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1257 モグラっぽく反撃してみた

 ワイヤーを地面の下で縦横無尽に走らせる。


『まだ気付かないな』


『距離があるからだろ』


 確かに偽りの支配者との距離はそれなりにある。

 が、俺が破壊しようとしている魔方陣はすぐそこに迫っていた。


『ここからが勝負所だぞ』


 ワイヤーが召喚魔方陣に迫っていく。


『5メートル』


 カウントするのか。


『4から1メートルは、以下略』


「なんだ、そりゃ!?」


 思わずツッコミを入れていたさ。

 が、俺のツッコミはスルーされた。


「……………」


『ゼロ!』


 ワイヤーは魔方陣へと突入した。


 が、俺に緊張感はない。

 雑なカウントでグダグダになってしまったからだ。


 気を緩めるべきではないんだがな。

 幸いにして竜牙兵に反応はなかったが。


『『『『『さあっ、どうだっ!?』』』』』


「……………」


 本当に何もない。

 竜牙兵は身じろぎもしなかった。


『おいおい、こっちは召喚用の魔方陣を潰しにかかっているんだぞ』


『いくら何でも無警戒に等しいんじゃないか?』


『魔方陣は虎の子だろうに』


 向こうが守らないというのなら好都合というもの。

 ワイヤーの先端に展開した地魔法でやりたい放題に掘り返していく。


 掘った場所はボコボコと不格好なドーム型に盛り上がる。

 ワイヤーが地下をランダムに進むとミミズが這いずったような不規則な線を描いていた。

 何処かで見たことがあるような状態だ。


『これ、モグラのトンネル状態だよな』


『ここまで酷いのは滅多にお目にかかれないけどな』


 とは言ったものの、リアルで見たことは一度もない。

 見たのはすべて写真やイラストである。


 とにかく、魔方陣のそこかしこがボコボコになった。

 掘り返した場所はグシャグシャ。

 描かれていたはずの文様や文字も、何が何だか分からなくなっていた。


 これで魔方陣としては使い物になるまい。

 修復しない限りはね。


 ただし、そのためには地魔法で地面を整地しなおすところから始める必要がある。

 その上で魔方陣の欠けた部分を描かねばならない。


 そうなると、間違いなく手間がかかる。

 少なくとも戦闘中にできることではないだろう。

 並列での魔法制御に優れている偽りの支配者であってもだ。


 だからこそ、それを許すつもりはない。

 そちら側に注力すればするほど攻撃も防御も疎かになるからな。

 妨害し続ければ、結構な時間稼ぎができるだろう。


 ただし、向こうが修復するつもりがあればの話である。

 そういう気配は今のところ一向に感じられない。


『この調子だと既に捨てているのかもよ?』


『あれ以上の存在は呼び出せないから、か?』


 2体目のアーマード竜牙兵なんて呼び出されたら面倒だ。

 同時攻撃ならどうにでもできるが、別行動を取られるとな。

 片方が俺を牽制して、もう一方が外へ出ようとしたりなんてこともあり得るだろうし。


 コイツの巨体では通れない通路の方が多いが、通るだけなら裏技がある。

 骨を分割して飛んでいけばいい。

 アーマード竜牙兵は鎧を纏った状態なので、鎧のパーツごとに分かれるしかできないが。


 それでも、よほどの場所でない限りは通ることは可能だ。

 場所によっては魔法で削るなり拡張するなりするだろうし。


 まあ、普通の竜牙兵には真似のできない芸当である。

 バラバラになった場合は元に戻ろうとするだけだ。


 その状態のまま魔法を行使して飛ぶなどあり得ない。

 偽りの支配者が制御して初めて可能となることだからな。


 そう考えると、並列処理が可能というのが著しく厄介だ。

 偽りの支配者が一体化していない竜牙兵であっても同じ行動が可能だからな。


 どちらをダンジョンの外へ出すかは奴のみが知っている。

 というより読み合いの中で決めると考えるべきだろう。

 それを考えただけでウンザリする。


 2体目が召喚されたなら、きっと互いに距離を取るだろう。

 あとはフェイントや牽制で一方に引き付けようとするはずだ。


 少しでも隙を見せれば、どちらかに逃げられてしまう。

 そうなれば、残った方が追跡を妨害しようとするのは自明の理。


 もし、それを振り切ったとしても意味はない。

 残された方が外に出ようと行動を起こすからだ。


 故に俺は2体を同時に引き止めなければならない。

 実に面倒な話である。


 連絡待ちという縛りがなければ、速攻で一方を仕留めにかかるんだが。


 ただ、縛りのある間は難しい。

 場合によっては2体同時に倒してしまいかねないからな。


 妨害やカバーリングに入ってきて意図せず巻き込んでしまうパターンだ。

 向こうだって戦力を減らしたくないだろうし。


 だからこそ先に召喚の元となるホロウアーマーたちを破壊したのだ。

 単なる竜牙兵なら召喚可能かもしれなかったがね。

 アーマードではなくなった。


 ならば破壊も容易いものとなる。

 事故も起こりにくくなるはずだ。


 それは向こうも承知しているのだろう。

 2体目を呼び出そうとはしなかったのが何よりの証拠である。


『敵の排除が先なんだろ』


『邪魔者がいなくなればってことか』


『確かに俺という敵を排除すれば、どうとでもなる』


『あとは最初からやり直すだけだね』


 どっちの味方なんだと言いたいが、確かに事実だ。

 優先順位が明らかにこちらが上として見られている。


 それだけ難敵として認識されているのは分かった。

 だからこそ、動かないのが不気味だ。


 隠れ潜んだ偽りの支配者が実は逃げているかもなどと考えてしまったほどである。

 拡張現実で表示させれば、そんなことはないと分かるのだが。


『身体強化の魔法をかけているっぽいな』


『2体がかりの目論見が崩れさったから、とことんまで強化するって?』


『発想は悪くないがなぁ……』


 ナンセンスだ。


『いくらゴーレムでも限界があるって』


『魔力の無駄遣いだろ』


 その通りだ。

 何事も許容量というものがある。


 コップに水を注ぎ続ければ溢れ出してしまう。

 木の棒をたわませ続ければ折れてしまう。

 硬い石も圧力をかけ続ければ割れてしまう。


 これが単なる身体強化だというなら、奴は自滅してもおかしくない。

 考えられるとしたら──


『自爆するつもりじゃないよな』


 というパターンが真っ先に思い浮かぶ。


『ないない、そんな玉じゃないだろう』


『『『『『だよなぁ……』』』』』


 まったくもって同感だ。


 ホロウアーマーの上位存在を召喚した時もそうだったしな。

 自らの存在を消滅させるのと引き換えにするのかと思ったが、そんな真似はしなかった。


『じゃあ、あれはどういう状態だ?』


『そこなんだよ』


 奴が意味不明な行動を取るとは思えない。

 たとえそう見えたとしても、そうではないのは充分に見せられている。


「むっ」


 ようやく動きがあった。

 竜牙兵が右腕をこちらに向けてくる。


 見ようによってはナチス式の敬礼っぽい。

 腕の向きがもっと上向きの状態だったために、そのものとは感じなかったが。

 そう感じたのは、腕だけでなく指も伸ばしきっているからだろう。


『魔法か?』


 ならば手の先に魔力が収束するはずだ。

 が、その気配は薄い。

 これで魔法を放つなら西方の魔導師レベルの威力しか出せないだろう。


『それともロケットパンチか?』


『手刀でか?』


 竜牙兵は指を伸ばしきっている。

 近接戦闘で貫手ならば分からなくもない。


『突き刺さったら抜けなくなりそうだぞ?』


 もし、本当に仕掛けてくるなら壁面にでも突っ込ませるといいだろう。

 引っこ抜くのに苦労するはずだ。


『そのために身体強化していたとかじゃないよな』


 切れ味を鋭くさせて引っ掛からないようにするという意図があるなら分からなくもない。


 それでも打撃ダメージを与えるパンチとは違う。

 どんなに切れ味を上げても、刺されば抜けなくなる恐れはある。


 ドンッ!


 不意に炸裂音がした。


 その直前にアーマード竜牙兵は5本の指先に石の礫を生成。

 それを弾として爆裂系の魔法を用いて発射した。

 炸裂音は、その際に生じたものだ。


 ちなみに風魔法も補助で使って威力を増すと共に射撃方向の補正を行っている。

『『『『『指バルカン、キタ─────ッ!』』』』』


 ドドドドドドドドドドドドドッ!


 しかも連射してくる。


『身体強化に見せかけてチャージしてやがったな』


『なかなかやるじゃないか』


『どうせなら左手でやってほしかったなー』


『言えてる。

 そっちのがグゥフっぽいもんな』


 暖気なものだ。

 こっちは撃ち落とすのに2丁拳銃を使わされているというのに。


 射程を短くした省エネ型の分解の魔法で対処すると、そこそこ大変だ。

 奴は投げ槍の時の状態を分析したのだろう。


 その最適解がこれのようだ。

 全力で対処しているように見せるのは成功したみたいだな。


 お陰で、あの時より何割増しかで弾幕の歓迎を受けているが。


「うれしくねーっ」


 面倒くさいったらありゃしない。


 いや、そんな悠長なことは言っていられなくなりそうだ。

 アーマード竜牙兵がおもむろに左腕を伸ばしてきていた。


『ゲゲッ、左手も使うつもりかよ』


『一気に倍じゃないかっ』


『誰だ、左手のリクエストをした奴は!?』


『俺だよ。

 お前も俺だけどな』


『くっ、何というブーメラン!』


「……………」


 もう1人の俺たちは偽りの支配者が繰り出してきた手に驚きつつも、余裕綽々だ。

 焦っているような口振りだが本気ではない。

 当たってもダメージにはならないからだろう。


「まったく……」


 他人事じゃないんだぞ。


読んでくれてありがとう。

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