1275 つくってみた『家庭用ゲーム機』
折り紙大会は午前中で終了。
半数の面子は違うことをしていたからクラフト大会と言うべきかもだけど。
昼からは銘々が好きに遊ぶことになったのだが。
「そういや、ベル婆たちを見ないな」
「初日だけ休んで帰ったが?」
何を今更という顔でリーシャが言った。
「なんや、気付いてなかったんかいな」
「鈍感ねー」
ツッコミコンビがさっそく追い打ちをかけてくる。
そんなツッコミも気にならない。
「帰った~?」
驚きのあまり、素っ頓狂な声で聞き返していたからな。
「自分たちは修行が足りないと言っていた」
帰った理由を教えてくれたのはルーリアだ。
「それにしたってなぁ。
もう少し遊んだってバチは当たらんだろう?」
「ハル兄に言うと引き止められるって」
答えてくれたのはノエルだった。
「あ、そうなんだ」
「少しでも足手まといにならないよう頑張るんですってー」
ダニエラから意気込みを聞かされる。
が、ふんわりした雰囲気で聞かされると不安になってしまう。
ダニエラには悪いとは思うけどね。
「足手まといなんて思ったことはないんだが……」
「「私達もそう言ったんだけどー」」
メリーとリリーが頭を振った。
ベル婆たちの決断は相当に強固なようだ。
「そうか」
帰ってしまったものは仕方がない。
「無理に呼び戻す訳にもいかんしな」
1日も休んでいなかったら強制的に休ませるところなんだが。
「で、君らは昼から何をするのかな」
どう見ても軽快に動ける格好なので、おおよその見当はつくのだが。
「ジムで体を動かすのよ!」
ギュッと握り拳を作って力強く宣言するレイナ。
『やっぱりねー……』
対する俺はテンションが上がらない。
帰られたのがショックだったのだろうか。
そういう自覚症状はないのだけど。
「午前中は頭と手先を使ったから体を動かさないとね」
「ハル兄も来る?」
ノエルのお誘いは魅惑的であったが……
「すまない。
今の感じだとノリが悪くなると思う」
「大丈夫、ハル兄が責任を感じることはない。
ベル婆も申し訳ありませんって言ってた」
「そっか」
『皆から気を遣われているなぁ』
王様がこんなことじゃいかんのだが。
「これ」
「ん?」
ノエルから差し出されたものを受け取った。
「おー、午前中に作ってたやつか」
赤い折り紙のバラである。
「ん、あげる」
「ありがとう」
「うちからもやー」
アニスも同じように折りバラを渡してくる。
こちらは赤に近いピンク色だった。
「我々からも」
リーシャがそう言うと、他の月影の面子も渡してきた。
赤系の少し違う配色のものばかりだ。
『要するに告ってる訳だな』
オレンジに近いのもあったけど、黄色だけは外しているようだ。
ネガティブな意味のある花言葉を気にしているのだろう。
「元気出してくださいね~」
「そうよ、落ち込んでるハルトなんてらしくないんだから」
最後にダニエラとレイナの励ましを受ける格好となった。
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結局、ジムには行かず部屋でゴロゴロしている。
寝っ転がる俺の足元では普通の猫サイズに縮小したシーダが香箱座り中。
香箱座りとは前脚を体の下に隠すように折り畳んで座る状態のことだ。
これをするということはリラックスしている証拠である。
シーダも見た目以上にゴロゴロしているって訳だな。
「なーんか、気が抜けちゃったなー」
「くぅー」
だねー、とか言いながら俺の隣でダレているローズさんである。
同じく反対側の隣でゴロゴロしているマリカ。
こちらはラミーナモードで尻尾を振っているところを見ると機嫌がいいようだ。
「不健康じゃな」
そう指摘してきたシヅカも部屋のリクライニングシートを倒し込んで埋もれている。
「これは休んでいるって言うんだ。
本当に不健康なのは猫背で座り込んでゲームに何時間も没頭するとかだな」
「主よ、それはフラグというものではないかえ?」
「えーっ」
さすがにそれはないだろう。
家庭用のゲーム機なんて作ってないし……
スマホ用のゲームアプリだって開発してない。
アプリの方はむしろ意図的に手を出さないようにしている。
歯止めの利かなくなる者が出かねないからだ。
大多数の人は問題ないと思うんだけどね。
ただ、社会問題化した場合のリスクが大きいと判断した。
これについてはマイカがしみじみ語っていたのが印象的だ。
「同僚がそれで会社を辞めることになってね」
「たかがゲームでか?」
「されどゲームなのよ。
課金依存症ってやつね」
「いやいや、いくら課金しまくってると言っても借金まではしないだろー」
買い物依存症とかなら分かるんだけど。
高額な買い物が続いて借金を重ね、最後は会社にまで督促の連絡が来るパターン。
「借金だけがクビになる理由じゃないわよ」
最初はぼかしていたのに躊躇いなくクビと言ってるし。
辞職ならともかく辞めさせられたとは穏やかではない。
『まさか、本当に高額な借金をしてしまったのか?』
「マイカちゃん、ストレートに言っちゃってるよ」
ミズキも指摘していたが、マイカは「あ」と言っただけで──
「構わないわよ。
どうせ日本なんて異世界なんだし」
開き直ってしまった。
「名誉毀損とかで訴えられるっていうなら考えるけど」
「そりゃ無理だな」
「そうだけど……」
「とにかく、そこまでハマると業務中もコソコソやるようになるのよ」
「あー、それはダメだ」
「仕事ができるなら黙認もされたんだけどねー」
「黙認されるのかよ」
開いた口がふさがらなかったさ。
「それなりに仕事ができたからよ」
マイカがそこで嘆息した。
「ゲームにハマりだしてからは、遅刻や居眠りが当たり前になってボロボロだったけど」
「うわぁ……」
「おまけに仕事ができることを鼻にかけてたから嫌われてたし」
「あー」
誰も庇ったり助けたりしてくれないパターンが容易に想像できた。
「それは解雇される未来しか見えないな」
実に納得のいく話であった。
そういうこともあって、ゲームアプリは導入しないことが決定されたのだ。
とはいえ、すべてのゲームを否定する訳ではない。
「じゃあ、家庭用ゲーム機を作るか」
普及させればインドアの娯楽も増える。
雨の日だって日没後だって安心だ。
それと今日のように暇を持て余しているような状況も時間を潰せるようになるだろう。
え? 動きたくないからゴロゴロしてたんだろうって?
運動レベルではね。
ジムで汗を流すほどの気力は湧いてこなかっただけだ。
ゲームで遊ぶ程度なら大丈夫。
集中力を欠いた状態で遊んでも怪我とかしないし。
ゲーム機を完成させるまでは集中する必要があるけど。
ただ、それも長時間にはならないはずだ。
自動人形のシステムを流用してササッと仕上げる予定だから。
『片手間でいけるか』
この開発自体も、そこそこの暇つぶしになるだろう。
倉の中で作業すればゴロゴロしてる守護者組の邪魔にならないし。
そんな訳で作業を始める。
ハードの形はタワー型のパソコンに近いものにした。
そんなに大きなものは必要ないのだが、どうせうちの国民にしか普及させないものだ。
使わない時は倉庫かポーチに格納すればいい。
それよりも本体の側面部分をモニターにする。
これで対戦ゲームの時も2画面までは広いモニターを確保できるって訳だ。
モニター部分を展開させられるようにしておけば並んで遊べるしな。
続いて【多重思考】でもう1人の俺を何人か呼び出した。
守護者組がいるので声に出しての会話はなしだ。
『悪いけど、ソフトの方を頼む』
遊べるソフトがないとゲーム機だけあっても意味がないからな。
『『『『『任せろ!』』』』』
元気な返事である。
どれだけ気合いが入っているんだか。
俺が内心で嘆息していると──
『コントローラーはどうするんだ?』
もう1人の俺の中から、そんなことを聞いてくる者がいた。
『作るけど?』
『パッド以外だぞ』
『そーそー』
『ハンドルコントローラーとかー』
リアル系のレースゲームを想定しているようだ。
それは盲点であった。
『あー、それは必須だわ』
日本人だった頃は下手くそなのにやり込んでたからな。
特にハマっていたのはアニメが原作のやつだ。
アニメ版の無茶な技をどうにか再現しようと頑張っていた点には好感を持っていた。
ゲーム版オリジナルのトンデモ技になってしまったけどな。
『だろう?』
『だが、それだけじゃないぞ』
『まだあるのか?』
『もちろんだ。
体感用のモーショングリップとかな』
実際の動作を検知するセンサー型のコントローラーか。
それも考慮してなかった。
『じゃあ、必要そうなオプションは適当に頼む』
『『『『『オッケー、任せろ!!』』』』』
更に気合いの入った返事を貰ってしまいましたよ。
読んでくれてありがとう。




