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130 初詣に行ってお節を食べたら食い過ぎた

改訂版です。

 やがて妖精組が我に返ったようになり、ざわめきが起こり始める。


「うわあ」


「上手く説明できないけどパワーを感じる」


「僕もー」


「私もー」


「すごい、すごい!」


 単に初日の出の光を浴びているだけだし季節的に汗ばむような熱気はないが間違いなく感じているものがある。


「確かに私も何か圧のようなものを感じる」


 ルーリアも感じているようだ。


「これはどういうことなのだろう?」


 何であるかまでは見当もつかないようで首をかしげている。


「うちも感じるけど、なんでなんかは分からんわ」


 アニスも不思議がっている。


「レイナはどないや?」


「アンタねえ、聞くだけ無駄って分かって言ってるでしょっ」


 レイナは目尻を釣り上げてアニスに威嚇している。


「見えない力を感じるなんて不思議ですね~」


 ダニエラは隣でケンカをする2人など存在しないかのようにマイペースだ。

 双子も誰かに害が及ばないのであれば放置するらしい。


「分かる?」


「分かんない」


 それに謎の圧の方が気になるようだ。


「「お姉ちゃんは?」」


「さあ、サッパリだな」


 リーシャは深く考える気はないようで適当に答えている。


「ノエルは感じるか?」


「うん、凄く圧倒的な何かを感じる」


「それが初日の出のパワーだ」


「そうなの?」


「ああ、邪気を払い生命力を活性化する効果もある」


「「「「「へえー」」」」」


「言われてみれば確かにそのような波動を感じる」


「へっ? ルーリアはん、そんなこと分かるんかいな」


「ああ、アンデッドを相手にすることが多かったのでな」


 そういやアンデッドにやたらと強いシンサー流剣術の伝承者なんだっけ。


「奴らは日の光を極端に嫌うが……んん?」


 ルーリアは怪訝な表情を見せて話を中断させる。

 唖然とした様子で固まった月狼の友に気付いたようだ。


「まさかとは思うが、ソロでアンデッドと戦ったことがあるとか?」


 恐る恐るといった感じで聞くリーシャにルーリアは困惑の色を隠せずにいる。

 どうして怖がりながら聞くのかと思っているのかもしれない。


 一方でリーシャたちにしてみればアンデッドをソロで相手にすることが信じられないはず。

 疲れも痛みもなく部分的な欠損があっても平然と動き、魔法が使えないと倒すのに苦労するからな。


「あるだろうな。専門家だし」


 戸惑っているルーリアに代わって俺が答える。


「専門家!? どういうこっちゃの?」


「アンデッドを雑魚扱いする退魔剣術があるって噂を聞いたことがないか?」


 ブンブンと首を横に振る6人に首を傾げる幼女が約1名。


「俺も直に見たことはないがシンサー流剣術と言うそうだ」


 ギギギと音のしそうなぎこちない動きでルーリアの方へと首を向ける月狼の友。


「それって、もしかしてルーリアはんのことちゃうん?」


「もしかしなくてもそうだろうな」


 何故か言葉を失ってコクコク頷いているルーリア。


「どないしたん?」


 様子がおかしいと見て取ったアニスがルーリアに問いかける。


「いや、こんなマイナー流派の剣術が知られているとは……」


 俺が知っていたことに動揺していたとは迂闊だった。


「俺、賢者だから」


 どうにかポーカーフェイスで誤魔化したけど危うくボロを出すところだったよ。


「とにかく太陽の光ってのは悪しきものを払う波動を含んでいるんだ」


「え? 初日の出だけやないの?」


「特に強いのが初日の出なんだよ」


「そうなんや」


「逆に生きとし生けるものは生命力が活性化される」


「「「「「へー」」」」」


 ルーリアも知らなかったらしく月狼の友の面々と一緒になって感心している。


「だから初日の出で強くなっている波動を一杯浴びるべし」


 俺も日の光をたくさん浴びてリフレッシュしておこう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「次は初詣だ」


「「「「「おーっ!」」」」」


 妖精組がノリノリで応じる。

 新国民組は些か置いてけぼりな雰囲気だが慣れてきているようにも見える。


「じゃあ、集合だ。飛んで行くぞ-」


「「「「「おーっ!」」」」」


「げっ! またぁ!?」


 レイナが過剰反応を見せたが、拒否まではしなかった。

 だったら、いずれ慣れるだろうってことで全員を理力魔法で浮かせて飛ぶことしばし。


「はい、到着~」


「「「「「とおちゃ~く!」」」」」


「げはぁーっ」


 キャッキャと喜んでいる妖精組とは正反対な様子で奇妙な息の吐き出し方をしているレイナ。

 先程よりも高度とかスピードに気をつけたつもりだけどトラウマになるかもな……


 レイナが落ち着くのを待って鳥居をくぐり、まずは手水舎へと向かう。


「ここは?」


 リーシャが聞いてきた。


「参拝前にお清めを行う「ちょうずや」もしくは「てみずや」と呼ばれる場所だ」


「手を洗う場所ということだろうか?」


「そうだな。あとお清めは口もすすぐ」


 そう言って手本を見せるべく姿勢を正して一礼した。


「まずは左手から」


 柄杓を右手に取って水をすくい左手に少し流す。


「なるたけ柄杓の一すくいで終わらせるのが作法だ」


 持ち替えて右手にも流してから再び柄杓を持ち替える。


「次は左手で水を受けて口をすすぐ」


「柄杓からじゃダメなの?」


 レイナが聞いてきた。

 すすいだ後の水を手で隠しつつ流してから答える。


「他の人も柄杓を使うことを忘れてるぞ」


「あっ」


 ダメな理由を理解したレイナがしぼんでいったが聞いてくれて良かったと思う。

 誰か自己流でやらかしていたかもしれないし。


「口をつけた左手に水を流して左手を清める」


 柄杓にすくった水はまだ残っている。


「柄杓を立てて柄の方に水を流し柄杓を清めてから元に戻すこと」


「そこまで気ぃ遣うもんなんやね」


 アニスが目を丸くさせて感心していた。


「最後に姿勢を正して心が乱れていないか確認してお清め完了だ」


 そして境内に向かう。

 このベリルベル神社には日本の神社と違う部分がいくつかある。

 鐘撞き堂があることも、その内のひとつだ。

 あと、ベリルママと相談して賽銭箱を設置していない。

 より純粋に迷いなくお祈りするためである。


 お賽銭の額で悩んだり奮発したけど箱に入った瞬間に後悔したりなんて雑念は不要だ。

 国民にはこれがスタンダードだから誰も違和感を感じていない。

 ルーリアだけは微妙に首を捻っていたけど前世の記憶がフラッシュバックしたのかな。

 まあ、本人もよく分かっていないみたいだからスルーしておこう。


 作法に則りお参りをして神社を後にする。


「昨日も思ったけど、変わっているわよね」


 鳥居の外に出てからリーシャが喋りだした。


「お祈りするのに鐘を鳴らしたり手を叩いたり」


 うんうんと頷く月狼の友一同。

 ノエルは無反応。

 ルーリアは小首を傾げていた。

 違和感を感じている面々に違和感を感じているというところか。


「私も最初はそうだったな」


 そう言ったのはツバキである。


「ちなみに鳴らしたのは鐘ではなく鈴だ」


「へえー、そうなんだ」


 レイナが感心しているところを見ると西方では鈴がないのだろうか?


「風変わりな鐘だと思っていたが別物だったのね」


 リーシャも感心している


「せやけど教会に行っても、あんなことせえへんで。何か意味あるん?」


「鈴を鳴らすのは邪気を払うためだ」


 アニスの疑問に答えるツバキ。


「「「「「おおー」」」」」


 新国民組が軽い驚きを見せながら感心している。

 先に説明しておくべきだったな。


「じゃあ、鈴とかいうのを鳴らした後のあれにも意味があるのか?」


 今度はレイナが疑問を口にした。


「二礼四拍一拝のことだな」


「そう、それ」


「まず二礼は神様に敬意を表するためのものだ」


「それぞれに意味があるの!?」


 そこまでとは思っていなかったようでレイナは目を丸くさせていた。


「続いて四拍だが、神様に自分が来たことを伝える意味がある」


 訪問した相手の家でドアをノックしたり呼び鈴を鳴らしたりするようなものだ。


「ここで祈りを捧げて最後に一拝して感謝の意を伝える」


「うちら形から入ってたけど、そういう意味があったんかー」


 アニスがしみじみした感じで頷いているが俺の方は微妙な気分だ。

 先に説明しておくべきだったことを忘れていたことに気付かされたが故に。


「でもー、最初から意味を聞いていたらー、手順が分からなくなってたかもー」


「「そだね」」


 大事なことを失念していた俺を逆にフォローしてくれるとはダニエラさんは優しいね。

 それに同意してくれている双子ちゃんたちも。

 ウサ耳天使に垂れ耳双子天使だよ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「朝食はお待ちかねのお節でーす」


「「「「「おおーっ、待ってましたぁ!」」」」」


「やたらと豪華ね」


 レイナが頬を引きつらせている。


「一食で食べきる訳やないて聞いたやん」


「そうだけどさぁ、こんなに大きいとは思わないじゃない」


 上から三段目までは米三昧の五段重だからね。

 一段目が彩り重視のちらし寿司。

 二段目はバラエティに富んだ具材の稲荷寿司。

 三段目はバッテラなどの押し寿司オンリー。


 残りの四段目と五段目はもちろんおかずだ。

 栗きんとん、黒豆、伊達巻き、ごまめ、昆布巻きなどのオーソドックスなものから肉料理や新鮮な野菜もある。

 重箱は料理を傷ませないよう魔道具化しているので安心安全だ。


 そして、お重以外でも作ると決めていた茶碗蒸しが皆に好評です。


「プルプルだー」


「しっとり滑らか」


「旨いニャー」


「くうくー」


 おかわりって言われても茶碗蒸しは余分に作ってないっての。


「ちらし寿司、うめー」


「この稲荷はひじきだ」


「こっちは小豆」


「でんぶが入ってる」


「バッテラ最高ぉ」


 みんな今日中に食い尽くしてしまいかねない勢いで食べている。


「三が日が終わるまでの配分を考えて食べてくれよー」


「「「「「はーい!」」」」」


 返事は素直だが箸は止まらない。

 お陰で祖母直伝の白味噌を使った自慢のお雑煮を出す予定がおじゃんになった。

 大学時代にはいつも連んでいた約2名を唸らせた自信作だったんだけど。


 そういえば……


「ちょっと、何これ」


「何って、お雑煮」


「白いわよ」


「私、知ってる。これ関西風なんだよね」


「えっ!?」


「え?」


 なんてこともあった思い出のお雑煮だ。

 いやぁ、アレは笑えたよな。

 大学生になるまで関西風だとは知らなかったんだから。

 朝食で肩透かしを食ったお陰で懐かしいことを思い出してしまったさ。


 昼にはちゃんとお雑煮を出せたけど、昼は昼でお餅を食べ過ぎてた。

 胃薬生活魔法ディジェストを連続で使うことになるとは夢にも思わなかったよ。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるとかのレベルじゃないだろう。

 まったく、世話が焼けるんだから。


読んでくれてありがとう。

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