1293 休みの最終日に何事か?
約2名を除いて別のゲームへ移行する。
「うおりゃあああぁぁぁぁぁっ!」
「負けへんでえっ!」
このノリに付き合うのは疲れるからな。
マッハトラクターズが気に入ったなら別にメンバー登録し直せばいいのだし。
まあ、ノエルに付き合う格好でアクション系のパズルゲームをプレイしているのだが。
障害物に囲まれた閉鎖空間で大きな水風船を破裂させて敵に水をぶっ掛けるゲームだ。
濡れたら負けの対戦型である。
水風船は設置から一定時間が過ぎると破裂する仕様なのはお約束。
その名もバーストマン。
直訳すると破裂男。
え? 何の捻りもないって?
変に凝った名前より分かりやすいと思うけどな。
それにオリジナルへのオマージュもあるからこその名前でもあるのだ。
元になったのは水風船じゃなくて爆弾で爆殺し合うゲームだけどな。
さすがに自己視点型で爆殺されるのは気分のいいものじゃないので水風船にした訳だ。
そのせいかオリジナルとは完全に趣が違う。
フィールドから強制退場させられる前に水に濡れた表現とかあるせいだろう。
ただ、濡れても透け透けになるとかはない。
子供も遊ぶゲームにそんなの入れられる訳ないもんな。
裏コマンドを入力したら18禁モードになるなんてこともないし。
バーストマンは健全なゲームなのだ。
オリジナルだって爆弾を使う割に殺伐とした感じにならないし。
デフォルメが効果的に働いているせいだろうか。
こっちは3Dだから、あまりデフォルメに頼ることはできない。
このあたりも趣の違いに影響していそうだ。
プレイ時の方針にも影響してくる。
相手が何処にいるか探り合いながらプレイすることになるからな。
レーダーもあるけど至近距離しか分からないようになっているし。
おまけにアイテムは隠されていてレーダーに映らない。
特殊な液体をかけないと発見どころか触ることもできないという設定だ。
もちろん水風船の中の水のことである。
そうしてゲットしたアイテムを装着することで自分を強化するのだが。
「フッフッフ、強化レーダーをゲットしたわ!」
鼻高々に宣言したマイカが直後から包囲されることとなった。
「ギャー、逃げ場がー」
いくら高性能なレーダーがあっても閉鎖空間で囲まれると追い込まれるだけだ。
宣言しなくても誰が何をゲットしたかはテキストで分かるようになっているからな。
そんな訳で強力なアイテムをゲットすると集中砲火を浴びる。
この辺は駆け引きだろう。
アイテムゲットで有頂天となったマイカは早々に退場することになったけどね。
まあ、俺はそれより先に退場となったのだが。
「やられたわー」
「アイテムをゲットしただけいいじゃないか」
俺なんて開始から数十秒で包囲攻撃を受けたからな。
周囲の状況を確認している間にゲームオーバーだ。
「そうだぞ、姉上」
巻き込まれたトモさんと一緒にね。
「誰が姉上かっ」
俺とトモさんの2人で指差す。
「そうじゃなくてっ」
相変わらず、この呼び方は嫌なようだ。
「良いではないか」
まるで時代劇の悪代官のような言い方をするトモさん。
声もそれなりに作っている。
「ええいっ、キモいわっ」
2人がじゃれ始めた。
待ち時間が退屈だからな。
皆の状況は確認できるけど見飽きてしまうし。
『退場者用のミニゲームを用意しても良かったか』
それこそ2Dで遊べるようにするのもありだろう。
今からでも作って組み込むのはありかもしれない。
そう思ったのだが……
「ん?」
ショートメッセージが入ってきた。
SNSのウィスパーを使わないということは仕事がらみで緊急の用件だからだろう。
『ガブローから?』
[【至急!】御覧いただきたいものがあります]
文章自体は普通なんだが【至急!】などと入ると不穏なものを感じてしまう。
とてつもなくとは言わないが、それなりに嫌な予感がした。
が、行かない訳にはいかないだろう。
ガブローが持て余すような何かが起きているのであれば早急に対処すべきだ。
「ちょっと行ってくる」
暇つぶしでじゃれ合っている2人に声を掛けた。
「何処によ?」
「何かあったのかい?」
「ガブローんとこ。
急ぎで見せたいものがあるらしい」
「面白そうね」
待ち時間に辟易していたのだろう。
満面の笑みで身を乗り出してきた。
『やはり、じゃれ合いは暇つぶしだったか』
「仕事だぞ」
「……………」
シューンと萎んでいくマイカ。
「仕事とする根拠は?」
トモさんが聞いてきた。
途端にパアッと復活するマイカ。
返答しだいでは同行する気なのだろう。
姉の気質を読み切ったトモさんのフォローが良いパスになったようだ。
『いいコンビだよな』
パートナーはフェルトなんだが。
それと日本にいるという上徳リサ嬢もか。
リサ嬢については話で聞いただけだがな。
声優仲間に「青天の霹靂かハルマゲドンか」と言わしめたハーフの美女だという。
永浦氏はそこまでの反応じゃなかったそうだけど。
事故からつながる事情をある程度知っていたからみたい。
それでも「美女と野獣」とか言われたとは聞いたがね。
「野獣は酷いと思わないかい?」
そう問いかけつつも嬉しそうだった。
遠慮のない発言に友達の情を感じたといったところか。
なんだかんだいって祝福されたみたいだし。
「単に野郎じゃインパクトがないからじゃないかな?」
「ハルさんまで酷いなぁ」
「じゃあ、美女とオタク」
「それも言われたよ」
「へえ、永浦氏に?」
「いいや、芋野くんだよ」
「ああ」
イジられ系童顔声優として知られている芋野白氏のことだな。
トモさんに言わせると唐揚げに執念を燃やすエターナル高校生だそうだが。
エターナル高校生ってどうよと思ったけどね。
アラサーになっても学生に間違われたからだってさ。
『日頃のイジられた分をここぞとばかりに返したんだろうな』
トモさんは堪えた様子がないので不発に終わったようだけど。
「答えがないようだけど、そんなに複雑なことなのかい?」
『おっと、いけない』
思考の脱線が過ぎたようだ。
「複雑ではないよ。
こういうショートメッセージが来ただけだから」
幻影魔法でガブローからのショートメッセージの文面を2人に見せる。
「これは仕事だね」
苦笑するトモさん。
「短いけど説明しづらいし。
百聞は一見にしかずだったね」
「なーんだ、つまんない」
マイカは完全に興味を失っていた。
「来るか?」
「行かない」
念のために聞いてみたが、返事は予想通りのものだった。
面倒くさそうな空気を短い文から嗅ぎ取ったのだろう。
「トモさんはどうする?」
「行っても邪魔になると悪いから」
トモさんも来ないと。
「応援が必要なら呼んでくれればいい」
「そうね、その時は飛んでいくわよ」
手伝ってくれる気はあるようだ。
「サンキュー。
そん時は頼むわ」
「任せろ」
「任せて」
サムズアップ付きで応じる2人。
「じゃあ、行ってくる」
俺はそう言い残し転送魔法でその場を離れた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
「バカ者がっ!」
転送魔法で跳んだ瞬間に怒号が耳に届いた。
「おわっ、なんだぁ!?」
ガブローの執務室に跳んだはずだがジジイの怒鳴り声が聞こえてくるのは予想外だった。
しかも、ジェダイトシティの領主を任せているガブローを叱りつけている。
それができる相手など限られているんだけどな。
「なに怒鳴ってんだよ、ガンフォール」
俺が呼びかけると肩を怒らせたガンフォールが振り返った。
『おー、怖えっ』
まなじりが吊り上がっている。
「ハルトか、帰るぞ」
「おいおい」
来た早々にそんなことを言われても困る。
「俺は何も聞いてないんだぞ」
「用件が下らなさすぎるわい。
任された領主の権限で調査をしてから報告しろと言うんじゃ」
何かあったのは間違いないようだ。
それでガンフォールに相談するべく先に連絡していたのだろう。
タイミングからするとガンフォールが到着する前に俺にも連絡を入れてきたっぽい。
「下らないかどうかは俺が判断する」
「むう」
俺の言葉にガンフォールが唸り声を出して肩を落とした。
そして脇に下がる。
理性的な判断はできるようだ。
「で?」
短い言葉で促すと、縮こまっていたガブローがおずおずと話し始めた。
ダンジョンで異変があり次々とギルドに報告が上がったらしい。
異変と言っても緊急性は薄そうだ。
俺たちがダンジョン内の浅い層に設置したライトに匹敵する光源が下の層にも出た。
あと、階段の近くに正体不明の石碑が登場したという。
どちらも現状は害になるようなものではない。
光源については生存率が上がるので歓迎されているようだ。
それと未確認ではあるが、石碑の近くは魔物が寄ってこないという噂もあるらしい。
『事実なら、これも歓迎すべきことだな』
誰が設置したのかを考えると放置したままにはできないが。
読んでくれてありがとう。




