1250 何がしたいのか
砲撃アタックの勢いが弱くなってきた。
それも当然のこと。
どんな攻撃も永遠に続く訳じゃない。
始まりがあれば終わりがある。
天井に到達したホロウアーマーたちが折り返してくるくらいだからな。
とことんまで使い倒すとはね。
エコな発想をした敵だ。
これをエコと言っていいかどうかは微妙なところだとは思うがね。
なんにせよ、向こうにそんなつもりはないだろう。
敵である俺に何としても攻撃を命中させるという意識がそうさせたにすぎない。
ただ、そこまでしても「弾幕薄いぞ」状態になることは避けられないのだが。
挟撃してくる数も減った。
攻撃から攻撃への間が長くなった。
そして爆発音もしなくなった。
やがて風を切る音もなくなり……
俺の周囲が静かになった。
「ふうっ、終わりか」
敵の猛攻をしのぎきった訳だ。
ノーミスクリアである。
パーフェクトとは言いづらいかもしれないが。
光剣で受け流した攻撃がいくつかあったからな。
もっと派手に動き回れば完全回避も可能ではあっただろう。
が、それでは回避し続ける爽快感は味わえなかった。
ギリギリだからこそスリリングな状況を切り抜けたという感覚があったのだ。
たとえ当たってもダメージにはならないと分かっていてもね。
だから充分に満足のいく結果だったと言える。
「さて……」
下方のホロウアーマーたちを見る。
『ほうほう、第3幕はなしですか』
もう1人の俺が言った。
その発言通り発射準備がされていない。
こちらを見上げているので攻撃の意志を失った訳ではないだろう。
『切り替えが早いな』
『コイツは、そういう傾向があると思うが?』
『確かにそんな感じはあるか』
『だよなー』
問題は次に何をしてくるかだ。
まさか投石に逆戻りするとは思えない。
『飛び道具もないのにどうするつもりだ?』
『それな』
『魔法じゃないのか?』
『順当に考えれば、それしかないか』
『魔力は潤沢にあるしな』
『だが、ホロウアーマーに魔法が使えるか?』
『無理だろう。
使えるんだったら、とっくに使ってるさ』
『ああ、でなきゃ自爆で跳ぼうとはしないよな』
『言えてる。
爆炎系とか風魔法でどうにかしたはずだ』
ある程度の予測はできたようだが、結論を出すには至らないようだ。
俺は何となく想像がついた。
本来なら同じ俺だから、もう1人の俺たちも気付きそうなものなのだが。
この差は観戦モードで見ているだけか実際に戦っているかで出たものだと思われる。
「諸君」
俺が下に注意を払いつつ呼びかけると──
『『『『『何かな?』』』』』
俺の中で一斉に振り向く気配がした。
芸が細かいが、そこはスルーだ。
「忘れちゃいないかね」
『『『『『何を?』』』』』
やはり、気付いていないようだ。
ホロウアーマーたちから視線を外し、別目標に目を向けた。
『そういえば、大本がいたね』
『失念していたよ』
『奴なら普通に魔法が使えるか』
言うまでもなく、奴とは銅像にされた男と一体化した偽りの支配者だ。
『期待できそうだな』
『ホロウアーマーどもを制御していたからな』
『いやいや、過剰な期待は禁物だぞ』
『さっきまで奴はまるで攻撃してこなかったしな』
もう1人の俺たちが失念していたのは、そのためだと断言できる。
俺は忘れずにいたけど。
どのタイミングで攻撃されるかと、ずっと警戒していたからな。
隙を窺っているのであれば目を離す訳にはいかないだろ?
結局、最後までそういう素振りは少しも見られなかったけれど。
空振りに終わったのなら、それでいい。
隙を突かれなかったってことだからな。
無警戒の相手に攻撃を受けていたら、きっと凄いストレスになったはず。
そんなことよりも気にすべきは偽りの支配者だ。
皆は気になることを言っていた。
「もしかして奴はホロウアーマーの制御で手一杯なのか?
それとも、ゴーレム関連の処理に最適化されているだけとか」
『後者だな』
『そうそう』
『そんなに大した奴じゃない』
『鑑定、ウソつかない』
「そうかい」
ならば、後は機能停止させるまでだ。
そう思ったのだが……
『おやぁ?』
『何か様子がおかしいな』
銅像がガクガクと小刻みに振動を始めた。
徐々に速さを増していく。
ついには、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴとダンジョンの床をも振るわせるまでになった。
『おおうっ!?』
『えらく派手な貧乏揺すりだな』
言い得て妙だと思ってしまった。
『座布団1枚』
『そんなことより、マズくないか?』
『怒ってらっしゃる?』
『そう見えるよな』
『右に同じ』
「だが、奴自身が自爆ってことはないだろう?」
『そこなんだよなぁ』
『何のメリットもない』
『なら、いいんじゃね?』
もう1人の俺たちは、あまり考える気もないようだ。
自爆するとは思えないからだろう。
俺もその点については同感だが。
「自爆はないかもしれんが……」
相変わらず小刻みに震えている銅像に変化がないか注視しつつ、おもむろに口を開いた。
『『『『『ないかもしれんが?』』』』』
「変身くらいはするかもな」
『『『『『何だってえーっ!?』』』』』
驚き方がわざとらしい。
答えが分かっていて、意図的に言ってるのかと勘繰ったほどである。
『続き、はよっ』
『はよはよっ』
急かされる。
『どういうことか教えてくれよ』
『どうすれば変身なんて考えになるんだよ』
とにかく待ちきれないらしい。
「大したことない仮説だぞ」
『『『『『いいからっ!』』』』』
一斉にツッコミを入れられてしまった。
『勿体ぶるなー』
『そうだ、そうだー』
「ネックレスが埋まった部分を見てみろよ」
『『『『『あっ!?』』』』』
振動の方へ目が行きがちだが、ちゃんと見ていれば気付くことだ。
『宝玉がないぞっ』
『ひとつもない……』
『どういうことだ?』
『外に出たか完全に埋まったか、だろうな』
『じゃあ、完全に後者だろ』
『乗っ取り対象を放棄するとは思えんしな』
『乗り換える相手もいない』
『俺たちがいるけどな』
『それはないだろ。
あれはそこまでバカじゃない』
散々見せつけられている訳だからな。
触れることさえ至難の業だという現実を。
乗り換えが不可能だということは、奴自身が痛切に分かっているだろう。
『乗っ取られた男じゃあるまいし』
男は偽りの支配者の力を利用しようと欲をかいた。
結果として何ひとつ思い通りにならずに終わった訳だが。
『そこまで油断しないぞ』
『そうだ、そうだ』
仮に向こうが俺に接触できたとしても、変身スーツの防御機構が弾き返すがね。
物理的にも精神的な侵食にも対策はしてある。
偽りの支配者が知るはずもないことだけれど。
『それ以前に不用意に近づけば破壊され……』
『『『『『あっ!』』』』』
今の言葉で気付いたようだ。
『奴め、逃げたな』
『ちょっと違うんじゃないか』
『微妙なとこだな。
潜り込んで破壊されにくくしたんだろうし』
『それにしちゃ時間をかけすぎだろ』
『もう完全に埋まってるぞ』
『そうだな。
俺たちじゃなかったら壊しにかかってる』
『簡単には壊されない自信があるんだろ』
銅像もどきになっている訳だしな。
ホロウアーマーと違って中身も空洞ではなく詰まっているだろうし。
ただ、それは向こうの見立てが甘いと言わざるを得ない。
その気になれば奴を光剣で切るのも難しいことではないからな。
では、何故そうしないのか。
俺が積極的に攻撃しない理由は時間調整があるからだ。
ミズキたちがダンジョン内に散ったホロウアーマーたちの処分をするためのな。
『知らないって幸せだな』
『いやいや、より硬くなろうとしているのかも』
『それって意味あるのか?』
『今が無防備じゃ意味ないだろ』
『それ以前に可能なのかと問いたいね』
『見てりゃ分かるだろ』
『それもそうか』
ミズキたちから連絡が入るまでというリミットはあるがな。
「さあ、何をするつもりだ?」
読んでくれてありがとう。




