1285 古いネタよりシンプルなのがいい
黒猫3兄弟の後は俺が提案したクジ引きで回答順が決まった。
「ゴーグルゲーマーなんてどうでしょうか?」
次に順番が回ってきた妖精組の1人が疑問形で提案してきた。
いかにも自信がなさげである。
「悪いが安直じゃな」
「真面目に考えてるだけマシだと思うが?」
「くくぅ」
保留ー、とローズの提案により暫定的にネーミング候補のひとつとなった。
「次はワシじゃ」
続いて壇上に上がったのはガンフォールである。
「では、どうぞ」
トモさんがマイクを向ける。
「ワシからの提案は、HGSじゃ」
「「「「「おおーっ!」」」」」
会場内からどよめく声が聞こえてきた。
「ちょっと格好良さげー」
「頭文字で攻めてくるとはね」
「やるなぁ、お爺ちゃん」
などと盛り上がっている。
主に妖精組の期待感が高いようだ。
「おっと、何かの頭文字のようですね」
トモさんがマイクを戻して語る。
「ガンフォールさんは切り口を変えてきました」
司会者らしい喋りが板についている。
『あれ? どこかで経験があったのかな?』
イベントはあまり行っていないから見落としとかあったのかもね。
もしくはイベントで司会の人を何度も見て吸収したとか。
『ありそうだ』
日本ではラジオ番組を持っていた訳だし。
応用は利くのかもしれない。
「それで、何の略称なんですか?」
トモさんが問いかけた。
『そこは大事だよな』
変な単語の羅列じゃ減点大だ。
再びガンフォールにマイクが向けられる。
壇上のガンフォールをキラキラした瞳で見上げる妖精組。
「うむ、ホーム・ゲーミング・システムの略じゃ」
「「「「「ええーっ……」」」」」
途端に会場内から不満の声が上がった。
声の主は妖精組である。
期待感を裏切られたってところだろうか。
『俺たちが審査をする前なんですがね』
これじゃあ、採用しづらいっての。
「シンプルすぎだよぉ」
「単純ですねぇ」
「捻りが足りないー」
「もっとゴージャスなのが良かったー」
「残念ー」
口々に不満を口にする妖精組。
どうやらパンチのある名前を期待していたようだが。
『無茶言うなよぉ……』
俺なんかは内心でツッコミを入れたさ。
ところが、文句を言われたガンフォールは意に介した様子を見せない。
「お主ら甘いのう」
むしろニヤリと笑って余裕さえ見せていた。
「「「「「どうして?」」」」」
多くの妖精たちが一斉に首を傾げる。
「奇をてらうなど邪道ということに気付かぬか」
そう言ってファッハッハと豪快に笑った。
「あそこまで自信満々だと、説得力があるな」
「くくぅくーくくぅ」
亀の甲より年の功、だって?
「ローズの言う通りじゃ。
年寄りの経験は侮れぬて」
シヅカが言った。
が、しかし……
『ガンフォールよりずっと年上のシヅカには言われたくないと思うぞ』
ローズにもな。
精霊獣としては若くても、精霊だった時の年月を加算すれば立派なロリB……
いや、何でもない。
そもそもローズに性別はないしな。
「何事もシンプルなのが良いのじゃ」
ガンフォールはドヤ顔で力説する。
圧倒するような気迫が放たれている訳でもないのに妖精組は静かなものだ。
飲まれた格好になっているか。
レベルで言えば、それを容易に成し得るほど圧倒的な差はない。
むしろ、わずかとはいえ妖精組の方が上なのだが。
『場の空気を支配できるかはレベルだけでは決まらないってことだな』
貫禄はレベルを上げるだけで身につくものにあらず。
いいことを教えてもらった気分だ。
「分かりやすく覚えやすい。
それこそ王道をいく考え方なんじゃぞ」
言い切ったガンフォールが更にドヤ顔になった。
「「「「「……………」」」」」
妖精組の面々は言葉もなく壇上のガンフォールを見上げている。
『勝負あったな』
「シンプル イズ ベストですね」
「そうじゃ」
トモさんの言葉にガンフォールが頷く。
「「「「「おおー……」」」」」
ようやく再起動した妖精組が感心している。
否定的な反応を示す者は誰1人としていなくなっていた。
『やるなぁ』
あっさりと劣勢を引っ繰り返してみせるとは大したものである。
「では、審査員の皆さんに意見をうかがってみましょう」
「くっくーくうくっくくーくぅくーくー」
とりあえず候補のひとつということで、とローズ。
「大きな減点要素はないのう。
決定的な決め手にも欠けるがの」
シヅカはそんな風にコメントした。
『可もなく不可もなくってことか』
「妾も候補のひとつじゃと思うぞ」
積極的では無いとはいえ賛成が2票。
マリカは首を傾げている。
決め手に欠けるところが引っ掛かるようだ。
フェルトからは「特にありません」のアイコンタクトが来た。
俺から言うことは特にない。
「じゃあ、候補としてキープってことで」
コメントらしいコメントが出なかった訳だ。
司会者泣かせと言える。
「んー、残念ながら決定とはなりませんでした」
残念の部分をやや強調してガンフォールに話を振るトモさん。
盛り上げようと普通に頑張っている。
『あの調子だと完全に仕事モードだな』
「仕方あるまい」
ガンフォールは特に残念がることもなく、淡々と返事をした。
「そうですか?」
それまでのガンフォールがドヤ顔だっただけにトモさんも粘る。
「ここで決めてしまうのは勿体ないじゃろ。
他に良い案があるやもしれんのじゃからな」
「なるほど、一理あります」
トモさんも納得したようだ。
「ガンフォールさん、ありがとうございましたー」
「うむ」
そう返事をして壇上から下りようとしたガンフォールが立ち止まった。
「ひとついいか?」
「なんでしょう?」
「お主にガンフォールさんと呼ばれると居心地が悪いんじゃがな」
その言葉に他の面子もうんうんと頷く。
マイカも苦笑いしている。
自分も同じような呼び方をされたからガンフォールの気持ちが分かるのだろう。
だが、司会者として中立の立場を保とうとするトモさんのこともわかってしまう。
イベント慣れしているかどうかの差が出た訳だ。
「それに喋り方も他人行儀じゃしのう」
ガンフォールは完全に苦言モードだ。
「あるぇ?」
自分のやり方が通用しなかったことでトモさんが困惑している。
助けを求めるように俺の方を見てきた。
釣られて皆も俺の方へと視線を向けてくる。
丸投げに等しいが、これは仕方あるまい。
「あー、そうだな」
どう説明したものか。
「トモさんはあえてそうしているんだ」
「何故じゃ」
「司会者は中立であるべきだからだよ」
「むぅ」
ガンフォールが唸った。
一理あると思ったからだろう。
「特に、こういう何かを決めるイベントだとな」
「うぬぅ」
更に唸るガンフォール。
理解はできるものの居心地の悪さが解消される訳ではないからだろう。
「学校と同じだよ。
公私を分けていると思えば、そこまで違和感はないと思うがどうだ?」
「うぅむ」
簡単に受け入れられるものではないようだ。
イベントは遊びだから学校とは感覚が違うのだろう。
「頭では理解できるんじゃがのう」
「あとは慣れだから今すぐは無理だよ」
「む、そうじゃな」
ガンフォールの表情からスッと困惑の色が消えた。
「邪魔したのう」
そう言ってガンフォールは壇上から下りる。
「いえっ」
呆気にとられた感じでトモさんが返事をした。
「とりあえず先に進めようぜ。
そんな簡単に慣れるもんじゃないだろう」
俺が促したことで、トモさんが我に返った。
「おおっと、司会者が進行を止めてしまってはいけませんねえ」
自虐的に言って皆の笑いを誘うことで微妙な間を埋めにかかるトモさんである。
「ガンフォールさんは惜しくも決定とはなりませんでした。
ですが、キープされるネーミング案が続いたのも事実っ」
熱を込めて喋る。
叫ぶように声を張らなくてもギャラリーが引き込まれる何かがあった。
「俄然、目が離せなくなってきました」
『さすがはプロの声優だね』
台本がなくても、盛り上げるための台詞がポンポン出てくる。
今までの経験の蓄積があったればこそだろう。
「果たしてHGSを超える名前が出てくるのでしょうか!?」
そんな風に言われると、この後の面子は気合いが入ろうというもの。
クジで順番が決まってしまっている以上は考え直す時間はないけどな。
読んでくれてありがとう。




