1284 そこまで考えていたのか
壇上からマイカが下りてきた。
既に次の回答権を得るためにジャンケンが始まっている。
それを尻目にミズキの元へと向かうマイカ。
マイカの組は回答権を失っているので慌てる様子はない。
一通り回答するまで回答権は戻って来ないからな。
全員に権利がある訳だ。
ただし、早い者勝ちだけど。
故に今回の回答権を得たチームが勝負を決めてしまうことだってあり得るのだが。
それでも動じた様子はない。
言うだけ言ったから満足したというところだろうか。
「残念だったねー、マイカちゃん」
「いやー、ダメだったわー」
粘っていた時や撃沈した直後と違ってサバサバしたものだ。
「やっぱ、サボーンは安直すぎたよねー」
『自覚があったのかよ』
思わず内心でツッコミを入れていた。
「えー、でも私も似たようなものだったよぉ」
『ミズキもかっ』
「確かひとつ目が陣転堂のファムコンプレックスをもじったファンコンパスだったわね」
「ちょっと語呂が悪かったよね」
自嘲気味に笑うミズキ。
「無理やりファムコンに近づけるためにファンコンにしたからでしょ」
「そうなんだけどー……
さすがに安直すぎたかなぁって思うのよね」
「いいんじゃないの?
私のなんてド真ん中ストレートのパクリだったし」
「でも、マスコットキャラまで考えてたでしょ」
「却下されたんじゃ勿体ないだけよ」
「でも、日傘凡史郎をオーディションで公募するとか面白そうだったよ」
『そこまで考えてたのか』
色々と工夫を凝らそうとしていたようだ。
そこだけは認めなければなるまい。
「CMのアイデアはどうかと思ったけど」
「あら、どうしてよ?」
「スケートリンクを裸足でスケーティングさせるのはねー」
ミズキが苦笑いした。
「だってサボーンを継承するんだからっ」
「CMもそうじゃなきゃって?」
「そうよ!」
『そこまで考えてたのかぁっ!?』
CMまでパクる気満々じゃないかよ。
つい先程は認めねばと思ったが、前言撤回だ。
「オーディションに受かった人が災難じゃない?
裸足でスケートリンクに降り立つなんて思ってもいないでしょうし」
「そこは魔法でカバーするわよ。
直に見たら魔力感知されてバレバレでしょうけどね。
でも、CMは映像なんだから絶対にバレっこないわ」
「あ、幻影魔法で合成するんだ」
「そんな訳ないでしょ。
リアリティに欠けるじゃない」
「えー……」
「大丈夫よ。
極薄の結界魔法で完全に冷気を遮断するから」
リアリティを追求しつつも一応は役者のことを考えているようだ。
ミズキも一応は納得したらしく、特にツッコミは入れなかった。
「こんなことならミズキの案から選んでおくべきだったわね」
皆がジャンケンしている様子を見ながら嘆息するマイカ。
「そうかなぁ?」
首を傾げるミズキ。
マイカの言葉に懐疑的な考えを持っているようだ。
「私、そんなに本気で考えてないよー?」
「それがいいんじゃない。
変に気合いが入ってると、私みたいに失敗するんだから」
『自覚はあるんだな』
「スーパーファムコンの後継機があればと妄想したのとか秀逸だったと思うわよ」
「えーっ」
『そんな妄想してたのか』
「ハイパーファムコンはダメだよー」
「どうしてよ?」
「だって略したらハイファムだよ」
「OH! それって宇宙漂着ヴェイハムのリメイクで出てきた次世代機じゃない」
「名前が被ってると減点されるだろうね」
「そっかー」
ミズキよりもマイカの方が残念そうだ。
「じゃあ陣転堂のスティックをもじったスティーブンは?」
「人の名前に変えた時点でふざけてると思われるわよ」
「あー、却下されちゃうかー……」
ガックリと肩を落とすマイカ。
しかしながら、すぐに復活する。
「じゃあさ、SCIの方はどうなのよ?」
SCI、サニー・コンパニオン・インターラクトのことだ。
「あれもプレステートのパクリだから一緒だと思う」
「じゃあ、パクリとバレなさそうな線でピューマとか」
「@リーンが出してたゲーム機でしょ。
私がすぐ分かるんだからハルくんにもバレるよ」
「うっ」
「しかも売れなかったハードで有名じゃない」
「ぐっ」
出荷台数がVガイとアートマークの間くらいだったと聞いた覚えがある。
本当かどうかは知らないが……
「縁起が悪すぎるって却下されると思うよ」
「ぐぬぬ」
畳み掛けられたマイカはタジタジである。
が、その表情は諦めているようには見えない。
『往生際の悪いことだ』
というより、自棄クソに近いのか。
「ならばエイムエイムはどう?」
「もう……」
ミズキが呆れている。
いや、俺もだけど。
「それって販売されなかった家庭用ゲーム機じゃない」
これが呆れる理由だ。
「フッフッフ、世に出なかったんだからバレないわよね」
「バレなきゃいいってものじゃないでしょ。
それに、ハルくんなら知ってるはずだよ」
「マジで!?」
驚くマイカに──
「マジで」
ミズキは真顔で頷きを返す。
「ダメかー」
マイカがガックリと肩を落とした。
同時に張り詰めていた気が抜けていく。
『マイカの意地もようやく鎮火したか』
大人しくなってくれて、なによりである。
あのまま暴走でもされたら、どうなっていたことか。
あまり考えたくない。
2人の掛け合いを見ている間に次の回答者が決まったようだ。
「おっ、黒猫3兄弟か」
やけに張り切って壇上に上がっている。
「長男ニャスケ!」
「次男ニャンゾウ!」
「三男ニャタロウ!」
「「「我らシノビ3兄弟、ただいま参上!!」」」
そして、ビシッとポーズを決めていた。
3人は御満悦であったが──
「知ってるぞー」
「見飽きたー」
「マンネリー」
ヤジが飛んできて、ガックリと膝から崩れ落ちてしまった。
衝撃が大きすぎて復活できそうにない雰囲気を漂わせている。
『そんなにショックだったのか』
「はい、じゃあ戦意喪失ってことで次の人に──」
司会を務めるトモさんが先に進めようとしたのだが。
「「「喪失してないっ」」」
即座に復活していた。
「えーと、では次のジャンケンを──」
「「「無視するニャー!」」」
3兄弟が興奮のあまり語尾がいつもと違ってしまっている。
「してはいけません」
再び崩れ落ちそうになる3兄弟。
どうにか踏ん張って、ずっこける程度で持ち堪えた。
その姿がコミカルで面白かったらしい。
皆がドッと笑っていた。
「こんなことで受けるとは」
ニャスケが唖然として受けている皆を見ている。
「恥ずかしー」
ニャンゾウが身悶えし。
「兄者、早々に発表して退散しよう」
ニャタロウが提案していた。
3人が頷き合っていた。
「「「そうしよう」」」
「あ、じゃあ発表をお願いします」
「「「俺たちの提案はバイザー5でっす!」」」
何故か戦隊っぽいポーズを取る黒猫3兄弟たち。
「こらー、アンタたち3人なんだからSUNバトラーでしょうがーっ」
マイカが吠えた。
『あー、何処かで聞いたと思ったら……』
古い特撮の戦隊ものに太戦隊バイザー5っていうのがあった。
『そういやマイカは戦隊ファンだったな』
ミズキはライダー派なので静観している。
「「「うひぃ、すんませーん!」」」
3兄弟たちは逃げるように壇上から去った。
ゴーグル型本体にかけてのネーミングのようだったが。
「えー、黒猫3兄弟は審査を待たず壇上を去ったので失格とします」
トモさんが無情のコールをした。
なんだか可哀相な気もするが、審査をしても結果は変わらなかったと思う。
「やれやれ、相変わらずの戦隊好きじゃな」
シヅカが3兄弟の方を見やりながら嘆息した。
「くくぅくーくぅくーっ?」
忍者ものじゃないけど? と首を傾げるローズ。
「動画を色々と見ている間に他の特撮にも影響されたんだろう」
俺がその疑問に答えると──
「くーくっ」
やれやれ、と肩をすくめて頭を振った。
「やれやれなのだー」
それを真似したマリカが大きく伸びをしながら大口を上げるアクビをした。
ジャンケンの待ち時間が長いせいか飽きてきたようだ。
『あー、こりゃイカンな』
仕方ないので時短を提案することにした。
「順番はクジで決めたらどうだい?」
まだ、賞品は決まってないけどダレた空気になるよりはマシである。
読んでくれてありがとう。




