攻撃するためだ。


 ハンマーはぶれることなくホブゴブリンどもを弾き飛ばしていた。

 そうなれば壁面に叩き付けられるのは言うまでもないことで……


 ただ、それは事前に予測できたのだろう。

 牙ウサギほど酷い状態にはならなかった。


 とはいえ、それは見た目の話である。

 満足に動ける奴など残っているはずもなく、その戦闘は終了した。

 首ポキなど生易しいものだ。


 他にも弓矢で攻撃してきたホブゴブリンがいたのだが。

 これの対処もハンマーの片手業だった。


『あの打ち払いはリストの強さがよく分かったよな』


 ビルが尋常じゃないと言ったのも、これを見たからだろう。

 矢が次々と降り注ぐ中で器用に片手で振り回していたからな。

 並みの冒険者には片手剣であってもすべてを打ち払うことなどできまい。


 それを重心が極端なハンマーで易々とやってのけた訳だ。

 この事実だけでも並みの筋力ではないことが分かろうというもの。

 リストの強さは特にな。


 え? ドルフィンは着ぐるみだから誰が着込んでも結果は同じだろって?

 そんなことはない。

 確かに着ぐるみではあるが、パワードスーツではないからな。


 筋力を増幅するようなことはしていない。

 単純に中の人の強さを反映するように作られている。

 中身が異なれば同じ真似ができるとは限らない訳だ。


 それを考えると、ビルが呆れるのも仕方のないところか。

 まあ、ここまで見てきたあれこれのインパクトに比べれば弱いかもしれないが。


『納得の反応ってことか』


「とりあえず、俺から言えるのは──」


「言えるのは?」


「慣れろってことだけだ」


「結局、それかよ」


 ビルはガックリと肩を落とした。

 そうこうする間に階段が見えてくる。


「そろそろ安全地帯だな」


「何だよ、それ?」


 そういや説明していなかったか。


「石碑の近辺は何故か魔物が寄りつかないんだよ」


「マジで!?」


 ビルにとってはドルフィンの非常識なまでの怪力より、こちらの方が衝撃的らしい。


「ウソだよな?」


「なんで、こんなことでウソをつかなきゃならんのだ」


「だってダンジョン内でそんなことあり得ねえだろう」


「普通はそう思うんだろうがな。

 こんなことでウソをついてもデメリットしかないぞ」


 周囲からの信用を失うだけだ。

 出鱈目を言い触らしたことになるからな。

 人死にでも出ようものなら、どん底まで失墜することだろう。


『そう考えると安易に言うべきではなかったか』


 ビルもそのあたりを考えているのだろう。

 本当に大丈夫なのかと言いたげな顔をしている。


「確定情報じゃないぞ」


「は?」


「そういう傾向があるってだけだ。

 情報を確定させるのは、更にデータを集める必要がある」


「なんだ、そういうことか」


 ビルはホッと息をついた。


「そうは言うが、この情報が確定になった場合の影響は大きいぞ」


「だろうな」


 神妙な面持ちでビルが同意した。


「冒険者の死亡率が下がるのは間違いない」


「どうだろうな」


 基本的には賛同したいのだが、諸手を挙げてとはいかない。


「何かヤバいものでもあるのかよ?」


 ビルが聞いてくる。


「ヤバいのは冒険者自身だ」


「はぁっ!? 何を言ってるんだ?」


 訳が分からないと言いたげな顔をしているビル。


「盗賊に鞍替えするようなのが増えるってのかよ」


 唇を尖らせて抗議してきた。


「んな訳ないだろう」


「あ、違うんだ」


 あっさりと抗議の体制は崩れた。


「それなら、ますます分からん」


『少しは考えろよ……』


 そのツッコミは内心だけに留め──


「はあーっ」


 代わりに深く溜め息をついた。


「しょうがないだろー」


 不満げに文句を言ってくるビル。


「分かんねえもんは分かんねえんだよ」


「少しは相手の立場になって考えるとかしろ」


「悪党の考えることは分からん」


 盗賊説は捨てきれないようだ。


「そこに固執するなっての」


「悪党じゃないのか?」


 困惑の表情で聞いてきた。

 中にはそんな輩がいるのだとしても増える要素がどこにあるというのか。

 巡り巡ってそういうことがあるかもしれない。


 だが、俺が話そうとしていることより複雑になるはずだ。


「考えてもみろ。

 ちょっと気が緩んだだけで無茶をするバカはいくらでもいるだろう」


「あっ……」


 さすがに気付いたようだ。


「じゃあ、帰りのことを碌に考えなくなる馬鹿が増えると?」


「それもある」


「無茶な魔物の釣り込みをするようになるとか?」


「それが一番怖いな」


 ヘイト管理を失敗して暴走を誘発でもされたら堪ったものではない。

 どの程度の規模で収まるかなど事前に分かるはずもないからな。


 トレインが始まれば周囲にも被害が広がってしまう。

 悪気がないことほど質の悪いものはない。


「そっか……

 そうだよな」


 ビルも深刻に受け止めたようだ。


「これは迂闊には広められないな」


「だが、いずれ気付かれるぞ」


「そこなんだよなー」


 ビルは溜め息交じりに吐き出した。

 憂鬱そうな顔をして、今度こそどうしたものかと考え込んでいる。


「魔物を暴走させなければ安全地帯として見込めるとして広めるしかないだろう」


「それで本当に大丈夫なのか?」


「条件付きにするだけで慎重になる者も出てくるさ」


「そうでない奴らは?」


「自己責任」


「おいおい、お調子者のバカに巻き込まれたらどうするんだよ」


「そういうのが出ないように罰金制度があるんだろ」


 魔物の暴走を安易に引き起こさせないため普通では返しきれない罰金が設定されている。

 その返済義務は当人だけではなく一族郎党にまで及ぶ厳しい処分だ。


「そうだったな」


 浮かない顔でビルは返事をした。

 どれだけ効力があるか、それは誰にも分からないだろうからな。


読んでくれてありがとう。

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