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1268 ハルト、温泉で……

 皆でオオトリに来た。

 久しぶりの休暇である。


 温泉でノンビリと思ったけど……


「日がな一日、温泉に浸かるとかアホのすることだな」


 俺のことである。


 12時間以上も入りっぱなしだったのが良くなかった。

 さすがに逆上せてしまったのだ。


 妖精組と戯れて泳いだりしたのも最初の1時間くらいだったし。

 後から入ってきた奥さんたちもそれくらいで出て行った。


 ちなみに今回は混浴でトモさんもいたので水着だったよ。

 これはこれで目の保養になったけどね。


 ノエルのスクール水着はどうかと思ったけど。

 生憎とそんなことで喜ぶような趣味は持ち合わせていない。

 俺はロリコンではないのだ。


 まあ、YLNTな紳士たちなら──


「YESロリィィィタ! NOタアアアァァァァァッチ!!」


 なんて具合に歓喜していたのだろうが。


 幼女ハイエルフにスク水だもんな。

 レベル高すぎである。


 幼女という意味では子供組とかマリカもそうなんだけどね。

 子供組は妖精モードだったし。

 マリカは狼モードだ。


 毛が濡れてしまったことでぺったりした感じになっていた。

 お陰でモフモフできなかったのは残念である。


「なんてこったー」


 後から入ってきたマイカは嘆いていたけど。


「水中モフモフがー……」


 マジでションボリしていた。

 我が奥さんながらレベル高過ぎである。


 ここまでくると業が深いと言わざるを得ないだろう。

 それすら生易しいように思える。


 スススーッとカーラがツバキの影に隠れるように離れていたくらいだ。

 人化して入っていたのにね。


 苦笑を禁じ得ないところだが、我慢したさ。

 せっかく、カーラが見つからないようにしているのに台無しにするのは可哀相だ。


「アニスちゃん!」


「なんやねん、騒々しいなぁ」


「尻尾モフらせて~」


「アホかいっ」


 パコンと風呂桶で頭をはたかれていた。


「じゃあ、リーシャちゃんは」


「断る」


 にべもなく断られていた。


「「私達もノーサンキューだよー」」


 メリーとリリーなどは話が振られる前から断っている。


「ショボーン」


 マイカはすっかり落ち込んでしまった。

 しつこくしないだけマシだが、油断はできない。

 禁断症状が出てくると暴走しかねないからな。


「お姉ちゃん、そんなにモフモフっていいものなの?」


 リオンがコソッとレオーネに聞いていた。


「さあ? どうなのかしらね」


 レオーネは首を傾げる。


「私にはちょっと分からないわ」


 そう言いながら隣にいるルーリアの方を見た。


「私か?」


 困惑の表情を見せつつも苦笑する。


「よく分からないな」


 リレーをするように隣を見る。

 アンネとベリーのABコンビがいるのだが……


「何かを愛でるというのは分からなくもないけど」


 答えながらベリーの方を見るアンネ。


「何か違うような気がするのよね」


 ベリーが答えると2人で頷き合っている。


「どう違うのかしら?」


 そこにクリスが参戦してきた。


「「ええっ!?」」


 ABコンビが小さく驚きの声を上げる。

 不意を突かれて驚いたという感じではない。

 指摘されるような問いが来ることを想定していなかったようだ。


 2人が顔を見合わせて困った表情をする。

 目線だけで、どう答えたものかと会話しているっぽい。


 さほど待つこともなくクリスの方を見たけど──


「「何とも答えようがないです」」


 そう答えながら苦笑とともに頭を振るだけだった。


「「なんとなくとしか言えないので」」


「そんなものでしょう」


 マリアが2人をフォローする。


「個人の趣味嗜好ですから」


「そうなんですね」


 クリスは返事をしながらも首を傾げている。

 趣味嗜好という部分までは理解できてもマイカがどう感じているのかが分からない。

 そんなところか。


『理解できたら引き戻せなくなるぞ』


 モフモフで至福の感触を味わった瞬間、その者はモフリストとなる。

 一度、モフリストとなってしまったら常人には戻れない。

 モフモフ道を突き進むしかないのだ。


 まあ、さすがにクリスがマイカレベルにまで到達するとは思わないが。


「それが個性というものよ」


 エリスも会話に入ってきた。


「趣味の世界でも道を究めれば、余人には理解が及ばなくなってしまうの」


 理解できなくても仕方ないって訳だ。


「なるほど……」


 神妙な面持ちで頷くクリス。


『そんな大層な話か?』


 たかがモフモフ、されどモフモフなのだろうか。


「リオンちゃんも分かったかしら?」


 エリスが問いかけると、話に聞き入っていたリオンはバシャッと水音を立てた。


「えっと……」


 まごまごした感じになっている。

 自分に話を振ってこられるとは思わなかったのだろう。


「あの、その……」


 たまらず姉の方を見るが、レオーネは何も言わない。

 微笑みながら頷くだけだ。


 が、それで少し落ち着きを取り戻せたのだろう。

 エリスの方へ向き直り、おずおずした感じで頷いた。


「奥が深いということだけは……」


「それで充分だと思うわよ」


 エリスのその返事にホッとした表情になるリオンであった。


『奥が深い、ねえ』


 確かにモフモフは奥が深い。


 が、マイカの場合はそれで済ませられるものではないんだよな。

 業の深いというか。

 その奥底を確かめようとするならば、深淵を覗き見る覚悟が必要かもしれない。


 故に俺は──


『闇が深いの間違いじゃないのか?』


 そう思ったのだが、それを声に出して言うことはなかった。

 こういう厨二的なツッコミを入れるとマイカが反応しかねんからな。


「誰が闇落ちかーっ」


 とかなんとか言うと思う。


「そこまでは言ってないよ、マイカちゃん」


 で、ミズキがツッコミを入れてくる。

 ここまでがワンセットだ。


 気分しだいでは、ここから漫才的なトークに入りかねない。

 帰ってからなら付き合ってもいいんだけど。


『休暇中にそれは勘弁してくれー』


 そんな訳で、俺はどうにか会話には加わらずにいた。


 幸いにして眼福パラダイス状態だからな。

 ダニエラを筆頭に会話に加わっていないシヅカやツバキ、カーラをガン見する。


 惜しむらくは水着であることだろう。

 押さえ付けられているために浮いているところは見られなかったからね。


 その後は、別の話題に変わっていたみたいだ。

 たわいもない日常的なあれこれなので目の保養を優先させてもらった。


 それも終わり、奥さんたちが先に出ていく。

 俺やトモさんはまだまだ入り続けたけどね。

 癒やしが足りないと感じていたからだ。


 後にして思えば、さっさと上がってモフモフやフヨンフヨンを味わっておくべきだった。

 温泉に癒やしを求めすぎてはいけない。

 湯加減がいいために延々と入り続けてしまう。


 そこから何時間かして、今度はガンフォールたちが入ってきた。


「なんじゃ、こんな所におったか」


「まあね~」


 周囲はすっかり暗くなっている。


「そっちは月見酒か」


 ハマーやボルトが樽で酒を持ってきた。

 さすがはドワーフである。


「そうじゃ。

 ハルトもやるか」


「おうよ」


 そこから樽が空になるまで飲み続けたさ。

 良い大人は真似をしてはいけません。

 とかなんとか言われそうである。


 急ピッチで飲んだ訳じゃないけどね。

 それでも酒量は並大抵のものではない。


 そして何より入浴中である。

 ほろ酔いで終わらせても危険な行為ということに違いはない。


 まあ、ドワーフに酒量は関係ないけど。

 おまけに上位種のハイドワーフだし。


 そういう意味では俺やトモさんも負けてはいない。

 エルダーヒューマンともなれば、簡単には酔わないからな。


「それにしても、ずっと入っておったのか?」


「そんな感じだ」


「アホじゃな」


「休みなんだからいいだろ」


「何事も限度があるわい」


「親父殿の言う通りだ」


「自分もそう思います」


 ガンフォールだけでなくハマーやボルトにまで言われてしまった。


 言い返したかったが、向こうの方が正しいのは火を見るより明らか。

 ぐぬぬ状態で言い返すことができない。


「トモさん、何か言ってやってくれ」


「俺ぇ?」


 話を振るのが急すぎたせいか、素っ頓狂な声を出してしまうトモさん。

 それでもすぐに口を開いた。


「限界は超えるためにある」


 しかも、声優としての仕事用の渋い声を使うという反則ぶり。

 この台詞の部分だけを見ていれば格好いいと思えたのだろうが。


「「「……………」」」


 ドワーフ組の反応がない。

 呆れているからだ。

 何を勘違いしたのか、トモさんはドヤ顔になっていたけどね。


読んでくれてありがとう。

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