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127 除夜の鐘は神社にて

改訂版です。

 カラオケ大会は盛況のうちに終わった。

 動画好きな妖精組からするとテンションが上がって最高の気分だったようだ。

 初っ端から興奮して激しく踊り出し最後までぶっ通しで踊り続けた者までいたのが何よりの証だろう。


 よせばいいのに、その面子に加わったのが自棄を起こしたレイナである。

 全員が歌い終わる頃にはレイナだけがヘロヘロの疲労困憊。

 レベル差が30もあるせいか妖精組はケロッとして息も切らしていない。

 だから[疲労困憊]の状態異常に陥っているのはレイナだけだ。


 しょうがないから梅干し味で固形の疲労回復ポーションを口に放り込んでやった。

 この後の除夜の鐘イベントに参加できなくなるのは可哀想だもんな。


「回復ポーションだ」


「んぎっ!」


 奇妙な悲鳴を上げ顔がシワシワになるレイナ。


「飲み込まないと効果はないぞ」


 噛み砕かないと嚥下できないサイズだが食感は弾力のあるグミそのものだから大変そうだ。

 でも、頑張って飲み込んでもらわないとね。

 レイナは涙目で咀嚼して飲み込んでいたけど……


「なにしやがる!」


 回復したとたんに噛みついてきた。


「「レイナちゃん、ダメだよー」」


 メリーとリリーに両脇を抱えられ突進は阻止されたが。


「疲労回復ポーションで回復させただけだが?」


「きぃーっ!」


 ダンダンと地団駄を踏むレイナ。


「明日の朝まで寝るつもりだったか?」


「そんな訳ないじゃないっ」


「だよな。この後のイベントにも参加するって言ってたし、酸っぱいのは許容してもいいと思うんだけどな」


「ぐぬぬ」


「お前たちも大変だな」


 双子たちに声を掛けると苦笑いを返された。

 この様子だと似たような事例は少なからずあるみたいだな。


「あんたね、自分の暴走を棚に上げて拗ねてるんじゃないわよ」


 怖い顔をして注意するリーシャは迫力があるが、レイナはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 その頭を掴んでギギギと強引に前を向かせるリーシャ。


「治してもらって、その態度はなんなの!? その態度は!」


「いだっ、いだだだっ、痛いって」


 側頭部にある人の耳の方を引っ張られて涙目で痛みを訴えているレイナだが、その訴えは無視されている。

 罰だと言わんばかりだ。


「わーった、わーったって」


 ようやく解放されても凄みをきかせた怖い顔で睨まれている。

 ちゃんと礼を言えってことなんだろう。


「ありがとうございましたっ」


 ちゃんと頭を下げて謝ったことでリーシャも矛を収めた。

 意地を張っておざなりに礼を言って終わりにするのかと思っていたなんて言えば俺の方が怒られそうだ。

 素直じゃないけど可愛いところもあるってことなんだろう。

 思わず頭をなでなでと撫でてしまったよ。


「えっ、ちょっ、なにっ!?」


「良い子には御褒美」


 御褒美という単語を聞いて一瞬で顔が真っ赤になるレイナさん。

 それこそアニメとかだったらボンとかいう効果音とともに頭から湯気が出ているに違いない。


「いいニャー」


 いつの間にか側に寄ってきたミーニャが羨ましそうにレイナを見上げている。


「もちろんミーニャもいい子だぞ」


 褒めるだけじゃなくて、なでなでも忘れてはいない。

 目を細めてゴロゴロと喉を鳴らすミーニャ。


「ずるいー」


「不公平なのです」


「「……………」」


 残りの子供組まで間近に寄ってきて捨てられた子犬のような目で見上げてくる。

 くっ! 君たち、その技は反則なのだよ。

 罪悪感が半端ないのですぐに幼女たち全員をなでなでしましたとも。


 そうこうする間に片付けも終わり時間的にも頃合いとなった。


「よーし、それじゃあ神社に行くよー」


「「「「「はーい!」」」」」


 元気のいい返事が、俺の側にいた妖精たちから返ってくる。

 無口な約1名もいるけど。

 ツバキだ。

 お庭番かよって思うくらいスルッと自然に俺の側に来ているんだよな。

 立ち居振る舞いは渋くしようとするんだけどワクワク感がにじみ出ているのが微笑ましい。


 いや、大人の美人って感じの相手に微笑ましいと言うのは微妙か。

 年齢的に考えても……

 うん、俺は何も言ってない。

 だから妙な視線を送ってくるのはやめような。


 とにかくツバキも気持ち的には仲間に入れて欲しい口なのだ。

 恥ずかしくて元気いっぱいな返事はできないだけで。


「「全員、集合!」」


 と声を掛けているのはカーラとキースである。

 長らくリーダーシップを発揮してきたから自然と引率側に回ってしまうんだろう。

 まあ、俺としては楽なのでお任せだ。

 頭数がそろっているかぐらいは確認するけど。


 真隣にノエルがいる。

 この娘さんは単に物静かってだけじゃないのが凄いと思う。

 並みの大人じゃ真似のできないような気配のコントロールをしている。

 レベルなんて、まだ21なんだぜ。

 初めて会ったときは18だったから急成長しているとは言える。

 おまけに10歳児だし。


 素質はピカイチだが、それを伸ばすのは年が明けてからの話だ。

 今は除夜の鐘を鳴らしに行って新年のお祝いをして三が日を過ごす。


「それでは出発進行!」


「「「「「おお─────っ!」」」」」


 歩き始めると皆がワイワイと賑やかになった。


「除夜の鐘楽しみー」


「そだねー」


「最初は誰かなぁ?」


「何回、突くんだっけ?」


「108回だよ」


「煩悩の数だよ」


 こんな具合である。

 誰も神社で鐘を突くことに違和感を感じていない。

 ルベルスの世界でこだわることもないだろうと何でもありの状態になっている。

 大事なのは信仰心があるかどうかだ。


「賢者さん、除夜の鐘って何?」


 そういや新国民組には説明していなかった。


「スマン、説明してなかったな」


 ルーリアや月狼の友も聞く体勢になっている。


「1年の最後の日の夜にミズホ国では神社で鐘を鳴らすんだよ」


「それが108回?」


 妖精組の会話が耳に残っていたようだ。


「ああ、人の煩悩の数だね」


「儀式みたいなもの?」


「よく分かったな。鐘を鳴らすことで煩悩を消し去り清める効果がある」


「なるほど、そうやって心身ともに清めて新年を迎えようということか」


 ルーリアは理解が早いな。


「それは賢者殿がいた日本とかいう国の風習になるのかな」


「概ねはな」


「なんか違うことでもあるん?」


 アニスが聞いてくる。


「世界が違えば祀る神様も違ってくるから、あれこれとな」


 俺の都合で変えているところはあるけれど。

 こんな具合に話しながらだと鳥居の前に到着するのもあっと言う間だ。


「あれはどういうことやの?」


 アニスの言う「あれ」とは、妖精組が一礼して鳥居をくぐる際に左側に並んでいることのようだ。


「神社では左を通るのが作法なんだよ。右は帰る時に通る」


「それは分かったけど、端に寄りすぎじゃない?」


 今度はレイナが指摘するように聞いてきた。


「真ん中は神様専用の通り道ということで空けることになってる」


「へえ~」


 興味なさげな返事をしてはいるが行列からはみ出す天の邪鬼な真似はしていない。


「赤い門みたいな所で頭を下げるのは何か意味があるのだろうか?」


 リーシャが聞いてくる。


「門じゃなくて鳥居な。聖域の出入り口、すなわち神様の住処の玄関ということになる」


「ということは挨拶をしていると?」


「ああ。これからお邪魔しますと意思表示をして礼を尽くす訳だ」


 この話を聞いた新国民組も躊躇うことなく一礼してから鳥居をくぐった。


「あれ、鐘はあっちとちゃうの?」


 鐘とは別方向へと歩く皆を見てアニスが困惑している。


「除夜の鐘を突く前に、まずはお参りをするんだよ」


「そうなん?」


「1年の感謝と、これから鐘をつかせてもらいますって挨拶は必要だろ」


「なるほどなぁ」


 ちなみに、お参りは二礼四拍一拝で行うのがミズホ流である。

 日本の実家ではこれで神棚に朝のお参りをしてたから馴染み深いのだ。


「ベリル様が来られないの残念」


「しょうがないよ、お仕事だもん」


「神様は大変なの」


 お参りの終わった妖精組から声が聞こえてきた。

 確かにベリルママが来られないのは残念だけど来年があるさ。


 全員のお参りが終われば、いよいよ除夜の鐘だ。

 が、その前にすることがひとつある。


「全員整列ー」


 妖精組がサクッと並んだ。


「何をするの?」


 ノエルが聞いてきた。


「クジ引きをして鐘を突く順番を決めるんだよ」


「分かった」


 ノエルも列に並ぶ。

 もちろん他の新国民組も。


 で、トップバッターが誰になったかというとレイナだった。

 撞木から垂れ下がる綱の所でキョロキョロしてしまうのは右も左も分からないからだろうな。


「一拝して綱を引いて当てるだけだ」


 そうアドバイスすると、ギギギと擬音が聞こえてきそうな動きでぎこちなく頷かれた。


「大丈夫かいな」


 アニスが心配する中、レイナはカクカクした不自然な動作ではあったものの鐘を突くことはできた。


 ゴォォォ─────ン!


 という音が遠くまで重く響く。


「大きくて不思議な音色がする」


 鐘の音に感じ入るものがあったのか、しみじみと語るノエルであった。


読んでくれてありがとう。

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