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1297 正体不明の謎物質

 ダンジョン探索は続く。


 ゴブリンとの遭遇戦以降は大した敵と遭遇することはなかった。

 主な敵はゴブリンだからね。

 主でない敵もゴブリンだったが。


 すべてルーシーが片付けた。

 最初は体術で対応していたが、途中からはそれさえ億劫になったようだ。


 後半は魔法で瞬殺するようになっていた。

 電撃バリバリで次々に倒れていく。


 つい、俺が暴走したゴブリンどもを相手にした時のことを思い出してしまったさ。

 あの時もバリバリで終わらせていたからな。


 瞬殺したゴミは速やかに回収していく。

 ほとんど機械的に作業をこなしていた。


 気分は廃品回収業者である。

 ルーシーがどう思っていたかは分からんがね。


「体術も魔法もスゲーな。

 あの子にゃ勝てる気がしねえよ」


 呆れたようにビルが溜め息をついた。


「戦うつもりだったのかよ」


「そういうことじゃなくてだな。

 俺じゃ追いつけないって言いたい訳」


「うん、知ってた」


「おいっ」


 ちょっとした漫才じみたやり取りをする余裕まであったのは御愛嬌。

 とにかく、特に障害もなく階下に降りる階段の前まで来ることができた。


「割とスムーズに来られたな」


「ええ、そうですね」


 エリスが返事をした。


 ビルは漫才もどきをして以降は無言を通している。

 2度目以降の遭遇戦からはルーシーの戦闘行動に口出ししなくなっていたしな。

 感心はしてもクレームをつけたりはしない。


『まあ、あれだけインパクトが強ければそうかもな』


 ミズホ組の視点だと、これくらいはできて当たり前なんだが。

 ビルにしてみれば幼女無双と言うべき状態だったのかもしれない。


『それはそれとして、だ』


「階段付近に石碑って噂は本当だったようだな」


「何か分かりますか?」


 エリスが聞いてきた。


「さてな、正体不明だ」


 お手上げである。

 【天眼・鑑定】を使ってさえ何も分からないのだから。


「石なの」


 ルーシーが真顔で言ってきた。


「いや、まあ、そうなんだが」


 思わず苦笑した。


「でも、それ以上のことが分からないんですよね~」


 ダニエラが首を傾げながら言った。


「刻まれた文面も読めないと?」


 ルーリアが聞いてくる。


「古代文字だが意味不明の羅列になってる」


「暗号の類でもないようですし」


 エリスが考え込むような仕草で言った。


「読めるのか?」


 ビルが目を丸くさせて驚いている。


「だから読めないんだって」


 思わず苦笑してしまった。


「いや、そうじゃなくてだな」


 もどかしげに手をワキワキさせるビル。

 ちょっと変態っぽい。


「気持ちは分からんではないが、その手を胸元で動かす癖はやめておけ」


「何だよ、急に」


「見た目がキモい」


「なっ!?」


 目を白黒させてビルが固まった。

 ワキワキのワあたりで止まっているので見ようによっては変質者っぽい。


 まあ、そこまで指摘するのはショックが大きいだろうから自重はしておく。


「モテなくて結構というなら好きにすればいい」


 こう言うだけで充分だろう。

 思った通りワキワキは直ぐさま退避させていた。


「おおおおぉぉぉぉぉぉっ」


 意外にダメージが入ったようで唸り声を発していたが、そこまで責任は持てない。

 スルーして話を先に進めることにする。


「さて、この石碑の文字についてだが」


 ダメージがおからササッと真顔に戻るビル。

 意図的に作ったような表情なので恥ずかしいのを誤魔化すためなんだろう。


「文字を適当に並べているだけだ」


 今度は訳が分からないとばかりに困惑の表情を浮かべた。

 芝居がかってはいない。

 他の面子も似たようなものだしな。


「適当にとは?」


 ルーリアが聞いてきた。


「綺麗に並んでいますけど~?」


 ダニエラも不思議そうに聞いてくる。


「並んでいるだけだ。

 意味のある単語はひとつもない」


「あらら~」


 ダニエラが首を捻る。


「イタズラ書きなの」


 ルーシーがそんなことを言った。


「それに近いかもな」


「暗号の線は本当に?」


 訝しげな表情でルーリアが聞いてくる。

 エリスが暗号ではないと言ったことを信じていない訳ではないようだが。

 わずかでも可能性があるのではないかと考えたのかもしれない。


「絶対的に否定はできないわね」


 エリスが苦笑する。


「でも、私もハルトさんも法則性を見出せないでいるのよ」


 皆が俺の方を振り向いてきたので頷いた。


「その通りだ。

 文字は綺麗に並んじゃいるが落書きと大差ない」


 鑑定しても[古代文字の羅列]としか出ないからな。

 しつこく鑑定しても──


[意味のない文字列]


[この文字列そのものに法則性はありません]


[シフトしても並べ替えても無駄です]


 等々という返答しかない。

 落書きやイタズラ書きの方が意味のある文字が並ぶだろう。


「俺もお手上げだ」


 ジェスチャー付きで言うと皆も納得がいったようだ。


「賢者様でも分かんねえことがあるんだな」


「買い被るなって」


 ビルの言葉に苦笑が漏れる。

 俺など【諸法の理】だよりだからな。

 知らないこと分からないことだらけだ。


「ん?」


 ハリーが石碑のそばでしゃがみ込んでいる。

 ペタペタと触ったりコンコンとノックしたり。

 果ては耳を宛がってみたり。

 さすがにペロペロはしなかったが、なんだか調査してます感が濃厚だ。


『そういうのも大事かもしれないな』


 鑑定が阻害されていることも考えなければならない。

 だとしたら、そこで諦めるのか。

 答えは否。

 できることは、ひとつでも多くしておくべきだろう。


『ペロペロはしないがな』


「どうだ、ハリー」


 一通り調べ終わったハリーに聞いてみる。


「残念ですが何も」


 ハリーは頭を振りながら返事をしてきた。


「何か奇妙な感じはしましたが」


「奇妙な感じ?」


 問い返すが、ハリーは困惑の表情を浮かべるばかりだ。


「構わんよ。

 感じたことをそのまま言ってみな」


「はい……」


 少し躊躇して語り始めた。

 曰く、石であるのは間違いないはずなのに違うような気がするのだとか。


「そうなの?」


 ルーシーが問いつつ自分でも石を調べ始める。


「石のようでそうでない、ですか……」


 ルーリアが顎に手を当てて思案する。


「珍しい鉱物でできているのかもしれませんね」


 エリスが推測を口にした。

 それはあるかもしれない。


 俺が鑑定しても──


[正体不明。

 石碑の材質は不明]


 としか出なかったからな。

 謎物質でも不思議はない。


 ハリーの真似をして調べていたルーシーが石碑から離れた。

 首を傾げて不思議と言わんばかりの表情だ。


「どうした?」


「この石碑さん、生きてるかもなの」


「ふぁっ!?」


 思わず叫んでいた。

 俺ではなくビルが。


 ミズホ組の面々は子供らしい突拍子もない表現に驚きつつも微笑ましく見ている。


「どどどどういうことだ!?」


 ビルはそれどころではない様子だが。


「落ち着けよ」


「いや、そんなこと言われてもなぁ。

 石が生きてるとか言われりゃ焦るだろうが」


「信じないという選択肢はないんだな」


「いや、だって、なぁ……

 賢者様んとこのお嬢ちゃんだからよ」


 言いにくそうに答えるビル。

 うちの面子が非常識だと言っているようなものだからだろうか。


「あり得ると思った訳か」


「まあ、そんなとこだ。

 半信半疑ではあるんだけどな」


 そのあたりに関しては俺も似たようなものだ。


「ルーシーはどうして生きてるかもしれないと思ったんだ?」


 だから聞いてみる。

 コテンと首を傾げるルーシーさん。

 本人もよく分かっていないのかもしれない。


「んー、なんとなくなの?」


 自信がないらしく、語尾は疑問形だ。


「でも、卵っぽいと思ったの」


「ほう」


 卵という言葉に引っ掛かりを感じて俺も石碑に触れてみることにした。

 百聞は一見にしかずって訳だ。

 この場合は一見ではなく一触なんだろうがな。


読んでくれてありがとう。

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