1283 名前を考えよう
「賞品って何ニャ?」
ミーニャが司会を務めるトモさんに質問した。
「なーに?」
シェリーがコテンと首を傾げて追随している。
ルーシーも大きく頷いて──
「そこが大事なの」
力説していた。
「「教えて?」」
そしてハッピーとチーのダブルお願い攻撃。
『これは答えない訳にはいかないよな』
子供組の要請をスルーしてしまうのは危険だ。
皆の興味が一気に失われるばかりか、批判的な反応さえ考えられる。
「おおっと、さっそくその質問が来たーっ」
トモさんのその返しにドッと盛り上がる。
「司会の経験がないと聞いたが、なかなか盛り上げるではないか」
「くーくぅ」
やるねえ、と腕組みしてうんうんと頷くローズ。
「賞品の方が気になるよ?」
不思議そうに聞いてくるマリカ。
「ゴロゴロゴロゴロ」
シーダは、美味しいものだといいのにと喉を鳴らす。
「さて、何だろうな?」
事前に取り決めなどはしなかった。
碌に相談する時間さえなかったからな。
今から話し合う時間などありはしない。
トモさんがトモさんの裁量で決めなければならない訳だ。
そう考えると、あの返しは盛り上げるためという意味から少しズレが出てくる。
その意味合いも確かにあるが、時間稼ぎの割合の方が多いはずだ。
トモさんがチラリとこちらを見たので頷きを返しておく。
これで確信した。
『何も考えずに賞品って言ったんだな』
行き当たりばったりもいいところだ。
賞品は未定なまま、それを感じさせずに盛り上げる方へ空気を変えたのは見事だが……
『さあ、どうする?』
猶予の時間はわずかだ。
あまり引き延ばすと訝しがられる。
もちろん白ける元でもある訳で。
「何が賞品かはお楽しみ~」
「「「「「え─────っ」」」」」
皆からブーイングが起きる。
が、雰囲気が悪くなる感じではなかった。
『上手く逃げたもんだ』
皆の興味を引きつつ場の空気を悪くすることもない。
タイミングが悪いと勘繰られただろうがね。
間を置かずに答えたのが良かった。
などと考えていたら──
「というか、俺も知らないんだよね~」
爆弾発言をしてきた。
「「「「「え─────っ!?」」」」」
今度の「えーっ」は純粋な驚きが大半だ。
俺も思わず叫んでしまうところだったからな。
それは想定外だ。
そして、嫌な予感がヒシヒシと迫ってくる。
「優勝が決まったらハルさんから発表があるぞー」
『トモさんめ!』
嫌な予感通りの発言だった。
お陰で叫ばずには済んだけど。
不意打ちだったら完全に叫んでいたはずだ。
完全に丸投げだからな。
さすがはエリーゼ様の息子として生まれ変わっただけはある。
いや、元からそういう気質はあったか。
『シャレになってねー』
今度は俺が考えないといけない訳だ。
皆の視線が一斉に集まる。
【千両役者】を使ってニコニコしながら小さく手を挙げておいた。
考える時間がなかったらどうなっていたことかと戦々恐々としながらね。
タイムリミットはあるが、今すぐではない。
ただし──
『その分だけ期待感が跳ね上がる気がするんだよなぁ……』
という恐ろしい状況が俺の中で積み増していく。
中途半端な賞品は最後の最後で白けさせることになるし。
責任は重大である。
「くくぅ」
頑張れ、だって?
『簡単に言ってくれるじゃないか』
「さあ、皆で考えよう!」
トモさんが皆の意識を引き戻した。
俺が動揺した姿を見せたらヤバいと思ったんだろうな。
「ソロでもチームでも構わないよっ。
審査員はハルさんと愉快な仲間たちだー」
「ちょっ、おいっ!」
さすがにツッコミどころだろう。
俺に考える時間を与えないつもりか。
「ハッハー!
司会の独断で決めさせてもらった。
審査員からの異議は認めず却下スルー!」
「誰が愉快な仲間じゃ」
文句をいいながらもまんざらではなさそうなシヅカ。
「くーくーくぅ」
愉快な仲間ー、と諸手を挙げて喜ぶローズ。
「なかま、かまかま、おなかまだー」
「ゴロゴロ!」
マリカやシーダも同じように喜んでいる。
これでは異議を唱えることさえできやしない。
そんなことをすれば俺が悪者だ。
『策士だな、トモさん』
俺は完全にぐぬぬ状態だ。
これはゲームの1時間縛りを根に持っているか?
『まったく、もう』
ちゃんと奥さんのことを考えないと愛想を尽かされるぞっての。
あとでフェルトに釘を刺すように言っておこう。
いかにゲームが絡んでいるとはいえ大人しくなるはずだ。
たぶん……
それよりも現状が緊急事態であることは確定的である。
審査しながらその賞品を考えろとか無茶振りもいいところだからな。
しょうがないので【多重思考】で緊急招集をかけた。
『『『『『審査員だな、任せろ!』』』』』
『なんでだっ、そっちは俺じゃないとできないだろうが』
『『『『『冗談だ、少しは落ち着け』』』』』
『冗談かよ』
もう1人の俺たちにまで振り回される始末だ。
「さあさあ、バンバン受け付けるよー」
トモさんの司会する声が聞こえてきた。
「早い者勝ちだー」
「なんだとぉーっ!?」
そんなことされたら一瞬で決まる恐れまであるだろうが。
さすがに却下だと思ったが……
「「「「「はいはいはいはいはいっ!」」」」」
ノリのいい面子のお陰で反論の隙を与えてもらえなかった。
さらに、ぐぬぬ状態が積み上げられる。
こうなれば大人しく賞品を何にするか考えるしかあるまい。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
もう1人の俺たちが賞品で頭を悩ませている間、回答権の争奪が行われていた。
「「「「「さっいしょは、グー!」」」」」
ぶっちゃけ、ジャンケンである。
「じゃんけんポン!」
数が多いので簡単には決まらない。
「あいこで、しょっ!」
「あいこで、しょっ!」
「あいこで、しょっ!」
『続くなぁ……』
しかも順番決めではない。
1回ごとに回答者を決めていく方式のようだ。
これはラッキーかと思ったが、そんなに甘くはなかった。
皆が一喜一憂するたびに大きく歓声が沸くからだ。
いまひとつ集中できないらしい。
まだ、審査対象が提示されていないので俺も考えているけど確かに考えづらい。
戦闘中の喧噪とはまた違う感じだからな。
それに本気でやり合う感じじゃないせいか集中しづらくもある。
もう1人の俺たちが黙り込んでいるのも、そのせいだろう。
『どう考えても言い訳くさく感じるもんな』
『『『『『……………』』』』』
そうこうするうちに……
「やったー!」
最初の回答者が決まったようだ。
誰かと思ったらマイカである。
「では、ジャンケンの勝者の方は壇上にどうぞ!」
トモさんの誘導でマイカが壇上に上がった。
「最初の回答者はマイカさんでーす」
ワーッと歓声が上がりパチパチと拍手が湧き起こる。
「あー、どぉーもー」
「それではマイカさんの考えたゲーム機の名称をお願いします」
マイクを向けられたマイカは──
「我々が考えたのは……サボーンでぇす!」
「却下だ」
審査員で協議するまでもなくって感じだな。
「なんでよー!」
「それスガのゲーム機の名前じゃないか」
スガ・サボーンはゲーム機メーカーだった頃の株式会社スガの傑作機だ。
ライバルには一歩及ばず苦戦を強いられていたが名機であることに違いはない。
菅沢盆史郎をイメージキャラクターにしたCMの方が何かと取り沙汰されたけど。
「往年の名機の復活劇よ!」
『そういや、マイカはスガファンだったな』
「見た目とか全然違うだろ」
「じゃあ魂の後継機ってことで、サボーン・タイプ8で」
何故か古いゲーム機であるタイプ3と合体させたような名前にしてきた。
数字がかなり増えているが……
『あー、開発コードか』
マスタングステムとオメガドリブルの開発コードがタイプ4と5だったはずだ。
開発コードに数字がついているのはそこまでだが、次世代機はあと2機種ある。
サボーンが6で、その次のドリップキャスターが7だとすると勘定は合うのだが。
「やっぱり変だろ」
「なんでよーっ!
せっかく日傘凡史郎ってマスコットまで考えてたのにぃーっ」
「……ヒガ・サボーンしろって言いたいだけだろ」
「うっ」
図星を指されたとばかりにマイカが思いっ切りたじろいでいた。
「スガとヒガが似てるからって安直すぎ」
「そうじゃな。
それに他の者がマイカの思い入れについて行けんじゃろ」
シヅカが別の理由も出して却下してきた。
「くー」
却下、とローズも言っている。
「3人の却下が出ました。
残念ながらマイカさんのネーミングは不採用です」
「あうぅっ」
トモさんの宣告にマイカはあえなく撃沈されてしまった。
読んでくれてありがとう。




