1248 砲弾で近接攻撃
ドドンドドンと砲撃音が鳴り響く。
最初の砲撃音と違うのは多段ロケットのようになっているからだろう。
『おいでなすった』
何処の時代劇だよとツッコミを入れたくなったさ。
が、敵への対処が先だ。
一斉に飛んで来るホロウアーマーたち。
なかなかの弾幕だと思う。
某艦長だと「薄いぞっ」とか「何やってんの!」と怒鳴るかもしれないが。
それでも岩の砲弾とは明らかに飛んで来るスピードが違う点は評価されてもいいと思う。
ホロウアーマーたちは、その勢いのままに手にした武器を下段に構え襲いかかってくる。
上段に振りかぶらないのは飛び上がる勢いに剣速を乗せるためだろう。
威力も落ちるしな。
飛んで来るタイミングのズレを利用して立体的に制圧しようとしているのが嫌らしい。
「舐めた真似をっ」
真っ先に飛び込んできたホロウアーマーの剣を躱す。
『舐めちゃいないだろう』
『むしろ、最大限に警戒してると思うが?』
『だからこその台詞だろう』
外野がうるさいが、構っていると隙ができそうだ。
直ぐさま横合いから槍による突き入れがあった。
「それがどうしたっ」
半身になるだけで充分に躱せた。
『そうそう、その通り』
『今度こそ舐められたものだ』
『言うねえ』
『次、来るよ』
斧と長剣が挟み打ちにしてくる。
体の中心線は狙っていない。
躱しにくいような軌道と間隔で振り上げてくる。
トドメを刺すつもりはないのだろう。
傷を負わせれば隙が大きくなる。
そこを次の攻撃で更に傷を負わせていく。
そういう狙いのようだ。
「この程度は──」
『この程度は?』
『どうする?』
長剣の側へ突っ込む。
『そう来たか』
『あれなら斧は空振りだな』
『残るは長剣のみ』
長剣の振り上げは紙一重ですり抜けるように躱した。
「こうすりゃ楽勝!」
『終わりじゃないぞ』
『気を付けろ』
もう1人の俺たちが言うように敵の攻撃はまだまだ続く。
長剣野郎の背後に潜むように飛んできていたホロウアーマーがいた。
その手には短剣が握られている。
長剣を躱して横へ回り込もうとした俺に短剣を突き出してくる。
『カウンターだ』
『盗賊っぽいな』
『フルプレートだと似合わんぞ』
『そんなことより長剣くんも諦めてないぞ』
振り上げた長剣ではなく空いた方の手で殴りかかってきた。
「小賢しいっ」
拳は肘で叩き落とし、短剣は光剣で手首から切り落とす。
ついでに短剣ホロウアーマーの胴に蹴りを叩き込む。
破壊する蹴りではなく弾き飛ばすための蹴りだ。
狙い通り追撃を狙ってくるホロウアーマーへ向けて飛んでいく。
『あー、勿体ない』
『せっかくの見せ場なのにー』
『もっと躱しまくろうぜ』
外野は好き勝手に言ってくれる。
まあ、苦労をさせたぶん反論がしづらいところはあるが。
「分かった、分かった」
短剣ホロウアーマーが追撃してきたのにぶつかると──
ドォンッ!
派手に爆発音を出して爆散した。
追撃してきた方も原形を留めていない。
『おー、凄い威力だなぁ』
『ここで自爆攻撃を仕込んでくるかよー』
『盗賊っていうよりアサシンだな』
『俺の中ではアサシンは物干し竿の人なんだが』
『あれにも別のアサシンが出てただろ』
『いいや、真のアサシンは1人のみっ』
『言い切るねえ』
『同感だけどさ』
『同感なのかよっ』
「……………」
完全に他人事である。
一仕事を終えたあとの余裕だろう。
まあ、戦闘は俺の担当だからな。
今度は俺が専念すべき番だ。
それは分かってはいるのだが……
「解せぬ」
どうしても愚痴が漏れ出てしまう。
俺は皆の邪魔をした覚えはない。
にもかかわらず、これである。
『これも修行だー』
『集中力を乱した状態で頑張れば成長できるぞー』
『経験値も得られるかもなー』
『ないない、それはない』
「勝手なことを」
次々に襲いかかってくるホロウアーマーたちを躱しながらボヤく。
それしかできないんだがな。
「おのれーっ」
苛立ちは戦闘へ向けて敵に叩き付ける。
といっても、ホロウアーマーを破壊する訳ではない。
なるべく完全には破壊しないように対処していく。
攻撃を躱すのがメイン。
躱す躱す、とにかく躱す。
挟撃しようが潜もうが関係ない。
宙に浮いているから全方位の警戒が必要?
問題ない。
上下左右の位置取りは学校じゃ基礎からやることだ。
地に足がついていたって地面に潜る敵だっているからな。
水中での戦闘も想定しているし。
1対多の戦闘もこれが初めてではない。
連携は今までの中ではトップクラスと言えるが、それがどうした。
こちらが反撃すれば、瞬く間に終わってしまうだろう。
それでは困る。
フラストレーションの解消ができないではないか。
ギリギリを躱すことでストレスを発散させることだってできるのだ。
敵の攻撃が巧みで速いからこそだけどな。
これがゴブリン程度の相手だったら、鬱陶しいだけである。
3方向から檻に閉じこめるようにして切り込んでくるのに対して体を捻って躱す。
そこに突き入れが来るが、まだ甘い。
仰け反るだけで充分に躱せる。
せめて反対から挟撃していれば対処も変わっただろう。
だが、悪くない攻撃だった。
躱し甲斐があるというものだ。
「むっ」
一塊の団子になって突進してくるのだけは別だ。
躱す躱さないの問題ではない。
俺は団子に向けてガンセイバーのガンモードで距離のあるうちに風の弾丸を撃ち込んだ。
命中すると、爆発的に風が巻き起こって無数の刃となって牙を剥いた。
魔力で強化された空気の刃はホロウアーマーの金属鎧も易々と切り刻む。
ホロウアーマーはあっと言う間に輪切りにされていった。
が、俺の狙いはそこにはない。
飛んできた勢いを奪うことの方が大事だったのだ。
ドォッドドドドドドドドドドドドォ───────────────ン!!
一際、派手に爆発音がした。
切り刻んだホロウアーマーが爆発すると、団子状態になった他の奴らも爆発したのだ。
「やはり、誘爆したか」
あれは最初から至近距離で自爆攻撃をするつもりだった。
でなきゃ、満足に近接戦闘もできないような密集状態で飛んでくる訳がない。
『『『『『おお─────っ!』』』』』
もう1人の俺たちからは拍手喝采だった。
『ブラボー』
『よく看破した』
『ていうか、先に自爆してたら読みやすいわな』
『おー、あのアサシンもどきか』
『そういうのもいたな』
『だから、アサシンじゃない』
『『『『『それは、もうええわ』』』』』
「……………」
褒めてるのかボケてるのか。
あるいはどちらもか。
なんにせよ、ホロウアーマーの砲撃アタックはしのぎきった。
──と思ったら、大間違いである。
『次弾、装填中かよー』
もう1人の俺が言うように、次のホロウアーマーたちが発射態勢に入りつつある。
『もうすぐ、全部終わるぞ』
攻撃が始まってすぐに発射準備を始めていたからだ。
『砲撃中に次の準備をしていたとはね』
最初から、この攻撃でどうにかできるとは想定していなかったのだろう。
偽りの支配者は俺を舐めている訳ではないらしい。
銅像にされた男は逆のようだけど。
どうバランスを取っているのやら。
男の記憶は術式ではないから読み取ることはできない。
そこに不確定要素がある。
『敵ながら、やってくれるなぁ』
行動パターンを読めなくすることが偽りの支配者の狙いだとしたらな。
何をしてくるか分からない怖さのようなものはある。
ハッキリ言って不気味だ。
『まだまだ楽しませてくれるかい』
「むしろ、本番はこれからだ」
見物してるだけでいい外野は気楽なものだ。
敵の攻撃はそれだけで終わった訳ではないというのに。
『あー、上に飛んでいった奴らね』
『天井にぶら下がるとはな』
剣や槍を突き立ててそれを支えに待機している下半身のないホロウアーマーたちがいる。
どいつもこいつも俺の方に視線を向けていた。
『ロックオンされてるぞー』
『狙い撃つぜ』
『いや、それは射撃の時に使う台詞だろ』
『次に自爆したら頭しか残らんぞ』
『そいつは残念だなぁ。
上からの攻撃は落下スピードでしか勢いをつけられないのかー』
『しょうがないだろう』
『いやいや、バカにできんぞ』
『下からも来るからな』
『さっきより苛烈になるぞ』
もう1人の俺たちがあれこれ言ってる間にホロウアーマー弾の装填が完了。
上下の挟撃による攻撃の第2幕が始まろうとしていた。
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