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1273 折り紙を教えたのは……

 プルプルした手付きでマリカが連鶴を折っている。


 ただ、恐る恐るといった感じではない。

 肩に力が入りすぎている様子もない。

 ひたすら真剣な表情で作業に集中していた。


『ちょっと慎重すぎるかな』


 フェルトがハラハラした様子で見守っているほどだ。

 トモさんも前のめりな感じになって力んでいる。


「一歩間違うと千切れそうだ」


 その呟きが状況を物語っていた。

 マリカが挑戦しているのはオーソドックスな4連ではない。

 その4倍の細かさを要求される16連に挑戦しているのだ。


 使っている紙も大きめのものだけど、極端に大きなものではない。

 マリカの手付きがプルプルしてしまうのも無理からぬところであろう。


 より精密に折らねば仕上がりが美しくなくなるのだ。

 小さくなるからこそ、些細なズレが大きく影響してしまう。


 少し厚みのある千代紙ならば尚のこと。

 千切れにくくはあるが、折りにくさはそれ以上に増している。


 結果としてトモさんが言ったように、何処かで千切れてもおかしくない訳だ。

 その呟きはフェルトにも伝わっていた。


 折られていく鶴に見入ったままコクコクと頷く。

 聞こえて当然の距離だったが、周囲が見えているのかと思うほど見入っていたからな。


 あまりの緊張感にトモさんが一歩下がった。

 軽く嘆息して苦笑する。


「ずっと見てると戦っているのかと思うほどピリピリしてしまうよ」


 誰も殺気を放ったりしている訳じゃないんだけどね。

 苦笑しながら応じた。


「気持ちは分からんでもないかな」


 千切れてしまうと台無しという緊張感を感じているのは理解できるし。

 マリカの手元が危なっかしく見えるのも事実だ。


 実際は高速で微調整しているんだけど。


『ハッキリ言って紛らわしいよな』


「ところで、折り紙ははハルさんが教えたのかい?」


 トモさんが聞いてきた。


「いいや、マリカには教えてないよ」


 そういう覚えはない。

 妖精組とかは知っているはずだけど。

 学校で教えることでもないとカリキュラムにも組み込んではいない。


「じゃあ、うちの姉たちか」


 残る日本人組はミズキとマイカだけだもんな。


「私達がどうしたって?」


「トモくんたち、何してるのー?」


 そこへ噂に呼ばるような格好で2人がやって来た。

 他の奥さんたちも一緒だ。


「マリカちゃんが何かしてますね」


「うわっ、細かーい」


 ABコンビが近づいて覗き込もうとして、ササッと離れた。

 表情が強張っている。

 ジーッとマリカの手元を見て──


「「……………」」


 作業が中断しないのかを息を殺して確認。

 その表情は強張っていた。


 自分たちの不注意でミスを誘発したらと内心では戦々恐々としていたのだろう。

 どうやら大丈夫そうだと判断するまで固唾をのんで見守るしかないと言わんばかりだ。


 エリスたち3姉妹もその様子を見て動けずにいる。


『そんな大袈裟な』


 とは思ったが、マリカの緊張感が伝わっただけではないように思える。


 むしろABコンビの方から悲痛さを感じてしまったからね。

 2人が必要以上にビビっているせいなのは明らかだ。


 作業の邪魔をしてしまったと思ったのかもしれない。

 マリカが見慣れないことをしているからこそだろう。


「あー、折り紙かー」


 そんな面々を見て芝居がかった台詞を口にしたのはマイカだった。

 自分に注意を引き付けて緊張感を緩和しようというのだろう。


「懐かしいねー」


 ミズキもそれに乗る。


「久しぶりに折り鶴なんて見たわー」


 マイカの言葉に3姉妹は振り向いたが、ABコンビはそうはいかなかった。

 しょうがないと苦笑し合うマイカとエリス。


「だよね」


 ミズキはそう言いながらも、気遣わしげにABコンビを見ている。


『そこまで余裕がないのか』


 これでは下手に声を掛けると碌なことにならない気がする。

 大声で驚くとかやらかしそうだ。

 だからこそ、マイカもエリスも苦笑したのだろう。


 一方でそちらの様子は気にかけず、マイカとミズキの会話が気になった者がいた。

 トモさんである。

 姉たちを見る視線が怪訝なものになっている。


「マイカちゃん、見て見て」


 ABコンビを気にかけていると思ったのも束の間。

 ミズキが机の上を見て瞳を輝かせていた。


「なになに、どうしたの?」


「こっちに変わり種の折り鶴があるよ」


「えー?」


 ミズキの言葉に釣られて視線を移すマイカほか一同。


 ただし、ABコンビは除く。

 マイカたちの会話などまるで耳に届いていないみたいだからね。

 他の面子もABコンビのことは気にしなくなっていた。


「へー、親子とかあるんだー」


「こんなの初めて見たよー」


 マイカとミズキの会話を皮切りに他の奥さんたちが、あれこれと感想を述べ合い始める。

 そんな中でずっと怪訝な表情のままだったトモさんが──


「おや?」


 ついには首を傾げてしまった。


「姉さんたちが教えたんじゃないのかい?」


 思わずといった感じで問いかけていた。


「はい? 何がよ?」


「こんな複雑な鶴は折り方さえ知らないよ?」


 マイカもミズキもキョトンとした表情で問い返している。


「あるぇ?」


 予想外の返事に首を更に傾げるトモさん。


「マリカに折り紙を教えたんじゃないのかい?」


 トモさんが再び問うた。


「違うよー」


 それに答える間延びした声。


 マイカでもミズキでもない。

 それまで黙々と折っていたマリカだった。


 ただし、手元を見たまま作業の手は止めてはいない。

 大した集中力だ。


「うん、違う」


「そうだね、違うよ」


 マイカとミズキも否定する。


「じゃあ、誰なのさ?」


 トモさんが聞いた。


「いやぁ、そんなこと聞かれてもねえ……」


 モニョモニョした感じでしか答えられないマイカ。


「知らないよ?」


 ミズキはモニョらないものの疑問形である。

 知っていればこういう反応にはならない。

 むしろ当然の答えと言えた。


 当事者じゃないからな。


「くー」


 自慢げに仁王立ちしたローズが鳴く。

 まるで己の手柄のような振る舞いだ。


『おいおい、違うだろ』


 思わず内心でツッコミを入れていたさ。

 声に出さなかったのはツッコミ待ちの罠のような気がしたからだ。

 実際がどうなのかは分からない。


 確認する前に──


「「「「「それが誰かと問われたら、答えてあげるが世の情け」」」」」


 背後から声が聞こえてきたからだ。


『何処かで聞いたような台詞だな』


 振り返ると小さな人影が5人。

 闇魔法で影を作ってあえて見えにくくしているし。


「それは自分たちなのニャ」


 スポットライトを当てるような感じで光魔法のライトを自分に当てるミーニャ。


「そうなの」


 同じくルーシー。


『もうちょっとねー……』


 それっぽい台詞はなかったのだろうかと思わなくもないのだけど。


「今日は折り紙で遊ぼうって約束してたんだよー」


 シェリーのこの台詞からすれば、まだマシかもしれない。


「「折り紙もいっぱい持ってきたのー」」


 ハッピーとチーなどはライトアップも忘れて倉庫からドサーッと折り紙を出していた。

 洪水状態で折り紙が溢れ出すのだが……


『影っ、影っ、影を消すの忘れてるよ』


 ツッコミの言葉が喉から出る前にミーニャたちが慌てて2人の影を消していた。

 グダグダで登場シーンが終わってしまったものの可愛らしいと言えなくもない。


『まあ、格好いいより可愛いの方が似合ってるからなぁ』


 その方が子供組っぽいと思うけどね。


「こんなに散らかしちゃって」


 マリアが呆れた様子で溜め息をついた。

 元メイド長だけあって、容易に片付けられそうにないものには敏感だ。


 やや見咎める雰囲気を漂わせているのは仕方ないのかもしれない。

 食堂の一角が折り紙の海状態になっているからだ。


「言いにくいんだがな、マリア」


「はあ……」


「それで自重してるんだぞ」


 子供組が気にせずやらかしたら、きっと食堂中が折り紙で埋め尽くされただろう。


「ええっ!?」


 よほど驚いたのか、マリアの目が開ききっていた。

 あまり動じるタイプでないマリアにしては珍しい。


「「照れるですー」」


 フニャフニャしながら恥ずかしがるハッピーとチー。


「褒めてる訳じゃないわよ」


 マイカがツッコミを入れた。


「「あれー?」」


 2人でチョコンと首を傾げて俺を見上げてくる。


『くー、可愛えー』


 【千両役者】がなければ、その場で身悶えしていたかもしれない。


 こんなに可愛いのにモフモフマスターであるマイカは無反応だ。

 子供組が人化した状態だからなのは言うまでもない。


「できたー」


 後ろからマリカの声がした。

 16連の連鶴が完成したようだ。


 それを確認するべく振り返ったのだが──


「「「「「あー……」」」」」


 思わず皆で嘆息混じりの声を漏らすような光景となっていた。


 その中心にいるのはマリカではない。

 完成した連鶴に注目が集まったからという訳でもない。


『完成度も高いんだけどなぁ……』


 それでも、へたり込んだABコンビの方がインパクトが大きかったのだ。


読んでくれてありがとう。

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