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1262 終わったと思ったら……

 アーマード竜牙兵だったものは分解の魔法で消滅。

 実にあっさりと消えてなくなった。


 最後は呆気ないものである。

 断末魔の叫びもなかったからな。


 まあ、それだけで呆気なく感じている訳でもないか。


 待ち時間の長さはなかなかだったし。

 そのせいで散々と言っていいくらい焦らされたのが大きい。


 とはいえ、ダンジョンに突入してから数時間ほどしか経過していないのだが。

 この一件を解決したとなると、悪目立ちしそうだ。


「変身しておいて良かったぁ……」


 目撃者がいないんじゃ意味はないがな。


 それとクラウドたちには俺たちミズホ組だけで解決したと目されるのは確実である。

 箝口令をしいても効果は薄そうだ。


 さすがに騎士や兵士たちの口が軽くなるとは言わないさ。

 王命は絶対だ。

 そこは心配していない。


 問題は冒険者たちだ。

 国民ではあっても部下ではない。


 冒険者は税金さえ払っていれば自由だと考える者が多いようだし。

 王であるクラウドのカリスマが、どこまで冒険者を止められるかが鍵かもしれない。


 ただし、自国民に限るのだが。

 出稼ぎできている他国の冒険者には、ほぼ通じまい。


 そう考えると、噂が広まるのは止められなさそうだ。


「最悪だ……」


 終わってから気付くとか間抜けにも程がある。

 人のことを天然だとか言っていられない。


 後の祭り。

 後悔先に立たず。


 何とかしたいところだが、どうにもならないだろう。

 妙案などひとつも出てこないのだし。


 悪の権化のような奴なら──


「目撃者はすべて消えてもらおう」


 とか言い出すんだろうけど。


 もちろん、そんな真似はできない。

 そうするくらいなら最初から何もしなかったさ。


「目撃者がすべて悪人だったらなぁ」


 躊躇わずに強制スローライフの刑くらいは実行しただろうけど。

 生憎と、そういう事実もない。


「はあーっ……」


 出てくるのは溜め息ばかりなり。

 今後の冒険者活動に大きな制限がつくと考えた方がいいだろうからな。


 化け物呼ばわりは確定したも同然。

 場合によっては引退だ。


「しょうがない」


 どうしようもないなら諦めが肝心である。


「なるようにしかならないってね」


 後は為すがままに任せるしかあるまい。

 運を天に任せて、どうなるか見届けるのみ。


「さて……」


 諦めがついたら切り替えあるのみ。

 次のことを考えねばならない。


 終わったのは、ダンジョン内から異物を排除したことだけである。


 ホロウアーマーは残っていない。

 偽りの支配者も始末した。


 しかしながら、後始末が残っている。


「やるか」


 片付けてからでないと癒やしタイムにはできないしな。

 だが、怠い。

 気が抜けてしまったせいだ。


「はー、癒やされたい」


 嫌なことを忘れてモフモフとかプニプニに包まれたら、どんなに幸せか。


 プニプニの方はモニュモニュだったりフヨンフヨンだったりもする。

 大きさ柔らかさに個性があるから感触もそれぞれだ。


 が、至高の安らぎを与えてくれることは間違いない。

 大きいとお風呂で浮かんだりもする。


「あれは、いいものだ」


 壺を愛でる何処かの大佐のようなことを言ってしまったが。

 良いものだから良いのだ。

 眼福に理屈など不要である。


「帰りに温泉へ寄ってくかね」


 妙案かもしれない。

 帰ってからより直通で行った方が、少しでも早く癒やしタイムに入れそうだしな。


 徐々にモチベーションを上げていく。

 でないと後片付けの作業がもたつきそうなんだよね。


 難しかったり手間がかかる訳じゃないんだけど。

 単純にやる気の問題である。


「修行が足りんなぁ」


 面倒な敵の相手をしただけで抜け殻になったも同然なんだから。


 まあ、付随するあれこれの条件が碌でもなかったというのはあるけれど。

 特に今後のことは考えまいとしても考えてしまう。


 実に憂鬱だ。

 やる気が大いに削がれてしまう。


 楽しいことを考えても、この様だ。

 相変わらずの豆腐メンタルである。


 とはいえ無駄に時間を経過させる訳にはいかない。


「とにかく終わらせるんだ!」


 どうにか気合いを入れ直す。


「そしてっ、癒やしと温泉だっ」


 楽しいことだけを考えて気力チャージである。

 嫌なことは見ないし考えない。


 現実逃避なのは分かっているがね。


 とにかく、今の俺に必要なのはお休みである。

 そのためにも残った仕事はチャチャッと片付けるのみ。


 グダグダしてしまったが、ようやくエンジン再始動だ。

 【多重思考】で転送魔法を駆使してダンジョン内の魔物を再配置していく。


 広間へと集まるべく移動していたのも数多くいるからな。

 というか、そちらの方が多い。


 浅い階層の魔物だけではないのだ。

 本来の階層から上の階層へと上がってきている連中もいるし。

 元の階層に戻さないと、ダンジョンへ入る冒険者たちに被害が出てしまいかねない。


 魔物たちは偽りの支配者から切り離しただけでは動かなくなるだけだったし。

 このままの状態で迷宮核の制御下に戻った場合、その階層を縄張りとしかねない。

 にもかかわらず冒険者たちが今まで通りだと思い込んでダンジョンへ入れば……


「シャレにならん被害が出そうだな」


 そうならないように鑑定して本来の階層へ戻してやる必要がある。


 【天眼・鑑定】と転送魔法のコンボで解決するので、さほど難しくはない。

 数が多いから結構な手間だけどな。


 このために、もう1人の俺たちを残していたようなものだ。

 数には数で対抗するって訳だ。


「頼むぜ、皆」


『『『『『任せろ!』』』』』


 もちろん、丸投げにして終わりにはしない。

 俺も作業に参加する。


 1人くらい増えただけでは、大した差ではないがな。

 気持ちの問題だ。


 とにかく、もう1人の俺の大量投入は効果的だった。

 作業はすぐに完了。


『『『『『終わったぞー』』』』』


「助かった」


『いいってことよ』


 次は引き止めていた魔力を迷宮核への返還だ。

 一気にやると過剰反応される恐れがあるので徐々に返していく。


 地道な作業だが、単調であるためにボーッとすることができる。

 ハッキリ言って緊張を強いられないから楽だ。


 それなりに時間を要したが、苦ではなかった。

 妄想に浸れたからね。

 ますます温泉が楽しみになったと言っておこう。


 エア温泉を楽しんでいる間に魔力の変換が終了した。


「ほい、完了っと」


 これで迷宮核が正常に休眠状態から復帰してくれれば本当の終わりである。


「…………………………………………………………………」


 しばらく様子を窺ってみたが、ダンジョン内に大きな動きはなかった。


 迷宮核も活動を再開している。

 異常動作の兆候は感じられない。

 暴走することはないと見て良さそうだ。


『大丈夫みたいだな』


『終わり、終わりー』


『帰ろうぜー』


『じゃあ、またなー』


『お疲れー』


 1人、また1人と去って行く。

 とはいえ俺の中にある深層意識の奥底へ引っ込むだけなんだけど。


 少し物悲しい感じがした。

 今回は特に賑やかだったからな。


 しばらくは静かな方がありがたいはずなんだけど。


「ふうっ……」


 大きく息を吐き出して脱力。

 なんにせよ、これで本当に終了だ。


 ようやく肩の荷が下りた。

 同時に疲労を色濃く感じてしまう。


 ズシッとした重みのようなものがあるくらいだ。

 肉体的な負担は大きくなかったはずなんだが。


「今回は本当にドタバタしたなぁ」


 亜神がらみで2件も頭の痛い思いをしたし。

 しつこくグロいものは見せられたし。


 それに劣らぬ心の醜さを持った王侯貴族もウジャウジャだった。

 ふざけた看板もどきの扉にはドン引きさせられたな。


 結果としてカーターの負担が増すことになったのは心苦しいところだ。

 まあ、将来的には国益にはなるだろうけど。

 どうか寿命を縮めるような負担になりませんようにと祈る次第である。


「すまんな」


 不意に背後から声を掛けられた。


「どわあっ!」


 仰け反りながら飛び上がってしまったさ。

 直前まで気配を感じなかったし。

 すべて終わったことで気が緩んでいたというのもあった。


 完全なる不意打ちだ。


 そのタイミングで跳んできて声を掛けるのは本当に勘弁してほしい。

 下手すりゃ振り向きざまに殴りかかっていたかもしれない。


 どうにか反射的な行動に移らなかったのは、覚えのある気配だったからだ。

 なんにせよ、敵襲でなかったことに安堵する。


「はあーっ……」


 思わず嘆息してしまったのも無理からぬところだろう。


「ルディア様ぁー……」


 振り向きながら呼びかけた。 

 そう、俺の背後に現れたのはルディア様だったのである。


「せめて真後ろに跳んでくるのは勘弁してくださいよぉ」


 ヘニャヘニャした情けない感じの抗議になってしまった。

 気持ちの上では、ほとんど懇願だったからな。


 寿命が縮んだかと思ったよ。


読んでくれてありがとう。

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