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1260 電話でGO?

 RRRRRRRRRRR!


 脳内スマホの着信音が聞こえる。

 メールではない。


「電話かよ」


 そのせいで、一瞬だが気を取られてしまった。


 ドンッ!


『『『『『来たっ!』』』』』


 この距離で間合いを詰めるのに魔法を使うとは無茶苦茶だ。

 攻撃を当てて押し込む目論見でもあったか。

 必中の確信があったのだろう。


 それだけデータが集まってきたからなんだろうが……

 そこまでしても当たらない。

 擦りもしなかった。


 まあ、俺の方でズルをしたんだけどな。

 転送魔法を使って入れ替わるように背後に回ったのだ。


「はいよ、もしもし?」


 電話を受けないといけなかったし。


 完全に目標を見失ったアーマード竜牙兵の方は突っ込みすぎる格好となった。

 勢いがついてしまって、すぐには止まれない。

 俺は蹴りなど入れていないのだが。


 まあ、無茶な加速をしたのだから無理からぬことだ。

 完全な自滅と言える。


『ハルくん、いま大丈夫?』


 電話の相手は待ちわびたミズキである。


「ああ」


 タイミング的に微妙なところはあったが、気にしてはいけない。

 それよりも完了報告の方が重要だ。


 中間報告ということもあり得るから、まずは話を聞かねば。

 細かな打ち合わせを要するから電話してきたとも考えられる訳だし。


 とにかく──


「待ちわびたぞ」


 ということだけは間違いない。


 だというのに、竜牙兵が折り返してすっ飛んできた。

 無粋な輩である。


 待ちわびたのは貴様ではない。

 ミズキからの完了報告だ。


 まあ、俺の思わくなど奴には微塵も考慮する余地はないのだが。

 双剣で嵐のような猛攻を仕掛けてきた。


 しかも、格闘戦のように間合いが深い。

 徒手空拳の時の一辺倒な攻撃からは想像もつかないほど縦横無尽な攻めを見せる。


 何事もない状態であるなら見事な攻撃だと思ったことだろう。

 しかしながら今はそれを褒め称える気にはなれない。

 むしろ邪魔だと感じてしまう。


『ゴメーン、目標が急に逃げ出しちゃって』


 上段と中段の横薙ぎが左右から迫る。

 鬱陶しい攻撃の仕方をしてくれたものだ。


 舌打ちしてしまいそうになるくらいであったが、何とか堪えた。

 人が電話を受けている時くらい大人しくしていろと言いたい。


「追い回す羽目になった、か」


 返事をしながら上段を押し下げるように払い上げる。

 ここは我慢強く捌くのみ。


『うん、ゴメンね』


 ミズキが謝ってきた。


 が、これはミズキのせいではない。

 他ならぬ偽りの支配者の仕業なのは疑う余地もない。

 ダンジョンに散ったホロウアーマーたちに指示を出した結果である。


 どうやら、まだまだ強化するつもりだったようだ。

 広間に材料がないなら、ダンジョンに進出させた連中を集めればいい。


 バラバラに逃げることで少しでも多くかき集めようという腹だったのだろう。

 魔方陣がなくなってしまっては意味があるとは思えないが。


 それも別の場所でホロウアーマーを使って作業させれば不可能ではない。

 ミズキたちの追跡をまくか振り切るかしないといけないがな。

 どこまでも面倒な奴だ。


 とにかく、ミズキの声を聞く間に後ろに半歩下がって中段を躱す体勢に入った。


「気にしなくていい」


 だが、竜牙兵は途中から突きに切り替えてきた。

 本当にしつこい奴だ。


 人が話している最中に邪魔だっつーの!

 苛立ちが爆発しそうになった。


 半身になって躱しつつ強めの打ち払いで体勢を崩させる。

 無防備となった頭上へ少しでも発散してやるとばかりに踵落としを叩き込んだ。


 ズドン!


 アーマード竜牙兵が頭から地面に突っ込んでいく。

 そのまま地面に突き刺さった。


 見事に太ももまで埋もれてしまっている。

 これがホントの脳天杭打ちだ。


 奴の重装甲があってこそ成し得た技である。

 惜しむらくは角度がついてしまったことだろう。

 杭として見た場合、斜めに突き刺さっているのは美しくないからね。


 とにかく、これでミズキと落ち着いて話ができそうだ。

 ずっとは無理なことなど承知の上である。


 この程度で奴が機能停止する訳がない。

 少しの時間で充分だ。


「そっちは終わったんだろ?」


『うん、どうにかね』


「大変だったろう」


『アハハ……、どう言えばいいのかな』


 ミズキが力なく笑って困ったような声を出していた。

 それ以上は聞かなくても分かる。


 間違いなく大変だったはずだ。

 でなきゃ、こんな誤魔化し方はしない。


「その様子だとバラバラに逃げられたのは間違いないようだな」


『分かる?』


「まあね」


『そっかー』


 その嘆息混じりの呟きからミズキも相当に疲れているのが窺い知れた。

 相当に振り回されたようだ。

 今まで時間がかかったのも無理からぬところなのだろう。


『でも、ちゃんと確認したよ』


「分かってるさ」


 ミズキは堅実に仕事をこなすタイプだ。

 確認もせずに報告してくるはずがない。


 できれば、確認の前にとりあえずの一報は欲しかった。

 それはそれで確認待ちで焦らされることになった恐れはあるがね。


 いずれにせよ、指摘するほどのことでもない。


『ローズにもチェックしてもらってるんだから』


 それなら尚のこと安心だ。

 ただ、俺は疑っていると思われているらしい。


「疑ってはいないぞ」


『ホントに?』


 やけに疑り深い。


「もちろん」


 疾しいことは何もない。

 だから、返事を噛んだりもしなかった。


『だったら、いいんだけど』


 どうやら俺の声の調子で何かを感じ取ったらしい。

 伊達に付き合いは長くないってことだな。


「こっちも面倒くさい奴の相手をさせられていてな」


『そうなんだ』


「詳しい話は後でな。

 こっちも終わらせるから」


『分かったー』


 通話終了。

 その時である。


 バゴッ!


 竜牙兵周辺の地面が弾けた。

 力任せに体を捻って、周りの岩を破壊しつつ脱出するとは……


 雑にして乱暴な手を使ったものだ。

 地魔法を使えば簡単かつ楽に出られたはずなんだが。


 所々で脳筋的発想に支配されている奴である。

 まあ、お陰で多少は落ち着いて話ができた。


 これで心置きなく戦える。

 いや、終わらせられる。


 これ以上引き延ばす理由はなくなったのだ。


「今こそ決着をつけよう」


 さっさと帰りたいからね。


『『『『『けりをつけて癒やしタイムだー』』』』』


 アーマード竜牙兵が背を向けた状態でおもむろに起き上がった。

 まるでダメージがあるかのような動きである。


『芝居くさい奴だな』


『人のことは言えない』


『テヘペロ』


 どうやらダメージチェックをしているようだ。

 待ち構える必要などない。


 が、俺が奴に接近しようとしたところでクルリと振り返り──


 ドンッ!


 先手は打たせないとばかりに突進してきた。


「むっ」


 相手の隙を突くという点では、振り返り様の突進は効果的な方法かもしれない。

 が、しかし……


「甘い!」


 向こうは不意打ちのつもりだったのかもしれないが、通用するものではない。

 それは待ち構える相手に対してするものだ。

 仮にそうだったとしても不意打ちにはならなかったが。


 俺の方からも踏み込む。

 不意打ち返しの格好となった。


 が、それを見ても竜牙兵は動じない。

 突進の勢いを利用しつつ双剣を左右から突き込んでくる。


「それがどうしたっ!」


 双剣の切っ先を掴んだ。

 掴んだブレードを広げながらグイッと引き込む。

 そのまま胸部に膝蹴りをかました。

「どうだっ」

 今のは強烈なカウンターとなったはず。

 しかも弾き飛ばすためではなく内部に衝撃を伝えるための一撃だ。


 重装甲?

 関係ない。


 強靱な骨格?

 知ったことか。


「要は中枢を破壊すればいいってことだよなっ!」


 だが、敵も然る者。

 今の一撃では破壊には至らなかったようだ。

 機能停止には至らない。


 しかも、ブレードの切っ先を折り取るように切り離してきた。

 そして新たに伸長させて双剣と成す。


「思い切ったことをするじゃないかっ」


 俺の手の中に残る切っ先は分解の魔法で消滅させる。

 回収されて元通りってのも癪に障るからな。


 が、向こうの質量が減ったようには見えない。

 それだけ凝縮されているからだろう。


 時間稼ぎをした分のツケが回ってきているな。


読んでくれてありがとう。

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