1279 どんだけゲームがしたいんだよ
ミズキの特撮好きの話が終わった後は再びゲームをやった。
まあ、すべてのラインナップをクリアとはいかなかったけどね。
どれも軽くプレイするだけだったんだけど。
最終的に夕食の時間となってタイムオーバー。
「どんだけ開発したんだよ」
さすがにトモさんも苦笑いしている。
「うーん、当面は開発しなくても大丈夫なくらいには」
「おいおい」
「でなきゃ、あんなニッチな格ゲーが出てくると思うかい?」
「あー……」
遠い目をするトモさんである。
トラウマレベルではないが、インパクトは相応にあったようだ。
「うん、そうだね」
特に迷うでもなく納得してくれた。
思い出したことで苦笑交じりの返事になりはしたけれど。
「でも、楽しかったですよ」
フェルトは満面の笑みだ。
「特にゴルフとテニスが面白かったです」
聞いてもいないのに、どれが良かったかまで教えてくれたさ。
積極的に喋ってくるくらいには楽しんでもらえたようで何より。
「それは重畳」
ちなみに、どちらもモーショングリップを使って体を動かすタイプだった。
そういうタイプの方がうちの国民には受けるかもしれない。
「ボウリングまであるんですね」
リアルであるんだったら必要ないと思ったのかもな。
「フフフ、甘いね。
あんパンに蜂蜜を山ほどかけたより甘いよ」
例えが胸焼けしそうで微妙だけど。
「どういうことでしょうか?」
「ボウリングがしたい時にボウリング場が混み合っていたらどうする?」
「あ、そういうことですか」
「他にも外に出かけたくない時とか」
「それは不健康すぎませんか?」
「じゃあ、風邪を引いたけど寝込むほどじゃない時で」
「ピンポイントですね」
「それは認める」
自分で言ってて思ったし。
「好きな時に練習できるというメリットもある」
「そうですね」
何を思いだしたのか、フェルトが苦笑していた。
「何か問題があったか?」
ゲームの完成度を高めるためにもぜひ聞いておきたいところだ。
「いえ、問題はありませんよ」
「?」
「凄くリアルだったなぁって」
「そうか?」
体を動かすゲームは部屋の景色も見えるようにしてあるのだ。
その分だけリアリティは失われてしまう。
『あんまりリアルにし過ぎると怪我の元だからなぁ』
壁や柱に衝突したり。
家具などに足をぶつけたり。
足の小指をガツッとやっちゃうとシャレにならんくらい痛いもんな。
そういうことにならないように工夫はしてあるのだ。
見えていても、つい体が動いてしまうなんてこともあるだろうし。
そういう時は風魔法と理力魔法の併用でやんわり止められるようになっている。
「ボウリングのボールを持った感触まで再現されていたじゃないですか」
「あー、あれは凄かったよね」
トモさんも少し熱が入った感じで同意する。
「まさか、変形するとは思わなかったよ」
錬成魔法を仕込んであるのでね。
形状記憶コントローラーってところだ。
「ボールを変えると重さも変わったし」
魔法が封印されているセールマールでは考えられないことだ。
が、ここはルベルスの世界。
魔法が使える訳で。
加重を変化させるくらいはお茶の子さいさいなのだ。
「まさかコントローラーを放り投げるのがありだとは思わなかったよ」
「それをしないとボウリングのリアリティが薄れるだろ」
「いや、そうなんだけどさ」
トモさんは苦笑している。
日本人だった頃の常識に囚われてしまっているのだろう。
こういう系統のゲームをする時はコントローラーを放り出すなんて考えられないからね。
メーカーは必ずストラップを使ってくださいとマニュアルに記載しているくらいだし。
一時はテレビCMで何度も注意喚起していたほどだ。
コントローラーのすっぽ抜け事故が何度かあったからとは聞いたけど。
そういうこともあって、絶対に手放さないというのが常識として染みついているようだ。
「心配しなくても安全設計は何重にもしてあるよ」
手から離れて人や物にぶつかりそうになった場合は理力魔法で止めるようになっている。
これは操作していた人物も含まれる。
操作中に転倒しかけて、なんてことも考えられるからね。
負荷が大きくて簡単に止められない場合は倉に入って勢いを無くすようにもしてあるし。
人の方はそこまでしないけど、風魔法でクッションを入れたりはする仕様だ。
それでも怪我をしたら即座に治癒魔法が発動する。
魔力はプレイヤーから供給されるようになっているのでバッテリー切れの心配もない。
プレイヤーの魔力が著しく減少した場合はゲームが待機モードになる。
ゲーム機本体で増幅されるようになっているので、まず考えられないことだけど。
「そうだった」
説明はしてあったんだけど失念していたようだ。
「ところで、トモさんはどれが良かった?」
「どれも良かったよ。
久々にゲーム三昧で楽しかった」
「ベストだと思ったのは、どれだい?」
「うーん、難しいなぁ」
トモさんは即答できないようだ。
「どれも良く出来てるんだよね。
もう少しプレイ時間が長ければ、サクッと答えられると思うんだけど」
「あー、そういうのはあるか」
さわりの部分だけプレーしたんじゃ決めづらいってのはあるかもね。
「明日またやればいいさ」
「晩御飯の後にやらないのかい?」
トモさんが誘うように問いかけてきた。
やる気満々である。
だが、俺は二の足を踏む。
「程々が一番だよ」
「えー」
俺の返答にトモさんは些か不満げだ。
「昨日、2人で痛い目を見たばかりじゃんか」
そうは言ってみたものの……
「あれは極端な例だと思うんだが」
簡単には諦めない。
『懲りてないなぁ』
俺は内心で苦笑する。
「このまま晩御飯の後にやり始めたら完徹もあり得るぞ」
そう言うと、フェルトの目がスウッと細められた。
途端にトモさんがアタフタと慌て出す。
俺は知らなかったが、どうやらフェルトは怒らせると怖いようだ。
普段は控えめで大人しいんだけどな。
ちょっとレアかもしれない。
まあ、トモさんを心配しているが故の反応なんだと思う。
「いやいやいやいやいや、そんなことはないと思うんだが?」
諦めが悪いトモさんだ。
その割にガクブルと震えているけど。
『どんだけ「いや」を言うつもりだよ』
内心でツッコミを入れつつも、こっちは特に慌てることはない。
最初から抑制すべく説得してたつもりだし。
だからか、フェルトの矛先はこちらを向いてはいない。
俺にも矛先が向けられていたら、きっと今頃は震え上がっている気がする。
「そんなにゲームがしたかったんだ?
日本に行けば、いくらでもできただろうに」
「向こうは忙しくてね。
そういう余裕がないんだよ」
「あー、そうだったのか」
こっちじゃノンビリできる時間があってもゲームがなかった。
向こうはゲームがあるけど余暇が作れない。
今までは、そういう歯がゆさを感じる状況だった訳だ。
一般人ならそういうこともなかったんだろうけどね。
が、トモさんは自他共に認めるようなゲーマーだ。
耐えがたい苦痛だったに違いない。
だからゲームをできない気持ちは理解できる。
『ゲームがこっちでもできるようになるなら、遊び倒したくもなるか』
ただし、限度というものがある。
「気持ちは分からんでもないが、奥さんに愛想を尽かされてもいいのか?」
そう問うと、トモさんはピタリと静止してしまった。
「ソレハイヤデス」
何故か喋りが変になっている。
我々は宇宙人だ的な感じだ。
ネタが古いものの、他に例えようがないから仕方がない。
「ふざけている場合じゃないと思うけどな」
俺の言葉にフェルトが頷いていた。
「小学生じゃないんだからさ。
明日まで我慢しようぜ、トモさん」
そう言うと、嘆いているのがありありと分かる表情になった。
『そこまでかよ』
どれだけゲームに飢えていたんだか。
「でないと、ゲーム禁止令が出るかもよ」
「ぐわぁーっ」
とうとうトモさんは頭を抱えて仰け反ってしまった。
ジレンマを感じているようだ。
つい先程の言葉ではないが、本当に小学生みたいな感じに見えてしまう。
ここまで来ると、想像を遥かに超えているんですがね。
フェルトも同じように感じているのか、呆れと困惑が入り交じった顔をしていた。
「明日まで我慢すればいい話じゃないか」
「うううううっ」
唸り声を上げるトモさん。
別に威嚇している訳ではない。
むしろ半泣きの顔だ。
『そこまでかっ!?』
「飯食って風呂入って寝てしまえば、すぐだろ?」
「ううっ」
トモさんは唸りながら大きく頭を振ってきた。
『子供かっ』
小学生どころの話ではない。
幼児レベルである。
ゲームの禁断症状が退行現象を引き起こしたとでも言うのだろうか。
訂正しよう。
理解できると思ったが、どうやら過小評価が過ぎたようだ。
そこまでとは考えていなかったさ。
「1時間だけだぞ」
言った途端にパアッと表情が明るくなった。
無言でしきりに頷く。
声を出すことを忘れてしまったかのように。
『そんなに嬉しいのか』
だが、譲歩案は厳守しなければフェルトが納得しないだろう。
ゲーム本体に新機能を追加することになるけど。
『タイマー入れて強制的に明日まで止まるようにしておくとしよう』
読んでくれてありがとう。




