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1298 似て非なるもの

 石碑に触れてすぐに気付いたことがある。

 ほんのりと暖かみを感じるのだ。


『なるほどな』


 これだけでも生きてると表現するのはありだ。

 が、他にも何か感じるものがある。

 ごくわずかだが脈動するような波動を感じるのだ。


 実際に脈動している訳ではないのだが。

 魔力の波長がシンクロしているせいかもしれない。


「これはパワーストーンの類かもしれないなぁ」


「「「「「パワーストーン?」」」」」


 皆が一斉に首を傾げる。


「魔物の核であるコアや魔石とは違うのですよね?」


 そんな風に聞いてくるところを見るとエリスも知らないようだ。


「違うな。

 魔石とは似て非なるものだが」


「どう違うのでしょう?」


「そうだな……」


 説明するとなると難しい。


「まず、魔石はコアから作れるがパワーストーンはそういうことがない」


 明確に違う部分はそこだろう。


「似ている部分もあるのですよね?」


「魔力を溜めることができる石ってところだな」


 それは確かにという空気が拡がっていく。

 ただし、ビルを除いて。


「へえー」


 感心するように頷いている。


「魔石も魔力を溜められるのかー」


「知らなかったのか」


「そうりゃそうさ。

 魔石なんて見たことある奴の方が少ないと思うぜ」


 ちょっと意外だ。

 一般人ならともかく、冒険者なら目にしたことがあってもおかしくないと思うのだが。


 だが、すぐに自分の認識が非常識であることに気付いた。


『西方じゃレアな天然物しか目にする機会がないんだっけな』


 魔道具職人であればコアを魔石にできる者がいるのかもしれないが。

 できたとしても秘伝の技とかだったりするはずだ。

 その他の者たちにとって目にする機会は必然的に限られてしまう。


「思ったより価値のあるものだったんだな。

 それなら結構な値で売れたかもしれねえのかー」


「なんだ、持ってたのか?」


「ああ」


 返事をしながら襟元から革紐に繋がれた小袋を引っ張り出すビル。

 お守り代わりにしているっぽい。


「今も持ってるぜ」


 小袋の中には指先ほどの大きさの魔石が入っていた。

 魔石を受け取り一通り見てから返却する。


「そう大きくはないが……」


 混じりけがない綺麗な魔石だ。


「純度の高い天然物だな。

 ダンジョンの中で見つけたか」


「見ただけで、よく分かったな」


 ビルが目を丸くする。


「ギルドで鑑定を依頼してようやく分かったものなのに」


「そっちこそ、よくそんな代物を手に入れることができたな」


「王都のダンジョンで壁に埋まってるのを見つけたんだ。

 珍しい宝石だと思って売ろうとしたがダメだった」


 肩をすくめながら嘆息するビル。


「宝石じゃないからって二束三文の値をつけられたぞ」


「売る相手が知識の乏しい宝石商人だったからだろう」


 あるいはビルが魔石のことを知らないと踏んで足元を見たのか。

 相手の商人が誰なのか分からないのでは、いずれかは分からない。


 ただ、後者であったとしても問題にはならないがな。

 ビルは売却しなかったのだし。


 相手を見極めて騙されない強かさはある訳だ。

 それくらいでないとソロで冒険者はやっていられないとは思うがね。


「えーっ、じゃあ誰に売れば良かったんだよ?」


「魔道具を扱っている商人か職人だな」


「そんなツテはねえよ」


「ここにいるぞ」


 ギルドカードを見せる。


「うおっ!」


 カードを見てビルがギョッとした。


「商人ギルドの金クラスじゃねえかっ!?」


「よく知ってたな」


「何度か見たことがあるからな」


 呆れたような視線を向けられてしまった。


「賢者とは何なのか」


 ボソッと呟くビル。


「俺は少し毛並みが違うからな」


「「「「「少し?」」」」」


 皆からツッコミを入れられてしまったさ。


『解せぬ』


「で、どうする?

 売るつもりはあるか?」


「いや、いいよ」


 ビルは笑みを浮かべて頭を振った。

 持ち続けている間に愛着ができたようだ。


「お守りとして馴染んだか」


「そんなとこだ」


 そう言いながらビルは魔石を仕舞い込んだ。


「次に見つけた時は賢者様のところに持ってくるさ」


「期待せずに待ってるよ」


 天然物の魔石なんて素人が簡単に見つけられるものじゃないからな。


「で、そのパワーストーンとやらは魔石と同じ価値があると?」


 ビルが話を元に戻して聞いてきた。


「あるように見えるか?」


「いや、全然」


 価値など見出せないとばかりに頭を振る。


「見た目はやたら太いだけの石柱って感じだしな」


 言われてみれば、そんな風に見えなくもない。

 いずれにせよパワーストーンと見抜けなければ石材的な価値しか見出せないだろう。


「そういうことだ。

 これみたいに石材っぽいのだけじゃないけどな」


「どういうことだ?」


「石にも色々種類があるだろう」


「そうか?」


 ビルの返事は素っ気も愛想もないものだった。

 石に興味を抱かない者であれば、その反応も致し方あるまい。


「これみたいにツルツルしたものだけじゃないんだよ。

 ザラザラしたのやゴツゴツした石を見たことくらいあるだろう?」


「おお、なるほど。

 言われてみれば確かにあるな」


「それだけじゃなくて宝石も条件次第でパワーストーン化するからな」


「ふえ~っ、マジかぁ」


 気の抜けた声で驚くビルだ。


「おまけに、そんな種類があるのかよぉ」


 目を丸くさせながら感心している。


「言っておくが、これがパワーストーンと決まった訳じゃないからな」


 確信はないのだ。

 鑑定結果に出なかったし。

 【諸法の理】でも該当するものはなかったからな。


 それっぽく感じたってだけである。


「へえへえ、それでどうするんだい?」


 切り替えが早い。


「とりあえず、ここはそのままにして下の階層を調べにいくさ」


「コイツは放置でいいのかい?」


 石碑を親指で指し示しながら聞いてくる。


「持ち去れる大きさじゃないだろ」


「それもそうか。

 何か、深く埋まってそうに見えるし」


 ビルの言う通り石碑は深く埋まっている。

 その上、1人では抱えられないくらいに太くて地上部分は天井近くまである。

 これを運びだそうと考える者などいないだろう。


「そんな訳で先に行くぞ」


「へいよー」


 気の抜けた返事をするビル。

 他の面子は休憩モードから切り替えて階下に向かうという行動で応じた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 次の階層に降りてきた。


「到着なの」


 ルーシーが振り返る。

 チョコチョコとルーリアの近くまで歩み寄ると──


「バトンタッチなのー」


「心得た」


 ヒュッと軽くジャンプしたルーシーに合わせて互いに掌を打ち合わせた。

 斥候役はひとつの階層ごとに入れ替わるようだ。


『それはともかくとして、だ』


 確認しなければならないことがある。

 もちろん石碑のことだ。

 階段を降りてすぐのところにも設置されていた。


 パッと見は上の階層のものと変わりがない。

 サイズも形もそっくりだ。

 触れてみた感触も同じ。


 が、刻まれた文言は異なっている。

 そこだけは共通点がまるでない。


「どうやら、これが謎を解く鍵になりそうだな」


「何か分かったのか?」


 ビルが期待のこもった目をして聞いてくる。


「全然」


 俺の素っ気ない返答にガクッとずっこけるビル。


「なんだよぉ~」


 情けない感じの声を出しながら抗議してきた。


「勝手に期待した方が悪い」


「えーっ、思わせぶりなこと言ったじゃないか」


「俺は謎を解く鍵になりそうとは言ったが、解けるとは言ってない」


「うっ」


 ビルがしおしおと萎んでいく。


「やはり暗号の類でしょうか」


「多分そうなんだろうな。

 今のところ法則性は見出せないが」


 両方の文字列を並べてみてもサッパリだ。


「では、このまま次の階層へ向かうと?」


 ルーリアが俺に方針を聞いてきた。

 この階層の斥候役だからだろう。


 ジャンケン選抜の時に優先順位も決めたらしい。

 浅い階層で斥候を担当するということは優先順位が低いということだ。

 相手をする魔物が弱いからな。


 まあ、うちの面子からすると誤差みたいなものだ。

 一応ループはするみたいだし、そんなに意味があるとは思えないんだけど。


『戦闘ごとに目まぐるしく入れ替わられるよりはマシか』


 とりあえず、そう思っておくことにする。

 他の石碑がどうなっているかの方が気がかりだしな。


読んでくれてありがとう。

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