1258 連発&連発、そして……
ドンッ!
ドドドドドドドドドドドッ!
アーマード竜牙兵が左手でも指バルカンを撃ってきた。
確かにグランダムのグゥフっぽく見えるが、そんなことを言ってる場合じゃない。
「当たる訳にはいかないんだよっ」
豆鉄砲をくらったとか、みっともないったら。
とにかく指バルカンが両手バージョンになった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「ええいっ、冗談ではない」
絞り出すように唸るほど鬱陶しい攻撃だ。
射程が短いままの分解の魔法弾で打ち消していたのでは忙しなくてしょうがない。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「仕方あるまい」
多少の回避行動も織り交ぜる。
当たらないように回避した分はスルーした。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「くっ」
ここが勝負所と見たのか、指バルカンの弾幕が厚くなる。
「冗談だろ?
まだ余力があったのかよ」
『なにやってんの!』
『弾幕、厚いぞ』
『それを言うなら、薄い時だって』
もう1人の俺たちは、まだまだ余裕がある。
名艦長の台詞で遊ぶくらいだからな。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「まだだ、まだ当たらんよっ」
擦らせるつもりもない。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
『ホントしつこいな』
『この執念は何なんだろうね』
『いや、相手は魔道具だから執念とかないぞ』
『術式内に記述されてる優先順位で動いてるだけか』
『人の知識を流用したりしてるから曖昧な部分もあるけどな』
とにかく機械的に対応されるのが最も鬱陶しい。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
弾幕に弾幕で対抗。
空白地帯ができたら体をずらして潜り抜ける。
潜り抜けるというか、弾幕が通り過ぎていくというか。
とにかく回避を交えた防御で1発も貰っていない。
これほど嬉しくないプレゼントもないからな。
やり過ごした弾も鬱陶しい副次的な効果をもたらす。
天井に当たって岩肌を削り取るのだ。
小さな礫や砂埃がパラパラと降り注いでくる。
『仮面ワイザー・ゲールで良かったな』
『まったくだ』
他のバージョンだと、もうもうと立ちこめる砂埃で視界が低下していただろう。
風の自動防御システムが機能しているお陰で砂埃も振り払われ視界は確保されている。
俺の周囲だけだがな。
『あの野郎、この広間を砂埃で埋め尽くすつもりか?』
『あり得るな』
『逃げる気か?』
『その可能性も否定できない』
だとしたら随分と時間をかけた逃亡計画だ。
必ずしも、そうであるとも言い切れないがな。
本気でこちらの防御を崩そうとしているように見えるせいだ。
ただ、それだけとは思えない何かがあるのも事実である。
そこに苛立ちを感じる訳で……
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
「しつこいんだよっ!」
つい、怒鳴ってしまった。
そんなことで指バルカンは止まるはずもないのだが。
むしろ、向こうが手を緩めてきた時は要警戒だ。
偽りの支配者が無策でそんな真似をするはずがない。
飛んでくる石の礫は魔法で生成している。
魔力が潤沢に使える状況で単なる弾切れは考えにくいしな。
『ところで気が付いているか?』
『何をだ?』
『かなり引き離されていることに』
『あー、確かに距離ができたねー』
それは俺も気付いている。
というより意図的に距離を取っているのだ。
同じ場所に居続けたら天井が崩落していたしな。
最初の位置だと奴自身も巻き込まれていたはずなのだが。
そこは高い防御力に物を言わせて受ける気だったのだろう。
どれほど大量の瓦礫に埋もれても、押し潰される訳がないと計算した上での行動である。
故に回避のための予備動作なども見られなかった。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
『このままはマズいぞ』
『確実に崩落するだろ』
かなり広範囲にわたって天井の状態が酷いことになっているからな。
むしろ、今までよく持ち堪えたものだと思う。
『それに乗じて逃げる恐れありだな』
『反撃もあり得る』
『どっちだろうな』
『それ以外の可能性も考えるべきだ』
『何がある?』
『更なる強化とか』
『どうやってさ』
『そこまでは考えてない』
『なんだよ、無責任だな』
『そう言うなよ。
奴の行動を読むにはデータが少なすぎる』
『言えてる。
あの野郎は突飛なことをするしな』
『そう言われると、そうかも』
『しゃーない』
『んだんだ』
「結局、どうやって強化するかのシミュレーションはなしかっ」
そろそろ仕事をしてくれてもいいと思うんだがね。
『言ったろ。
データが少なすぎるって』
「ヤバそうなやつだけ言ってくれりゃいいんだよ」
『ははあ、阻止しようって腹か』
『そういうことなら是非もない』
「頼むぜ、ホント」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
『とりあえず、先に天井を補修しとくか』
言うなり、天井に光の魔方陣が展開された。
まずは天井からバラバラと石の礫が排出される。
めり込んでいた弾丸がわりの石だ。
そして、新たに天井へと迫る礫はめり込むことがなかった。
結界で弾かれて粉々になっている。
砂埃を発生させるほど細かくなっていないあたりに皆の気配りを感じる。
実にありがたい。
「……………」
それが視界に入ってきたことで俺は自分の失敗を悟った。
最初から結界を展開して広間に被害が出ないようにしておけば良かったのだ。
俺も視野が狭くなっていた。
目配りをしているつもりが見ているだけの状態だったのでは無意味だ。
誰でも思いつきそうなことを失念していたとは不覚と言う他ない。
「すまん、助かる」
『『『『『いいってことよ』』』』』
返ってきたのは気のいい言葉だった。
それを合図にしたかのように状況は動く。
まあ、単なる偶然だ。
偽りの支配者と念話をしているわけじゃないしな。
あえて言うなら、目論見がひとつ潰されたことで奴が方針変更を決定したのだろう。
不意に指バルカンの射撃が止まった。
『おー、相変わらず決断が早い』
『そうか? さんざん考えてるぞ』
『あれは考えてるのかどうか怪しいところだ』
『待ち構えていたってことも考えられるしな』
人間と違って構えていない状態からでも反応できるだろうし。
「問題は、ここで何をしてくるかだ」
同じ攻撃はしてくるまい。
待ちの体勢に入る可能性はあるが。
『おい、アイツ縮んでないか?』
「なにっ!?」
一瞬、何の冗談かと思ったさ。
アーマード竜牙兵が縮むと言われても、パッと見では気付かなかったし。
過去ログ映像と重ね合わせて見れば一目瞭然ではあったのだが。
「わずかだが確かに縮んでいるな」
『魔力の使いすぎか』
『その割には枯渇した感じじゃないぞ』
「むしろ逆だな」
指バルカンで攻撃している間もチャージを続けていた感じだ。
しつこく攻撃していたのは、次のための一手だったと見るべきだろう。
より警戒感を強めたところで、竜牙兵に動きがあった。
動きというか変化である。
『『『『『更に縮んだだとぉ!?』』』』』
それも今し方の見比べなければ分からなかったような微妙なサイズダウンではない。
グングンと縮んで、あっと言う間にオーガなどよりも小さくなった。
俺よりも頭ひとつ分ほど上背があるくらいだろうか。
姿形はそのままだ。
念のために鑑定してみたが……
「なるほど、そういうことか」
鎧部分の厚みが増している。
骨の部分は圧縮させて密度を増していた。
普通なら重みが増したり脆くなったりするのだろう。
だが、相手は魔法で召喚したゴーレムである。
ましてや、偽りの支配者が魔力をチャージしてまで変化させたのだ。
元のままではなかった。
あのサイズとしては重いが、あれなら機敏に動けるだろう。
重力魔法と併用すれば突進してきた時よりも速く、そして小回りも利くはずだ。
骨の方も靱性があるんだと。
この収縮ぶりは、もはや変身である。
そのせいか宇宙の帝王を自称するあの方を思い出してしまったさ。
あっちは見た目もガラッと変わってたけど。
『強くなることしか頭にないみたいだな』
『スピードを追求したついでだろう』
『なんにせよ手強くなったぞ』
それは同感だ。
時間稼ぎが、より面倒くさくなったかもしれない。
ドンッ!
アーマード竜牙兵が複合魔法を用いて突進してきた。
一瞬と言っていい勢いで距離を詰めて殴りかかってくる。
「ほいよっと」
受け流すが──
ドンッ!
再び複合魔法を使って、今度は急制動をかける。
「格闘戦をお望みかよっ」
躱しながらガンセイバーをホルスターに突っ込んだ。
「リクエストには応えないとな!」
読んでくれてありがとう。




