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1300 違和感が拭えない?

『帰ったらルーリアの御機嫌取り確定だな』


 となると、他の皆ともスキンシップが必要になるということでもある。


 今の状況よりも帰ってからの方が疲れそうだ。

 気を遣う必要があるという点において。

 1人だけ構ってたら依怙贔屓だの何だのとクレームがつきかねないからな。


 自己主張の強い面々からは直に言われるだろうし。

 そうでない面子だって言葉にはしないまでもアピールはしてくるはずだ。

 キャンキャン言われるよりも、そっちの方が大変だったりする。


 さすがにベリルママみたいに泣きそうになるなんてことはないけどさ。

 なんにせよ、今は目の前の状況に集中しなければな。


 歩きながら気合いを入れ直していたのだが。


「………………………………………」


 どうにも違和感が際立つ。

 何かが変だと俺の勘が告げているのだ。


 にもかかわらず、それが何であるかまでは分からない。

 この感覚には覚えがある。

 それもつい最近のことだ。


「……………」


 そのことを思い出すだけでウンザリした感覚に襲われたさ。


 が、それも一瞬のこと。

 今回はラソル様のイタズラでないことだけは確定しているからな。

 いずれにせよ神様がらみであると考えた方がいいだろう。


 皆に知らせるべきかと思ったが、ビルがいる。

 メールで知らせるなどしても動揺させてしまうと意味がない。

 ならば今はまだ伏せておくのが無難かもしれないな。


 嫌な予感がしているなら話は別だが。

 今のところは、そういう感じはしないので様子を見ることにする。


 ただ、俺は妙に動揺していたようだ。

 【千両役者】を使うのを失念していたのである。

 故にエリスがいち早く俺の微妙な変化に気付いた。


 かなり薄めとはいえ、しかめっ面をしていればエリスが気付かない方がおかしいか。

 他の面子で気付いたのはドルフィンの中の人くらいなものである。


『どうかしました?』


 念話で話し掛けてきたのはエリスが何かを感じ取ったからだろう。

 こういう空気を読むことに長けたお姉さんだからな。

 ビルが同行している現状では大変ありがたいことである。


『上手く説明できないんだが違和感があってな』


『違和感ですか……』


 わずかだが戸惑うような雰囲気の返事だ。

 エリスは違和感を感じていないらしい。


『どうやら俺だけが感じているようだな』


『ええ、そのようです』


 他の面子に動揺は見られないし。


 斥候役として周囲の状況に気を配っているルーリアは言うまでもなく。

 中衛の位置にいるのに周囲を油断なくチェックしているビルも。

 街中を歩くような感覚で歩いているミズホ組も。


『もしかすると、ハルトさんが感じているように何かあるのかもしれないですね』


『だといいんだがな』


『少々、お待ちください』


 ビルには気付かれないよう表には出さずにエリスは考え込み始めた。

 待つことしばし。


『残念ですが、やはり思い当たる節はないですね』


 考え込んだ後も結果は変わらなかった。

 ある意味、予想通りだったが。


『そこなんだよ』


 変だと思うのに何もない。

 そんなはずはないと俺の勘が告げているのだ。

 何もないはずがないと。


 だが、それが何であるかが分からない。


『たぶん神様がらみの何かじゃないかと俺は思ってるんだが』


『それは仕方ありませんね』


 エリスから苦笑する響きの思念を感じた。

 そちらを見ても特に表情を変えたりはしていないが。


 【ポーカーフェイス】などのスキルを持たずにそんな真似ができるとは大したものだ。

 さすがは元王族と言うべきか。

 それともギルド職員だった頃に培った技術だろうか。


 そんな風にどうでもいいことを考えてしまう。

 煮詰まっている証拠だ。

 何の手掛かりもないからな。


『ジタバタしても解決しないのでは?』


『それだとダメな気がするんだよな』


『あら、そうなんですか?』


『根拠はないがな。

 何となくそんな気がする』


 嫌な予感とまではいかないがね。

 放置してはいけない大事なことだと感じるのだ。


 何かを感じ取ったのか、エリスも即答はしない。

 しばしの間の後に──


『……直感は大事にしないといけませんね』


 やや重さを感じさせる感じで言ってきた。


『深刻にはなるなよ。

 そういう風に感じている訳じゃない』


『では、どういう?』


『そうだな……』


 何と答えるべきだろうか。

 説明しづらい感覚なのだ。


『あえて言うなら挑戦状を突き付けられたというか』


『それは……』


 何かを危惧するような思念が伝わってくる。


『言っとくが、ラソル様がらみでそう思っている訳じゃないぞ』


『……………』


 返事はなかった。

 が、明らかにホッとした空気を感じる。


 何をしでかすか分からないラソル様だから無理もないんだけど。

 危うく誤解されるところであった。


『なんなのかは自分で探り当てろと言われている気がするんだよ』


『なるほど、そういうことですか。

 言わば神の試練のようなものですね』


『だから、そこまで大層なものじゃないんだよ』


 説明しづらいと思ったのは、そのためだ。


『では試練ではなく試験でしょうか』


『あー、言い得て妙かもな』


 ペナルティなどはなさそうな感じだし。

 試練よりは、そっちの方が近そうだ。

 明確に出題された訳ではないので試験とも言い難い部分はあるのだけど。


『そんな訳だから、ちょっと気にとめておいてくれないか』


『分かりました』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ルーリアの歩みが止まった。

 階下へとつながる階段だ。

 ここにも石碑がある。


「ここのも今までのと瓜二つって感じがしますね~」


 ダニエラの言う通りだ。


「違いは刻まれている碑文だけか」


 ルーリアが嘆息する。

 手掛かりが期待できないと思ったからだろう。


「他は同じでも、文字だけはまったく違うの」


 ルーシーが碑文を見ながら言った。


「お、違いが分かるのかい?」


 ビルが問いかける。


「全然なの」


 子供っぽい仕草で頭を振りながら返事をするルーシー。


「おりょりょ」


 ビルがズッコケる。

 そんな様子に少し和んでしまった。


 まあ、元より切羽詰まった感じではないのだが。


「同じ文面ではないですね?」


 エリスが確かめるように聞いてきた。

 古代文字を読める彼女自身は違うと分かっているはずなのだが。


 これはあえて確認していると見るべきだろう。

 皆に違うと伝えるためであるのは間違いあるまい。


「ああ」


 だから俺はハッキリと頷いた。


「共通点があるとすれば古代文字という点だけだな。

 それと暗号としてみた場合の法則性のなさぐらいか」


「ということは~」


 顎に人差し指を当てながらダニエラが発言した。


「この先も同じ文面の石碑は存在しないということでしょうか~」


 そんな仮説を立てた。


「考えられますね」


 ハリーが同意し、ドルフィンも無言で頷いた。


「しまったな」


 ルーリアが迂闊だと言いたげな顔をした。


「どうしたの?」


 ルーシーが小首を傾げながら聞いた。


「写しを取っておくんだった」


 悔やむように返事をするルーリア。


「これでは皆で暗号の解読をすることができない」


 古代文字を読めない面子だと細かな部分までは覚えていないだろうしな。

 出鱈目な文字のならびなのでエリスも一字一句までは覚えていないと思う。

 となれば、写しは必須という訳だ。


「だったら引き返すか?」


 ビルがそんな提案をしてきた。

 今なら大したロスにならないと考えたのだろう。

 しかしながら、残りの全員が頭を振った。


「先に進むべきなの。

 石碑はもっともっとあるはずなの」


「いかにも」


 ルーリアが頷きながら同意した。


「この先の石碑の多さを考えれば先のふたつにこだわるべきではない」


「それにー、帰りも階段は通りますからね~」


 ダニエラの言葉にビルが「あっ」という顔をした。


「そいつはもっともな話だ」


 そして苦笑する。


「じゃあ、ここの写しを取って行くとしようか」


「それならもう終わっている」


「へ?」


 ビルが間の抜けた声を出し、唖然とした顔で俺の方を見た。


「ほら」


 書き込みを済ませた紙束を突き出した。


「マジかー」


 唸りながら紙の写しと碑文とを見比べ始めた。


「うわっ!? 何だ、この正確な写しはっ」


 大きく目を見開いてビルは唸った。


「まるで紙を押し当てて写し取ったみたいじゃないかよ」


「大きさが違うだろうが」


 紙の写しの方が明らかに小さい。

 ビルが言ったような方法で写しを取ったのでないことは明白だ。


「いや、そうだけどさ……」


 それくらい正確だと言いたいのだろう。


 そりゃそうだ。

 スマホで撮影したものを倉の中でプリントアウトしたものだからな。


読んでくれてありがとう。

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