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1281 言い訳タイムが終わればお披露目が待っている

 どうにも形勢が不利だ。

 皆の思い込みが激しい上に援護がない。


 ノエルは幸せそうに食事中だし。

 いや、俺たちも食事中なんだけど。

 話題への意識の向け方に差があるというか。


 とにかく援軍は食べ終わるまで期待できそうにない。


『自力で俺が仕事の虫ではない証明をしなきゃならんのか』


 思った以上に大変だ。

 誰かが証言してくれれば、それだけで皆の意識も変わる可能性があるからな。


 特にノエルならば信用度が高い。

 俺自身が違うと言うだけよりも遥かに信じてもらえそうだ。


 まあ、待ち人は来たらずということは確定している。

 来ない援軍を待ち焦がれるだけでは形勢は逆転できない。

 なんとか頑張るしかないだろう。


「しょーがないだろう。

 微妙な退屈加減だったんだから」


 こういう時は正直かつストレートに言うのが一番だ。

 変に取り繕っても後でボロが出るだけである。


「何よ、それ?」


 レイナが怪訝な表情で聞いてきた。


「外に出かけるほどの気力はないけど、ゴロゴロしてるだけなのは耐えられない感じ」


 多くの面々は顔を見合わせたり考え込んだりしている。


「分かりますか?」


 ふとマリアの方を見ると隣席のエリスに尋ねていた。


「微妙なところね」


 エリスは苦笑しながら返事をする。


「分かるような、そうでないような」


「はあ……」


 まったく理解できないであろうマリアでは余計に分からないようだ。

 そして、それは他の面々も同様なようで……


 グルッと見渡してみたが、似たような会話があちこちで行われていた。

 先程の言葉では伝わらなかったようだ。


「うぅむ」


 思わず唸ってしまう。

 自分の唸り声で某レトロSTGの悪役を思い出してしまった。


 唸った後は「今日のところは引き上げだ」とか言うんだよな。

 捨て台詞が「ワシは諦めぬぞ」だったり。

 俺の方はそうはいかないんだけど。


 ちなみに、この悪役は本当にリベンジに来ている。


『他にどう言えばいいんだ?』


 上手い例えが思いつかない。

 ならば俺の心境を分かる面子に聞くのが良いだろう。

 そう思って一緒にゲームで遊んだ面々の方を振り向こうとしたのだが……


「「そういうことだったんだー」」


 意外にも納得した者たちが約2名ばかりいた。

 ミズキとマイカである。


『意外ではないのか』


 家庭用ゲーム機に慣れ親しんだ元日本人だからな。

 大学時代は3人でよく遊んだものだ。

 長期休暇の時などは合宿と称して人の部屋に泊まり込みに来てやり込んだほどである。


 当時は年頃の女子がそれでいいのかと思ったものだけど。

 交代で仮眠を取りながらロープレのレベル上げとか普通にしてたし。

 格ゲーの対戦で完徹したときは3人そろって突っ伏すように寝落ちしてた。


 それで何もなかったと言っても誰も信用しなかっただろう。

 口外するようなことはなかったがね。

 俺たち3人の付き合いはそれだけ濃かった訳だ。


 他の付き合いもない訳じゃなかったが、そこには明確な差があった。

 まあ、男女の付き合いじゃなくて友達としてだけど。

 親友か知人レベルの友達か。


 当時から線引きされているなと感じていた。

 少なくとも形の上ではね。


 当時の2人の心境は複雑なもののようだったけど。

 今となっては笑い話である。


「微妙なダレ加減だった訳ね」


 マイカの表現も、これまたフンワリしている。

 分かっている者にしか理解できない感じだ。


「既に溶け始めているアイスクリームみたいな感じだね」


 だからといってミズキの例えはどうかと思うが。

 具体的なようで分かりづらい。


 中途半端だと言いたいのだろうけど。

 独特の感性に基づいたものであるのだけは確かだ。


 現にリオンなどは首を傾げている。


「分かる? お姉ちゃん」


「いや、どうかな」


 聞かれたレオーネも苦笑しながら頭を振っていた。


「分かるような分からないような」


『やっぱり、そうだよな』


 そんな中で──


「微妙な感じなんですね」


 なんて言いながら、フンフンと頷く面子もいたけれど。

 ちょっと驚きだ。

 まさか、あれで理解されてしまうとは!


 ちなみにクリスである。


「分かるのですか?」


 ギョッと目を見開いてマリアが問うた。


「えーっと、なんとなくですけど」


 ニッコリ笑って頷きを返す。

 唖然とするマリア。

 それを見て苦笑するエリス。

 黙々と晩御飯を食べているABコンビ。


 どうやらABコンビは理解することを諦めたようだ。


『いいけどね……』


 サンマ定食、旨いし。

 2人も幸せそうに味噌煮バージョンのサンマを食している。


 一方で……


「あかん、うちには微妙すぎて分からんわ」


「私もー」


 ツッコミコンビであるアニスとレイナも理解不能。

 そんな2人を見て──


「えー、そうですかー?」


 コテンと首を傾げるダニエラさん。

 それだけで胸元がポヨンと揺れる。


『眼福ぅー』


 至福の時間が訪れた。


 が、あんまり見てると周りに何を言われるか分かったものじゃない。

 ガン見は禁物です。


 残念だが、すぐに視線を外した。

 何人かには気付かれてたけどな。

 特に何も言われなかったのでセーフだったと思いたい。

 タイミング的にはアウフかもしれないので自重は大事であろう。


 なんにせよ、理解できるのは少数派であった。

 そう簡単に形勢逆転とはいかない。

 結局、晩御飯が終わっても俺が仕事の虫であることを否定することはできなかった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 皆の説得を諦めて食後のお茶を啜っていたときのことである。


「それで、その家庭用ゲーム機ってのはどんな感じなのよ?」


 レイナが聞いてきた。

 瞳がらんらんと輝いていて興味津々といった空気を発している。


 まるでネコ科の肉食獣を思わせるかのようだ。

 まあ、レイナは猫系ラミーナだから印象としては間違ってないんだけど。


 問題は──


『そんなに食いつく要素があったっけ?』


 ということだ。


「本体はこういう感じだ」


 倉庫から引っ張り出して理力魔法でスーッと送り出す。

 それを受け取ったレイナが、色んな角度から眺め始めた。


 ただし、動かすのはゲーム機の方だ。

 その動作は猫がボール遊びをするところを彷彿とさせた。

 かなり夢中になっている様子である。


『遊ぶ前からそれかよ』


「なんで、そないグルグル動かすねん」


 呆れた様子でアニスからツッコミが入った。


「もっと落ち着いて見られへんのかいな」


「いいじゃない、別に」


 レイナは意に介さずといった感じで観察を続けている。

 返事をするだけマシなのかもしれないが。


 処置なしといった感じで嘆息するアニス。

 とはいえゲーム機には興味津々といった感じだ。


 そんな訳で皆にもゲーム機を配った。

 こんなことで取り合いの喧嘩に発展してもバカバカしいのでね。


 もちろん、錬成魔法でコピー済みだ。

 ここにいる面子の数を用意するくらいは【多重思考】とのコンボですぐに終わるしな。


「もしかしてVR式なの?」


 さっそく手に取ったミズキが聞いてきた。


「もしかしなくてもVR式だぞ」


 俺の返事に軽く目を見開くミズキ。

 その表情から察するに「今更?」と言いたいのだろう。


「でも、表示は網膜投影みたいよ。

 何にもゲームは流れてないと外の様子が見えるようになってるのね」


 さっそく装着したマイカが言った。


「装着感はあるけど重さは感じないし」


「「ホントだー」」


 マイカの言葉に釣られるように装着したメリーとリリーの双子たちが同意した。


「これは安全性確保のためのようだな」


 そう言ったのは続いて装着したルーリアだ。


 ちょっと意外かもしれない。

 こういうのに食いつくタイプじゃないと思っていたからな。


 それだけ興味があったということなんだろう。


「これは家庭用ゲーム機の設置場所を気にせず遊ぶためか?」


 自問するようにリーシャが呟く。


「正解」


 俺がタイミング良くそう言うと、慌てた様子でリーシャがこちらを見た。

 頷きを返すと、ばつが悪そうに口元を歪めている。

 返事があるとは思わずに驚かされたといったところだろうか。


 気にするなと小さく頭を振ったが、恥ずかしそうに俯いてしまった。


『これは密室内に1人でいるように感じていたのかもしれないな』


 外の様子は見えているはずなんだが。

 どうやらゴーグル型の本体の装着感がそう感じさせているっぽい。


『もしかしてコクピット感覚なのか?』


 それなら頷けるかもしれない。

 このあたりは改良の余地ありだろうか。


 狭い空間に押し込められると饒舌になるタイプもいるからな。

 状況によっては恥ずかしいことになりそうだし。


 ただ、意外に難しい問題だ。

 装着感を消してしまうと、そのままで外を出歩きかねないし。


『恥ずかしい人だろ、それ』


 それだけなら本人が恥をかくだけだ。

 本当にマズいのは西方でそれをやってしまうことだろう。


『目隠し状態で歩き回れば、魔道具だとバラしているようなものだしな』


 そう考えると、迂闊に装着感を薄めることすらできない。

 当面はこのままにしておいた方が良さそうだ。

 慣れれば独り言を言うことも減っていくだろうし。


読んでくれてありがとう。

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