1280 夕食時なのに追求される
今宵のメニューはサンマ定食。
塩焼きしたサンマの香りが食欲をそそる。
箸で丁寧に身をほぐして御飯の上に乗せてパクリと一口。
「う~ん、脂が乗っててサイコー!」
ジュワッと口の中に拡がっていく味と香り。
ハーモニーが絶妙である。
脂っこくて苦手って人もいるけどね。
そういう面子には味噌煮にして出している。
『たまらんな~』
大根下ろしで口の中をサッパリとリセットさせてリトライ。
「くぅ~っ」
思わず何処かで聞いたような唸り方をしてしまう。
「むむっ!」
すかさず反応するトモさん。
しかも、今の言い方は素のトモさんではない。
物真似モードのスイッチが入ってしまったようだ。
「そうなんです。
サンマなんです。
脂が乗ってて旨いんです!」
喋り方はコピーできている。
声の感じは似ているとは言い難いから本人は失敗したって顔をしているけど。
「コンボで物真似?」
マイカがパクパク食べながら苦笑している。
「楽園カードのCMに出てくる楽園カード男の人だね」
ミズキが回りくどい言い方をしていた。
「タレントの神楽陣栄ね」
「もうっ、マイカちゃんは身も蓋もないんだから」
てな感じで賑やかに晩御飯は進む。
そこまでは良かったのだが。
「ところでハルくんは何処にいたの?」
ミズキのこの一言で雲行きが怪しくなり始めた。
「そうね」
少し鼻息を強めにしたマイカが同意している。
「言っとくけど、屋内施設は見て回ってるからウソ言ってもバレるわよ」
『そんなことだろうと思った』
「用事があるなら電話してくりゃ良かったのに」
「あ……」
どうやら気付いていなかったらしく、ショックを受けて固まってしまった。
それを見たミズキは──
「だから、そう言ったはずなのに」
的な顔でマイカを見ていたが。
この様子を見る限り、ミズキは気が付いていたのだろう。
もしかすると指摘もしていたかもしれない。
生憎とマイカの耳には届いていなかったようだが。
ただ、ミズキはそれを今ここで言ったりはしなかった。
追い打ちをかける形になるのが危険だと理解しているからだ。
さすがは幼馴染み。
地雷ポイントは的確に回避している。
ならば、俺もスルーさせてもらう。
お笑い芸人ではないからな。
それと分かっている罠に突っ込んでいったりはしない。
「それで、ハルくんは何処にいたの?」
「部屋だぞ。
見に来なかったみたいだが」
「トモくんに頼んだんだけど……」
困惑した表情でトモさんを見るミズキ。
その目は──
「報告はどうしたの?」
と問うていた。
つまり、トモさんは単に遊びに来ただけではなかったのだ。
そんな話は一切出なかった。
「おい……」
それで連絡を怠るのは感心しない。
「テヘペロ」
ちゃっかりポーズまでつけている。
「すみません、すみません」
ペコペコと謝るフェルト。
トモさんが依頼されていることを知らなかった模様。
『メールで頼まれたってところか』
まあ、今更の話である。
追及したところで、どうにかなるものでもないしな。
ミズキはしょうがないと言いたげに嘆息していた。
それで切り替えたのだろう。
「いないと思ったら部屋にこもってたの?」
特に含みもなく聞いてきた。
確認するためだろう。
「ああ」
普通に返事をしたつもりだったのだが……
「居場所くらい言っといてよ」
とマイカが抗議してきた。
プウッと頬を膨らませている。
口の中に食べ物を詰め込んでいるからではないのは、先程の流れから明らかだ。
「そんなこと言われたってなぁ」
自由行動なんだから文句を言われる筋合いはないと思うんだが。
「昨日と同じミスをするんじゃないかと冷や冷やしたわよ」
どうやら何度か露天風呂を覗きに行っていたらしい。
心配させてしまったようだ。
それは申し訳ないことをした。
「ミイラ取りがミイラになるところだったね」
ミズキの口振りからすると、何度も温泉に入っていたようだ。
で、逆上せたと。
「まったくだわ」
プリプリと怒っているマイカである。
「……………」
『そこまでは知らん』
俺の申し訳ないという気持ちを少し返してくれと言いたくなった。
なんだか八つ当たりされている気分になったからだと思う。
「済まない」
そう謝ったのはルーリアであった。
「別れ際に尋ねておくべきだったな」
「そうね、最後に顔を合わせたのは私達だったみたいだし」
頷きながらそう言ったのはリーシャである。
「ごめんなさい」
ノエルなどは何も言い訳せずに謝っていた。
「いやいや、ノエルちゃんが悪いんじゃないのよ」
慌てた様子で止めようとするマイカ。
まあ、謝った後では止めようがないのだが。
「ちょっとぉ、ハルの責任でしょー」
居たたまれなくなったのか俺に矛先を向けてきた。
「俺かよ」
無茶苦茶である。
「それはともかく何をしていたのかしら?」
ナイスタイミングで話題を逸らせてくれたのはエリスである。
実にありがたい。
やはり人生経験が……ゲフンゲフン。
『うひー』
一瞬、背筋が凍るかと思いましたよ?
念話も使っていないのに何故だ。
しかも年齢のことをストレートに考えた訳じゃないってのに。
なんだかジワジワと寒気がしてるんですがね?
『優しいお姉さん、ありがとう』
試しにそう念じてみたら寒気がスッと引いた。
くわばらくわばら。
「暇だから家庭用ゲーム機とソフトを作ってた」
だが、一難去ってまた一難。
俺が返事をした途端に周囲の空気が変わってしまった。
ガクブル状態になるような感じではないのだが。
『なんなんだよー』
「「「「「じ─────っ……」」」」」
いや、実際に聞こえている訳じゃない。
そんな気にさせられる微妙な空気なのだ。
生暖かい目というか残念な視線というか。
ほとんどの面子が、そんな風に見てくるのである。
返事をする前と視線が変わらないのはトモさん夫婦と守護者組くらいのものだ。
『俺が何をしたってのさっ』
トモさん夫婦は皆の視線が集まる俺を見て苦笑しているし。
守護者組の面々などはウンウンと頷いている始末だ。
『納得するのかっ』
ツッコミを入れたくなったが、やめておいた。
嫌な予感がしたからなのは言うまでもない。
具体的に言えばツッコミ返しがありそうな気がしたのだ。
余計な言葉を付け足してカウンターになるなど御免被る。
まあ、既に藪をつついた後みたいなものなんだけど。
蛇は思わぬところから出てきた。
「お主は本当に仕事が好きじゃな」
指摘してきたのはガンフォールであった。
「なんでだよ。
仕事じゃないって」
そう言って反論したのだが……
「「「「「どこが?」」」」」
一斉に反撃を受けた。
責めているような口調ではないんだけどね。
普通に分からないと言われている感じだ。
だからこそ逆に責められている気がしてならない。
そう思われるのは心外だからな。
俺としては──
「歴とした休暇中の遊びの一環だぞ」
そういうつもりでしかないのだ。
暇つぶしに家庭用ゲーム機が欲しくなったから用意しただけのこと。
だというのに……
「「「「「え─────っ……」」」」」
実に疑わしいという声音で反応された。
もちろん、視線も相応のものだ。
「解せぬ」
「解せないのはこっちの方よ」
すかさずレイナのツッコミが入った。
「せやで、大人しゅうしてるんか思とったらこれやねんから」
アニスもそれに続く。
そして、コクコク頷くノエル。
『ノエルまでっ!?』
些かショックを受けてしまったさ。
が、よく見るとノエルの視線はサンマ定食にロックオンしたままだ。
幸せそうに黙々と食べている。
ゆっくり味わいながら食べているせいか、どこか上の空であった。
『気に入ったようだな』
なかなか美味しそうに食べてくれている。
『じゃなくてっ』
セルフツッコミを入れている場合ではない。
ノエルが食べ終わるまでは援護の支援砲撃も期待できない。
こんな形で足止めされるとは思わなかった。
まあ、夕食のメニューを決めたのは俺なんだけどさ。
こういうのも自業自得って言うのかね?
読んでくれてありがとう。




