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1276 テストプレイヤーはレースゲームの夢を見るか?

 程なくしてゲーム機は完成した。

 したんだが……


「どうしてこうなった」


 本体をタワー型にする予定がゴーグル型になってるし。

 きっかけはシヅカの言葉だったかもしれない。


「主よ、何をしておるのじゃ?」


 俺がビシッと硬直しているのが気になったのか声を掛けてきたのだ。

 作業を始めた途端にデレンとダレた状態から雰囲気が変われば気にもなるよな。


「こんな感じのを作ってる」


 幻影魔法で完成予想図を見せながら作業を続けていたが。


「これは何じゃ?」


「家庭用のゲーム機」


「ふむ、羽のように両側が開く部分は?」


「そこはモニターだな。

 対戦用に2面は通常サイズの画面を確保できる」


「これでは大勢で楽しめぬではないか」


「家庭用ゲーム機だからな」


「何を言う。

 家庭用だからじゃ」


 大勢で楽しめないと言いたいのだろう。


「あー、まあそうか……」


 うちは奥さんが大勢いるからな。


 てな感じで仕様変更することになった訳である。

 最初はモニターをゴーグル型にして本体とペアリングするタイプだった。


 が、これにも物言いがついた。


「この大きいのはどうにかならぬか?

 無駄に場所を占拠するのはどうかと思うぞ」


「これ、ゲーム機の本体なんだけど」


「主が作るにしては無駄に大きいのう」


 言われてみれば、その通り。

 モニターを大きくするために本体も大きくしたのだ。

 そのモニターがゴーグルタイプとなった今、シヅカの言うことの方が正しい訳で。


「それもそうか」


 こんな感じで再び仕様変更となった。

 そして現在に至る。

 至るんだが……


「どうしてこうなった」


 大事なことではないが2回目です。


 それはドーンと目の前に置かれた流線型のシートのせいだ。

 スポーツカーなどで使われるバケットシートって呼ばれる代物である。


 ハンドルコントローラーと一体化しているため無駄にデカい。

 それが目の前に鎮座していた。


「くっくくーくぅくうくっくくぅくーくっくぅ」


 これがないとレースゲームできないんでしょ、なんてローズは言うけれど。


「いや、シートは必須じゃないんだが」


「くぅくくー?」


 なんですと? とか言いながら首を傾げるローズさん。


「臨場感を求めるならありだけどさ」


「くぅくーくぅ?」


 必須じゃない? と首を傾げたまま聞いてくる。


「だから、そう言ってる」


「くーくーくっくぅ?」


 ホントのホントに? と今度は身を乗り出して聞いてきた。


「ハンドルコントローラーがあれば充分に楽しめると思うぞ」


「くぅー!」


 ガーン! と言いながらオーバーアクションでショックを受けたポーズを取る。


「くくぅくう?」


 なんでだっ? って言われてもねえ。


「操作するだけならパッドでもできるし」


「くぅくー!」


 ガガーン! と別ポーズでショックを表現するローズ。

 両手で頭を抱え込んじゃってますよ。


「くっくくぅくーくー」


 どうしてこうなった、とか言ってるし。


「それは俺が先に言ったって」


「くくっくぅ!」


 ガガガーン! とか言われてもな。


「あ」


 崩れ落ちるように四つん這いになった。

 そんなにガックリくることだろうか。


「ローズは何もしてなかっただろうに」


 そうツッコミを入れると、スクッと立ち上がった。


『なんだ?』


 今度はどんなポーズでショックを受けるんだと待ち構える。


 ローズは右手を後頭部に添えた。

 そして、舌を出してウィンク。


「くーくぅ」


 テヘペロ、だと?


「まったく……」


 デカいシートひとつで遊ばれてしまった気分だ。


 かわりと言ってはなんだけど、どうしてこうなった感は薄れたがね。

 それがローズの狙いだったのかもしれない。

 変な気の遣い方をする相棒である。


「ゴロゴロ」


 喉を鳴らしながら猫サイズになったハイシーザーのシーダが俺の脚を尻尾で叩いてきた。


「ん、どうした?」


 シーダの方を見やると尻尾の先が引き戸の方を向いた。


「ああ、客人か」


 コココンと3回ノックされる。

 ここはトイレではないから当然なんだけど。


「はいはい、どうぞー」


 返事の声を魔法で部屋の外へ転送する。

 防音が行き届いていると、こういうところが不便だ。


 まあ、インターホンを使って応答できるようにはしてあるけど。


「やあやあ、遊びに来たよー」


「すみません……

 お邪魔します」


 入ってきたのはトモさん夫婦だった。


「うおっ、なんだこりゃ!?」


 入ってくるなり驚きの声を上げるトモさん。


「ハハハ、家庭用ゲーム機を作ったらこうなった」


 乾いた笑い付きで誤魔化すしかできない。


「どうしてこうなった」


「うん、それは俺も言った」


「くうくくー」


 ミートゥー、と続くローズ。


「ハンドルコントローラーがあるのにモニターがないとは、これ如何に」


「あ、モニターはこれね」


 ゴーグル型本体を手渡す。


「なるほど、VR式かー」


「それが本体でもあるからね」


「へえ、ゴーグルが本体とか面白いねー」


 言いながらスチャッと躊躇いなく装着するトモさん。


「おおっ、ハルさんたちが見えるよ?」


 軽く仰け反りながら聞いてきた。

 どうやら少し驚いてしまったようだ。


「待機モードの時は外の様子が分かるようにしてる」


 このあたりは安全性を高めるために考慮した点だ。


「ということは、ゲームを始めると画面が切り替わるのかな」


「その通りだよ」


「で、レースゲームだけなのかい?」


 なんて聞きながらも、トモさんはちゃっかりシートに座ってハンドルを握っていた。


「おや、やる気になってるみたいだけど?」


 ちょっと意地悪な感じで聞いてみる。


「レース系は苦手なんだけどね」


 苦笑するトモさん。


「日本人だった頃よりステータスは上がってるから大丈夫だよ」


 初プレイでも、いい線いくと思う。


「そうかなぁ?」


 トモさんは首を傾げていたけどね。

 苦手意識というものは、そう簡単に解消されないようだ。


「なんにせよ、レースゲームだけって訳じゃないよ」


「そうなんだ」


「個人的な趣味が反映された結果として優先的に入れてあるけど」


「あー、電脳フォーミュラかー」


 完全に俺の思考パターンが読まれていた。

 確かに電脳フォーミュラはラインナップに入っている。


「今回はそれだけじゃないよ」


「ほう、例えば?」


「マリンカート風のとか」


 デフォルメされた水夫のオッサンがマスコットキャラのゲームのアレンジ版だ。

 本家に劣らず人気が高いのでキャラを変えて真似してみた。


「そっち系を入れてきたかー」


 純粋な速さを競うだけじゃないのは家庭用ゲーム機ならではである。

 多人数でやると盛り上がるからね。


「他はオリジナルだけど」


「へえ?」


「ラリー風味に仕上げたやつとか」


「ふむふむ」


「ラジコンカーで色んな所を走るのとか」


「えっ、そんなのが入ってるのかい?」


 ラジコンカーは意外だったようだ。


「実車系より色々と融通が利くからね」


「しょうなのぉ?」


 さり気なく荻久保清太郎さんの物真似を入れてくるトモさんである。


「コンパクトなタイプのラジコンに設定したからクラッシュはほとんどないし」


 勢い余ってコースアウトすれば引っ繰り返ることがあるけどね。

 このサイズになってくると、軽さは武器だ。


「何よりコース設定の自由度が格段に高いんだよ」


「そうなのかい?」


「ああ、普通の車じゃ部屋の中を縦横無尽に走るなんて無理だろ」


「それは確かに」


 軽く目を丸くしながらも頷くトモさんであった。


「じゃあ、ソフトの試運転といこう。

 トモさんもハンドルコントローラーを握っていることだし」


「おっ、そうだね」


 トモさんが了承した。

 それに合わせて装着したゴーグル型本体にソフトを流し込む。


 まずは家庭用ゲーム機らしくタイトル画面が表示された。

 その画面を俺たちも確認できるようモニターを引っ張り出してリンクさせる。


「おやぁ?」


 トモさんが首を傾げた。

 だが、タイトル画面が傾いたりはしない。


 それをするとVR酔いを誘発しかねないからね。

 そういうのはゲームスタートしてからで充分だ。


 あと、外部モニターの映像は揺れなどを抑制したものになるよう調整してある。


「どうしたのさ?」


 トモさんに声を掛けた。


「だって、タイトルがジャイアントファイターって……」


 戸惑いを隠しきれない様子でこちらを振り返るトモさん。

 タイトル画面は正面に固定なので、一応は俺たちが見えるはずだ。

 外部モニターはそこまで追随しないので確認しようがないがね。


「レースゲームっぽくないんだけど?」


「そりゃそうだ、格ゲーだもん」


読んでくれてありがとう。

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